一話丸ごと戦闘は難しいですね。なので妄想全開で書いてみました。どうかご了承下さい。ではどうぞ
ヒュッと空間を裂く風の音がなる。リッカの手元に握られていたものがホシノの一寸横を通り過ぎた音だった
ホシノは目を見張る。それは今し方通り過ぎた物体が見えなかった驚愕などでは無く、むしろ見えたことにより浮かんだ疑問によるものだ
「……クナイ?」
艶消しの為に黒く、偏った八面体に持ち手がついたソレは、銃社会であるキヴォトスではまず見ない暗器だ。実際に戦闘で使用するとなれば、下手すれば裸で歩き回る生徒よりもレアとすら言えるかもしれない。ポーチの中から10、20、30、40、50……ポーチの外見からは考えられない、数えるのが馬鹿らしくなる程のクナイが出現し宙に浮く
「このクナイを作った
シュル……と、神秘の糸を新しく取り出したクナイの手元に巻き付ける。
「クナイにホバリング機能をつけるなんて無茶振りも軽くこなすし、他にも機能がいくつかある。神秘の糸をくくりつけて使えば汎用性も高い。神秘との親和性も良く、ホシノでも意識を割く必要がある威力は持っている」
リッカの手元がぶれ、ホシノの目の前へクナイが出現する。銃床で叩き落とすが、地面へ刺さった後まるで巻き戻ったかのようにリッカの手元へ収まる。クナイを幾ら叩き落としたとてリッカの武器は減らないとすぐに理解する
「私の思うように動くクナイがざっと100本弱。じゃ、改めて勝負だホシノ」
リッカが腕を一振りすれば指から伸びた糸が伝うクナイが一斉にホシノへ向く。2年前の鋭い目つきへと戻ったホシノの頬に久方ぶりの冷や汗がつたう
「——上、等ッッ!!」
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その攻撃を例えるなら嵐であった。四方八方からのコンマ1秒の間もない多重攻撃。並のキヴォトス人どころか、腕に覚えのある生徒ですら数秒ともたないであろう物量での暴力。
片や何重にもなって襲い掛かるクナイを全て弾き、神秘の糸を的確に撃ち抜いてゆく。片や千切れた糸を指の動き一つで結び直し、その隙を他のクナイで埋める。この膠着した状態がかれこれ10分程度続いている現状
側から見ればホシノが防戦一方の戦いだったが、真実追い詰められているのはリッカの方であった
——このままじゃ私が負ける
千日手となった今、間違いなくリッカの方が先にガス欠となる。リッカの神秘効率が幾ら優れていようがホシノとは神秘の質と量が根本から違う。
リッカの神秘は一部技能を除けば、かろうじて一流と言えるレベルであり、
そう思考している間にもジリジリと神秘が消費されていく。まだ余力はあると言えど、それも時間の問題だ
フッと息を鋭く吐き、意識して笑いながら覚悟を決める。無理をしなければ
「さあ!無茶をしようか!」
言うと同時に左手の神秘の糸を倍に増やし、右手から伸びる糸にシュルシュルと絡ませる。ホシノが瞬きした一瞬に右手の神秘の糸を解除し全てのクナイを左手のみで制御する
片手で100本弱のクナイを制御し、空いたもう片方の手で自動拳銃を放つ。たとえホシノに避けられようともクナイにぶつける事で跳弾させ、いつまでも追い続ける。
鍛え続けた神秘の制御と副次的に強化された空間認識力をフルに稼働させ、ホシノを追い詰める
しかし、いくら覚悟を決めたとしても無理をしているのは変わらない。腕の筋肉がミチミチと悲鳴をあげ、頭が燃えるように熱くなる
銃弾もクナイも、いくら数を増やそうとも全てが紙一重で避けられる。一段加速しようと、指へ更なる負担をかける。それがいけなかった
「—————ッッッ!!!」
神秘の糸に引っ張られ、ゴキンッ!という音と共に左手の小指が曲がってはいけない方向に曲がる。骨が、筋肉が、神経が、血管が千切れ、強制的に脳の意識を割かれる
神秘が揺れ、初めから単なる蜃気楼であったかのように消えてゆく。導べを失ったクナイの隊列が崩れ、ホシノが付け入る隙を与える
数瞬だけ出来た弾幕の間を神秘の出力にものを合わせてホシノが突っ切ってくる。
——
突っ込んできたホシノは私が笑い続けていることに気付いたのか止まろうとするが残念、既に狙いはついている
この銃にはストライクプレートを装着してあるため、銃口を押し付けたままの射撃が出来る。そして、直接触れられるほどの距離まで近づければ相手の神秘に干渉可能
ホシノのお腹に銃口をめり込ませ、引き金を引く
——
「いっっ—————!?」
「その反応なら効いてる、なっと!」
ホシノが痛みに気を取られた隙に回し蹴りで蹴り飛ばし強制的に距離を取る。空中で勢いを殺し、ネコ科のような身のこなしで静かに着地したホシノは怪訝そうな顔で撃たれた場所をさする
「ゲホッ……痛い、けど衝撃はそこまで……?凄い変な感じがしますね、今の」
血が集まり焼け付くように熱い頭を落ち着かせ、充血し圧迫感のある目へ目薬をさす
「ホシノの神秘と私の神秘を無理やり接続して
私にとって神秘の同調は最強達を相手取る為の奥の手だ。物理的に攻撃が通じないなら精神的に攻撃すれば良い
誰かで練習するわけにも行かないから本番で成功してよかったよかった。傷も残らないから女性相手でも使える
「生まれ持っての神秘がバカ強いホシノとかには特に効くと踏んだが、合ってたようだね」
「……私が他の人より頑丈だからですか」
「それもある。ほぼ全ての攻撃が効かない分、痛みに慣れてないだろう。普通なら慣れる必要もないんだが」
そもそも取り回し以外の取り柄がない
小指を大体の位置に戻して神秘で覆い、色を肌色へ近づける。見た目上は怪我する前と変わらないが、砂や埃が入らないようにとりあえずの応急処置に過ぎない。後でセリナにでも診てもらわねば
依然として動作はぎこちなくズキズキと痛むが、まだ動く。それで十分
「離れればクナイで手一杯、近づけば防御無視のダメージ。我ながら結構なクソゲー仕掛けてるなーとは思った」
「でもクナイは全て地面に落ちました。製作した所も部活である以上そこまで数は揃えられないはず。さっきの分でほぼ全てでしょう。それならいくらでもやりようはあります」
「正解。良い勘してる」
ポーチの中から数本のクナイを取り出し、腰のベルトに引っかける
「残りは数本。落ちたのを回収しようにも10秒は必要。神秘の同調が必須な以上、私の
「良かったです。ここで終わったらあなたも私も不完全燃焼じゃないですか」
「いやいや、言っただけだ。私から仕掛けておいて降参はカッコつかない。するなら完膚なきまで負けてからするさ」
ホシノが燃焼できる程度には私もやれてるのなら嬉しい限りだ。戦闘で緩くなった髪留めを結び直す。古い弓兵が自身の半身である弓を引くようにキリキリと音が鳴る
ホシノに一撃を入れ私の攻撃が通用する事が小指一本の代償で分かったのなら万々歳。成功に泣き喚いても良い僥倖。しかしそれだけではまだ足りない。私の望みを叶えるのには不十分。
まずはこの盤面を支配する程度はやって退けようか
暗闇を消し飛ばす神秘を持った最強と、暗闇と同化する神秘を纏った世界の異物が、星と夜空の下で再び激突した