それ逝け!ユメ先輩(偽) 作:ポンコツ太郎
「リモコン式閃光手榴弾は役に立ったかな?」
「それはもう、滅茶苦茶に」
遠目から私の存在に気付いたウタハは、レンチを持った方の手を振ってきて、開口一番そう言った。危ないって。
というわけで、アヤネちゃんと先生が作戦をつめている間、私は武器の調達を任され、こうしてミレニアムまで足を運んだというわけだ。カイザーをぶっ飛ばす作戦を考えた私たちだが、何にしたって準備が必要なのである。
ちなみにセリカちゃんは二人の手伝い、ホシノシロコは戦闘訓練、そしてショッピング師匠には主に医療品を買いに行ってもらっている。
「それは良かった。埃をかぶっていたからね、動作するか不安だったけど」
「ちゃんと動いたよ。夜に使ったせいかすこぶる眩しかったし」
今思い出してもアホほど眩しかったが、まあ閃光手榴弾ってそう言う使い方だし。それに、その結果ホシノといい勝負ができたので、やっぱりエンジニア部には足を向けて寝れない。まだ在庫も余っているそうだし、多く買っていくことにしよう。
「そういえば、光学迷彩下着は?」
「もう完成したさ。あ、試着してみるかい?」
「遠慮しときます……」
聞けば、この間来た時にお熱になっていた光学迷彩下着は完成したみたい。見せてもらったが、本当に光学迷彩付きの下着だった。平たく言えば透明な下着。
……これいる?と思ったが、どうやら需要はあるらしい。なんで?というかどっちにしろ光学迷彩の無駄遣いなのでは…………やめよう。これ以上は危険だ。
「で、今作ってるのがあれ?」
「ああ。宇宙戦艦につけるレールガンを作っているんだが、なかなか難しくてね。とりあえず既存の対物ライフルに装置を付けてみている所さ」
「おお……!」
新入生らしき二人がせっせこ作業している方を見れば、確かに装置の付いたライフルがあった。レールガンとはまたいい趣味をしている。絶対強い奴だ。光学迷彩下着との差がすごい。
「ちなみに既に予算の三割が消し飛んでしまった」
「……年の?」
「年の」
ええ……?まだギリギリ4月だよ……?大丈夫……?たまに見る生徒会会計の子は厳しそうだし、追加の予算はあまり期待できなさそう。ウタハも若干遠い目をしている。なるほど、どこも金なのか……思いもよらぬところから悲しい現実が襲い掛かってきた。泣きそう。
「まあ、それはともかく。今日は手榴弾の事だけ、というわけじゃなさそうじゃないか。どんな用事があるんだい?」
「あ、分かっちゃう?聞きたいことがあってさ」
これ以上悲しい話をしたくないのもあったのか、ウタハが話題を変える。私が別に用事があることを見抜いていたようだ。思い切って聞いてみるか。
「義手に仕込んだ盗聴器に録音機能ってある?」
私がそう言うと、ウタハは全力で目をそらした。おうこっち向けや。
「……気づいてたのか」
「気づいてたのかじゃないよ?」
だってよく先回りとかされるし、知らないはずのこと知ってたりするし。事情が事情なのでしょうがない部分もあるんだけど、やっぱりついてたのか……気づいたきっかけが黒服というのもあれである。最近嫌な気づきばっかりな気がする……
「はは、確かにそれは怪しいね」
「何わろとんねん」
いやー大変そうだねーという風に軽い感じで言ってくるんじゃない。これでも聞くの怖かったんだぞ。本当についてたらどうしようかと……いや本当についてたんだけども。
「いやすまない。まあ、結論から言えばあるよ。最大で120時間──5日分の音声を保存しておくことができる。詳しくは君の相方に渡した方の説明書……通称『裏死海文書』に書いてあるはずさ」
