魔術師の名を継ぐ者   作:ローズライン

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番外編
科学サイドの方の描写はこっちで


番外編
とある科学の物理支配


世界を席巻していた異能は魔法だった。

 

第三次世界大戦、正しくは二十年世界群発戦争を皮切りに世界に浸透していった魔法。

今や警察官やレスキュー隊、果ては軍人といった社会秩序を維持するのに必要な業種にとどまらず産業界など、最早この世界は魔法師なしでは立ち行かなくなってしまっている。

 

 

これらの急変した社会情勢によって生まれたのが、魔法を肯定し魔法師の権利向上の推進を目的とする魔法主義、魔法師が占有している特権を剥奪し非魔法師との社会的平等化を推し進める反魔法主義、異能の存在を拒絶して純然たる人間に拘る人間主義だ。

 

 

人の集まりがあるからこそそれらを束ねる思想が在るように、コレらの思想を掲げるブランシュやFAIRを始めとした政治団体、それらを支持母体とするべく国政政党も大きく変革を遂げてきた。

 

 

このように、魔法は世界に対して政治や軍事の面で多大な影響を与えている。

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの世界で唯一、彼らの影響を受けずに寧ろ彼らに影響を与える形で、彼らと同じように第三次世界大戦を経て飛躍的な拡大を遂げた勢力が存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

科学サイド

 

 

 

 

その名が表す通り、科学によって発展し科学を発展させ、いつの時代も半世紀以上先の最新を作り出す”国家”と言っても差し支えないレベルの勢力だ。

 

 

 

 

 

 

そんな科学サイドには彼らを代表する組織が二つある。

 

 

科学万能の信奉者であり、持つ者と持たざる者の格差を埋めることを理念として生まれた巨大コングロマリット。

 

 

ハードサイエンス=コーポレーション

 

 

 

 

 

 

 

 

科学をもってして神の意思を暴くことを掲げ、科学サイドの中でも異能を扱うことに特化した完全独立研究教育機関。

 

 

学園都市

 

 

 

 

 

先ほど魔法は政治や軍事において世界に多大な影響を与えると言ったが、対する彼らの武器は特異的なコアコンピタンスとそれに裏打ちされた経済力だった。

50年は先をいっていると噂さされるだけの技術力を持ち他の勢力に対して型落ちの技術を輸出するという彼らでもなければ到底実現できないような離れ技で持って資本を拡大していった。

 

 

 

 

中でもH.S.Cやその傘下企業らは経済に野心的だった。

 

 

世界から鉱物資源が不足すれば、世界中の都市鉱山や地下深くに眠る鉱脈を見つけ出し高効率で鉱物資源を抽出したり、

 

世界が食糧不足なら、本物と見紛うほどの合成肉と遺伝子組み換え野菜の生産プラントの建造をプランニングしたり、

 

戦災復興と称して、大戦を生き延びた各国が見放した中央アフリカや南米、中央アジアの市場を独占したり、

 

 

ともかく、魔法が軍事と政治の覇権を握ったように科学は経済の覇者となった。

 

 

 

 

 

世界経済の中心にいる科学だが、そんな彼ら(覇者)だからこそ目を覆いたくなるような暗闇がある。

それも魔法サイドに比べて引けを取らないくらいに救いようがなくドス黒く終わりの見えないものが。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

等価交換(フェアレート)

 

 

この能力は学園都市の総人口約200万人、その大半を占める学生の中でも発現者が5人といない希少な能力であり、周囲に存在する物質やエネルギーを()()()()()ことを可能にしてしまう。

 

 

…………いや、この言い方では語弊があるだろう。

 

そもそも等価交換には不明な点が多く、学園都市でも高名な研究者でさえ能力に関して意見が分かれる代物だ。

 

 

曰く、科学で再現された「錬金術」だと

 

 

曰く、この世の全てを「再現・抹消」できる能力だと

 

 

曰く、何かを「代償」に何かを生み出す能力だと

 

 

 

 

 

 

