可愛い連邦生徒会長の姉として!   作:siyu

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独自解釈の9割がこの回に詰まってます
考えないで下さい。感じて読んでください。この話は雰囲気で読む一話です。
最悪読み飛ばしてもらっても構いません。この話を読まなくてもあんまり支障はないので



対談

 

 

目が覚める。眩しい日差しが目に入ると同時に、黒髪の彼女がこちらを覗く

 

「………んぇ?………あぁ、セリカ」

 

「あ、起きた!おはよう、リッカさん」

 

既に覚醒しきった脳が昨日の戦闘を再生し、今の状況を思い出す。それと同時に両足を振り、反動で勢いよく立ち上がる

 

「はい、おは———コフッ……………………あ?」

 

「うわぁああぁぁあぁ!!??」

 

同時に起きた驚きは、両者異なる事に向いていた。

片方は、目の前の人物が急に多量の血を吐き出したこと。もう片方は、身体中の痛みがほぼ無かったことにについて。

吐血した方(リッカ)は、セリカがテンパリまくるのを傍目に、胸元に刺さっていた一通の手紙を開ける。

 

「……あぁ、なるほど、セリナか。作るのに数年かかる金丹をばんばん使いやがって………なら怪我するなと怒られそうだ」

「え!?ちょっだ、え!?大丈夫なの!?血がいっぱい出てるわよ!」

「大丈夫大丈夫。腹に溜まってた血を吐いただけ。もう怪我は治ってるし。脱ごうか?」

「脱がなくて良いわよ!……ちょっと聞きたいことあるのだけど、怪我と周りの()()って関係あるの?」

「ある。ホシノとちょっとばかし喧嘩をしてな。結局負けたが。いやー……やっぱ強いなぁ」

 

辺りは、ボッコボコの地面に、ひび割れまくったビル群。更に、目の前はアンツィオを撃った衝撃で、何処かの爆心地かというような様相を呈しており、昨日の戦闘前とはだいぶ違う景色が広がる

なんならビルの一つは倒壊しているせいで、だいぶ世紀末な雰囲気が出ている

 

「——流石にやりすぎたか?」

 

「当たり前よ!!」

 

セリカは目の前で傾いた頭を叩き、ここに来た理由を思い出すようにピクリと耳を伸ばす

 

「そうよ!ホシノ先輩が消えたっ……てあれ、喧嘩してた?いなくなること知ってたの!?」

 

「いえ〜す」

 

「じゃあ止め—————ようとしてこの惨状だったのね……」

 

隣にある、内側から炸裂したように壊れているアンツィオに気付いたのかどうか、顔を青くし呟く

 

「……ホシノ先輩、強いのは知ってたけどこんな強いの……?」

 

「先輩の強さを再確認したならぞんぶんに尊敬してやってくれ。で、他に伝えたいことはないか?」

 

「あっ、え〜と……カイザーが攻めて来たの!それであなたがいなかったから先生が探してきて、って」

 

聞くとともに目をすがめ舌打ちが漏れる

 

「鉄屑が……ホシノを手に入れて調子に乗ったか?」

 

スマホの表面に浮かぶ、PUSH!と書かれた赤いボタンをポチる。私個人所有の迫撃砲、迎撃砲、誘導ミサイル、自己鍛造弾等々、深夜テンションで買ったまま埃を被りかけていたそれらを、カイザー本社へ向けて一斉発射する。使用機会が無くて場所をとるだけだったが、使えたし満足

 

「これである程度は侵攻も落ち着くはずだ。先生に私は無事、と言っておいてくれ」

 

手紙は、もう一枚。黒いガラスがひび割れたような模様が印刷されたそれをチラリと見る。

いつか来るとは思っていたが、このタイミングでとは

 

「ご招待にお呼ばれすることにしよう」

 

 

――――――――――――――

 

コツコツと足音が鳴る。大理石の床は白く、誰にでも同じように硬質な音を返す。恐らくは、わざと足音が鳴るような設計と材質が使われている。パッと思いつく理由は、この道を通る人物の精神への揺さぶり、来訪者の存在を部屋の管理人に知らせるためだろうか

 

手にかけたドアノブは冷たいが、冷たいだけだ。こちらを拒絶する意図はなく、すんなりと開く

 

