それ逝け!ユメ先輩(偽)   作:ポンコツ太郎

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ここから少しご都合要素が強まるので違和感あったら申し訳ない。
……え、今更かって?はい……


梔子ウツホは来る

『ただ、こうしてホシノちゃんと一緒にいられることが、私にとっては奇跡みたいなものなの』

 

 先輩はいつかの時にそういった。その時の私は、随分と軽い奇跡だと一蹴したけれど……今更、こんな時になって先輩の言っていたことの意味が分かったというのは、我ながらいささか遅すぎるように思う。

 

『嘘じゃない。まず、私は君のことを知らない』

 

 私の人生は、奇跡の連続で成り立っている。冬に訪れ私の心をひっくり返したあの出来事も、今となっては奇跡の一つだろう。望みが半分叶って、この寂れた学校に元気な後輩が入って来て、穏やかな日常を過ごせた。これを奇跡と呼ばずになんて呼ぶのか。

 

『“私を、信じてほしいんだ”』

 

 先生が最後に言った一言は静かなものだったけれど、そこには確かに芯の通ったものを感じた。あの人は今まで出会った大人たちとは全く違って、最後まで私のことを諦めずにいて。そんな人だから、私も少し、信じてみることにした。きっと先生なら、今後のアビドスのことを気にかけてくれるはず。

 

 だからいいんだ。これ以上は望まない。私一人の犠牲でみんなが助かるのならそれでいい。勝手にいなくなることを申し訳なく思うけど、きっとみんなは私がいなくなっても乗り越えていける。みんなは大丈夫だ。私も大丈夫。そう、大丈夫。憂いはない。

 

 

 憂いはないんだ。だからさ。

 

 

「……待ってたよ」

 

 

 お願いだよ。

 

 

 

 

 

 

 退部届としたためた手紙を手に教室の扉を開けた時、すでにウツホは椅子に座って待っていた。私と似た目で遠くを見つめていたけれど、私に気づくと目を細めてそう言った。

 なんで、とかはない。いることは知らなかったけれど、いるとは思っていたから。ただ、本音を言うのなら会いたくはなかった。会ってしまえば、冷静でいられないだろうから。

 

「シロコちゃんは?」

「ウェーブキャット抱いて寝てるよ。思ったより気づかれなかったね」

 

 この場にいるということは、私がいなくなろうとしていることがバレているってことなんだろう。けれど本題に行く勇気がなくて、視線と一緒に話題を逸らす。ホワイトボードには全員分の落書きが書かれていた。先生も一緒だ。

 

 

「用事の前に、ちょっと付き合ってほしいな」

「……君もデートをご所望?まいっちゃうね」

 

 少しだけ間をおいて、ウツホがそう言った。私は茶化してみるけれど、無理にそうしたせいで心が痛むだけ。そろそろ偽るのが限界なそれを必死に覆って、表情を作る。ウツホは苦笑いをしていた。

 

「まあほら、時間はかからないから。多分」

「しょうがないねえ。ちょっとだけだよ?」

 

 盾を置いて、教室を後にする。今だけは重く感じたから。

 

 

 

 

「……懐かしいね。ノノミちゃんが鳴らしたんだったっけ、この火災報知器」

「『ずっと気になってたんです!』って言われて、結構箱入りなのかな、なんて思ったっけ」

 

 あんなまっすぐな目で言われるとどう叱ればいいのか分からなくって、戸惑った記憶がある。

 

「シロコちゃんがつけた焦げ跡もあるよ」

「室内でミサイルを撃たないでほしいよ、ホント……」

 

 ウツホに何発か当たって、それを焦ったシロコちゃんが処置してたのを思い出した。

 

「セリカちゃんがコケた床の凹凸だ」

「盛大な転び方だったね、アレは。ビターンって音がしてた」

 

 顔と地面が思い切り激突していて、隣のアヤネちゃんがあたふたしていたのを鮮明に覚えている。

 

 

 本題からは遠い話。日常の跡がついた学校を回りながら、私たちは後輩の話をした。さびれた校舎だけれど。振り返ってみれば、あまり学校生活と言えるものではなかったけれど。でもとっても楽しかったことを思い出して、昼寝をせずにもっと一緒に過ごせばよかったなと、少し後悔した。

 

 

 

 そういえば、まだコロッケパンの分返してもらってないよね。

 

 げ、まだ覚えてた……?