能力の本質について様々な解釈がある一方で、研究者からは「万能」という一致した評価をされるこの能力だが、しっかりとした制約がある。名称を見ればわかるだろうが、何らかの物体やエネルギーからまた別の物体やエネルギーに変わる時、その比率(レート)はどこまでいっても等価(フェア)となるのだ。

 

 

 

 

端的に言えば、その10人の希少な保有者でさえもエネルギー・質量保存の法則を突破出来なかったのだ。

しかし、それはあくまでも等価交換(フェアレート)という汎用性に特化した能力に限った話だ。たった一つの分野に絞れば無から有を創り出すこのできる能力など別に珍しくは無い。

例えば電気であれば発電能力(エレクトロマスター)、炎であれば発火能力(パイロキネシス)などのメジャーなものは、あくまで自分だけの現実(パーソナルリアリティ)に基づいて現実を改変しているに過ぎない。

 

 

 

 

だかしかし、統括理事会は望んだのだ。

 

 

1を無限大にすることができる究極の汎用性(戦略級の超能力)というものを

 

 

取り回しにおいて魔法を上回り、威力において魔法を上回り、自らの影響下にあるだけで世界の主導権を握れる。そんな能力をよりも早く、早く獲得しなければならないと。

 

 

 

 

 

ここまで統括理事会を焦らせたのは学園都市の創立以来初めてだったかもしれない。なぜと言われれば簡単だ、この狂騒の始まりはなんの変哲も無い一つの報告書からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『沖縄戦中において観測された未確認の()()()()()()()()についての最終報告』

 

 

 

 

この報告書以来、統括理事の一部が躍起になってこの戦略級魔法師の情報を探した。大漢崩壊時に”とある魔法師一族”から恨みを買っている学園都市と一部の統括理事にとっては、この報告書に記された内容の正誤はそのまま自らの命に直結する問題だった。

そう言う訳で統括理事の幾名かによる外部への、特に十師族に対する諜報活動はいつにも増して苛烈なものになっていった。魔法サイドとの衝突すら躊躇わず文字通り”死に物狂い”と言っていいほどに。

だがそんなことをしていれば学園都市の首長たる統括理事長に目をつけられるのは至極当たり前のことで、何より計画(プラン)の障害を生み出しかねない行為を見逃すほど統括理事長は生優しい人物ではない。故に統括理事長の指令による統括理事の”処分”が多発した。

 

処分されていった統括理事は統括理事長の逆鱗に触れたのでは…………そんな噂が流れ始めた頃に統括理事長がこのような勧告と提案を統括理事会に対して行なっていたとされる。

 

 

・魔法サイドに対する過度な干渉行為を即刻停止すること。

 

・国際情勢において科学の持つ意味合いを理解し、責任ある態度を果たすこと。

 

・統括理事の懸念は、統括理事長も共有していること。

 

 

 

 

 

そして

 

 

・凍結状態にあった「戦略級超能力開発計画」の凍結解除、並びに被験体”冬月夏芽”の開発再開により学園都市に新たな抑止力を生み出すこと

 

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

2095年3月某日

 

新学期を目前に活気と人気に溢れていた「学園都市」の路地裏で、冬月夏芽は立ち尽くしていた。

 

どうも季節の変わり目というものは人の気分を高揚させるらしい。それはつまり武装無能力集団(スキルアウト)の活発化を意味していた。能力者といっても一般人と大差ないようなレベルの奴らの集まりがスキルアウトだが、今こうして冬月の周囲を囲めるくらいの人数が集まれば例え高位の能力者であってもいい勝負になる

 

それくらいには数の暴力というものは凄まじい。一部の例外を除く普通の能力者にとっては大勢を相手に勝つことなどなどは夢のまた夢、まさしくフィクションの産物だった。

 

 

目の前のスキルアウト達も、恐らくは能力者相手に数の有利でボッコボコにしてきた手合いだろう。

 

 

 

「なぁなぁ嬢ちゃん”達”よぉ、俺たち金に困ってんだわ。」

 

「イィー感じの服装してんじゃあん?」

 

「そのキレーな顔、血まみれにしたくなかったら………分かるよな?」

 