「初めまして黒服。お招きに預かり光栄だ」

 

「ええ初めまして。招待を受けていただき、ありがとうございます」

 

手を離せば、よく手入れされ油を差された蝶番が、音一つ立てず扉を閉ざした

 

 

 

 

「色々話すし何か飲み物ないか?無いなら淹れるぞ、豆か茶葉でもあればだが」

「ふむ……では折角ですし、紅茶を頼みます。そちらの小さい暗室の中にございます」

「ティーポットはどこだ?」

「茶葉がある暗室の左下ですね」

「キッチン借りる」

「ええどうぞ」

 

許可が出たので好きに使わせてもらおう。応談室の隣にあるため小さいキッチンではあるが、必要な道具は揃っている。機能美と言うべき美しさを持った道具を使えるのなら気分は上がる

初めにケトルと鍋でお湯を沸かし、湯煎でティーポットとカップをトポンと沈め、温める。

ティーポットが温まれば茶葉を直接入れ、ケトルのそばへ運ぶ。沸騰したお湯が冷えないうちにトクトクと低い位置から注ぎそのまま蓋を閉め、冷えないよう神秘の糸で覆う。数分蒸らしながらそこらにあった小さい椅子の上で読みかけの本を読む。

ピピ、とタイマーがなる。本に栞を挟み、パタンと閉じる。手に取ったティーポットを一周だけ揺り動かし、湯煎から取り出したカップへ円を描くよう注ぎ入れる。最後の一滴(ベストドロップ)を黒服のカップヘ落とす。カップの中に入った茶葉のカスのうち、大きな物のみをスプーンで取り除く。相当な量の茶葉を飲み込んでも体に悪影響はなく、茶葉を自由にした方が良いという話もある。ま、好みの範疇だろう

戸棚から取ったソーサーと共に机へ戻る

 

「この茶葉、品種は何だ?凄い高そうなんだが」

 

「貴方が取り出したパッケージであれば……確かリブ、という茶葉です」

 

「リブ……肋骨(リブ)、ねぇ。趣味が悪い」

 

毒を入れていない事を示すため、黒服より先に飲む。紅茶特有の苦味が喉を通り抜け、黒服も口をつける

 

「おや?私が淹れてもこの香りの良さは出ません。淹れるのがお上手ですね」

 

「当時のティーパーティーから、オーウェルの黄金律をしつこく読まされたからな。スコーンかクローデットクリームがあれば尚よしだったんだが」

 

「今この場にはございませんね」

 

作ったお菓子を持って行くたび色々教えてくれたティーパーティーの1人はクローデットクリームをゴシップネタになぞらえ、塗れば塗る程美味しくなると言っていた。トリニティでその例えは豪胆が過ぎる

 

それでも流石というべきか、それ以外は完璧だった。清濁合わせ呑んだ上で人に優しくできる、朗らかに笑う才人だった。今はどうしているのだろうか

 

「貴方は私を『黒服』と呼びましたが、まだ名乗っていないはずでは?」

「分かりきったことを気にする性質(タチ)じゃ無いだろう。わざわざ聞く必要があるか?」

「ふむ……やはり貴方には前回以前の記憶があるようで」

「正確には私が存在しない前提の正解ルートが一つ、他は失敗ルートが幾つか断片的にだな」

「それはそれは……不便ですね。しかし、この世界へ来訪した別世界の魂とは興味をそそられます。貴方、私の実験に付き合う気はありませんか?」

 

思わず渋面になった顔から読み取ったのか、黒服は冗談ですよと笑う

 

「別世界の人間だったのも知ってたのか」

「先生に次ぐ『不可解さ』を持つ貴方に対しては元より推測を立てておりましたので。しかし半分は鎌かけですよ」

「はっ、食えないな。先生には言うなよ」

「クックック、了解です」

 

とんとん拍子に問答が返る

少なくとも、友好的な空気ではなかった。互いに出来るのであれば寝首を掻く程度、逡巡無くするだろう。それをしないのは、相手が自身の無事に手を尽くしている、というだけではない。この会談が、2人の関わり合いを左右する事を双方重々承知している為だ

 

 

「ではまず初めに……貴方、()()()()()()()()()()?」

 