 

 

 また絆創膏が減ってるよ。

 

 そんなに使うからでしょ、もう少し節約しようよ。

 

 

 これで焼いたさんまは美味しかったよ、ほんと。

 

 また言ってるねえ。

 

 

 それが終われば、今度は取り留めもない話を。ウツホとこんなに話したのは、多分初めての事。同級生との駄弁りというのは、存外に面白いもので。いつもはお互いに遠慮して、後輩の前以外で話すことはそうなかったから。もう少し踏み込んでいればなと、少し後悔した。

 

 

「……うん、やっぱりさ」

「……?」

 

 本当はずっとこうしていたいけれど、このままだと後悔で足が止まってしまいそうで。だから、私から切りだした。まだ歩けるうちに、突き放さないといけない。

 

「君がいればアビドスは安泰だよ」

「……人を見る目がないね」

 

 無いのかもしれない。ずっと、影を振り払うこともできずにここまで来てしまった。だからこそ、それをきっぱりと捨てなければいけない。今。

 

 

 

「いい。いいんだよ、もう。君はユメ先輩じゃない」

「…………けど」

 

 

 

 それは半ば自棄だ。けれど事実でもあった。息をのむ音に隣を見れば、ウツホはひどく驚いた様子で。でも、次には沈痛な面持ちをしていた。きっと私のことを考えてくれているのだろう。息が苦しい。そんな顔をされてしまったら、やっぱり揺らいでしまうから。邪念を払うように、私はゆっくりと首を横に振る。口惜しそうな表情をして、ウツホはただ「そっか」と一言だけ返した。さっきまでのが嘘のように、私たちの周囲は冷たい雰囲気へと戻ってしまった。別れの空気が、私たちの間を漂う。

 

 

 どこかから風が吹く。砂の匂いがする。つかの間の静寂。窓から見る星空が、酷く煌めいて見えた。

 

 

「これは……アヤネちゃんだったかな」

「どれ?」

「これこれ」

 

 しばらく歩いていると、ウツホは何かを見つけた様子で、壁についた一筋の傷を指した。思い出話に戻ったようだった。

 でも、なんだったっけ、それ。記憶をたどるけれど思い出せない。もしかしたら、私がいない間に起こった出来事なのかも。

 

「あれ、いなかったっけ。この傷、アヤネちゃんが付けたんだけど、理由がこれまたしっかりしててさ」

「へえ。どんな理由なの?」

 

 続きが気になって、私はウツホの方を向く。少し笑った後、口を開いて──

 

 

 答えを聞く前に、轟音と共に私は吹っ飛ばされた。

 

 

「爆弾の目印に、って」

 

 

 

 

 

 


 

「っ、不意打ちって卑怯じゃない!?」

「黙って消えようとした君には言われたくないかね……!」

 

 煙が晴れぬうちに、ホシノは突っ込んできた。やっぱり、これだけで倒せるわけはない。たとえ盾を持たずとも、小鳥遊ホシノはやわではない。

 でも動揺は誘えた。珍しく一直線に来るホシノの頭に一発、あてられるほどに。と言ってもこの一発限りだろうけど。だからここからが本番だ。

 

 距離は5メートルもなく、至近距離での攻防。ショットガンの弾を避け撃ったもう一発は、私と同じように回避されてしまう。そのまま距離が縮まり、拳の届く位置まで迫った。

 そして殴り合い。ホシノの繰り出すパンチを身をひねって避ける。こっちの拳は受け流された。当たっても大したダメージにはならないだろうが。ノノミちゃんの膂力もシロコの瞬発力もないわけだし。

 

 戦闘訓練では接近戦なんて一分持てばいい方だったし、盾の無い分普段よりもいくらか早いホシノの動きを考えれば三十秒が限界だろう。それまでに次の手を打たないと勝つことは出来ない。

 