「ってかもう一人の女の方…結構イイ身体してんなぁ、おにーさんと遊びいかね?」

 

「あらあら、常盤台(最低でもレベル3)の能力者が隠れちまって!可愛がり甲斐があるねぇ?」

 

 

冬月は自分の後ろに隠れた少女を守るように彼らの前に立ち、慣れない様子で拳を握って抵抗の意思を示した。それが気に食わなかった対してスキルアウト達は激昂し、さらに言葉に熱を帯びてゆく。

 

 

 

「ハハハ! 何だそれ!? 初心者みてーな握り方だなぁ?」

 

「やんのかテメェ!」

 

「お前に興味はねーよ。さっさと失せろ!」

 

何人も同時に喋る様子は小犬が吠えるかのように感じられたが、冬月はそれを口にするほどの馬鹿でも戦闘好き(ウォーモンガー)でもない。彼女は能力が異質であるという点と、ほんのちょっと特殊な事情を抱えていることを除けば普通の学生だ。道徳やら倫理観なんかも一般的な学生からさほど乖離している自覚はない。冬月はそんな普通の親切心でもって人助けをしようと思ったことを激しく後悔していた。

 

「(寮への近道を案内するだけのつもりが…………なんでこうも常盤台のお嬢様って厄ネタばっかりなのかなぁ!?)」

 

「あの…………申し訳ありません。私のせいでこんなことに巻き込んでしまって……」

 

「後悔したって何も始まらないよ、ってか気負うくらいなら後ろの警戒よろしくね。流石のボクでも後ろに目はついてないから」

 

ちょっぴり嘘を混ぜた励ましで常盤台の生徒からの謝罪を受け流す。正直な話、よっぽど使いづらい能力とかでもなければ常盤台の生徒ならこれぐらいのスキルアウトはどうとにでもなると思うのだが、こういう荒事に慣れていない温室育ちのお嬢様に期待はしないほうがいい。

 

 

「おいコラァ! こっち無視してんじゃねぇ!!」

 

「話しかけないでくれないかな? 集中させてくれないと君たちを怪我させちゃうかもだよ?」

 

「あああ!? 良い度胸じゃねぇか!! 良いぞテメェら、やっちまえ!手加減無しだ!!!」

 

そう言うとスキルアウトは皆してバットやら鉄パイプを担いでジリジリと詰め寄ってきた。建築技術が進歩したこの時代に鉄パイプをいったいどこから入手したのか気になるところだが、冬月の考えはまた別のところに集中していた。

 

 

 

「(喋り方なんかはそれっぽいけど、こんなに慎重に来るなんて”らしく”ないね。………暗部関係?にしては回りくどいし、こいつら一体どこの手合いだろ?)」

今まで何度となくスキルアウトに絡まれてきた冬月の頭はその不思議な違和感を感じ続けた。こう言う手合いは基本的に能力で怪我することに躊躇いがないだけに勢いがある。だからこそ冬月の目には目の前にいる奴らの慎重さが際立って不自然に感じられた。

後ろにいる常盤台の生徒が狙いならば偶然居合わせたボクはただのイレギュラーのはず、学園都市のレベル5の第3位とはいえそこまで一般に顔が割れている訳じゃない。

 

だと言うのに目の前の連中は、まるでボクの正体に気づいているかのような慎重さを見せていた。

 

 

 

「後ろからも来てます!」

後ろを見ていた少女の言葉で思考を切り替えると、スキルアウト達がもうすぐそこまで近づいてきていた。冬月一人だけならスキルアウト程度が使う金属バットや鉄パイプの打撃など何とでもなったが、後ろの少女のことも考えるともう猶予はない。

 

 

「(“仕事”以外であんまりこの能力使いたくなかったんだけど!)」

 

そうして冬月が能力を発動しようとした矢先、

 

 

 

 

 

 

 

 

地面が”溶けた”

 

 

正確には冬月の周囲の足場を残してスキルアウトの足元を絡めとるように地面が液状化したのだ。ほんの一瞬の出来事に彼らは抵抗することも出来ずに全員バランスを崩し、液状化した地面に手を突っ込んでいった。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

