暑い、いや熱い。アビドスに電車で着いたはいいが歩きでアビドス校舎を見つけようとして数日、私ら2人は見事に遭難していた。
「せんせ〜生きてるか〜」
“無理…死んでる…”
体が頑丈な私はともかく、先生は五体投地でぶっ倒れている。食料と水はたっぷり持ってきたとはいえ昼夜の寒暖差が激しい砂漠で何日も過ごせば根本的な体力が削がれる。
「地図を確認しておくべきだったな」
“ごめんよー…”
まさか連邦生徒会にある地図が、砂漠化する前から更新されていないとは思わなんだ。以前行った時は迎えに来てもらったので気付かなかった。
私も歩こうと言ったわけだし、先生もなんとか歩いて行けてはいるが、このままだと比喩抜きで死ぬ。何せここは砂だらけの街、どれだけ歩いても砂か荒廃した街が現れる。2年前よりも荒廃が進んでいる。ほんとビナーのクソが。いつかぶっ壊す
私は数日食べなくても大丈夫だが先生がやばい。食べ物を消化するのに必要な体力すら尽き掛けている。
先生がバランスを崩し、背中から地面に倒れる。
「先生⁉︎」
マズイマズイマズイ!先生の容体を見れば、顔が火照り、脈が随分と早い。熱中症の症状が現れている!取り敢えず木陰へ先生を連れて行く。
水はともかく、食料は保存用に少し硬い物しかない。今の先生では噛む力は出ないだろう。
「かくなる上は口移しで与えるしか…ん?」
何やら奥の方からケモ耳を生やしたロードバイクに乗った子が現れた
「…大丈夫?」
“…大丈夫だよ「全く大丈夫じゃない!」
このお馬鹿!先生の代わりに私が答える
「アビドス校舎に行こうと来たはいいが…なにしろこんな景色ばかりだから遭難してしまってな?」
「不審者じゃ無かったんだ。あぁ、その人が倒れてるのってもしかしてそのせい?」
「そのせいだ」
その子…シロコはライディング用のエナジードリンクを取り出して……私か先生、どちらにあげるか迷うように手をふらふら行き来させた。
「ん…ど、どっちにあげれば…?」
「貰えるのなら先生にあげてくれ、私は平気だ」
シロコはボトルを手渡し、コップを探すために鞄の中を探し出すが…先生がそのまま口をつけて飲みだした
「は?」
「あ……それ……ううん、なんでもない……気にしないで」
そうだよ、なんで私忘れてた!先生はこういうことする人だったよ!本っ当にこの人は!あっシロコが顔赤らめてる可愛い
「うちに用があるってことは連邦生徒会の人?久しぶりのお客さんだ。ここから少し離れたところにあるけど案内しようか」
「それは有難いが…先生、歩けるか」
“動けない…背負ってくれない?”
「ん、良いよ」
「大丈夫か?きつくないか?」
「大丈夫、むしろ良い負荷になる」
随分と健脚である。シロコが何かに気づいたように先生の方に向く
「えっと…さっきまでロードバイク乗ってたから…そこまで汗だくってわけじゃ無いけど…その…」
“気にしないで”
まさか…
“むしろいい匂いだから大丈夫”
言いやがった
「よくわからないけど…気にならないならいいか…それじゃあ行こうか」
ほんと、申し訳ない…
_____
シロコの肩に顔を埋め、匂いを嗅ぎ続ける先生の耳を引っ張るが、全く離れない。シロコに案内されてやってきたアビドス校舎は、思っていたよりずっと綺麗だった。そのとある一室に入ると…
「ただいま」
「おかえり、シロコせんぱ…い?うわ⁉︎なにっ!?そのおんぶしてる人と隣にいる人誰!?」
「わあ、シロコちゃんが誰かを拉致してきました!」
「拉致!?もしかして死体!?シロコ先輩がついに犯罪に手を……!」
「みんな落ち着いて、速やかに死体を隠す場所を探すわよ!体育倉庫にシャベルとツルハシがあるから、それを…」
「……」
自分がどう思われているのか気付いたのかシロコの目がちょっと座った。あっ先生を床に落とした
「いや…普通に生きてるしお客さんだから。うちに用があるんだって」
「えっ?死体じゃ、無かったんですか…?」
「拉致したんじゃなくてお客さん?」
「そうみたい…」
すると先生は元気に立ち上がって挨拶する
“こんにちは!”
うるせぇ
「わぁ、びっくりしました。お客様がいらっしゃるなんてとても久しぶりですね」
「でも来客の予定なんてありましたっけ…?」
鞄の中からアビドスからの手紙を取り、先生に渡す。先生は胸に掛けたIDカードと手紙を掲げみんなに見せる。
“シャーレの顧問先生です、よろしくね”
「岩永リッカだ、よろしく頼む」
「え、ええっ!? まさか!?連邦捜査部『シャーレ』の先生!?」
「わあ★支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」
「はい! これで……弾薬や補給品の援助が受けられます!」
校舎の様々な所に空となったコンテナや弾薬箱が積まれ、備蓄が殆ど残っていないことが伺えた。アヤネの目には涙さえ浮かんでいる。よほどギリギリの孤独な戦いだったのだろう。
「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと…あれ?ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる!」
セリカが小走りで部室を後にし、アヤネが先生に向き直る。改めてメンバーの紹介と、救援に対するお礼を告げようとした所で――。
「じゅ、銃声!?」
「…随分物騒だな」
「ひゃーっはははは!」
声がする方向と先生の間に立ち、外を見れば10…20…少なくともアビドス勢と先生や私を含めても半分に遠く及ばない数の不良が集まっている。
「わわっ、武装集団が学校に……! あれは、カタカタヘルメット団です!」
「あいつら……性懲りもなく!」
シロコが愛銃のコッキングレバーを引き、即座に敵手を打ち倒すことができるようにしたとき────バン! とドアが勢いよく開け放たれた。
「ホシノ先輩連れて来たよ! 先輩っ、寝ぼけていないで、起きて!」
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよぉ~」
腕の中で抱えられた小柄なピンク髪の少女――ホシノが呻きながら呟く。その目は寝起きのように萎びており、四肢はだらんと脱力していた。アヤネが傍に駆け寄って声を張り、セリカが必死に揺り起こすも一向に自力で立とうとしない。
…2年前と体格が殆ど変わっていないな
「ホシノ先輩! 襲撃、襲撃です! ヘルメット団が攻めて来たんですよ!」
「んぐ……そりゃあ、大変だねぇ……」
「先輩、しっかりして! 出動だよ、装備を持って学校を守らないとっ!」
「――少し失礼」
必死に声を掛けるセリカとアヤネを前に一歩踏み出す。一体何をする気だと訝し気に見るセリカと、何をするのか見守る様子になったアヤネ。私はホシノの前に屈みーー耳を甘噛みした
「ーーんへッ!!??」
「おはよう。久しぶり、ホシノ」
耳は真っ赤に染め、これでもかという位に見開かれた両目は、私を映すと同時に別の驚愕へと変わっていった