「随分仰々しい名前してるな……」
絶対それあの人*1が考えただろ。ただの義手に預言が書かれてたら怖いよ。定期的にインパクトをかましてくるなあの人……
と、ともかく。聞きたいことを聞くことはできた。しかも私たちにだいぶ都合がいい。上手く使ってやろうじゃないか。手榴弾の会計をして、私はもう一つの目的地に向かった。
「と言うわけでして、その……どうにかできないでしょうか?」
トリニティ総合学園。その生徒会室にて、二人の生徒が話し合っていた。
一人はペロロのリュックを肩から下げ、緊張故か背筋を伸ばして対面をおずおずと見つめている。名前は阿慈谷ヒフミ、先日ブラックマーケットにてカイザーの不穏な情報を(不本意ながら)知り、都合をつけ報告しに来ていた。
「ふむ……なるほど」
そしてもう一人、対面に座り紅茶の入るカップを傾け、報告書を見つめる人物──桐藤ナギサ、生徒会であるティーパーティーの現トップは、ゆっくり頷いたのちヒフミに向き直る。
「正直、条約を前にあまり動きたくはない、というのが大きいですね」
「うう……」
カイザーコーポレーションがアビドスを堕とさんとしている。それは生徒会の諜報員からも聞いていることだったが、こちらも最重要機密であるエデン条約の締結に忙しく、あまり干渉するのは望ましくない。
「しかし、です」
「!」
「確かに、カイザーコーポレーションの活動は目に余るものがあります。好機と捉えるべきでしょうか……」
連邦生徒会長の失踪を折りに、カイザーの活動は活発化した。言葉巧みに住民を騙し、利益を得るグレーなやり方が多くなる一方。トリニティの生徒も被害に遭うことが増えて来ており、自治区の維持を担う生徒会としても由々しき問題だった。好き勝手させ増長させるのも面白くない、出る杭は打っておきたいのだ。
「で、では……」
「確か、ちょうど牽引式榴弾砲を扱う屋外授業がありましたね」
「は、はい。選択科目の一つに。私もそれを」
「なるほど。では、他ならないヒフミさんですし、全てお任せします」
故に、ピクニックにはちょうどいい機会だった。アビドスまで遠出して射撃訓練。よくある授業の一環だろう。もしかしたら、カイザーが砲弾の下敷きになってしまうこともあるかもしれないが……まあそうなっても、それはあくまで事故である。
「あ、ありがとうございます!」
「いえ、いいんです。
「は、はいぃ……」
それはつまり「私が困った時は助けてね♡」ということなんだろうかと、ヒフミは後々のことを考え少し怖くなった。もちろん恩は返すし、ナギサが無茶なお願いをしてくるとは思っていないが、やっぱり偉い人に明確に貸しだと言われるのは体が強張る。ファウストにも怖いものはあった。まあいずれはっちゃけるんだけどね。
「……シャーレの先生。貴方もきっと、そう思うでしょう?」
そんなヒフミを横目に、ナギサは件の人物に思考を移す。今回の件は連邦生徒会長の後釜、超法規的機関であるシャーレの主である先生の実力をはかるという側面もあった。上手くやればよし、そうでなくとも……まあ、恩は売れる。ゆくゆくはエデン条約の締結に。
ナギサは再びカップを傾け、少し冷めた紅茶をあおった。カップの下は薄く笑っている。
「ちょ、おまっ、やめ……分かった!私が悪かった!委員長にちゃんと伝えるから!」
さて、トリニティの生徒会長に目をつけられている先生であるが、現在ゲヘナの生徒の足を舐めようとしていた。なんで????