「無駄だよ……!」

「くっそ!」

 

 蹴りを膝に食らい、体勢が崩れる。間髪入れずに追撃してくるのを左腕でどうにか防ぎつつ──右に持ったリボルバーで消火器を撃って、勢い任せに足払いを一発。距離を取った。ショットガンが腹を掠めたが、それだけで済んだ。

 

 必死に考えて思いつく限りの準備はした。だからそれがどこまで通用するかに、成否がかかっている。……いや、成功させなければならない。そうでなければ終わりなんだから。コイツ頑固だし、こうでもしないと止まらないだろう。

 

「……どうにか考え直してくれない?」

「駄目だよ。みんなを守るにはこれしかない」

「ああそう!」

 

 あっちは爆発と弾を一発。大してこちらの損傷は蹴りを貰ったくらいだ。運がいい。けれど、それだけで実力差が埋まるとは思えない。離した距離は一瞬で詰められる。だからもう一策。と言っても至極単純だ。スタングレネードをぶん投げるだけなんだから。

 

「ッ!」

 

 この暗さなら効果は十二分。ホシノは一瞬顔を歪ませ、しかし冷静に蹴り返してきた。こっちの頭にドンピシャである。どんなコントロールだよまったく!

 

 だけど、グレネードが爆発することは無かった。不発弾……というわけではない。ただ、時限式ではないだけ。ポケットのボタンを押し、今度こそ光が漏れだす。流石のホシノもフェイントは予想外だったのか、ほとんどもろに食らう。蹴り返されるなんて考えてなかったからこっちも食らったが。

 

「まっぶ…!」

 

 目を細めつつ、ホシノに向かって二発。一発目は当たったが、二発目はすぐに動いたホシノに躱される。動きは鈍っている、けれどダメージが足りない。今のだってセリカちゃんなら二発目も当てていただろう。冷や汗が流れ、焦りが表に出る。

 

 そしてそれを見逃すホシノでもない。もろに光を食らったはずのその目は、しかし正確に私の右腕を狙っていた。私がもう一発撃つ直前にショットガンが火を噴き、手からリボルバーが離れた。

 

 不味いと思った時には、破裂音とともに体に衝撃が走って、視界がぐるりと回る。どうやら撃たれたらしいと、そう気づくのに数秒かかった。あの時(最初)と同じだ。違うのは、お互いを知ったという事。

 

 

「もう、諦めてよ」

 

 ゆっくりとホシノが近づいてくるのが、ぼやけた視界でも分かった。右腰のオートマチックに手を添えるけど、私が撃つよりもホシノのショットガンが撃たれる方が早いだろう。

 

「もういいんだよ。もう」

 

 彼女はいいという。悲しそうな顔で。苦しそうな顔で。そして──

 そんな顔しないで、ホシノちゃん。

 

「いいものかよ」

 

 そんなことを言わないでほしい。君一人の犠牲で生き残るような場所なんて捨てた方がマシだろう。後輩だってそんなこと望んじゃいない。息を吸って、口を開いた。

 

 

「また花火をしよう。今度は六人で。今年は使いきれるだろうし、ちょっと大きいのも買おうか」

「……なにを」

「水族館に行ってもいい。君の言ってた所にさ。みんなで色んなコーナー巡って……イルカショーも見たいね」

「やめて」

 

 未来の話をする。何もかも上手くいった後の話。日常が戻って来て、いつものように駄弁り、たまにみんなで遊びに行く、そんな話だ。取り留めもない、けれど輝かしい未来の話。

 

「ノノミちゃんのショッピングに付き合うのもいいし、シロコの運動について行ってもいいかも」

「やめてよ」

「今度はセリカちゃんも入れてラーメンを食べに行こう。その後はアヤネちゃんと掘り出し物を見つけたりさ」

「やめて!」

 

 声を荒げるホシノの方を見れば、銃口が震えていた。やっぱり未練たらたらじゃないか。余程後輩が可愛いと見える。

 

「駄目。駄目なんだよ……!諦めてよ、お願いだから!」

 

