それ逝け!ユメ先輩(偽) 作:ポンコツ太郎
部屋の蛍光灯がぶっ壊れましたが私は元気です。お金は飛んだけどね!チクショウ!
銀行を襲い、マーケットガードを撒き、便利屋の社長にファンサをしたのち、私たちはアビドスへと帰ってきた。……あれ、奪った1億おいてきちゃったじゃん。もしかすると、誰かが拾って使っているかも…………一番あり得るの便利屋だな。どうしよう、その金でもっといっぱい傭兵雇ってたら。祈るしかないか。そんな会話があったりなかったりしたが、集金記録の詳細を確認してしまってはそう軽くもいられなかった。
「うそ……」
カタカタヘルメット団への任務補助金、500万円。裏に誰かがいたのは予想通りだったが、それがよりにもよって私たちが借金をしているところだというのまで想像しろというのは酷な話だろう。
「じゃあ、ヘルメット団の裏にいたのはカイザーってこと!?なんでそんな!」
「これでは、貸し付けた借金を回収できなくなってしまうのに……どうして?」
ヘルメット団の手助けをしていたのはカイザー。ほぼ確実に組織ぐるみの行動だ。どうやら連中は、余程この学校から出て行ってほしいらしく。しかし、そうすると私らに貸した9億を回収することができなくなってしまう。だからそんなことをする意味がないはず。謎を解くために危険を冒したのに、むしろ増えてしまった。
「“……もしかすると、金以外の目的があるのかも”」
「そ、それってどんな!?」
「“ごめん、そこまではまだ……でも、カイザーが貸し付けた9億に興味がないのは間違いない”」
先生の指摘はもっともだ。こんなことをする以上、借金のことは重要視していないだろう。でもそうすると、別の目的があるはず。それが一体何なのか。見当がつかない。場を静寂が支配した。みんな表情には怒りをにじませている。
「……まあ、考えすぎても良くないよ。とりあえず、今日はいったん解散しよう。後日改めてってことで!」
空気を変えるためか、ホシノがそう提言した。分からないものは分からないんだから、いったん時間をおいてみようという事か。確かに今は冷静ではないかもしれないと、張り詰めた空気がいくらか緩くなる。
……ただ。そう言ったホシノの顔には陰りが見えた。何かしら思い当たる節があるのか、それとも……一つだけはっきりしていることは、あまり時間は残されていないということだけだった。
翌日。ヘルメット団の基地襲撃、セリカちゃんの誘拐未遂、便利屋にブラックマーケットと、ここ数日は忙しかったね……ということで、今日は一日自由登校日ということになった。昨日考えた通り、頭を冷やす期間ということだろう。
まあそんなことをいきなり言われても、やっぱり考えてしまうものだけど……そのせいで昨日の夜はあまり眠れなかった。シロコは爆睡していたが。羨ましいぞコンチクショウ。でもやっぱり腕に引っ付くのは控えてほしい。
迷惑をかけたヒフミちゃんには私から土下座しておいたが、大丈夫だと言ってくれた。大丈夫なわけないでしょと思ったが、謎の迫力でそれ以上食い下がる事は出来なかった。
銀行の不正のことを生徒会に報告してくれるとも言ってくれたが、トリニティが悪意ある介入をしてこないとも限らないのでと、やんわり断ることに。政治って難しいとヒフミちゃんがこぼしていた。私もそう思う。でも、そう言ってくれるだけでもありがたかった。
閑話休題。さて、今私が何をしているのかといえば。なんてことは無い、ただの調査である。カイザーの事を調べた方がいいんだろうが、それはみんなでやった方がいいだろうと言う事でやっていない。逃避してるとも言うけど……
方法は至ってシンプル、数少ないアビドスに住む物好きな人たちに聞き込みというやつだ。足で稼ぐのは古いかもしれないが、ここは限界集落だしいいだろう。……何がいいんだろう?