すると今度は液状化していた地面がいきなり固まった。スキルアウトは両手両足を拘束された状態だ。地面に顔から突っ込んでいた奴がいたなら窒息死しかねない技だが、冬月にはこの能力に見覚えがあった。と言うよりこの能力を使う人間に昨日も会っていた。

 

 

「えっと……これは一体……」

 

常盤台の生徒もいきなりのことで困惑しているようだ。バットやらパイプやらを担いで自分の目の前まで近づいてきていたスキルアウトがいきなり膝をつき動けなくなっているのだから。

 

「おい!クソッ離せ!!」

 

「テメェの仕業か!」

 

「拘束出来る能力なんざ卑怯だぞ!」

 

勝手に勘違いしているスキルアウト達だが、両足と両手が拘束されていては何の抵抗もできない。というかこの状況でも挑発できるなんて見上げた精神だ。

 

「あ、一応言っておくけどこの状態で変に仕返しとかしたらキミが捕まっちゃうからね?」

 

「ぇ………あ…はい!」

 

常盤台の生徒が形勢逆転とばかりに能力でやり返しては後始末に困るので忠告したが、心配は要らなかったようだ。是非この高潔な精神を無能力者狩りを愉しんでいる能力者にも備えてもらいたい………分かっていたらそもそもスキルアウトなど作られなかっただろうが。

 

そうこうしている内に冬月が目指していた出口の方から人が走ってくる音が聞こえた。

 

 

「止まれ!! 風紀委員会(ジャッジメント)だ!」

 

大きな声を張り上げて曲がり角の先から出てきた青年を見て、精神をすり減らしていたらしく常盤台の生徒は安堵から地面にへたり込んでしまった。レベル3以上の強力な能力者とはいえ精神的な部分は年相応なのだろう。冬月が助け起こすために手を差し出すと余程怖かったのか、かなり強く握り込まれてしまった。

 

「ありがとうございます………あの体に力が入らなくて、肩を貸してもらえませんか?」

 

「構わないよ。風紀委員が来たんだからもう大丈夫だ。」

 

そうしていると角から出てきた青年がそのまま走り寄って声をかけてくる。

 

「”先輩”!! 大丈夫ですか!」

 

「流石は後輩君、能力の制御はピカイチみたいだね。」

 

 

 

冬月は自分の後輩が見せた正確な能力の制御を素直に褒めた。暗部関係でもなくただ真っ当な訓練だけであそこまで精巧な制御をされては自分の立つ瀬がない。それが冬月の偽らざる本音だ。

 

彼のことは後輩と呼んでいるが、別に冬月が所属している学校の後輩というわけではない。あくまでも同じ研究機関で開発を受けていた時期があったというだけで冬月は彼の本名すら知らないのだ。冬月の能力の特殊性も相まって研究機関をたらい回しにされていた頃だったので一緒にいた時期も大して長い訳じゃない。

 

 

「って先輩に言われても嫌味にしか思えませんよ。なんなんですか? 貴女ホントに学園都市最強(レベル5)の一角なんですか?」

 

「手厳しいね。ボクにも事情があったんだけど。」

 

「先輩の能力ならスキルアウトくらいどうとにでもなったでしょうに……」

 

そう言った後輩だったが、青い顔をして冬月に支えられて立っている常盤台の学生を見ておおよその事情を察したようだ。

 

「いや…………なるほど、その子がいたから()()()()()()()な先輩では能力を使えなかった訳ですか。」

 

「それ以前に、ボクの能力で反撃すると暴行罪になりかねないからね? その点わかってる?」

 

 

 

 

「それで? 後輩君コイツらどうするつもりだい?」

 

冬月は念の為確認する程度に後輩に尋ねた。風紀委員会さえ来なければ”お話し”するために2〜3人選んだ自分のアジトに連れ帰っても良かったのだが、こうなっては諦めざるを得ない。

 

「いつもと同じように対処するつもりですが、何か気になる事でも?」

 

