それ逝け!ユメ先輩(偽) 作:ポンコツ太郎
語彙力がないので小難しい言い回しができないのです……
「んまい……」
濃いスープ、染みた麺、口直しのほうれん草に柔らかいチャーシュー。こんなにおいしいラーメンを食べたのはキヴォトスに来てから初めてだ。美味すぎて昇天しそう。
冗談はともかく、私は今柴関ラーメンというラーメン屋で麺を啜っていた。市街地での用事を済ませたのち匂いにつられてやってきたのだが、なんとまあ大当たりである。スープが身に沁みるんです。今までは食べても市販のカップ麺くらいのものだったので、久々に店のものを食べたことになるわけだが……ホシノめ、こんなおいしい店どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ。……そういえば対策会議内でちょろっとだが教えてくれていたような気がする。連れて行ってくれてもいいじゃない。
店主の柴犬の人は私を見るなり驚いた顔をしていた。どうやら、ユメ先輩もここに来たことがあるようだ。それも何回も。多分それは姉ですと私が言えば店主は納得したようで、しかも餃子をサービスでいただいてしまった。ああ、まったく。記憶を引き継げればいいのにな、なんてことを考えずにはいられない。ラーメン屋で考えることではないが。
ともかく美味しさは本物で、しかもお値段も580円からとリーズナブル。いや、普通に安すぎる。お財布にやさしい。アビドスもまだ捨てたもんじゃないなと思える。なんでこんな辺境でやっているのかという疑問は湧くが、こんな近場に店を構えてくれるのはありがたいことこの上ない。毎日でも行きたい。健康が危なそうだけど。
今度みんなもつれて食べに行きたいと思う。推定ブルジョワのノノミちゃんが気に入ってくれるといいんだけど。いやしかし、あの子意外と何でも食べるし大丈夫か。シロコは言わずもがなだ。うちの食費の65%を担っている。
おっと、麺が伸びてしまう。さっさと食べないと。替え玉も頼もうかなんて考えながら、麺を多めにすくって啜る。嗚呼、至福の時間である。
だから私の隣に座っている黒スーツの人が私のことをじっと見てくるのなんか気にならないのだ。ならないったらならない。……ごめんやっぱなる。滅茶苦茶気になる。あと怖い。
一人だからテーブルじゃと考えてカウンターに座ったのが間違いだったかもしれない。あとから横に座ってきた黒スーツの人。──……人?──は、出されたラーメンをちみちみ啜った後、顎に手を当てて考え事をしながら何かつぶやいているようだった。
そもそも、キヴォトスでは犬とか猫とかロボットとか、生徒以外の人型はいない。はず。それを考えると、人型ではある横の人はなんとも珍しいように思う。まあ、全身真っ黒な人型なんて何人もいても困るけど。
こちらも負けじとそちらを見てみる。黒スーツの人は炎が揺らめいてるような顔をしており、表情のひの字もない。でも見られているのは分かる。なぜなら首がこちらを向いているから。怖えよ。
いや待て。こちらの自意識過剰という可能性もある。そう、もう一つ隣の席を見ているのかも……いなかった。
しかし、大人に目をつけられるようなことはしていないはずなのだ。だから私のことを見ているわけではないに違いない。私には特別な知恵があるんだ。……もしかしたら、餃子を見ているのかもしれない。黒スーツの人はラーメン一品しか頼んでいないようで、それでは足りないかもと考えたこの人は横の私が食べている餃子が気になった……のかもしれない。いやきっとそうだ。別に私のことを見ていたわけではないんだろう。にらの風味が効いていて美味しいので、餃子も是非食べてほしい。
「餃子、おいしいですよ」
「え?ああ、はい。そうなんですか」
「……」
「……」
なんだか手ごたえがない。違ったか。違ったのか。黒スーツの人はまたもぶつぶつ何かをつぶやいて考え込んでしまった。*1なるほど。もしかしてお金がないのだろうか。もしくは財布を忘れたとか。このなりで意外とうっかりしているのかもしれない。人を見かけで判断してはいけないだろう。
「一個食べます?」
「え?」
「え?」
……餃子、嫌いなのだろうか。
「先ほどは失礼しました。なにぶん、信じがたかったもので。私のことは……黒服、とでもお呼びください。生業は……研究者とでも思っていただければと」
