それ逝け!ユメ先輩(偽) 作:ポンコツ太郎
書きたい話はそれなりにあるけど軒並み短くなりそう……まとめた方がいい気がしてきました
今更ですが皆様、誤字報告ありがとうございます。
あれってワンクリックで直せるんですね、すんげ~便利
ここすきもありがとうございます。
ギャグが意外と好印象なようですんげ〜嬉しい
「……私は抱き枕か?」
これが朝、目が覚めて一番に呟いたことだ。ちなみにこの一週間ずっとそう。理由はもちろん、腕にひっついている砂狼シロコ推定15歳のせいだ。夜いつの間にやら私の布団に入ってきては、私の右腕にひっついてくる。なんで左腕じゃないのかと聞いたら「冷たいから嫌だ」とのこと。まあうん。
こちらとしてもあったかいので助かっているのだが、それにしたって保健室のベッドは狭いのだ。なので昨日やんわりやめろと言ったのだが例の言葉を言われた。*1私はシロコの頬を引っ張った。……この一連の動作にも慣れてきたな。
とにかくシロコをひっぺがして(5分かかった)顔を洗うために水道まで行く。一週間ほど前は何も分からないまま飲み水にも困っていたというのに、ずいぶんと慣れたもんだな、なんて考えた。慣れというのはすごいもので、銃の扱いも大体覚えたし、義手ももう本物と変わらないくらいに動かせている。
……説明書に手書きで自爆機能を追加した旨が書かれていたのを見た時は変な声が出たけれども。*2なんで義手に着けるんだその機能を。「ぜひ活用してくれ!」ってなんだよ。特攻でもしろってことなのか。もしかするとエンジニア部は少しおかしいのかも知れない。パンフレットでディスられていた理由が分かった気がした。
……閑話休題、とにかく洗顔だ。蛇口をひねって、出てきた水を手で受け止める。それを顔にかければ、冷たさで身が縮んだ。
ついでに寝癖を直そうと、濡れた手で髪を撫でる。……直らない。もう一度水をつけて手で少しの間押さえる。直らない。手のひらに水を溜め寝癖にぶちまける。全然直んねえ。やけになって思いきり蛇口に頭をつける。もはやひたす感じだ。すこぶる冷たく、一瞬で眠気が飛んだ。
「……髪切りたい……」
これが朝、目が覚めて二番目に呟いたことだ。ちなみにこの一週間ずっとそう。
とにかく長いんだ、この髪。膝下ほどまで伸びているそれは、変に引っかかるしなかなか乾かないしでとにかくこう……面倒くさかった。
髪の長さと胸の大きさにだけは、一週間経っても慣れなかったのだ。でも後者はともかく、前者はなんとかなる。というか切ればよかった。ハサミさえあれば出来るすこぶる簡単なことだが、それでもまだやっていないのは自分の身体ではないから。なんとなく罰当たりな気がして、今日までなあなあにしていた。まあ今更なんだけども……
「そんなわけで、髪を切りたいんだよ」
「髪ぃ?」
今日こそは切りたいと、とりあえずといつもの事務局で一人だらりとしているホシノに許可をとることにしたのだが、帰ってきたのはそんな返事。なんとも気のないもので、勝手にせいとでも言いたげだ。しかしねぇ……私としては髪を勝手に弄るのはよくない気がするのだから……
「いいんじゃない?まあ、バッサリ行っちゃいなよ」
「だよね」
思っていた以上にさらっとOKをもらうことができた。あとはハサミを見つければよし。ちなみに床屋とかには行かない、なぜならお金がないから。まだコロッケサンドの分も返してないしね。野口樋口諭吉こと紙幣三人衆がこんなに恋しくなるとは思わなんだ。……キヴォトスだと誰なんだろうか。*3
さっさとバイトでもしたいが、キヴォトスでは学籍がないとバイトをするのが難しいと聞いたので保留にしている。そういえば、義手を作ってもらいに行った時に、オープンスタッフを募集している喫茶店があった。入学したらそこに募集してみようか。
「話は聞かせてもらった」
そんなことを考えていると、教室の扉ががらりと開き、シロコとノノミちゃんが入ってきた。
二人してこっちを向き、特にシロコがキラキラした目でこちらを見つめている。そして懐からハサミを取り出し、両手に持ってふんすと鼻を鳴らした。……嫌な予感がするな?
「ん、私が切ってあげる」
「いやです」
「拒否権はない。私は自分より(ry」
「やめんかそれ!強戦技ブッパマンって呼ぶぞこの野郎!」
どこから持ってきたのか分からないハサミをジャッコンジャッコン言わせながら迫ってくるシロコはさながら死にゲーの敵だった。唐突に机越しのチェイスが始まる。この子の得意科目が何かは知らないが……まあ多分強盗か……とにかく、少なくとも散髪のスキルが壊滅的であろうことだけはわかる。捕まったら最後、悲惨なことになるだろう。何と悍ましきことか。あっ踏み越えるのはルール違反だろ!
「大丈夫。完璧に仕上げて見せる」
「信用できない!信用できない!助けて!」
「まあ、いいんじゃな~い?」
「いいわけあるか~~」
嘘だろうホシノさん。助けてくれよホシノさん。ほら見てこんなに刃が迫ってこらシロコ危ないからやめなさいホントに!
