それ逝け!ユメ先輩(偽) 作:ポンコツ太郎
最近隔週投稿になっているのも申し訳なく思います。実は今回もギリギリ。
「こんにちわ、大将。お見舞いに来ました」
「大将、大丈夫?」
「想像よりかは元気そうで良かった」
「おや、三人とも。わざわざ済まねえな。にしても、今日はお客さんがよく来る」
翌日。お互いに引っ付いたせいで珍妙な寝方になっていたシロコをどうにか引っぺがし、アヤネちゃんセリカちゃんと共に柴大将のお見舞いへと来た。全員で来ては迷惑かと考えた結果、半分ずつ行った方がいいんじゃないかとなったためでもある。
話を聞くと、今日の朝に風紀委員が謝罪に来たらしい。随分早えな……フットワークが軽いわけでもないだろうに。多分、委員長が真面目なんだろう。
で、その次には便利屋が来たそうな。だから早いって。で、先生はロビーでばったり会った彼女らと私たちが来る少し前まで話してたらしい。なんでもアビドス襲撃の依頼からは手を引くんだそうな。いやあ良かったホントに。また襲撃されようものなら体力的にキツかったわけだから。
「“お体はいかがですか?”」
「先生まで。大丈夫、ちょっとばかし擦りむいただけさ」
「でも……お店が」
「ああ、バイトできなくなっちまってごめんな、セリカちゃん」
「そういう問題じゃない!」
そう、大将は強がって見せた。と言っても怪我自体は軽傷で済んだらしく、退院は今日にでも叶うそう。爆弾は厨房近くには設置されていなかったようだ。
「でもそもそも、もうすぐお店もたたむ予定だったからな。それが少しばかり早くなっただけだ」
「え?お店を……ですか?」
しかし、体以上に精神的なものというのがある。それは別に風紀委員たちだけのせいではなく、長くからの問題に目を向けざるを得なくなったことも関係しているんだろう。
「……退去通知を?」
「おお、知ってたか、ウツホちゃん。そう、少し前にな」
「た、退去通知って、何の話ですか?そもそもアビドス自治区は……」
「……それが、そうでもないみたい」
苦笑いで大将は答える。私の予想通りに、柴関ラーメンも退去通知を受け取っていたみたい。それをおくびにも出さずに今まで営業していたのは、なんとも凄いことだ。
「そうか、二人は知らなかったんだな」
「私だってつい昨日教えてもらったばかりだよ。古本屋の店主に」
「五郎の店が?そうか、アイツもか……」
唸るように答えた大将。表情にはまた、多少の苦みを含めて。知り合いも同じ状況であることからの複雑さ故か、それとも柴関から古本屋までの距離から考えると、広い範囲が盗られているという嫌な想像がつくからか。
「“……すみません、詳しい話をお聞きしても?”」
「ああ、構わないさ。……何年か前、アビドスの生徒会が借金を返せなくて、建物と土地の所有権が移ったんだ」
「う、嘘!?じゃあ、今は一体誰が!?」
「……カイザーだってさ。店主が言ってたよ」
「またなの!?」
そう、またカイザーだ。借金の相手なのだからそれは仕方ない、なんて言えるラインはとうに超えている。明確な悪意を持って、アビドスを潰しに来ている。
「そんな…………すみません、三人は先に学校に戻っていてください。私は少し寄り道して、確認をしてきます」
「わ、私も行く!」
「もちろん私も」
「駄目です、ウツホ先輩はお留守番をお願いします」
「ええ……?」
気づいてしまったのだから、最後まで調べなくちゃならない。そう思ってセリカちゃんに続いて手を挙げたのに、アヤネちゃんに速攻で却下されてしまった。な、なんでぇ……?
「酷い顔ですよ、もう少し休んでください」
「……まいったね」
そんなにアレだったのだろうか、私の顔。右手で頬をつまむが、あまり分からなかった。鏡でもあればよかったけれど、見渡す限りはないわけだし。
そうしているうちにセリカちゃんが大将に激励したのち、二人は足早に病室を去って行ってしまった。私は先生と二人取り残されたわけだ。申し訳なさを誤魔化すように後ろ髪を掻いていると、大将が思い出したと一言。
「あともう一つあってな。いつの間にか俺の所に大金の入ったバッグが置いてあったんだが、みんな知らないって言うんだ。二人は何か知らないかい?」
ベッドの足元を見れば、すごく見覚えのあるバッグが目に留まった。そうだね、強盗した時に現金が詰まっていたバッグだね。先生を見れば、苦笑いで目を逸らしていた。まあ、犯人は大体分かる。当人たちは知らないと嘘をついたようだけれど。
「2000万」
「“4000万”」
「6000万……」
「“8000万……”」
「……1億」
一応とばかりに中身を確認してみると、ちょうど1億円がそこにはあった。どうやらびた一文も取っていないらしい。驚いたけれど、同時にらしいとも思った。
「……はは」
「ええと、俺はコイツをどうすれば……」
「“ぜひ、お店の再建のために使ってください”」
これ以上いるのも邪魔になるだろうと、私たちも病室から出ていく。扉を閉める前、私は振り向いた。どうしても一言言いたかったから。
「……大将、私あんなに美味しいラーメン食べたの初めてだったんだ。叶うならもう一度……いやあともう百回は食べたい」
「……そうか。そう言ってくれるか……」
さて。戦力外通告を受けてアビドスへと帰ってきた私だが、対策委員会の教室へと入ると、外とは違う雰囲気に吞まれることになった。これまでは無かった、鋭い雰囲気に。
「……」
「…………」
「………………」
……端的にいえばギスっていた。い、一体何があったんだ……私と先生はふたりでオロオロしていた。どうにか聞いてみようかとホシノを見るが、絶対目を合わせまいとばかりに天井を見つめていた。こら駄目だとノノミちゃんを見れば、寂しそうに俯くばかり。そしてシロコの方を見れば、私の顔をジト目で見つめてきているし。なんじゃその目は。……疑われてる!?