連れて帰って拷問するつもりでしたなど口が裂けても言えないので返答に窮しかけたがそこはレベル5、無駄に賢い頭は直ぐに答えを見つ出した。

 

「ほら、ここの路地って特殊だからさ。問題児の扱いってどうなるのかと思ってね?」

 

「は……?」

 

何を言っているか分かっていない様な顔の後輩君に単純な事実を告げる

 

「早くしないと常盤台の彼女が来ちゃうよ?」

 

 

冬月がそう言うと後輩の口が露骨にへの字に曲がった。二人の相性があまり良くないことはよく知っているがこんなにも顔に出るものなのかと若干呆れてしまう。そこまで水と油のように相性最悪というわけでもない様に思えるのだが、本人はそうは思っていないらしい。

 

「揶揄っているつもりでしょうが、こっちは最速で駆けつけたんですよ。いくらテレポートと言えどまだ時間はかかるでしょう?」

自慢げな後輩に対して冬月には一つの疑問が思い浮かんだ。

 

 

「そう言えば、やけに早かったけどどうやってここまで?後輩君の能力で移動って出来なくはないだろうけどテレポートほどじゃないでしょ?」

 

「偶然ここの近くを通ったんですよ。そしたらスキルアウトの連中がこの路地の出入り口を塞いでたんで、事情を聞こうと思ったら案の定を襲ってきた訳です。まぁ路地の出口を塞いでると言うことはこの奥で犯罪やってますって言外に言ってるようなものですし、事情を聞くまでもなかったですが。」

 

普段こういう視点では現場を見てこなかった冬月には新しい発見だった。入り組んだ路地の多い学園都市で風紀委員会はこういう雰囲気を嗅ぎ分けて犯罪を摘発しているわけだ。

 

 

けどそれって向こうもそうなんじゃない?

 

 

 

そう言おうと思った矢先、冬月の背後で空間移動系能力者が転移する時に発生する独特の空気を押し出す感触を感じた。ここまでくると偶然と言うよりも寧ろ巡り合わせというやつだろうか。

後輩のリアクションが気になって前を見てみると思った通り苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

 

 

「スキルアウトの方達が路地の出入り口を塞いでいるものでしたから、何事かと思って確認しにきましたが……………どうしてまた貴方と会わなければなりませんの!?」

 

 

 

「………そうか、そうでしたね。完全に失念してました。」

完全に生気を失った顔で後輩君が呟いている。ここまで来ると何故こんなに相性が悪いのか気になる。また別の機会にでも聞いてみるとしよう。

 

「ちょっと! 無視しないで下さいませんこと!?」

 

「そこの貴女は………確か冬月さん?ですわよね。スキルアウトもレベル5の貴女を襲おうなんて無茶を良くしようと…」

 

 

 

後輩と同じ質問をぶつけて来たが、後輩と同じように冬月に支えられて立っている常盤台の生徒を見て事情を把握したようだ。理解力がある分には状況説明が省けてやり易い。

 

「なるほど……そう言うことでしたか、事情はおおよそ把握致しましたわ。同じ常盤台生としてお礼を申し上げますの。」

 

そういってテレポートして来た常盤台の風紀委員、白井黒子が頭を下げる。冬月も一応民間人なのでこういう風に人助けをしていく中でアンチスキルと関わることも少なくない。実際白井やあの超電磁砲と知り合ったのも似たような場面だった。

 

「構わないよ。人助けは嫌いじゃないからね。」

 

そう言って支えたままの少女を常盤台の風気委員に引き渡す。最後の最後まで手を握られていたが、それだけ普通の学生にとっては恐ろしい体験だったのだろう。

 

「一応、怪我とかはしてないはずだけど保証はできないから、念のために病院で診てもらったほうがいいんじゃないかな。」

 

「そうですわね。取り敢えず彼女を近くの病院で診てもらうことにしましょう。」

 

「スキルアウトの方達は……………気に障りますが貴方に頼むしかないようですわね。」

そういって後輩君の方を一瞥する。

 