「あー、何で早く死なないの〜とか、遠回しに聞いてくるいじめ的なアレって訳では……ないよな」

 

「えぇもちろん。暁月のホルスとカイザーは貴方が死んでいなかった、と考えたようですが私たち(ゲマトリア)の予測は違う。貴方は2年前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それはこちらの持っているデータの全てが証明しています」

 

目の前に出されたのは、拡大された一枚の航空写真。顔が血塗れになり、体の至るところに真新しい傷がつき、撮った最中も血が漏れ出しているのが見て取れる。死人にしか見えないそれは、事実死人であり、死人であった者の写真だ

 

「そして二つ目。同じく2年前、貴方は死に絶えながらもビナーを撃退し、本来死んでいたであろう梔子ユメを生かしました」

 

熱に浮かされたように、しかし滔々と黒服は続けて話す

 

神秘=奇跡≠万能(神秘は奇跡だが万能ではない)。正史の捻じ曲げを行った貴方は、キヴォトスそのものから拒絶されるはず。だというのに、五体満足でここにいる。肉体的に死に、概念的に呪われた貴方はここにいる。何故?」

 

「……蘇る方法は知らん。なにせ、私が死んでいる間にされた事だからな」

 

「なるほど、道理ですね」

 

「だがキヴォトスの干渉を無効化した方法は分かる」

 

手の甲で前髪をどかし瞼と目の間に指を差し入れる。ヌチ、と湿った音がする。プチプチと硬質な義眼をそのまま引き抜き、繋がっていた神経が引き千切れていく。痛みは無く、血も出ない

 

その光景は不思議だった。人のカタチをしたものが自身の目を引き抜く。神に祈りを捧げる信心深い殉教者にも、神に叛逆しようとする冒涜者にも、自身の罪を懺悔する罪人にも、見る者によって与える印象を如何様にも変化させる。しかし、この部屋には2人しかおらず、他に知る者はいない

 

人間の眼球とは微妙に透過の具合が違う()()をハンカチで拭い、黒服へ放り投げる

 

「ああ……成程。この目は最も古き神秘を纏った聖遺物。 名もなき神々の王女(AL-1S)とすら張り合える、名もなき神の製作物。その目の起動に、何を捧げましたか?」

 

この世(キヴォトス)での名前だ。『前世の名前(岩永リッカ)』まで汚染する力は無いらしい。キヴォトス(この世界の神)も存外抜けてるな。おら、返せ」

 

「ええ、どうぞ」

 

受け取った目を、伽藍堂になっている右目に近づける。穴から垂れている神経らしき糸が義眼に触れると、潜り込むように同化する。そのままはめれば元通り

 

「捧げた名前は思い出せるので?」

 

「さぁ?覚えてないな」

 

リッカは小首を傾げ、答える。彼女の名前に関する記憶も記録は『岩永リッカ』に上書きされたようで今更知りようがない。知る気もないだろう

 

黒服が一つ、合点がいったようにあぁ、と息を漏らす

 

「『今、生きてここにいる』なんて妙な言い方をすると思えば。成程、先生に対し嘘をつかないためですか」

 

「実際、今私は生きてるし嘘は言ってない。詳しく話す気もさらさらないが」

 

嘘を言わないためには、事実の一部分を相手より先に出すことが有効だ。大体のことは先手を取った方が有利になる

 

「ふむ……では次にいきましょう。貴方は何故先生の手助けをするのです?あの人であれば、貴方が何をせずとも全てを救うでしょう。一度死んだ身でそれでもなお先生を助ける理由は?」

 

「先生に責任の十字架と知識の金庫を背負わせて先へ運ぶ船に無理矢理乗せたのは私たちだ。道を提示し強制させた。神秘の炉(キヴォトス)の薪として先生を贄にし続けた」

 

だからその分は先生に報いる。記憶が無くとも、私の思うように生きる。そうやって動いている間は、そんな素敵な夢に溺れられる

 

「責任を負うのは大人の役目、と先生は言うが。だからといって子供が責任を放棄していい訳ではなかろう。私は甘党では蜂蜜酒(ミード)は好きだが、だからと言って麦酒(ビール)を好まない理由にはならん」

 

