重いタバコを吸ってる不健康そうな年上美人とドロドロの関係になっていた話   作:かめっくす

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ストレンジカメレオン

 遠足の日を終えてからの週明け。登校した俺は違和感を抱いた。

 クラスの雰囲気が変わっていた。

 それまでは纏まりがなかったのが、遠足という行事を経て纏まりを得たというか。全体の仲が良くなっているように見えた。

 

 遠足の以前と以後では明らかに違う。共同体としての連帯意識を抱いている。本人たちが自覚しているかは分からないけれど。

 共に時間を過ごすことで、思い出を共有することで、群れになっていた。

 その中で俺は一人、疎外感を覚えていた。

 

 当たり前だ。遠足に参加していないのだから。

 共同体になる儀式の日に、俺はサボって家で映画を観ていた。

 薄々予感はしていたが、致命的な乖離を起こしてしまった感覚があった。完全にクラスの輪の外に弾き出されてしまった。

 

 だけど、元々俺はクラスで浮いていた。

 友達もいなかったし、だから何も変わらない。こともなかった。

 

 たとえば体育の授業。

 それまで俺は二人組を組めと言われた時、組む相手がいた。友達じゃない。ただ向こうも俺以外に組む相手がいなかった。

 それが変わった。

 遠足の日を境に、その生徒には友達と呼べる相手が出来たらしい。

 二人組になれ、という体育教師の号令を聞くと、彼は二人組の――恐らくは友人たちの下に向かって歩いていき、三人組になった。

 

「おい、榎木が余ってるだろ。誰か榎木と組んでやれ」

 

 体育教師は困ったように言った。三人組の生徒たちは顔を見合わせる。元々俺と組んでいた生徒はばつが悪そうにする。

 でも、動こうとはしない。

 

「もういい。じゃあ、お前は先生とだ」

 

 俺は先生と組むことになった。

 元々組んでいた生徒が、俺の方を一瞥する。申し訳ないという気持ちの中に、僅かな優越感が滲んでいた。

 その後、サッカーの試合が行われたが、一回もボールを触ることはなかった。誰も俺にパスを出そうとはしなかった。盛り上がっている試合を遠巻きに眺めていた。

 意図的に無視されている、という感じではなかった。ごく自然に。皆の中で俺の存在が目に入っていないだけだった。

 

 昼休み。俺は昼食を取らずに、図書室に向かう。

 特別棟の裏手には足を運ばなくなっていた。

 あの場所に行けば、小春先生と出くわす可能性がある。この前のことがあってから、面と向かうのが何となく気まずかった。

 本を選び、席に着く。物語の世界に没頭しようとする。

 でも、出来なかった。

 近くの席に座っていた男女の話し声が邪魔をした。机の上にノートを開けているが、勉強をしている様子はない。一応、図書室だからと声を潜めている。潜めてはいるが、それははっきりと聞こえてきた。笑み混じりに。

 

 俺は席を立つと、受付に向かい、本の貸し出しをする。借りた本を抱えながら、どこか人のいない場所を探す。

 誰もいないところに行きたかった。どんなに劣悪な環境だったとしても。一人になれるのならそれでよかった。 

 でも見つからなかった。

 

 教室にも、中庭にも、体育館裏にも、グラウンドにも生徒がいる。どこに行こうと一人になることができない。

 特別棟の裏手だけが、心の安らぐ場所だった。

 だけど、今はもうそこもなくなった。

 この学校のどこにも、俺の居場所はなかった。

 

  

 放課後。コンビニバイトのシフトに入った時。

 俺は勤務前に店長に呼び出され、バックヤードでこんなことを言われた。

 

「榎木くん、女性のお客さんに連絡先渡したんだって?」

 

 店長は四十代の男性だった。

 腕毛が濃くて、恰幅がよく、青髯が目立っている。いつもバイト相手に積み立て投資の話を熱心にしていた。

 店長はバックヤードのパソコンの前の椅子に座っていた。腰を下ろしながら、傍に立つ俺のことを呆れたように見上げている。

 見上げているのに、見下ろされている感じがした。

 