……なんでかはよく分からないが、とにかく時は少し遡る。
カイザーを叩くとなれば、十中八九PMC基地にいた軍勢が襲いかかってくるだろう。理事がなんともうざったい自慢げな口調で話していたが、それらは実際に大きな脅威になる。基本的に数は力であるのだから。
アビドスの五人で作戦を遂行できないとは言わないが、それでも厳しい戦いになるのは必至。少しでも戦力を増やした方がいいと考えた先生は、先日言葉を交わしたヒナ達風紀委員に助力を請うため、ゲヘナ学園まで赴いていた。
「ん?アンタは……」
「“あ、確か風紀委員会の子”」
「銀鏡イオリだ。……で、シャーレの先生サマがゲヘナになんの用だ?」
「“実は、風紀委員長……ヒナに会いたくて。緊急の要件なんだ”」
そうして、先生はたまたま銀鏡イオリと出会した。これ幸いとばかりに先生は用を伝えるが、イオリの反応は芳しくない。自分たちを下した相手というのもあって、ただ従うのが気に食わなかった。ので、イオリは先生のことを少々揶揄ってやろうと考えたのだ。
「緊急ねえ……委員長は忙しいんだ。そう簡単には会えないよ。……まあそうだな。土下座して足でも舐めれば考えても……」
「“分かった”」
「え?」
しかしそれがいけなかった。先生はそのセリフを聞くや否やイオリのブーツを脱がせ、靴下を脱がせ、そしてノータイムで足を舐め始めた。コイツ躊躇が全くない。
「“ただ、約束してほしい。必ずヒナに取り次いでくれるって”」
「え、いや、ちょっ……お、大人のプライドとかないのか!?」
「“生徒のためなら、そんなものいくらでも捨てるよ”」
捨てすぎだった。流石にもう少し躊躇して欲しいところである。しかも舐めながら普通に喋っている。怖い。とはいえ、言葉に嘘偽りはない。生徒のための行動という点においても、一点の曇りもなかった。なお怖い。
「お、おかしいだろ!やめっ……このヘンタイ!!」
そうして時間が戻るわけだが、かと言って先生の尊厳が戻るわけでもない。しばらくの間舐められっぱなしのイオリだったが、そこに待ったをかける者が現れた。
「……え、っと……」
「“ヒナ!”」
「い、委員長!?助けてぇ!」
そう、先生の目的の人物でもある空崎ヒナだった。先生も足を舐めるのをやめ、ヒナの方へと正座で向き直る。正直シュールすぎるのでやめて欲しかった。
偶然最初から見ていたし聞いていたヒナは無茶な要求をするイオリを叱ろうと歩き出したが、しかし次の瞬間爆速で足を舐め出した先生を見て足が止まってしまい、今まで立ち尽くしていたのだ。そりゃそうなる。
ヒナは自分のために膝をつく人間なら何度も見て来たが、生徒のためにそうして足舐めまでする人は初めて見た。当たり前である。こんなのがキヴォトスに二人もいたらたまったものではない。
先生と交わした言葉は少ないが、信用はできると感じていた。それは
「“ヒナ、頼みがあるんだ。どうか、私たちを助けてほしい”」
「……」
凄いぞ、この大人大真面目だ。ヒナにおそらく人生最大の危機が訪れていた。いよいよどうリアクションをすればいいか分からなくなってしまったのだ。
「大将ォーーーッ!!」
「おお、ウツホちゃん!いや、ちょうどいつ来るかねって思ってた所さ!」
「そりゃあ店開けてくれるってんだから行かないと!」
手榴弾の入った袋をぶん回しながら、私はもう一つの目的地へと着いた。*2そう、柴関ラーメンである。退院して早々屋台でまたやってくれると聞いた私は、ミレニアムから亜光速で飛び出していき宇宙の彼方、ラーメンを貪りに来たのだ。
「嬉しいこと言ってくれる。さ、ちょうど嬢ちゃん達のお友達も来たところだったんだ。今度こそゆっくりしてってくれよな!」
「え?」
そうして大将の方へと近づく私だったが、どうやら友人も来ているらしい。ほう、友人とな。言い草からするにアビドスのみんなではなさそ…………なんだろう、すごいデジャブだ。暖簾をどかしてみれば、向こう側に見知った四人組──そうだね便利屋68だね。──がいた。
「あ、アホ毛ちゃんじゃん!」
「ま、またなの!?」
「そうみたいだね……」
「あわわわ」
「おお……うん……」
うーん。友達ではないともう一回訂正した方が良いんだろうか。でも大将の事だし、言っても友達呼びしそうだ。……諦めっか!そんなことよりもラーメンだ。ラーメン食いに来たんだよこっちは。とりあえず近くに座った。柴関ラーメン一つ!あ、今度は爆弾仕込んでねえだろうな。ない?ならよし。
「一昨日ぶりじゃん?調子どう?」
「超ピンチ。利息3000%」
「ええ……?つまり?」
「月に払う利子が9000万になっちゃった」
「9000ん!?」
去った後のことを簡潔に伝えれば、四人はだいぶ驚いた様子。良いリアクションをしてくれる。まあのんきに言っている場合ではないけど……
「そっちはどう?」
「……一応、引っ越しは終わったけど……」
「お、お金がない、ですね……」
「ふ、二人とも!そういうこと言わない!」
どうやらお金がないのはどこも同じらしい。あかん、また悲しくなってきた。お冷が身に染みる。世知辛い世の中だ。キヴォトスも不景気なのかもしれない。
「じゃなくて!どうしたのよ、そんなことになって!」
「いやね、カイザーがとうとう実力行使に出て来て……」
とりあえずざっくりと、昨日の出来事を話した。砂漠の基地に行ったら理事が出て来て難癖つけられ金利を吊り上げられうんぬんかんぬん。四人はうげえという顔をしている。まあ私達もすごい顔していたと思うし、伝聞でそうなっても仕方がなあっ!!!!ラーメン!!!!