「まんまだ……」
「クックック……結構気に入っているんですよ、この名前」
「はあ……」
別に餃子を食べたかったわけではなかったらしい。一通り食べ終えた後、黒服というまんまな名前を名乗ったその人。ほんとにまんまだな。あだ名とかそういうレベルじゃなかろうか。黒服は手を組みそれを膝に置き、向きを正してくつくつと笑う。
「私もたまにここに寄るのですが、今回は僥倖でした。かねてより一度お話ししたいと思っていた貴方に会うことができたのですから」
「そ、そうですか。それは……良かった?」
なんだか口説いているみたいな口調だが、最初の予想通り、やはり私に用があるらしかった。またユメ先輩関係だろうか。
「それで、私に何か御用で?申し訳ないですが姉の話はあまり……」
「いえ、梔子ユメさんではなく、あなたに用があるのです、梔子ウツホさん。……ああ、違う呼び方をした方が良いでしょうか?」
「…………どういう」
梔子ユメではなく、私に用がある。含みのある言い方をする黒服の表情はゆらめいていてやはり読めない。ただ、嫌な予感がする。店には客が多くいるはずなのに、周囲が妙に静かに感じた。汗が頬を滑り落ちる。
「貴方は、キヴォトスの外から来たのでしょう?」
「──」
こいつは、自分の出自を知っている。得体の知れないやつだ。見た目だけではない、中身も。思わず左手で、腰のホルスターを撫でた。
「ああ、どうか落ち着いてください。当たったらひとたまりもありませんので。実は、私もあなたと同じで、キヴォトスの外から来たのです。同じ境遇の者としてまずは挨拶を、と思いまして」
しかし、撃たれる寸前になっても黒服は余裕を崩さない。当たったらまずいと言っておきながら、まるでそんなことは起こり得ないとばかりの落ち着きようだ。不気味なことこの上ない。
「小鳥遊ホシノさんから、私のことは聞きましたか?」
「いや、聞いてないけど…………あー、そういうことか……」
「心当たりがあるようで」
フレアガンを渡された時の会話。絶対あれだ。渡すだけじゃなくてちゃんとこうなるだろうと説明してほしかったが。それにここは屋内だ。使っても意味がない。まあ、客がいるここでは変なことはされないだろうと信じたい。
というか、やっぱり危険な事をしているじゃないかアイツ。こんな怪しい輩と関わるなんてどう考えてもまともな事ではない。どうして言ってくれないのか。信頼はされてないだろうが、私だって当事者なんだが。
「さて。顔合わせも終えたことですし、いきなりで申し訳ないですが、一つお願いしたいことがございまして」
「胡散臭すぎる……」
「こんな身ですからね、そこはご容赦ください」
お願いという言葉を使った黒服は、またもくつくつと笑いだす。絶対に碌なものではないだろう。思わず眉間にしわを寄せたが、気にならないとばかりにペースを崩さない。
「この身でキヴォトスに来た私たちと違い、貴方はその体に入り込み、こうして生きている。その仕組みを、是非とも教えていただきたいのです」
「……あいにくと知らないよ」
実際、本当に知らなかった。むしろ私の方が知りたいことだ。それを知ることができれば、解決の糸口がつかめるかもしれないのだから。可逆であればなおよい。
「そうですか。いえ、私もさっぱりでして。あなたは外から来たにも関わらず、ヘイローがある。それは今のあなたが神秘を有しているということ。神秘を得る方法が存在するということです……ええ、とても興味深い。ともすれば、暁のホルスと同じくらいに」
しかし私が知らないのは想定していたのか、特に落胆した様子のない黒服は私の特異性を話し始めた。顔の揺らめきが強くなったように感じる。実際、舌に油が乗ったらしい黒服は身振り手振りを大きくして早口だ。暁のホルス……とはホシノの事だろう。どうやらあっちにもアプローチをしているようだ。……不気味よりも気色悪いの方が強くなってきたな。
「ですので──ぜひともその体を調べさせていただきたいと思いまして。ああ、もちろん、対価は支払わせてもらいます」
そしてどうやら、そのアプローチを私にもしてきている。どうしても知りたいのだろう。研究者というのはあながち間違いではないらしい。ずいと迫るその顔には、知識欲が伺える。もちろん表情は読めないが。
