「お前っ!!」
『イオリ止まりなさい!』
イオリが突っ込んでくるのをアコが静止する。煽りすぎたな。風紀委員の全員が忌々しそうな目を向けてくる。あっちから見てみれば、初めて見た奴から死ぬほど煽られたんだ、キレるのもしょうがない。私だってキレる
『リッカさん、ヒナ委員長は除いても数多くの戦力がここにはいます。それに勝てると?』
「はっ。雷帝の時代ならともかく今のゲヘナに負けては妹に怒られる」
私の知る中で雷帝に為政者として匹敵するのは
雷帝は、本人の力も、知能も、その制作物すら厄介極まりない唯一無二たる傑物だ
一つ瞬きをして苦い記憶をシャットアウト。あんなの思い出したとて百害あって一利なしだ
踵を軸に後ろへくるりと一回転。どんな表情を取れば良いか混乱しているのがわかりやすい皆へ話す。背後から漂う殺気はひとまず無視
「さて、アビドスと便利屋、先生はどうする?逃げるなら責任持って逃す。責めもしないさ。依頼も既に完了しているしな」
「ん、えっと……そこのゲヘナって人達が先生を連れて行くために来たってこと……だよね?」
「そゆこと」
「ん、それなら状況が分かりやすい」
「……先生を連れて行くって?それに『はいそうですか』って言うとでも思った?」
アビドスの皆は戦意満々。思いっきり戦うつもりのようだ
「……社長。一応言っとくけど逃げるなら今しかない。戦闘が始まったら後戻りは出来ない。風紀委員は私たちとアビドスを同時に殲滅するつもり……今ならまだ逃げられる」
「……ふふっ。ふふっ、ふふふふっ」
「社長?」
「……ねぇカヨコ?あなたはとっくに私の性格、わかってるんじゃない?こんな状況で、こんな扱いされておいて、背を向けて逃げる?そんな三流の悪党みたいな事、私たち便利屋がするわけないじゃない!!!」
「……あはー」
「あの生意気な風紀委員に一発食らわせないと気が済まないわ!!!」
「アル様……っ」
「つくづく君は良い女だね、アル社長」
「当たり前よ!私を誰だと思ってるの?心配は無用!信頼には信頼で報いるわ!それが私たち、便利屋
便利屋もオッケー。実に有難い
「先生は……」
“もちろん私も戦うよ。アビドスの子達も便利屋も放って置けないしね”
「私としては安全なところにいて欲しいのだが……了解した。先生に被害がいかないようにしよう」
改めて風紀委員に向き直る。ハハッ、殺気がヤバいことになってる。ま、先生にヘイトがいかないからある意味良い……のか?
「大口叩いた手前申し訳ないがアビドスと便利屋、加えさせてもらうよ」
『構いませんよ、どうせ勝利は揺らぎませんから』
「それはそうだ。私だけでも勝てるのに、風紀委員より遥かに強い戦力が加われば
『…………ッ』
お、ついにキレた。指揮官の精神を乱すのは戦いの基本だよ?多分
『……まあ、いいでしょう。それでは、総員攻撃を開始します。先生は外部の人間なので怪我をさせないようくれぐれも注意を』
『敵、包囲を開始しています。突破して下さい!先生、私たちの指揮をお願いします!!』
——————-
さて、戦闘が始まったが——
「——っと!そりゃ私から狙ってくるよね!!」
その為に散々煽り倒したからな!