「君のお姉さんのことかい?」
「そう。おっちゃんには聞いてなかったなってさ。何でもいいから教えてほしいな」
調査内容はいつものこと、つまるところユメ先輩のことだ。
ホシノはどんな人だったかすら教えてくれないので、なら勝手に知ってしまおうという話。それに、自分の身体のことに繋がるかもしれないし。今のところは怒られていないので、黙認されていると言うべきか。
ユメ先輩は結構町に出ていたようで、覚えている人も多かったのが助かった。例えば、優しい人だったとか、署名活動をやっていたとか、ホシノが入学してからは二人でいることが多かったとか。後は……キヴォトスの葬儀は、日本とそう変わらないらしいという事とか。*1
今回来たのは、さびれた商店街でぽつねんと営業している古本屋。何回か本を買いに来たことがあるし、ユメ先輩もそうだったらしい。店の広さからは分かりにくいが、品ぞろえが意外と豊富なのだ。店主の押しが強いのがたまにキズだけど。
「……そうか。でも大したことは知らないと思うよ」
「いーからいーから」
その店主──よぼついた猫の獣人だ──にそう聞けば、読んでいた本を閉じ、老眼鏡を外してうんむと唸る。少しの静寂の後、店主は口を開いた。
「……やっぱり、一番に『元気』という言葉が来るかな。少なくとも、深刻そうな顔をしているのを見たことは無いね」
「でも抜けているところもある、ってね」
「ああ、その通り。棚上の本を取ろうとして転んだのを見たことがあるよ」
元気。やはりそれが最初に来る。これまで話を聞いた人の九割から聞いた話だ。残りの一割は「誰?」なので、今の所知っている人の全員がそう思っていたことになる。そして二番目には「抜けている」。紫大将から聞いた話によれば、財布を忘れて来店してきたこともあるとか。うーん、抜けてる。
「そして何より、理想家だった。彼女の買う本は砂漠化に関する物だったり、町おこしのハウツー本だったり、あとは……」
「……あとは?」
「株の本」
「うわ」
聞いた人物像では失敗する未来しか見えないし、実際失敗したんだろう。半べそかいてホシノちゃんに泣きつくさまを幻視した。見たことないはずなんだけど、おかしいな……
「でも、誰よりもアビドスのことを考えていたのは間違いないんじゃないかね」
「……みたいだね」
そうでなければ、こんな所には残っていなかっただろう。生徒会長として一人で頑張っていたそうだ。相当な気力がなければ残ろうとも思わないはずだし、きっとアビドス復興を真剣に考えていたに違いない。最期の時まで。
「……終わりの方で、何か気づいたこととかはない?本当に、何でもいいんだ」
「……すまんね、特には思い出せない。ただ、最後に来た時に買っていった本は記憶してるよ」
「それって?」
「ネフティスの鉄道開発事業についての本だ。大方廃線路を再利用しようとしたのかもしれないが……」
廃線路と言えば、前に体育館清掃のアルバイトを受けた時に通った所だ。なんでも昔に去り行くアビドスの人を繋ぎとめるためにネフティスが作ったそうな。確かに、何かしらに使えたら嬉しくはあるけど……難しそうだ。私たちでは扱えるはずもなく、せいぜいがよそに売るくらいだろうし。
……こんなもんだろう。本の話は初耳だったが、それ以外は知っていることだった。そりゃあ、そんな都合よく核心に迫るような情報を掴めるとは流石に思ってはいないけど……今の問題がひと段落したら、掘り下げてみてもいいかもしれない。
「うん、ありがとう。これで少しは知れたかな」
「もういいのかい?じゃあついでに一冊買ってもらいたくってね。閑古鳥も鳴かないくらいなんだ」
「ああうん、買う、買うから……」
台無しだよ……この人、こういう所があるんだ。辛気臭い雰囲気をどうにかしようとしてくれたのかもしれないけど……まあ情報料みたいなもんだしと、それを承諾する。
「よし、じゃあコレとかどうだい。記憶喪失の男が精神病院で目覚めるミステリーだ」
「へー……ってこれ上下巻でセットじゃん。手持ちじゃ微妙に足りないんだけど」
とりあえず買うかと財布を取り出すが、中には1180円しかなかった。本は一冊600円。二冊は買えない。ラーメンは食べれるけど。……狙ったような金額だな。
「じゃあ、今日は上巻だけ買って、面白かったら今度下巻を買いに来るから」
「うーん……困るな。次来る時までこの店がやっているとは限らないからね」
「え、やめちゃうの?」
「言ったろう、閑古鳥も鳴かないって。立ち退き要求も癪だから突っぱねてたけど、そろそろ手仕舞いの時かなと」
「そっかぁ……」