「こんな田舎の学校にちょっかいかけて、みみっちいよねえ」
「私達もあっち側だったんだけどね」
「たはは」
「笑い事じゃなくなーい?」
卵チャーシューそして麺。数日ぶりのラーメンが身に沁みる。やっぱり柴関だよね、カップ麺とは一線を画す美味さだ。これなしでは生きられない体になってしまった。普段の1.4倍のスピードで麺をすする。うおォン。
「で、これからどうするつもりなの?」
「んも?……殴り込みに行くよ。ボコボコにする」
「なんですってぇ!?」
カヨコちゃんが聞くので、まあカイザーに漏れることは無いだろうしいいかと端的に言うことにした。まあ聞かれててもこの言い方ならブラフに使えるだろうし。
ともかく、それを聞いたアルちゃんは箸から麺を落としながらおったまげていた。危ないよ。座りなさい。こぼさないようにね、左手は添えておきなさい。
「……自棄はやめた方が良いよ」
「自棄じゃないよ。えっと、考えなしが考えた考えなしの策を考えたうえで実行するというか……」
「……どっち?」
「考えてる!」
何なら考えすぎなくらいにはちゃんと考えている。アヤネちゃんと先生が。……ラーメン食ってる場合ではない気がしてきたな。替え玉ください。何か私も考えた方がいいというのは事実だ。迅速な作戦遂行がホシノの生存確率に直結するのは明白だろうし。
「それにほら。『目には目を、歯には歯を。無慈悲に孤高に我が道の如く魔境を行く』ってね。アウトローってやつだよ」
「!」
ふと、最近ホシノが言ってた言葉を思い出した。今考えれば割とその通りだ。野蛮人集団アビドスらしい良い文言だと思う。殴られたなら、殴り返すべきである。アルちゃんは興味深そうに目をキラつかせていた。…………もしかして、これは好都合だな?
「と・こ・ろ・で。そっちもお金がないんだったよね?」
「え、ええと、ラーメン代くらいは……」
「でも生活には心もとないんでしょ?」
「う……」
カヨコちゃんがジト目で見つめてきているが、そんなことは気にしない。ムツキちゃんは面白そうだとばかりににやけている。そしてハルカちゃんはあたふたしている。
「まあつまり、依頼を頼みたいというわけだよ、便利屋諸君」
「……私達に、依頼を?」
「もちろん。私と君らとの仲でしょ?内容も分かるよね」
咄嗟に思いついた案にしてはだいぶ良いものだろう。アルちゃんの目が悪そうな目に変わった。いい顔をしている。そして私もきっと、いい顔をしている。
「くふふ、面白くなって来たね」
「……まあ、社長に任せるよ」
「わ、私もアル様に従います!」
ムツキちゃん以外も割と乗り気なようだ。アルちゃんは腕と足を組んで見せた。頬杖をついた私と、視線が交差する。
「……ふふ、高くつくわよ?鐚一文もまけないわ」
「大いに結構。今更借金に数百万が増えたところで痛くも痒くもないさ」
「ふふふふふ」
「はっはっは」
商談成立。二人で悪役みたいな笑い方をした。まあ痛くも痒くもあるけど。絶対怒られるだろうしね、私。でもいいのだ。怒られる甲斐はある。彼女らの強さは私らもよく知っているわけだし。
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