とある国の小さな町「パエル」には、唯一のレストラン「ジャガイモの城」が存在する。
この店は両親が勝手に負った多額の借金があり、期限に間に合わなければ店を売却しなければならない問題を抱えていたが、それはもう1年も前のことで、現在は軌道にのり、順調な売り上げを出している。
そんなジャガイモ城は、なんとパエル唯一のレストランである。
そのため、その客入りは元々そこそこ良かったのだが、最近は輪にかけて忙しい様子だ。
その理由は、ポムの人間離れしたキッチン捌きもあるが、第一に挙げられるのは、ポム自身が一線級の凄腕冒険家であり、仕入れ等の事務的な作業はダンジョン探索によって自分で採取するため、不要な点が挙げられる。
彼女は文字通り腕っぷし一本でこの店を支えているのだ。
それに、ダンジョン産の食材を、鮮度のいい状態で完璧な調理でもって、スピーディーに提供するこの店は、町や町の外のお貴族様にも大変好評で、まさに知る人ぞ知る名店といった評価が相応しいだろう。
この店に従業員はおらず、ポムのみで経営している。
たまに親友のビスコッティが、忙しさを見かねて手伝ってくれることが無ければ、本当に一人だ。そのため大変忙しく、キャパシティオーバーな時はレストランを早めに閉めざるを得ない日もある。
そんな普段は忙しいジャガイモの城だが、今日は本人が在室しているにもかかわらず、シンと静まり返っている。
何故なら今日は1週間に2度ある定休日で、しかもダンジョン探索もしない日だからだ。一月に1度くらいしか設けていない貴重な休日である。
……因みにこの世界の1週間は5日で、彼女のスケジュールの内訳は以下の通りである。
甘味曜日:定休日
酸味曜日:定休日
旨味曜日:OPEN
塩味曜日:OPEN
苦味曜日:OPEN
もちろん普段の定休日はダンジョンにて仕入れを行う探索業の日だ。
彼女の私生活は激務極まる過酷に溢れている。
にもかかわらず、持ち前のタフネスさですべてを跳ねのける彼女だが、今日だけは惰眠を貪っていた。
「ふあ~あ……むにゃむにゃ……」
ポムが目を覚ますと、既に時計の針はお昼を回っていた。
「ん~っ!よく寝たぁ」
彼女は猫のような仕草で伸びをする。
そんな彼女の頭には、大きな猫のような耳が二つ。
その耳がぴくぴくと動いた。
ガチャリッ
誰かがこのレストランに入ってくる。
だが彼女は特に慌てた様子はなかった。
「おはよう、ポム!いい朝ね!」
「えへへ、もうお昼だけどね!ちょっと寝すぎちゃった!」
「いいのよ。ポムが頑張ってるのは私が一番知ってるもの」
「ん、ありがと!」
彼女の名前はビスコッティ。ポムの親友で、彼女が借金で大変だった時、真っ先に支えてくれた、ポムにとってはかけがえのない存在だ。
ポムはビスコッティにお礼を言うと、キッチンへと向かった。
「今日はお休みだし、私がお昼ご飯作るよ!」
「あら?いいの?」
「うん!まかせて!」
ポムはそう言うと、早速調理に取り掛かった。
***
***
うーん、何を作ろう。
……決めた。今日はオムレツを作ろう。
まずはソースづくりだ。
フライパンにチーズ、ブレンドスパイス、昨日余ったブイヨンとホールトマト、ぶどう酢に砂糖を少々混ぜたものを弱火にかけ、焦げ付かないように丁寧に混ぜる。
粗熱が取れて味が馴染んだらソースは完成だ。
次にオムレツだが、卵を割ってよくかき混ぜる。そしてフライパンにバターを敷いて、卵液を流し込むと、ジュワ~っといい音がなる。温度が均一になるように撹拌させながら丁寧に火を通し、形成前にチーズをトッピングし、素早く形成。うん、型崩れもないし、我ながら完璧な仕上がりだ。
別のフライパンで炒めていたスパイスライスを横に添えて、オムレツにソースを掛ければランチプレートの完成だ。
「ビスコッティ、できたよ!」
「ありがとう!美味しそうね!」
「えへへ」
私は照れ笑いしながらテーブルに料理を並べていった。
そして最後にビスコッティが持ってきてくれた二人分の紅茶を淹れて、席につき、談笑しながら食事をとり始めた。
「うん!卵がふわふわとろとろで美味しいわ!さすがはポムね!」
「えへへ、ありがと!」
談笑しつつ食事を楽しんだ後、食器を片付けた後に食後のティータイムに入った。
お菓子はビスコッティが持ち込んだクッキーだが、ビスコッティはお菓子作りが上手い。とてもおいしいので、お店にお土産として置きたいくらいだ。
「おいしいクッキーをありがとう!お店におきたいくらいだよ!」
「ふふ、ありがとう。でもお店で出すほどは作れないわよ!
……それで?今日はどうするの?」
ビスコッティは私にそう問うが、正直なんにも決まっていない。
私ってレストランやる前はどういう休日を過ごしていたんだろう?
「うーん、どうしようかなあ?」
「ポムってばいつもそればっかりじゃない!」
ビスコッティが呆れたように言った。
私は少し考える素振りを見せた後答えた。
「特に予定もないし……たまにはゆっくりしようかなぁ」
私の言葉にビスコッティは少し苦笑いして、それからいつも通りの優しい笑顔で言った。
「そうねぇ……じゃあ今日は二人でのんびりしましょっか!」
「うん!賛成!」
……でも何か忘れている気がする……なんだろう……。
……あっ!うっかりしてた!!