「困るんだよね、そういうの。ほら、SNSとかでたまに見るでしょ。配達員が女性のお客さんに連絡先を渡すみたいなの。炎上したらどうすんの」

「あの、何のことですか?」

 

 最初にそう言われた時、まず最初に戸惑った。全く覚えがなかったから。いったい何を言っているんだろう。

 

「聞いたよ。櫻田くんに。いつもコンビニにタバコを買いにくる女性客に、君がこっそりと連絡先を渡してたみたいだって」

 

 いつもコンビニにタバコを買いに来る女性客。瑠衣さんのことだ、と思った。それ以外に該当する人はいない。

 俺が瑠衣さんに連絡先を渡す? ありえない。濡れ衣にもほどがある。だって瑠衣さんの連絡先はもう知っている。

 

「俺はそんなことしてません」

 

 だから、はっきりと否定する。

 

「防犯カメラを確認して貰っても構いません。俺は連絡先なんて渡してません。櫻田さんがでっち上げたんです」

 

 店長は苦笑する。

 

「でっち上げっていうのは、ちょっと言い方が悪すぎない? それだとまるで、櫻田くんが君のことを貶めるためにしたみたいじゃない」

 

 櫻田は――酒袋は俺と瑠衣さんがお隣同士だと知っている。

 以前、大学で会った時に話したからだ。

 それを知っていて、酒袋は俺に濡れ衣を着せてきた。店長に告げ口をした。そんなの明らかな悪意がなければしないことだ。

 

「だいたい、櫻田くんにそんなことする理由がない」

 

 理由ならある。以前、大学で酒袋と出くわした時、瑠衣さんに気がある酒袋の前で瑠衣さんは言い放った。

 

『結斗くんは面白い人ですよ。少なくとも、あなたよりはずっと』

 

 酒袋は俺のことを軽く見ていた。にも関わらず、そう言われたのだ。俺に面白くないという感情を抱いてもおかしくない。

 

「おざーっす」

 

 出勤してきた酒袋がバックヤードに顔を出した。俺と店長が話しているのを見ると、首を突っ込んでくる。

 

「何の話っすか?」 

「この前の件だよ。連絡先の」

「ああ、それね」

「俺はやってません」

 

 酒袋に面と向かって告げる。

 

「連絡先なんて渡してません。そんなこと、絶対にしない。したって言うなら、いつの話かはっきり言ってください。防犯カメラの映像を調べて貰いますから」

「防犯カメラって、また大げさな」と店長が笑う。

「大げさじゃありませんよ。こっちは濡れ衣を着せられてるんですから」

「エノっち、そんなに怖い顔すんなよ」

 

 と酒袋は苦笑いしながら言う。 

 

「もういいよ。悪かった。言われてみたら、俺の勘違いだったかもしれない」

「まあ、櫻田くんもこう言ってることだしさ」と店長は仲裁するように言う。防犯カメラの映像を調べるのが面倒臭いからだろう。

 

 ぎくしゃくしつつも事が収まりかけたと思われたその時、店長はふいに言った。

 

「けど、榎木くんも疑われるようなことしちゃダメだよ」

「は?」

 

 俺は思わず聞き返していた。

 

「ちょっと待ってください。どうして俺も悪いみたいになってるんですか」

「悪くはないよ。悪くはない。けど、櫻田くんがそう勘違いしたってことは、榎木くんにも疑わしい点があったってことでしょ?」

「いや、おかしいですよね。こっちに非はないでしょう。櫻田さんが俺を貶めるために嘘をついた可能性もあるんですから」

「店長を責めるのはやめてやれよ。何かあった時、責任は店長になるんだし。責めるなら俺のことだけを責めてくれ」

 