「何故貴方がその体に入ったのか?誰がそうしたのか?戻す方法はないのか?……あなた方二人は、その謎を追っているのでしょう?もしかすれば、分かるかもしれません。私ならその助けになることができるはず。悪い話では無いと思いますが」
胡散臭い。胡散臭いが、確かにその通りでもある。ホシノも行き詰まっていたようなので、いっそのことこいつに任せてみるのもありなのかもしれない。不気味極まりないが……喋り方故か、見た目故か。それと同時に解明出来るという妙な説得力がある。ただ──
「私だけじゃ決められない。もう一人当事者がいるんだ、そっちとも話してもらわないと」
「……小鳥遊ホシノさん、ですか」
「そういうこと。多分だけど、ホシノに話してないでしょ」
「ええ、確かに。そちらにも話を通すというのが道理でしょうね──」
と、その時、店の扉がけたたましい音とともに思い切り開かれた。思わずそちらの方を見れば、件のホシノが息を切らしながら凄い剣幕でこちらの方を見ている。見たこともない顔だったので、大分驚いた。
「……ええっとぉ!?」
「帰るよ」
「え?ああ、うん?」
いきなりの本人登場に驚きつつ、随分とちょうどいいタイミングだなとか考えてみると、速足で近づいてきたホシノが腕をつかんでそう言った。……もしかして扉の前で聞いていたのか?いやでも、それだと息を切らしてるのに説明がつかないし……
「ホシノさん、一応聞いておきますが」
「駄目だ」
「なるほど。やはり、手ごわいですね」
やっぱり聞いていたらしい。ホシノが即答で拒否したので、この話は終わりということだ。黒服は残念そうに顔を少し伏せたが、かと言って諦めたわけではないらしい。
「いきなりでしたし、仕方ありませんね。また出直すことにします。お騒がせしました」
「ほら、荷物もって」
「ちょ、待っ…!お代払ってない!」
「ああ、迷惑料代わりに私がまとめて払っておきますので、大丈夫ですよ。……では、またお会いしましょう、小鳥遊ホシノさん、梔子ウツホさん」
「……チッ」
ホシノに急かされリュックを持ち、お代を払おうとすると黒服が奢ると言い出した。ありがたいと言えばありがたいが、あまりうれしくない。ホシノはホシノで舌打ちをし、黒服の方を見ようともせず私の腕を引っ張るばかり。私に向けられているわけではないが、思わず縮んでしまう。そうして剣呑な空気の中、私は店を後にした。
「……怒ってる?」
「もちろん」
さっきよりかは大分ましな顔になったホシノに尋ねればそう返ってくる。若干理不尽な気がするが、しょうがないだろう。実際、悪くはないと思ったのだから。それを見透かされているのか、それともただ単に黒服が嫌いなのかは知らないが、店を出た後も腕を離してくれない。
「これから同じ勧誘があっても、絶対に断ってね」
「それは分かってるよ。けど」
「駄目」
「はい……」
念を押された。実際怪しさで言えば今まで出会った大人の中で断トツだったのでやむなし。そうでなくともナンパまがいのことをしている時点でいいとは決して言えないよね。
「……ところでさ。走って来たみたいだったけど、なんで私のいる場所が分かったの?話も聞いてたみたいな口ぶりだったし」
「……」
「ねえ」
「……」
「こっち向いて?」
「……」
コイツ……もしかしてもしかするのか?しかしそのおかげで助かったところもあるので指摘しにくい。なんだか悶々としながら、私たちはアビドスへ帰った。ちなみに、シロコが匂いで外食してきたのが分かったのか、どうして私も連れて行ってくれなかったのかと嘆いていた。ごめんて。
柴関ラーメンは口からビームを放つことができる。それだけではない。柴関ラーメンはしばしば黒魔術を使う。
直近五話くらいは一話で一か月経ってる感じで書いてきましたが、一月と二月の話が全然思いつかない。どうしよう!!!!
先生の性別
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男性
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女性
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ムキムキマッチョマン
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TS幼女