された方はと言うと、

「………はぁ、分かりましたよ、こっちの方で対処しておきます。」

 

後輩君が嫌そうな面のままその言葉に反応する。

次の瞬間、二人の常盤台生がテレポートで現場を去ると後輩君も重い腰を上げてスキルアウトを一人一人拘束していく。器用なことに地面の一部を切り離してそのまま手錠がわりに使うつもりらしい。後輩君の能力で分子間の結合力が強化されているので下手したら普通の手錠よりも重くて硬いという噂だ。

 

能力で空中に持ち上げられた岩塊に拘束されたままのスキルアウト達は、さっきとはうって変わって抵抗らしい抵抗もなくぐったりとしている。この変わり具合に少々驚いていると後輩君が気づいたかのように尋ねてきた。

 

「先輩はこの後どうします? 一応こうなった事情を聞くことになってるんですが………」

 

「パスしといて。ちょっとボクも急ぎの用事があってね、気になることがあったらさっきの常盤台の子に聞けば良いよ。」

 

「分かりました。そうしておきます。」

 

「それじゃ、後は頑張ってね。」

 

「先輩もお気をつけ下さい。」

 

軽く頭を下げた後にきびすを返して路地から出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

路地から人の気配が感じられなくなると冬月は上着の内ポケットから携帯電話を取り出してある人物に電話をかけ始めた。数コールの呼び出し音の後に相手が電話を取った音が聞こえた。

 

 

「もしもし”先生”?ちょっと面倒ごとに巻き込まれちゃって電話に出れなかったんだけど、仕事の依頼でもあった?」

 

先生と呼ばれた相手はいきなりの電話に気分を悪くした様子もなく大人の余裕を感じさせる声で冬付きの質問に答えた。

 

『……………まぁ依頼といえば来ていましたが、我々が動くべき種類の仕事ではありませんでしたのでお断りさせていただきました。蜜蟻さんも……………今は学校にいる時間帯ですし。というか依頼の是非なんて貴女の身体が一番分かることでしょう?』

 

 

元も子もない言い方だが事実だ。冬月の身体は仕事があればすぐにon offが切り替わるようにできているせいで依頼の有無を早くに知ることができる。だがそれもあくまで依頼を受けたときのみでこうして先生の方で依頼を断ったときには一々確認する必要がある。

 

「まぁそれもそうなんだけど………因みにどんな仕事だったんだい?」

 

『………端的に言ってしまえば外部からの侵入者の排除です』

 

侵入者排除というとありふれた事件だが、わざわざ暗部が出張るほどの案件となるとおおよそターゲットは割り出せる。おおよそ排除するにしても外交関係に配慮する必要がある場合と単純に警備員(アンチスキル)程度では制圧できない場合かに大別されるが、冬月が経験してきた以来のほとんどは後者だ。

 

「侵入者と言うと内情?それともラングレー(CIA)?………もしかして魔術師だったりする?」

 

『いえ……警備員の通信ログを見る限り今回の侵入者は魔法師だったようです。どこの国の諜報機関がバックのいるというより、おおよそ七草あたりの捨て駒でしょうか』

 

「魔法師ねぇ‥……それって単独犯だったりする?」

 

『………通信ログを見る限りはその様ですね……それがどうかしましたか? 冬月君』

 

「いや? 運良くソイツを見つけて殺したら報酬はもらえるのかなって思ってさ」

 

『ふむ、依頼主が依頼主ですし殺害か捕縛をした者には依頼の有無問わず一定の謝礼金が払われるはずですが』

 

「ふーん…………良い話を聞いたよ。ありがとう先生」

 

聞くことだけを聞いて電話を切ろうとする冬月に電話口の相手が口を開いた。

 

 

『……分かっているとは思いますが、貴女は学園都市のレベル5です。間違っても君の遺伝子情報が外部に漏れ出るなんてことがあってはならない、ということを頭の片隅に置いておいてくださいね』

 

「分かってるよ」

 

 

そう言って電話を切った冬月だが、その場から動かずにあるものを待っていた。

 

 

 

「さて…………………ボクの勘が正しければそろそろだと思うんだけど」

 