やっぱり、こんな所だと人が来ないらしい。店の種類的にも、観光客が寄っていくと言ったものでもないし、やはり厳しいのか。しかし近場の本屋がなくなるのは、こちらとしても悲しいものが……
「……待った、今なんて言った?」
軽い調子で店主が流してたけど、なんか今……なんか今とんでもないことを言われた気がする。思わず聞き直してしまった。
「癪だから突っぱねてるけど」
「いやそれもアレだけど、その前!」
「立ち退き要求?」
「それぇ!!誰がそんなことを!?」
立ち退かせてどうするんだよ。というかそもそも、ここらあたりの土地の権利を所有しているのは私らアビドス高等学校なはず。それを聞いた時は何もそこまで学校がやらんでもと思ったものだけど、それはともかく。私たちはそんなことを言った覚えはないのだ。すっからかんの町の店を潰すメリットが全くないし。
私の放った問いに、店主は意外そうな顔をして口を開く。凄く、嫌な予感がする。そしてそれは見事に命中して。
「そりゃあカイザーだよ。知らなかったのかい?ここら辺は随分前からあいつらの土地なんだ。だからそういったこともやりたい放題な訳さ」
それはとんでもない爆弾発言で、同時に私には「詰みだ」と宣告されているように感じた。
「はぁ~……」
「いらっしゃい!疲れてるみたいだが、大丈夫か?」
「正直大丈夫じゃない……」
聞き込みを終えた私はそのまま、柴関ラーメンへと向かった。避けたはずのカイザーの話題が真正面から突っ込んできたことによる陰鬱な気分を少しでも紛らわせるためである。真っ先にみんなに伝えた方がいいんだろうが、少しくらいは許してほしい。
ラーメンの力が私の心を救うと信じて…………席について、私の好きな香ばしい匂いがするというのに、しかし気分は上がらなかった。どうやら割と重症らしい。
「随分参ってるみたいだな……注文は?」
「柴関ラーメン並盛で……」
「あいよ!」
机に体重を預けつつ周りを見渡す。お昼時とは微妙に時間がずれているので、店内はまばらだった。それが何だか寂しさを加速させるようで……ああ駄目だ。ちょっとどころではなくブルーだ。もしこれで柴関も同じように立ち退き要求されてたら本当にどうしよう*2。ため息が止まらなかった。顔を突っ伏すと同時、後ろでガラリと扉が開く音がする。
「いらっしゃい!お、嬢ちゃん達の友達だぞ。一緒の席座ってやってくれ」
「え、友達?」
アビドスの誰かが来たのだろうかとも思ったが、それなら言い方がおかしい気もして。振り返ると、昨日も会った四人組がいた。便利屋68である。三人は驚いたような顔、社長は納得いってないような顔をしている。
「あ、ヤバ」
「あわわわ」
「……」
取り合えずこれだけは訂正しておこう。バリバリ敵同士だし。
「友達じゃねえよ……」
「!そうよね!!」
え、なんで喜んだの……??
「どったのアホ毛ちゃん、なんか随分ブルーじゃん」
「君もか……というかうちにもう一人いるんだけど、アホ毛」
「あっちはピンクちゃんね!」
「ピンクちゃん」
いつのまにやらホシノが間抜けなあだ名をつけられていた。ピンクちゃんって柄じゃないだろアレ。それに比べればアホ毛はマシか。……いや、どっこいどっこいな気も……
「というか、結局一緒の席に座るんだね……」
「いやだって、失意の知り合いを放っておくのも駄目でしょう?」
「えー?今のうちに一人減らしておこうと思ってたんじゃなくてー?」
「な、なんでそんなひどいことするのよ……」
「……まあ、うん。そうだけど……」
昨日はアウトロー目指してるとか言っていたが、本当だろうかこの子……?席に座った四人は私と同じ柴関ラーメンを頼んだ。今回は一人一つ頼むことができたらしい。
というかやっぱりこの状況おかしい気がするんですけど。敵同士だよね私たち?まあ店内でドンパチしようとするならぶん殴ってでも止めるけど……これも公私を分けるという奴だろうか。やっぱり分けすぎな気がする。あ、平社員のハルカちゃんと目が合った。気まずい。
「えっと……一体、何があったんでしょうか。ここまで落ち込むのは相当な気がしますし……あ、すみません。私なんかが……」
「いや、うん。大丈夫だから。……君らの雇い主のカイザーがちょっとねえ」
「えっ。…………何の事かしら」
「『えっ』の時点で誤魔化せないと思うんだけど……」
私視点では雇い主は確定はしていなかったので鎌をかけてみたけど、四人の反応を見るにやはりカイザーが雇ったと見て間違いないみたいだ。もう一歩踏み込んでみようか考えていると、室長の……ムツキちゃんが口を開いた。