「やめんかアホ犬ゥ!」
「犬じゃない!狼!」
「そこじゃないだろう!?」
「こらこら、シロコちゃん。ウツホ先輩が嫌がってますから」
「……むう」
押し倒され切先が髪に触れるのを阻止しようと抵抗していると、ノノミちゃんがそう言いながらシロコの脇を持って離してくれた。ノ、ノノミちゃん。まともなのはノノミちゃんだけなのか。目の前の子が神に見えてきた。
「それに!すぐに切っちゃうなんてもったいないと思います!」
「ええ?」
……なんか流れ変わったな?
「というわけで、髪を切る前にいっぱいいじいじさせてください!」
「うへ~」
「ん!」
「……ええ?」
よく分からないまま椅子に座らされ、なんだかよく分からないイベントが始まろうとしていた。どうやらいじいじされるらしい。……いじいじってなんだよ。あとシロコはさっさとハサミを離しなさい。バルタン星人みたいになってるぞ。*4
「おじさん、おしゃれはよく分かんないなぁ」
「私も」
「もったいないですよ二人とも!髪は女性の命って言いますし!これを機に覚えていってください!」
「なるほどう、私は実験台か」
どうやら髪型を弄られるらしい。テストケースというやつだろうか。確かに、おしゃれに頓着のなさそうな私らにはいい教育だろう。特にシロコ。記憶のないこの子の良い刺激になればと思う。というか頼むから強盗以外に興味を持って欲しい。数日前もコンビニを襲いかけたと聞いた。怖。
「ポニーテールです!ホシノ先輩もやってますね!」
「これが楽だからね~」
「ん」
まずはポニーテール。まとめた髪を後ろで結んだもの……のはず。ホシノもやっているそれは意外といい感じだ。引っかかることも減りそう。だが結局長いままなので却下だ。
「ツインテールはどうでしょう!」
「初音ミクみたい」
「誰?」
次にツインテール。初音ミクだ。髪色のせいでどこからどう見ても初音ミクだった。ネギを持てば完全体になれるだろう。……正直私にはシンプルに似合っていない気がする。
「じゃん!三つ編みですね!」
「眼鏡が欲しいねぇ」
「なんかノってきてない?」
「編むのが大変そう」
そして三つ編み。ノノミちゃんの手際が良いのか一瞬でできた。ホシノの言う通り眼鏡が欲しい。かければ文学少女が出来上がるだろう。そこまで本は読んでないけど……
「お団子もいいですね……」
「山海経の子がよくしてるね」
「すごいアルね」
お団子ヘアも試された。中国の人がよくやってるイメージの左右に一つずつやるやつだ。シロコがずっと団子部分を揉んでいる。ほどくのが大変そうだな、なんてだらしないことを考えた。
その後も結んだり編んだり、果てにはどこからか取り出した機械で巻いたり。そんなにいじられるとだんだん痛くなってくるんですけど……しかし三人とも私の髪に夢中なようで聞いてくれなかった。ひぃん。
「はい、出来ました!」
「おお……!」
と、いうことで。散々遊ばれた後、結局はノノミちゃんに髪を切ってもらった。最初は自分でと思っていたが、他人にやってもらった方がいいだろうとなったのだ。ならノノミちゃんだなと任せた結果、さすがこの中でおしゃれに精通しているだけあって特に違和感もなく切ってくれた。そしてシロコは少し残念そうにしていた。いや君にはやらせんぞ。
鏡を見れば、ずいぶんとさっぱりした自分の姿がそこに映る。長かった髪はバッサリ切られ、首を隠すか隠さないか程度の長さにまで短くなった。これで変に引っかかることもなくなるし、なかなか乾かないなんてこともないだろう。満足だ。これで、重なることが減ってくれればなお良い。
一緒に鏡に映りこんだシロコもこちらの髪をじっと見ていた。そんなに楽しかったか、私の髪をいじるのが。
「なにさそんなに見て」
「……お揃いだなって」
「……」
なんだ急にかわいい生物になったなコイツ。頭をわしゃわしゃと撫でればご満悦の様子だ。まるで飼い犬みたい。
「そろそろお昼ですね」
「もうそんな時間?」
時計を見れば、ちょうど12時になろうとしているところだった。それなりに長い時間弄られていたようだ。
「じゃあおじさんが片付けておくから、先食べちゃってて~」
「いや、切ってもらった私がやるよ」
「いいからいいから」
「いやいや」
ホシノがそんなことを言ってくる。切ってもらって掃除まで他人に任せるのは忍びないのだけど……なんだかコントみたいになってしまった。三人目が名乗り出てくれるのを密かに待っていたが、言っている間に二人は購買に行ってしまったようだ。言い合いの末じゃんけんで負けたホシノがやることになり、さっさと出ていきなさいと退去勧告を受けてしまった。いやでもしかしねぇ……
「……せめて手伝──」
そう言い振り返ると、ホシノは今までののんびりとした雰囲気を消して、地面に落ちた髪をじっと見つめていた。色の違う両眼を細めて、じっと青緑色のそれを見つめていた。
「…………」
ホシノが何かを言いたそうに唇を動かして……でも、それは言葉にはならなかった。
私は気まずくなって、少しの間止まって、結局何も言わずに教室を後にした。後ろでがさりと音がした。
それはまるで、昔の貴方のよう。大切なものを零した貴方の。
どっちがお好き?
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でっかいハンドガン
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でっかいリボルバー