遅くなりましたがお気に入り登録100人ありがとうございます。拙作ではありますが、これからもちまちま頑張って行きます
「お疲れさまでしたー!」
バイトの制服を脱ぎ、普段の制服へと着替えたセリカは頭を下げ、店主に別れを告げる。今の今まで忙しくしていたから気づかなかったが、外は既に深夜。日がすっかり沈み、人気もほとんど消えている。普段の溌溂とした様子は鳴りを潜め、疲れが顔に滲む。
春と言えど夜は冷え込む。アビドスほぼ全域が砂漠なのもあり寒暖差が激しく、制服だけでは肌寒い。息を吐けば白くなり、空気に溶けていく。風が吹くたびに腕を組み、体が勝手に震える。上着を持ってこなかったことをセリカは後悔した
「はあ、やっと終わった。目まぐるしい一日だったわ」
まだバイトを始めて短い。バイトと学校の二足の草鞋は、未だ慣れていない今だと心身に大きな負担となっていた
「みんなで来るなんて……騒がしいったらありゃしない。人が働いているのに、先生先生ってチヤホヤしちゃって。ホント迷惑。なんなのアレ」
思い返されるのは今日の昼前のこと。急に来たかと思えばおちょくってきた皆。歩く速度が早くなり、声に怒りが滲むがすぐに消える
「ホシノ先輩、昨日の事があったから態と先生を連れて来たに違いないわ……絶対にそう!」
アレがみんなの気遣いなのは理解している。それでも…心がついてこない。
「……ふざけないで。私がそう簡単に認めると思ったら大間違いなんだから」
自分に言い聞かせるように寒空の下で宣言する。
少し歩いたところで、別のことが頭に浮かぶ
「…そういえば、もう1人…リッカ…さん?」
脳裏に浮かぶのはアビドスにやってきたもう1人。直接会話したことはないが元アビドスでホシノ先輩の知り合いらしい人。
正直、印象は薄い。アビドスどころかキヴォトス中ですら一度も見たことのない
本人より、リッカさんを見たホシノ先輩の表情の方が印象に残っている。
あの時のホシノ先輩には驚愕と困惑、それに歓喜と…ほんの少しの怯え?が浮かんでいる気がした
怯え…なんで?先輩は虐められるほど弱く無い。
それどころかセリカが知っている限りでは間違いなく最強と言えるほどの実力の持ち主。
それにそんな人が来て喜ぶはずがない。
だったらなんで怯えるんだろう。
考えても袋小路に入り、結局気のせい、見間違えだと切り捨てる
あぁ、でも…あの人の入れたコーヒーはとても美味しかった。
先生達が来て、チンピラに一泡吹かせられて、久しぶりに気を抜けられた。その時に皆で飲んで話すのはとても楽しかった。
結局、自分のわがままでケンカみたいなことをしたけど…
それと、あの目だ。普段は髪に隠れて見えない、水色の髪色や左の目とも違う、そこだけ異質にも感じる、
あの目に見られたら何もかも見透かされている気がして少し怖かったけど、ホシノ先輩を見る目は優しかった。膝枕されてるホシノ先輩も気を許しているようで安心した。
私達はホシノ先輩に守られていたけど、ホシノ先輩は誰に守ってもらうのか心配だったから。
…膝枕をしてる2人を見る先生の目線がちょっと怪しかったのは、見なかったとこにしたほうがいいんだろうか…
思い返せばどんどん出てくる楽しい記憶。取り止めもないことを考え、歩みを進める
ーー背後の陰に潜み続ける悪意に気づかないまま
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その夜、黒見セリカが行方不明となった
事態が発覚したのは夜も遅くなったころだった。
柴関ラーメンからアビドスへ戻り、既に帰った後。
「電話はしてみました?」
「はい……でも数時間前から電源が入っていないみたいで…」
ノノミが不安そうに尋ね、それに対しアヤネが同じく不安そうな表情で返す。アビドス対策委員会の部室にいるのは先生とホシノ、セリカを除いた全員。その殆どの顔色は一目で分かるほど悪い
「バイト先では定時に店を出たみたい。その後、家に帰ってないってことになる」
「こんな遅くまで帰らないって事、今までなかったですよね…?リッカさんは今日もココで寝泊まりしてたんですよね。何かありませんでした?」
「全く何も。寝てても敷地内に誰か入ってきたら気付くが、そういうのも無かったな。少なくともアビドスに来てない筈だ」
普段とは違うアクシデント。カタカタヘルメット団基地壊滅から昨日の今日で起こった出来事。
その2つを繋げて考えるのは当然とも言えた
「まさか…ヘルメット団の連中?」
「ヘルメット団がセリカちゃんを……!?」
「とりあえず待とう。先生達が調べてるから」
ややあって、音を立てつつ部室と廊下を隔てるドアが開く。そこに立つのはホシノと先生、どうやら調べが済んだようだ
「みんなお待たせ〜」
“ただいま”
「2人ともお帰り。どうだった?先輩」
「先生が持ってる権限を使って、連邦生徒会が管理するネットワークにアクセスできた」
「セントラルネットワークに…そんな権限までお持ちなのですね…」
「うへ〜もちろんこっそりだけどね。バレたら始末書だよー?」
“セリカの安全のためなら問題ないよ、それにバレなきゃオッケー”
その心意気自体は大いに結構なのだがーー
「先生…それを私の前で言うかい?普通…」
連邦生徒会長が妹なのは先生も知ってるだろうに…
“アッ…いや…え〜と…だ、黙ってて、くれない?」
「…元より密告するつもりもないが、そうだな……うん、貸し一にしておこう」
“…なるべくお金は絡まないようお願いします…”
先生への貸しは大きい。思わぬ幸運だった
それはさておき
「先生から送られたセリカのスマホ、その通信が途絶えた所。そこの防犯カメラを覗いてみたが…ノノミ、ビンゴだ」
今まで手元で操作していたパソコンの画面をみんなの方へ向け、話を続ける。皆が近づいてくる。とっても良い匂い
「場所は人気の殆どない、砂漠化の進んだ市街地の端。夜も遅かったようだし近道でもしたのかな。」
「ここは…住民もいないし廃墟になったエリア?治安が維持できなくて、チンピラばかりが集まってる場所」
授業を受けられるような状況では無いがこの子達の地頭はとても良い。
「そう、でカメラに映っていたのはヘルメット団らしき奴らがセリカを襲い、どこかへ連れて行く様子」
「ここは…以前危険要素の分析をした際にカタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認した場所に近いです!」
アヤネの瞳に怒りの感情が滲む。未だアビドスの邪魔になるしつこさに加え、セリカに手を出されたことにより怒りは頂点に達していた。そしてそれは他の面々も同じ
「なるほどねー。帰宅途中のセリカちゃんを拉致して、自分たちのアジトに連れて行ったってとこか〜」
「学校を襲うくらいじゃ足りなくて、人質をとって脅迫しようってとこかな」
「お相手も昨日の反撃で、アビドスは今の戦力ですり潰せる相手じゃ無くなったことに気づいただろうしねぇ」
「考えていても仕方ありません!急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」
音頭を取り、先陣を切るようにホシノが纏める
「よっしゃー、それじゃあ行ってみよー!」
全員の返事が一つに重なり、響き渡った