ヒナに抱き抱えられながら考える
………ふむ
「これで私は光と音をいつでも出せるびっくりどっきりキヴォトス人になったわけか」
我ながら、奇怪な体になったものだ
「?……どういう事?」
「こういう事」
右手の手のひらを上に向け、集中する。少しすれば手のひらからパンッ、と鼓膜を弱く揺らす音と共に淡い光が弾け、すぐに消える。制御のコツは掴んだからヒナも私にもダメージは無い。ヒナがフリーズしているのは情報を処理できていないだけのようだ
「………何それ。私も出来ない。すごいわね」
「
幾ら身体を強化してもノーモーションで閃光や爆音を出せれば不意をつける。人としての防衛本能による動きの硬直は誰にでも存在する……ツルギあたりは闘争本能で踏み倒して来そうなのが怖い。今度の模擬戦どうしよ
「今考えてもしょうがないか……ヒナ、下ろしてくれ。君の前で
自分より年下で小柄な子に
「嫌よ、だって貴方が弱ってるとこなんて珍しいじゃない。写真、とって良いかしら」
「やめてくれ。そもそも両手塞がってるだろう。ヒナが予想よりだいぶ早く来たからな。もう少しかかると思ってた」
「
やめろ羽のとんがった所でツンツンするな。まじまじと見るために顔を近づけるな照れる
「話は後でいくらでも聞く。とりあえずアコを止めてくれ。私は少し休んでから行く」
「わかったわ。それとカヌレ、私にも作ってくれない?」
カヌレ?……ああ、マコト経由で聞いたのか
「いくらでも作ってやるさ。いいコーヒー豆でも用意していてくれ。私のやる気が出る」
「ありがと。豆は……アコが買ったのがあるわ。良い銘柄よ。楽しみにしてる」
「へいへい。よいしょっ…と」
私が起き上がるため手を離したヒナは未だ戦闘音が響く方へ走ってゆく。それを傍目にポケットを弄る
「スマホ壊れてないよな……」
運の良いことに何処にも問題は生じていないようだ。パスワードを打ち込みカヨコに電話をかける
『……はいはい誰?戦闘中なんだけど』
「私だ。カヨコ」
『リッカが電話したってことは……風紀委員長が来たの?』
「話が早くて助かる。今そっちに行ってるから隙をついて逃げてくれ、たぶんヒナは見逃してくれる」
『わかった、社長にも言っとく。また後でね』
電話がツーツーと音を立てて切れ、ゆるゆると瓦礫に腰を落とす。表面上は元気そうだったが、ヒナの目元には化粧で隠しきれない隈が残っていた
「ホシノもヒナも、ティーパーティーもリオも何で1人だけで背負い込むのかね……暫く寝たきりだったのが悔やまれるな。アレさえなければもう少しやりようはあったんだが」
ま、ユメ先輩をなんとか生かせたからこれ以上は贅沢か。本編で既に死者となっていたユメ先輩を除けば以降は死者は出ない…はず。それなら幾らでも修正がきく。アリウスの場所は隠されているのか見つけられなかったが
瓦礫から立ち上がる。両手の指を噛み合わせ前に突き出しポキポキと鳴らす
「さて……戻るか」
————————
“あ、リッカ。おかえり”
「ただいま、先生」
トコトコと歩いて先生の方へ戻る。とっくに風紀委員も便利屋も姿を消している。スマホにはカヨコから一言、『逃げ切った』とだけ連絡が来ている。無事なようで何より
“……ほっぺたの傷は大丈夫?”
「へ?……ああ、大丈夫。これぐらいなら明日には跡も残らず治る」
既にかさぶたになっている頬の傷を手のひらで優しく包まれる。手は男らしく少しごつごつしている。それなりに筋肉があるのか、先生の手は私よりも温かい
先生の顔が近づいてくる。夜空を想わせる黒い瞳孔に、高貴さを漂わせる濡羽色の髪。服から香るのは汗の匂いを誤魔化し、きり、と気持ちを引き立たせる、甘さのない冷たい
先生と私の背にそこまで差はない。機械式時計の機構の様に整った、美しい造形がよく見える。
顔だけ見れば気圧されるほど美しいというのに、近寄り難い空気がないのは優しさを含んだ瞳のお陰だろうか
「——先生は綺麗だな」
“……えっ!?”
「何言ってるのさ」
「いてっ」
ホシノに後頭部を殴られる。拳に神秘と感情が乗っていた。だいぶ痛かったぞ。怨みがましい目でホシノを見るともう一度殴られる。なんでよ
「何を考えたら急に口説き文句言い出すのか知りたいよ〜?」
“綺麗ってどういう……”
「色々あるが……ただ優しいな、と思っただけだ。口説き文句じゃ無いよ。そこまで節操無しではないさ」
先生もキヴォトス人の耐久力は知っているし、この傷がすぐ消える事も承知だろう。でも、その上で心配してくれるのは思いの外嬉しい。その気遣いを欠かさない精神を美しいと感じた。それだけだ
「ん、先生は優しいし頼りになる」
「お、共感してくれるか」
「はい☆分かりますよ〜。先生のおかげで今頑張れてますので!」
「そうか……それは、よかった」
それなら妹ちゃんが先生を呼んだかいがあるし、私も頑張れるってものだ。
「先生が綺麗うんぬんは……深く考えず言ったから気にせず忘れてもらえると助かる。蒸し返されると恥ずかしい……てか口説きに関しては先生の方が酷いと思うぞ」
“私に飛んでくるの!?”
「うるさい、この生徒タラシ。少ししたらシャーレに生徒が入り浸り始めるのがありありと見えるぞ。くそボケ」
ほら周りのみんなもうんうんと頷いている。全員先生に出会ってそんな経ってないのに、周りは全員私の味方だぞ。先生
皆でくすくすと笑い合い、空気も落ち着いたところでアヤネが話しかけてくる
『えっと……すいません、リッカさん』
「なんだ?アヤネ」
『一つ、気になることが……リッカさんが先ほど【ここはアビドスの自治区じゃない】と言ったのはどういう事でしょうか』
アヤネの一言で私を除いた全員の目が大きく開かれる。ホシノはその時はここにおらず、他の子はアコ本人や周りの風紀委員に気を取られ、私とアコの問答にまでは気が回らなかったのだろう。そんな状況でも会話に気を配れるのは紛れもないアヤネの良いところだろう
セリカが肩を掴み揺すりながらこちらへ詰め寄る
「どうゆうことなの!?言いなさい!!早く吐きなさい!は、き、な、さ、い!!」
「待って待って。別のもの吐くから揺らすのやめて!お嫁に行けなくなっちゃう……ヴオェ、吐きそ」
「あっあっごめんなさい!」
「いや……いいさ、焦るのは当然だし…クラクラする……」
微妙に揺れる視界でバッグを探す。周りは銃弾と爆発でボロボロになった道路と瓦礫が散乱している。バッグは……ぱっと見、見当たらない
「誰か私のバッグ知らない?それに資料が入ってるんだが」
「ん、これ?」
「おお、それだ。ありがとな。シロコ」
さほど大きくも無いバッグを受け取り、シロコの頭を撫でれば目を閉じてすりすりと頭を手に押し付けてくる。気持ち良いのだろうか
「こんな往来で言うのもあれだし一旦アビドスに戻ろう。それと——」
グ〜っと盛大に私のお腹がなる。
「昼ごはん食べながらで良い?」