もしかしてアレかな。家庭科室冷蔵庫にあったシロコのプリンを食べたのが私だとバレたのだろうか。でも賞味期限近かったんだからさ、仕方ないじゃないか。そう白状したらすごい力で頬を引っ張られた。いてててて。しかもそれが数十分続いたし。これ以上引っ張られたら私はカレーパンマンになってしまう。助けてくれホシノ。……ちょっと笑ってんじゃないよ。
「先輩たち、これ見て!大変なことが分かったの!……って何してるのよ」
「
「ええ……?」
しばらくたって勢いよく教室の扉が開かれた時、私の頬は既に臨終していた。
「とりあえず、こちらを」
「?これって地図?」
「はい、アビドスの土地の台帳……『地籍図』というものです。これによると──アビドス自治区のほとんどは、カイザーが所有していることになっていました」
「え?……アビドス自治区がアビドスのものじゃないなんて、そんなわけが……」
アヤネちゃんが資料を机の真ん中へと置く。開いたのは中の方のページ。いきなりの衝撃的な言葉に、ホシノが地籍図を手に取った。それをみんなで見る形。ページをめくるごとに、だんだんと表情が険しいものになっていく。
「カイザーコンストラクション……間違いなく、カイザーコーポレーションの系列ですね」
「土地のほとんどって……柴関ラーメンも?」
「はい。大将はこのことを随分前から知っていて、退去命令も出ていたようで……元々もうお店をたたむことを決めていたそうです」
事態を飲み込み始めたみんなの顔も曇る。カイザーのそれはもう陰湿な企みが、少しずつ明らかになっていく。
「そんな……」
「……土地はどれくらい残ってる?」
「この校舎と、その周辺のごく一部だけです。それ以外の……既に砂漠になってしまった本来のアビドス高校本館と、その周辺数千万坪の荒れ地。そしてまだ砂漠化が進んでいない市内の建物や土地までカイザーの手に……」
まさか、そんなに残っていないなんて。アヤネちゃんが作ったという図を見れば、校舎以外がカイザー一色に染まっていた。眉間にしわが寄るのを感じる。
「で、ですがどうしてこんなことに?学校の自治区の土地を取引だなんて、普通出来るはずが……一体誰がこんなこと……」
「……アビドスの生徒会、でしょ」
「!」
誰のせい、というのならカイザーだが、それでもただ奪ったわけではない。そこには少なからずアビドスの生徒も関わっている。悲しいことに。
「学校の資産の議決権は生徒会にある。それが可能なのは、普通に考えれば生徒会だけ」
「はい。取引の主体は、全てアビドスの前生徒会でした」
「担保とかで取られたわけではなく、あくまで自分から払わされたってわけか。汚いことするね」
「払わされた?」
「“……そういうやり方もあるよね”」
だが別に当時の人が何の理由もなしに売ったとは思ってない。自棄になったのは、なくはなさそうだけれど……カイザー側がそうせざるを得ないように誘導した、と考えるのが普通なはずだ。
「そっか……」
「ど、どういうこと?」
「アビドスにお金を貸したのは、カイザーコーポレーション」
「多分、生徒会も最初はちゃんと返そうとしてたんじゃないかな。でも、次第に返済が間に合わなくなって……」
「そして、土地を売るようにそそのかされた」
「しかし、アビドスの土地に高値がつくはずもなく……少なくとも、元金を減らすには至らなかった……」
「それで繰り返し土地を売ってしまう負の循環に……ということでしょうか……」
代わる代わる発言する私たちにセリカちゃんは一瞬たじろいだが、言葉を咀嚼していくにつれ怒りがふつふつと沸いているようだった。
「元々そういう計画だったのかも」
「多分、随分前から準備してたんだろうね。それこそ何十年も前から……」
「なによそれ!カイザーの奴らに弄ばれてるだけじゃない!生徒会の奴らもなにやってるのよ!馬鹿なんじゃないの!?」
「“セリカ、落ち着いて。本当に悪いのは、騙されることよりも騙すことだと思うよ”」
「……っ……!分かってる!分かってるけど……なんでこんな……」
セリカちゃんは感情を爆発させて、そのままうなだれてしまう。やりきれない思いを抱えているのは、この場の誰もがそうだろう。過去の話だ、どうしようもない。そんな言葉で納得できるなら、今この場にはいない。