 なぜかこっちが大人げないみたいな空気になっていた。

 この件が引き金となってか、俺はバイト先でも浮くことになった。

 他のバイトの人たちとは仲良くこそなかったが、シフトがいっしょになった時には挨拶や軽い雑談くらいはしていた。

 でもこの件以降、皆が何となく俺のことを避けるようになっていた。

 

 後から知ったことだが、俺が連絡先の件を咎められて、店長と酒袋を相手に逆ギレしたというふうに話を歪められて広まっていた。

 酒袋がそうしたのかもしれないし、尾ひれがついただけかもしれない。

 いずれにしても居心地は最悪だった。

 

 ある日のシフトの時だった。

 お客さんが全て捌け、酒袋とレジで二人きりになった。ふと酒袋がそれまでの静寂を裂くように尋ねてきた。

 

「エノっち、俺のこと嫌いになったか?」

 

 その言葉にどういう意図があったのかは分からない。今さら罪悪感を抱いたのか、純粋に悪意をぶつけてきているのか。

 どちらにしても、同じことだ。

 

「……いえ。別に」

 

 酒袋が特別というわけじゃない。学校でも、バイト先でもそうだ。

 結局、俺は馴染めずに群れから弾き出される。遅かれ早かれ。分かりきっていたことだ。

 

 それに酒袋は勘違いしている。

 今回の件で嫌いになったか、じゃない。自惚れないで欲しい。

 

 嫌いだった。元々ずっと。

 殺してやりたいくらいに。

 

 

 

 

 しばらく、居場所を求めて昼休みには校内を彷徨い歩いていた。一人になりたい。周りに群れのいないところに行きたい。

 でも、そんな場所は見つからなかった。

 

 結局、特別棟の裏手に足を運んでいた。

 いなければいいなと思ったけど、いた。まるで待ち構えていたかのように。ここにいれば俺が来ると踏んでいるかのように。

 

「おいっす」

 

 しゃがみ込んでいた小春先生が、軽い調子で声を掛けてくる。

 

「ここに顔出すの、久しぶりじゃない?」

「……ご無沙汰してます」

 

 気まずさを感じながらも返事をする。避けていたことに対する負い目と、他に行く場所がなくて結局戻ってきたことの羞恥と。

 

「よかった。もう来ないかと思った」

 

 小春先生はほっとしたように言う。

 

「ここの先住民は榎木くんの方だから。このまま来なかったら、私が追いやったみたいで後味が悪いもんね」

「何ですか、それ」

「まあ、座りなよ。お昼、まだなんでしょ?」

 

 俺は屋根の庇の下の影に入ると、小春先生と距離を開けて座る。購買で買った焼きそばパンの包装を開けると口にする。

 

「焼きそばパン、好きなの?」

「……特には」

 

 目に付いたものを適当に取っただけだ。でも、おいしい。思えば、学校でちゃんと昼食を取るのは久しぶりだった。

 

「私はね、コッペパンが好き」

「はあ」

「いっつも不人気で、最後まで余ってるから。私が推してやらねばって思う。まあ、味が好きなのもあるんだけど」

 

 小春先生はそう言うと、

 

「そういえば、聞きたかったんだけどさ」

「はい」

「この前の遠足をサボった時、あの女の人と家で映画を観てたって言ってたよね? 何の映画を観てたの?」

「……気になりますか? そんなの」

「気になりますよ、そりゃあ。遠足サボってまで観る映画だし。どんなに面白いものなのかなって思うじゃん」

 

 別に面白いものじゃなかった。むしろつまらない部類のものだった。もっとも、遠足に行くよりはずっとマシだけど。

 俺は小春先生にあの日観た映画のタイトルを告げた。

 

「ふーむ。全然聞いたことないな。私、普段、映画とか観ないからなあ」

「最後に観た映画だと何になるんですか?」

 

 興味があったわけじゃない。無言でいるよりはその方がいいかと思ったからだ。

 

「去年の夏にやってたアニメ映画。友達に誘われたの」

 