そう言うと同時に右手に握った携帯がアラームを発した。このコール音が鳴っているということは、この勘が当たったと考えて間違いない。

 

 

「………やっぱりね」

 

小さく暗くつぶやいて通話に出る。

 

『もしもし先輩、今ちょっとお時間よろしいですか?』

 

「やぁ後輩君、どうしたんだい?」

 

先程までの暗い雰囲気を感じさせない明るい声で冬月は後輩から掛かってきた電話に応えた。

 

『先ほど捕まえたスキルアウトですが、一応先輩の耳にも入れておこうと思いまして」

 

「何かあったのかい?」

 

彼が電話をしてきた理由については大体察しがついているが一応何も知らないフリをして受け答えておく。まぁ彼からしてみれば"洗脳されていた人間"への聴取なんて初めて尽くしで疲れているかもしれない。

 

「はい。あの後一三五支部に連行して事情聴取してみたんですが、どいつもこいつも揃いも揃って証言がチグハグなものばっかりだったんです。流石におかしいと思って精神鑑定やら病理検査に掛けてみたんですが…………」

 

「それで?」

 

『どうも何らかの化学物質を意図的に吸引させられていたみたいで、意識が不安定?な状態だったって話です』

 

「…………そんな不安定な状態でボク達を襲ったと?」

 

『襲ったと言うよりは何者かに襲わされたと言う方が正しいみたいで………病院の先生の話だと薬物を使って意識を一種のトランス状態に陥らせた上で、誰かしらが何らかの外的要因によって暴力的な指向性?のようなものを付与したんじゃなかろうか、と』

 

「……………………」

 

『分からないことだらけで恐ろしい話ですが、襲撃させた奴がまだ捕まっていないってことは先輩の身柄が安全って保証出来ないんで念の為に連絡させてもらいました』

 

「ふ〜ん、分かった。ボクの方も注意するよ」

 

 

予想は当たり、後はどうやって下手人を見つけ出して事態を収束させるか。冬月の意識はその一点に注がれていた。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

学園都市にいくつもある路地を一人の少女が走っていた。常盤台の制服と透明なフィルムのような何かを入れた紙袋を持ち、息を切らせずの全力疾走している。ビルの隙間からは学園都市と外部を隔てている巨大な壁の頂点が見え、もうすぐで「外」以上に死と隣り合わせの任務が終わることに少女は安堵しながらも自分を襲った不運を恨んだ。

 

「(ックソ! 本当に最悪!! よりにもよってあのタイミングで邪魔が入るなんて……!)」

 

「(後もう少しで完璧にやり遂げられたと言うのに、どうしてあのタイミングで風紀委員が間に合うんですか!?)」

 

「(…………嘆いても仕方ありません。後は「コレ」を持って外に出れば最低限の仕事は果たせます)」

 

そう心の中で毒づくと左手につけたブレスレットのようなものに手を当て、そこにあるテンキーに触れていく。

もう少しでこの体はこの邪魔な壁を飛び越えて、学園都市の手の届かないところに辿り着く。そうすれば史上初めて学園都市から超能力者の遺伝子情報を奪い取った魔法師としての箔がつき、もう少しこの仕事もやりやすくなるだろう

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、さっきぶりだね?……………こんな所で何をやっているんだい?」

 

壁を目の前にして路地から出たところで、すぐ隣から声をかけられた。姿を確認するまでもなくこの声は今回のターゲットのもので間違いない。

何故どうしてここにという疑問が生まれたものの敵意や殺意のようなものを感じ取れない喜色混じりの声色は、少女に誤魔化してやり過ごすという選択肢を生み出させた。なにせゴール()は目前に迫っているというのにこんなところでドンパチを起こせば外周に展開している雇い主(七草家)が用意した回収部隊は関与を疑われる前に撤退してしまうだろう。

 

 

「ッ!?……どちら様でしょうか?」

 

「惚けなくてもいいんだよ君………………それともこっちの方が分かりやすかったかな」

 

 

「常盤台の()()()()()?」

 