ホシノも生徒会メンバーだったそうだが、反応を見るに知らなかったらしい。となると、それよりも前の代が売ったんだろう。そしてカイザーが学校を襲ったのは、生徒会がいなくなって取引ができなくなったから。そんな所だろうか。全ての土地を奪う必要性はあまり感じないけど……特にこの校舎に何かがあるわけでもないだろうし。
「でも、わざわざこんな土地を買う目的って?」
「確かにそうですね。先程言ったように、砂漠に覆われた土地なんてあまり価値はないと思うんですが……」
「“砂漠というと、ちょっと伝えておきたいことがあって。ヒナから聞いた話なんだけれど……”」
これ以上分かることは無いと、詰まり気味になってきたところで、先生がそう言った。昨日、ゲヘナの風紀委員会が撤収する直前、委員長と先生が話をしていたのを思い出す。曰くあれは情報提供だったらしく、要約をすれば──
──アビドス砂漠。そこでカイザーコーポレーションが何かを企んでいる。
「ど、どうしてそれをゲヘナの風紀委員長が……?」
「それに、どうして先生に?」
『……』
「ああもう!そんなこと考える暇があったら、実際に見て確かめれば良いじゃん!」
何故何どうしてと色々と疑問は尽きないが、結局の所セリカちゃんの言ったことが全てだろう。取り合えず行けば分かる。はず。多分。
「……うん、そうだね」
「おお~、良いこと言うねセリカちゃん!」
「“うん。準備が出来たら行こう、アビドス砂漠へ”」
『はい!』
何が待ち受けているかは分からないが、きっとろくでもないことだろう。それでも進まなきゃ、その先にたどり着くことはかなわないのだ。
「出発前にちょっといい?相談したいことがあるんだ」
「……私も?」
「ん」
各々が準備する中、私と先生の二人がシロコに呼び止められた。さっき頬をひっぱっていた時とは違う、ひどく真剣な表情で。きっとホシノやノノミちゃんと話していたことだろう。そりゃそうだ、プリン一つであそこまで険悪な雰囲気になるわけもないんだから。
「……これ、ホシノ先輩のバッグから見つけたの」
「“……退会・退部届!?”」
「うん。書かれてる通りの意味だと思う。二人にしか見せてないよ。多分、ホシノ先輩には漁ったことがバレてるだろうけど。……ウツホ先輩、何か知……なんで義手を投げたの?」
「ん?うん……うーんと……うん……」
「???」
思っていたよりもとんでもない爆弾が投下され、驚きの余り義手を投げてしまった。……では駄目だろうか。駄目?はい……
実際にはあまり驚きはない。ただし焦りがある。なんとなくホシノの事情が推測できるからこその。
義手を投げたのは、シロコや先生が知ったのを知られるのはまずいかもしれない、と思ったゆえの行動。ややこしい言い方だけど……いやでも、漁られたのに気付いた時点でこうなるだろうという予測はしてるかも?そう考えると投げる意味はなかったかもしれない。でもうーん……
「“……どうして漁ろうと思ったの?”」
「ホシノ先輩があんなに長い時間席を外すことは今までなかった。ましてや、風紀委員との戦闘にも来ないなんて。そう思って漁ったら、それが」
確かに、あの局面で来てくれないのは心細かった。いるといないのでは全く出来ることが違うことを痛感した戦いでもある……それに私の場合ドヤ顔で「小鳥遊ホシノは来る」って言った数日後には来なかったことになるわけだし……
「ホシノ先輩は、何か隠し事をしてる」
「“うーん……一旦保留にしておこう。まだ分かっていないことが多いから”」
「……えっと」
「ウツホ先輩とホシノ先輩の二人に何かがあるのも、それが少なからず関係してることも分かってる。けれど…… それは、どうしても教えられないもの?」
シロコは上目遣いで私を見てくる。不安と不満とを混ぜた瞳だ。私は少し見つめて口を開きかけて……でもそれを再び閉じて、そして目を逸らした。
「……少し……せめて今日は待ってて。よく考えておくから」
いっそ本人がぶちまけてくれればいいのだが、おそらくそんなことはしない。それは信頼がないとかではなく、もっと他の理由なんだろう。
……ただ出来れば私の気持ちも慮ってくれると嬉しい。辛いんですよ、結構。
そろそろ終わりが近づいてきたような感覚ですね。ひゃっほう。
しかしアビドス編後に書こうとしていた内容を大分忘れてしまいました。ちんたらやってるから……