 話題になっていた作品だ。興行収入が数百億とか騒がれていた。

 

「それなら俺も観ました。面白かったです」

「あ、榎木くん、そういうのも観るんだ。てっきり、皆が観るような映画はシャバいとか言って観ないのかと思ってた」

「俺のこと、何だと思ってるんですか」

 

 皆が観ているとか、観ていないとか、売れてるとか売れてないとかは関係ない。

 良い作品は良い。面白い作品は面白い。それだけだ。

 

「まあ、映画館に人が多いのは嫌でしたけど」

 

 紙パックのコーヒー牛乳にストローを差すと、中身を飲む。普段飲んでいるブラックのものに比べると甘みが凄い。

 でもこれはこれでいい。

 

「ね。キスした相手って、あの女の人?」

 

 不意打ちに、咽せた。

 咳き込む。

 

「やっぱりね。そうだと思った」

「……何も言ってませんけど」

 

 そもそもキスをしたとも言ってない。

 

「でも、身体は正直だったよね」

 

 小春先生は名探偵みたいな顔をしていた。

 

「そっか。榎木くんは年上が好きなんだなあ。ま、あの人、かなり美人さんだったし」と一人納得したようにふむふむと頷いている。

 

 そこでふと、声色が変わった。

 

「でもさ、あの人は危ないと思うよ」

「危ない?」

「女の勘っていうのかな。会った時に思ったんだよね。この人は榎木くんをよくない方に導いてしまう人だって」

 

 紗希さんも似たようなことを言っていた。

 瑠衣は人を狂わせる奴だ。

 女の人から見ると、瑠衣さんはそう映るのだろうか。それにしても、散々な言われように笑ってしまいそうになる。

 

「実際、榎木くんは感化されちゃってるんじゃない?」

「そうなんですかね」

「だってここ最近、学校サボりがちだから」

 

 と小春先生に指摘される。

 

「前までは、ちゃんと来ることは来てたのに」

 

 そうだ。俺はこのところ、学校をサボっていた。

 

「でも連絡はしてますよ」と俺は言った。「サボるのは百歩譲って良いとしても、無断欠席と嘘をつくのはダメだって言われましたから。先生に」

「そうだね。ちゃんと毎日連絡はしてくれてるね。休みたいから休みますって、バカ正直に。他の先生から伝言された時、毎回恥ずかしいんだよね。私が生徒に舐められてるの丸わかりな感じがして」

「俺は先生のこと舐めてませんよ」

「君がそう思ってても、周りはそうは取らないの」

「それと学校をサボってるのは、瑠衣さんのせいじゃないです」と言いながら、原因ではなくとも理由ではあるかもしれないと思う。

 

 学校をサボった時間は、瑠衣さんといることが多かった。同じく大学をサボった彼女と共に過ごすこともあれば、大学に付いていくこともあった。

 俺が学校をサボっていることを知ると、瑠衣さんは『結斗くんは悪い子ですね』と自分のことを棚に上げて笑っていた。そして言った。

 

『なら、いっしょに過ごせる時間が増えますね』

 

 学校にも、バイト先にも居場所はなかった。

 だけど、瑠衣さんは俺を受け容れてくれている。彼女と過ごす時間だけが、俺に安らぎをもたらしてくれていた。

 

「このペースで欠席してたら、留年することになっちゃうよ。それに授業に全く付いていけなくなっちゃうし。ノート借りる相手もいないでしょ?」

「かもしれませんね」

「かもしれないって……本当に分かってるの?」

「分かってます」と俺は頷いた。「それに最悪、留年してもいいと思ってます」

「よくないよ。留年した生徒の大半は退学することになる。そうしたら、人生の難易度が一気に跳ね上がる。榎木くんは今、学校生活が楽しくないのかもしれない。でも、今ぐっと我慢して頑張ればきっと――」