明日使う卵が少し足りないのをすっかり忘れて、オムレツなんて作っちゃったんだ!
このままじゃ明日卵料理の提供できる数が不安だ!
「ビスコッティ!ごめん!急用ができちゃって、ダンジョンに行かなきゃ!申し訳ないんだけど、このまま寛いでてもらうか、今日は解散でも大丈夫……?本当にごめんね!」
「ふふ、気にしないで!ポムがいつも一生懸命なのを私は知ってるから!お言葉に甘えて従業員用の部屋でゆっくりさせてもらうね!でも気を付けてよ!怪我をしたら承知しないんだから!」
「ありがとう!埋め合わせは必ずするから!」
私はそう言うと、慌ててバッグを手に取り、ビスコッティに別れを告げて、ダンジョンへと向かった。
***
***
時は夕刻。
そろそろ暗くなる頃合いだが、猫人であるポムは夜目が効くため全く障害にならない。
それでもポムは急いでいた。
彼女は駆け足でダンジョンへと向かいながら今日のことを反省していた。
(……それにしても明日使う予定の卵が足りないなんて、ドジだったなぁ……久しぶりの休みだからって気を抜きすぎかも……もっとしっかりしなきゃ!)
彼女はそう考えながらも、なんとか夕食に間に合わせるため全速力で走った。
「ふう、やっとついた。さて、卵はどこかな?」
ここはパエルの町から少し離れたところにある森「新緑の遺跡」。
周辺の地図上では最もパエルに近い位置に存在し、鬱蒼とした森は侵入者を拒むように立ち塞がる。しかし、ポムにとってはこの程度の障害など取るに足らないものだ。
「さてと……鳥系のモンスターの巣はどこかな……」
そう意気込むとポムは駆け出した。
新緑の遺跡は名前の通り自然豊かな場所で、森の中を進むとそこかしこに木苺や桑の実などの実りが多くなるため、それを求めて鳥系のモンスターが巣を作りやすい。しかし、いくら鳥系のモンスターが巣を作るためとはいえ、ダンジョン内の全てのエリアに彼らの拠点があるわけではない。入念に探索しなければ、簡単に見つかりはしないだろう。
しかしポムにとっては問題ではなかった。
「いた!」
早速一匹の巨大な猛禽が大きな翼を広げている。その見た目はとても大きく、体長3メートル以上はあるだろうか?その瞳からは鋭い眼光を放っている。
そんな鳥型のモンスターにポムは臆することなく近づいていく。そして、そのまま巨大な肉切り包丁を抜き放ち斬りかかった。
すると、猛禽もそれに反応して飛び立とうとするが間に合わず、ポムの剣撃が翼を翳める。
「よし!」
そのまま追撃できるが、あえてせず様子を見る。鳥は羽ばたき始めると瞬く間に上空へと舞い上がった。しかし、全く動じた様子を見せず、ポムは躊躇なくジャンプして木の枝に飛び乗り、猫のようなしなやかさで枝から枝へと凄まじい速度で登っていく。猛禽の動向が分かりやすい高さまで移動し、その猛禽に向かって叫ぶ。
「さっさと巣に帰りなさい!!」
すると、猛禽は大きく旋回しながら一目散に逃げていった。それを見たポムは満足そうに微笑むと、そのまま飛び去った方角へと向かって行ったのだった。
***
***
その後ポムは無事に先ほど傷つけた猛禽の巣を見つけ出し、その巣から卵を拝借した。
そして、そのままダンジョンの外へ出ると、そこにはすでに日は落ちており、辺りはすっかり暗くなっていた。
「時間をかけすぎたかな……急いで帰らないと。ビスコッティが待ってる」
ポムが帰ろうとした時だった。
「ん?なんだろあれ?」
森の奥に人影が見える。その影は頼りなさそうにふらふらとしており、今にも倒れそうだ。
「大変だ!早く助けないと!」
ポムは急いでその人影の元へと向かった。
すると、そこにはボロボロのローブに身を包んだ初老の男性(表情が見えないため性別が判別できないが)いた。彼は成人男性一人を背負っているようで、足取りはかなり危ういように見える。
「大丈夫ですか!?」
ポムが声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げた。その顔は痩せこけていて顔色が悪いように見え、お爺さんにもお婆さんにも見える。しかし、その瞳はしっかりとポムのことを捉えていたようだ。そして、彼は口を開いた。
⦅ああ……すまない……彼を……彼をたのむ……⦆
そういうと彼は、淡く発光したと思ったら、次の瞬間にはその場から忽然と姿を消した。背負っていた男性が自由落下により地面にぶつかる前にポムはなんとか受け止めることに成功した。
「ふぅ……危なかったぁ」
消えてしまった彼の方を見ると、彼のいた足元には赤い結晶がいくつか散らばっているのみで、もう跡形もなかった。
そして、先ほど抱き留めた男性を地面に下ろすと、彼の状態を確認するため、顔や体をペタペタ触ってみる。
すると、彼は意識を失っているものの、息はあるようで一安心する。しかし、このままでは危ないと判断したポムは急いで彼を背負うとダンジョンの外へと走り出したのだった。
ゲームのポムちゃんが可愛すぎるので、この小説読むよりゲーム遊んだほうがいいと思います。
耳と尻尾が良く動いてカワイイ。
あとゲームに猛禽の敵はでてきません。せいぜいグリフィンと鶏のハーフくらいです。とっても動かし辛かったので、謎の猛禽を出してしまったことをお詫び申し上げます。