「やっぱり、昨日の銀行強盗となんか関係があったり?」
「あ、そうよ!まさかあなた達が覆面──」
「あー、ノーコメント、ノーコメントでございます。……まあとにかく、私らが返済してた借金が私らを襲うための資金に使われてたってわけよ」
「……つまり?」
「マジヤバい」
「ほへー」
どうやら覆面水着団の正体を教えてもらったらしいアルちゃんは、いまいちピンと来ていないようだ。他二人も似たような感じだが、課長の……カヨコちゃんは考え込むようなしぐさを見せている。
「……返済先は?」
「それもカイザー」
「じゃあ、借金してる相手が襲い掛かって来てるってことじゃん!」
「だからこうやってブルーになってるんだよ……」
まあそれだけではないけども。どうやら便利屋の方は詳細を知らされていなかったらしい。当たり前っちゃ当たり前だけど。でも、これできな臭さに気づいたみたいだし、出来れば手を引いてほしい。打算マシマシである。でもそうでないと正直ジリ貧だし……アルちゃんは難しい顔をしていた。何故か私と遜色ないレベルで。
「……どうする?社長。今ならまだ、引き返せると思うけど」
「うぐ」
「私としては面白い方がいいなーって」
「わ、私はアル様の決定に従います!」
「うぐぐぐぐ……と、とりあえずラーメンを食べてからにしましょう」
「あ、逃げた……」
腹が減っては。私と同じ結論に至った所で、「へいお待ち!」という声と共に大将がラーメンを運んでくる。タイミングバッチリだ。一気に五人分がドンと置かれ、醬油ベースのいい匂いが漂ってきた。割り箸を取りつつ、話題は「アビドスとやるのはめんどくさい」といったものに流れる。そんなこと私に言われても……
「アビドス相手だとなかなか爆弾が機能しないんだよ、ピンクちゃんが防いじゃうんだもん。なんかあの子の弱点とかないの~?」
「いや、流石に言わないよ?というか正直私も知りたいし……」
「まそうだよね。そうだ、大将は何か知ってる?」
「ん?そうだな……昔はやんちゃをしてたってのは噂で聞いたことあるな」
「そういう方面?」
枕に顔をうずめてしまうような方向で攻めるとは思わなんだ。というか効くんだろうかそれ。
「変な異名で呼ばれてたっけな。暁のなんとか……って名前でさ」
「へー、そんなヘンテコな名前で」
「暁の……何なのかしら、気になるわ……」
「し、調べますか?」
どうやらアルちゃんには刺さったらしく、キラキラと目を輝かせていた。確か、暁のホルスとかいうあだ名だった気がする。正直付ける側もかっこつけてる気がするよね、こういうの。カッコいいっちゃカッコいいけどさ。……それにしても、どこで聞いたんだっけか、この異名。住人以外から聞いたような。
『ええ、とても興味深い。ともすれば、暁のホルスと同じくらいに』
「あ゛ーーーーっ!!!」
「ウワーーッ何!?何なのよ!?」
「……いや、なんでもない……」
「絶対なんでもなくないと思うけど……?」
最悪だ。悪いことというのはいっぺんに押し寄せてくるものなのかもしれない。胃がキリキリし始めた。
カイザーの目的は土地だろう、と言うのはさっき分かった。それを手に入れて何をするのかと言えば分からないけど……今までは借金の担保やらなんやらでぶんどってきたのだろうか、ということが考えられる。
しかしそれならそれで、アビドス高等学校をつぶそうとする理由が薄いとも思った。土地をどれだけ奪われたかはまだ分からないが、欲しい場所は最初にぶんどってそうだし、学校が必要なのかとも思ったが、いまいちピンとこない。
でももし、もう一つ目的があるとしたら。それが小鳥遊ホシノだとしたら。実は黒服はカイザーの手先とかで、土地と同時に優秀な人材が欲しいのだとしたら、辻褄は合うように感じる。しかも神秘がどうとか言っていたし、もしかすると──
「ちょっと、大丈夫?顔まで青くなってるわよ」
「大丈夫……」
「絶対大丈夫じゃないじゃん」
「考えすぎも良くないと思うよ。違う可能性もあるかもしれないし」
それは言う通りだけど……いや、一旦冷静になった方がいい。もしかしたら杞憂かもしれないし、まずみんなと話し合うべきだ。……ホシノとも。
今はとにかくラーメンを食べよう。そう思い、どんぶりを自分の前に寄せ、貰った割り箸を挟んだまま手を合わせる。
「いただきま──」
ドゴオオォーーーーン!!
そして柴関ラーメンは爆発した。ふざけんなよボケが。
頑張って推理させたら70点くらいの推理になりました。自分の知ってる情報とキャラの知ってる情報がごっちゃになってないか不安だ……