「いつまで我慢すればいいんですか」

「え?」

「我慢したとして、その先にいったい何があるんですか」

「それは」

と小春先生は一瞬言葉を詰まらせた。

「大学に行けば、環境が変わる。今が嫌でもきっと楽しいことが待ってる」

「何も変わりませんよ。大学生になっても、社会人になっても、どこに行っても俺は俺の嫌いな連中から逃れることはできない。名前や姿を変えて、何度だって目の前に現れる。この社会が共同体である限り。あいつらはどこにだって沸いて出る。

 十人いたら、九人は嫌いな人間なんです。周りには嫌いな人間が溢れていて、でも世の中は彼らを中心に回ってる。彼らに迎合しないと、社会では生きられない。俺はその群れには馴染めない。馴染めないし、馴染もうとも思わない。今我慢してもこの先の人生で報われることはなくて、そのことが分かっていて、それでも我慢し続けられるほど俺は殊勝でも鈍感でもないんですよ」

 

 この前、はっきりと気づいた。

 世の中には嫌いな人間たちで溢れていて、彼らもまた俺を嫌っていて、けれど社会は彼らを中心に回っている。

 そこに俺の居場所はない。

 

 我慢し続けた先には、更なる我慢が待ち受けている。その果てには何もない。ただ耐え抜いた挙げ句に報われず終わるだけだ。

 そして他の人たちは、俺のしている我慢を我慢とも思っていない。ごく自然に周りに馴染むことができているから。

 不条理で、理不尽なレースを走らされている。だったら、今のうちに降りてしまった方がいいんじゃないかと思った。

 

 どうせ行き着く先が地獄なら。そしてその道中も地獄だと言うのなら。瑠衣さんと共にいられる今の時間を大切にしたい。

 

「俺が学校をサボって、最悪退学になったとしても誰にも迷惑はかかりません。クラスの皆の気に留まることもない。誰も困らない」

 

 たとえどうなろうと、誰からも顧みられることはない。繋がりがないから。だから俺は後ろ髪を引かれずに破滅の道を歩むことができる。

 

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。表の方からは、生徒たちが慌ただしく教室に戻っていく足音が聞こえてくる。

 でも俺は動かない。遅れようとどうでもいいから。遅刻して怒られるのが嫌なら、その前に学校ごとバックレればいい。簡単なことだ。

 

「……ごめんね。気づいてあげられなくて」

 と小春先生が言った。

 小春先生もまた、その場を動こうとしなかった。授業が控えているはずなのに。

 

「榎木くんがそんなふうに考えてたの、知らなかった」

「別に小春先生の謝ることじゃないですよ」

 

 小春先生には何の非もない。ただ俺が馴染めなかっただけだ。どのクラスの、どの担任の先生でも遠からず同じことになっていた。

 

「でもね、一つだけ言わせて欲しい。榎木くんは、自分が退学になったとしても誰も気に留めないって言ってたけど。それは違うよ」

「どういうことですか?」

「榎木くんが学校に来なくなったら、私は寂しいよ」

 

 小春先生はそう言うと、真っ直ぐに俺を見つめてきた。

 その衒いのなさに、言葉の強度に、思わず目を背けてしまいそうになる。真っ向から受け止めることができずに、思わず逃げの台詞を口にする。

 

「……でも、そうなれば、この場所を一人で独占できますよ」

「そうだね。だけど、ずっと一人でいるのは寂しい。誰かに愚痴を聞いて欲しい。そんな日もきっとあると思うから」

「自分のためにですか」 

「うん。でも、少なくとも榎木くんが学校に来たら喜ぶ人がここに一人いる。そのことを頭の片隅にでもいいから留めておいて」

 

 そう言うと、

 

「それだけ。じゃあ、私は授業があるから」と立ち上がり、去っていった。

 

 授業に出ろとは言われなかった。

 小春先生の言葉は、小春先生がいなくなった後も頭の片隅に残っていた。

 

 だから何かが変わるというわけでもないけど。

 

 でも、残り続けた。

 

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