 引き金にかけた指が曲げられる。あとコンマ数秒で私の意識は飛ぶかもしれない。でも、諦めきれない。諦めるにはまだ早い。

 

 まだ最後の策が残ってるんだから。

 

 

「やだね」

 

 風を切る音と共に、窓から入ってきたのは。白い色に青の模様が混じっているドローン。両肩に背負ったミサイルを光らせて、ホシノの方へと突っ込んでいく。

 

「シロコちゃ──」

 

 残念ながらシロコはいない。勝手に借りたので、明日怒られることは避けられないが……とにかくこれで、ホシノを挟み込む形になる。発射されるミサイルの対処にホシノが動いたところで、私は左腕を飛ばした。

 

「な」

 

 左腕はショットガンを持つ方の手を掴み、そのまま勢い任せに引っ張った。ホシノの体勢が崩れる。それでよかった。それだけで。オートマチックを抜く。

 

 結局私の説得では止められなかった。アヤネちゃんならもっとうまくできるだろうし、最後に力任せなのは嫌になるけれど。それでも、私がやらなくちゃいけない。これこそ私の役目だろうから。

 

「ウツホ──」

 

 ホシノに名前で呼ばれたのは、多分初めての事だった。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ありったけをぶつけ、全弾を食らったホシノは吹っ飛ばされて……そして動かなくなった。

 ヘイローは見えない。なんとか……なんとかなったみたいだ。力が抜けて、その場にへたり込みそうになるのを、何とかこらえる。

 

「……私だって、君がいないと寂しい」

 

 息を切らしながら、ホシノの方に近づいていく。つい、本音が漏れた。誰にもいなくなってほしくない。特に気づかないうちに失うのは、もう耐えられないんだ。

 

「……」

 

 とにかく保健室に運ぼう。ないとは思うけど、起きた時に暴れられると困るし、縛っといた方がいいだろうか。いややめよう、気まずい。みんなが来るまで寝ていてくれればいいんだけど。そんなことを考えながら、ホシノを抱えようとして。

 違和感を覚えた。よく見れば、不自然な体勢をしていたのだ。首が後ろに倒れているだけだけど、他の部分は緩んでいるのに比べて、そこだけ強張っているような印象を受ける。……やっぱり不自然だ。何かを隠しているような感じ。例えば──

 

 

 ヘイローとか。

 

 

 瞬間、銃口がこちらを向いた。目と鼻の先に、黒い穴が迫る。

 

「マジかよ」

 

 それが私の最後の言葉になった。

 

 

 

 

 

 生徒が頭上に乗せているヘイローの性質として、物質を透過するというものがある。壁には埋まるし、触っても手を透ける、ホログラムのようなものなのだ。そして生徒は寝たり気絶したりするとヘイローが消えるため、意識の有無がとてもわかりやすい。

 ホシノは、その性質を利用した。見えなければ、意識がないとするのが普通。そんな当たり前を奇襲に利用し、床にヘイローを埋めて欺き、形成を逆転し勝利したのだ。

 

 というのに、ホシノの顔は暗いままだった。ウツホに言われた言葉が引っかかって、糸に縫われたようにその場から動けなかった。諦めたはずの未来の話をされた時でさえ、揺らいだ決意を乗り回したというのに。

 

 寂しいと言われた。寂しいだ。苦しそうな、悲しそうな、そして──言葉通りの寂しそうな声だった。

 

 そう考えて、ホシノは腑に落ちた。同じだったのだろう。守るためだなんだと言って、結局彼女もそうだったのだ。もう会えないだろうことが悲しくて、これしか選択肢の無いことが苦しくて、そして、みんなと離れるのが、ただ寂しかったのだ。

 

 

 しばらくの間立ち尽くした後、ホシノはウツホを保健室に運んだ。時計の音だけが、部屋中に響いている。激闘が時の流れを震わすわけでもなく、秒針は一定のリズムで動き続けた。

 

 

 夜が更けていき、そして水平線が白んでいく。東から日が昇り、アヤネとシロコが登校するまで、アビドス高校に()()()()()()()()()()

 

 

 




こんなにロケットパンチ使ってる作品あんま無いんじゃないか?()
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