先生に責任を任せる事を蜂蜜酒、責任を自分で背負う事を麦酒に例え、軽く茶化す

 

「クク、飲んだ事のある口ぶりですね」

 

「さて、如何(どう)だろう」

 

少なくとも、今世の体は酒精(アルコール)に強い事を彼女は知っていた

 

何かを思いついたように、黒服は机をトンと叩く

 

「何か欲しいものはございますか?」

 

「……代価はなんだ」

 

「いやはや借りを作ったままというのは性分に合わないのですよ。先程まで質問に答えていただいた代わり、と考えて下さい」

 

欲しい物は大概手に入る。聞きたいことはあるが、濁されるであろう質問しか出てこない。となれば貰うものはすぐに決まった

 

「……じゃあアビドスくれ。お前なら交渉出来るだろ」

 

カイザーからアビドスの所有権を無理矢理奪うことも出来るが、万が一にも第三者から非難されかねない事をするわけにはいかない。黒服ならカイザー相手に上手くやってくれるだろうとの考えだった

 

「10億か20億か、私が持ってるカイザーの株を全部、本社に渡しても良い。所詮廃れた砂漠より、私から株を取り戻す方を選択する奴はいくらでも出てくる。カイザー本人以外はな」

 

「良いでしょう。私ら(ゲマトリア)としてもアビドスは必要ありません。暁のホルスは惜しいですが……先生が来た時点でどうしようもありませんね」

 

「あの人は、お前もきっと気に()るはずだ」

 

答えた後は紅茶の香りを楽しみながら、細々と話を続ける。カップの底が見え始めた頃、スマホが振動を伝える。その設定をしたリッカは振動の意味を理解し、残りの紅茶を飲み干す

 

「そろそろ先生が来そうだ。次の話が終わればお暇させてもらう」

 

「えぇどうぞ、では………連邦生徒会長、彼女が失踪した理由を聞いても?」

 

リッカは初めて黙り込む。その沈黙は返答に窮するからではなく、適切な言葉を脳の辞書から引き出す途中の沈黙であり、だからこそ彼は気を害することもなく、待ち続けた

 

「不完全な世界で、あの子は、あの子だけは完全だった。だから破綻した。破綻させないために姿を消した。それだけの事だ」

 

「貴方は完全では無いのですね」

 

「私が完全とは、笑わせる。私は不完全、歪みの極みだ」

 

身も心も、その在り方も。先生に全てを救ってほしいと願いながら、その願いが叶わない道へと進む彼女は、自身を完全だと思う事は未来永劫無いだろう。もし完全であれば、妹に背負わせる必要はなかったし、こんな問答をする事もなかったかもしれない

 

その顔には後悔も悲観も自虐も滲まない。一度だけ、申し訳ないような色を薄く浮かべたきりであった

 

扉が開かれ、暗い部屋を月光が照らす。部屋の中が白に上塗りされる中、唯一変わらず黒であり続ける彼は、ふと思いついた事を口に出す

 

「最後に一言だけ」

 

リッカは振り返らない。しかし動くことも無く言葉を待つ

 

「先生は、もし他の安全な道を示されたとしても、貴方たちを助けるためならそちらを選びます。あの人も、結局自分の道を走っているだけですよ」

 

「……知ってる」

 

よく手入れされ油を差された蝶番が、音一つ立てず扉を閉ざした

 

ふたたび月光を閉ざした扉から視線をそらし、引き出しの中から古めかしいライターと煙草を一つづつ手に取る

 

黒服は普段、煙草を吸わない。この体になってからヒトとしての機能の多くを失い、呼吸も人であった頃の惰性で続けているにすぎない

 

だからこれは、この煙草は追悼のためだ。消えゆく者を、死地へ突き進む者へのせめてもの弔い

 

「神の子は裏切るには銀貨30枚で事足りるというのに、助けるためにその身を全て捧げるとは。釣り合わない天秤ほど不幸な物も、そうありませんね」

 

 

すぐに消した煙草から漏れた紫煙が空に溶けた頃、扉の外からコツコツと彼女ではない足音がやってくる

 

——彼女(連邦生徒会長)が選び、彼女(リッカ)が太鼓判を押した大人。全てを救う先生(神の子)

 

「……お待ちしておりました、先生」

 

 

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