直前まで頭があった場所を高速飛翔するなにかが通り抜ける。風圧で髪が何本か千切れ飛んだ
「よくも馬鹿にしてくれたな!……覚悟しろ!!」
「いい気迫だね!!」
一先ず先生から離れるとしようか。アロナバリアがあるとは言え万が一先生が負傷したら目も当てられない
一度走り出してから止まることはなかった。一瞬でも止まれば、狙い撃ちにされるからだ。真っ直ぐに走ってもいけなかった。動きを予想されても、狙い撃ちにされるからだ
ある時は遮蔽物を利用し、またあるときはパターンに反する行動を取り、またまたあるときは殺気を嗅ぎ取って紙一重でかわす。弾丸をかわし続けるという、技術がハウツー化されたら陸上戦の常識が変わりかねないパフォーマンスを曲芸じみた体捌きに加え、先生の干渉による神秘のオート化と感覚の強化によって発揮する
「このっ……当たれ!!」
「常に冷静になれとは言わないが、焦っていても冷静な時と同じ思考が出来るようにしておけ!!」
こちらを付け狙うイオリはともかく、他の私を狙っていた奴らはほとんど撒けた。壁を足場にビルの屋上へ飛び移る。周りから見えやすいからすぐに見つかるが、撃たれる前にイオリに突貫する。近接戦闘なら同士討ちを恐れて手出しされにくい
距離を詰めるために反転すると、その隙をつかれイオリのライフル弾が頬を掠める。軽減ならまだしも、弾丸のダメージを無効化できるほどの神秘の容量と出力は持っていない。掠めたところから血が垂れる
だか代わりに肉薄出来た。走る速度を乗せてイオリの腹に掌底打ちをする。体がくの字に曲がり、目の前に来た頭へ肘打ちし意識を飛ばす
「ちょっと寝ててくれ」
体から力が抜けたイオリを掴み地面へ寝かせ、自分も寝転がる。頭を出せば地上にいる風紀委員に撃たれかねない。
手のひらを見つめ、何度か開け閉めする。先生の補助がある今なら出来るだろうか
スマホを手に取り先生へ電話をかける。盗聴されてもあんまり意味のない会話だが最小限にとどめる。2回目のコールが鳴る前に先生が出る
「先生、聞こえるか。無事か?」
『“聞こえるよリッカ。こっちは大丈夫、リッカは?”』
「今の所はな。皆に30秒後、耳を塞ぐよう指示してくれないか。ちょっとやってみたい事がある』
『“わかった、怪我しないようにね”』
「先生もな」
スマホの電源を落とし、ポケットへ入れる。転がったまま、一つ深呼吸
「ふう……よしっ」
光も要は波、振動の一種だ
突き詰めれば全く違うかも知れないが、思い込みや錯覚次第で神秘は幾らでも変質させられる。神秘とは主観で認識するしか無い
脚を上げ、戻す反動で勢いよく立ち上がる。様子見なのか、打ち上げられる銃弾も少なくなっている。これなら行けるか
屋上の端に立つ。銃弾が止み私1人に数多くの銃口がピタリと張り付く。色々言ったが、組織として風紀委員はとても強い。だから一度キレさせて大雑把な行動になるようにした
ちまちま倒すのも難しい。まとめて倒す
フラリと前に倒れる。落ちる。落ちる。落ちる。まだ撃たれない。地面に衝突した瞬間を狙うつもりか。目を閉じて、両手に神秘を集める。姿勢を立て直し、手を地面へ突き出す。光に変換せず、意識的に振動を直接出力する
「せーのっっ————!!」
神秘が爆発のような衝撃に置き換わる。爆弾をいくつも同時に爆発させたような、脳を直接揺らしたような、地響きのような音が轟く、至近距離にいた風紀委員が気絶し、ある程度遠くにいたやつも耳を抑え隙はできる。それで十分
「一応出来た……が、これだとほぼ自爆になるな。もう少し使い方考えるか」
私も自爆の影響は受けているが、前もって神秘で保護していた為ダメージは少ない。すぐに周りの風紀委員を沈める。しかし影響を受けているのは事実
「あーまずい……めっちゃフラフラする」
平衡感覚を失い、倒れそうになったところで誰かに抱き抱えられる。視界の端に映ったのは、黒と紫の混じった服とヘイローに相反するような白い肌と髪、私より随分体格の小さい
「何したらこんなことになるの?リッカさん」
「久々の再会がこんな体たらくですまないね。元気そうでよかったよ。ヒナ」
〜今更ながら超簡単な主人公ちゃんのこれまで〜
幼少期•記憶を思い出す
中学生•多分普通に勉学してた
高校1年•独立学校作って連邦生徒会への奉仕
高校2年•途中でアビドスに編入&半年の昏睡で留年
高校3年•起床後リハビリがてら連邦生徒会を手伝う
高校4年•←イマココ!