「(マズイ!? バレt)」

 

誤魔化しの効かないことを悟った少女は咄嗟にブレスレット(汎用型CAD)のテンキーに手を伸ばすが、それよりも早く何も持っていなかったはずのターゲットの両手から投擲されたナニカが少女の喉笛を掻き切った。

 

「遅いね、所詮は魔法師か」

 

不気味なまでに歪んだ口角を見せ、冬月はそういった。

 

少女が掻き切られた喉から溢れ出る血を止めるために、本能的にブレスレットから手を離して両手で首を押さえてしまった。まぁこれに関してはよほど優秀で覚悟の決まっている魔法師でもなければその選択肢を取るだろう。

 

 

「ブレスレットに偽装しようなんて大胆なことするじゃない。まぁ確かにCADなんて学園都市じゃ珍しいから変に隠し持つよりバレないって考えかい?」

 

なんでもないというように語っていた冬月が、少女の驚きで一色になった顔を見て口角を吊り上げる。

 

「…………何でボクが君に気づいたのかよく分かってないって顔してるね?」

 

 

不意に上がった口角や高揚感を抑えるかのように冷静さを装って喋り始める。実際そうでもしなければ彼女は気持ちを抑えられずに目の前の少女を斬り殺していただろう。

 

「ボクは精神を操る人間には一定の傾向があると思ってる……………人の心の中が手に取るように分かるから他人を信用しないし他人を信用できない。人を信用できないから任務を全て任せっきりにはできない。だからどこかしらで現場に顔を出す必要がある」

 

「あの現場にいた中で素性が割れてるのはボクと後輩と白井だけ、スキルアウトが誰かに操られているんだとしたら残るのは君だけって寸法さ。違ったかな?」

 

 

確認を取るために疑問を投げかけたところで、冬月はやっと気づいたかのように喉を押さえたまま苦悶の表情を浮かべてに呼吸する少女を見下して楽しそうに言った。

 

「そうだそうだ喋れないんだったね。ならもう一つ君のミスを教えてあげる。まぁもうすぐ死んじゃうんだけど。」

 

 

 

 

同じ常盤台生(白井黒子)が来てからいきなり黙り始めたよね?」

 

「常盤台中学といえば学園都市の中でも随一のお嬢様学校だからね。それを利用してスキルアウトに狙われる構図を作ろうとしたんだろうけど、ああやって常盤台の生徒が現れると何かボロが出るかもしれない。だから黙ったんだろう?」

 

 

「君が下手人だと分かればあとは単純だ、この街にとってボクは抑止力ってことになってるからね? 監視システムに割り込んで情報を集めるのはそう難しいことじゃないんだよね」

 

 

 

喋りまくることである程度冷静さを取り戻し、気分が昂っているのを抑え込んでいるようにも思えた冬月だが言葉の端々から相手を追い詰めていることに対する高揚感が溢れていた。

 

 

「どこの差金か知らないけど、随分舐められたものじゃない? 学園都市も」

 

冬月がそういうと同時に能力を使いコンクリの壁に右手を沈み込めると、コンクリの壁面で沸騰するかのように気泡のような何かの生成と崩壊が繰り返し起き始めた。数秒も経たない内に壁から手を引き抜いた冬月は、彼女の細腕ではとても保持できない3〜4m以上はありそうな直刀のようなのを手にしていた。

 

 

冬月の頭上までまっすぐ持ち上げられた直刀は、彼女の殺意を象徴するかのように路地に差し込む真っ赤な夕陽の光を反射し鋭い光を放っていた。

 

 

「ボクの能力は物理支配(ドミネーター)、キミたち魔法師をブチ殺すための能力だ。」

 

弱々しい呼吸を繰り返すばかりの少女に向かって死の宣告を言い放つと、腕にかかっている力を抜き重力と少しの腕力を使って長刀を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………死にたくない

 

 

「ッッ!?」

 

魔法師の少女がそう口にしたわけではない。喉を切られているのだから声など出せるはずがない。だが唇がそう動いた気がした。それだけでも充分だった。

 

 

少女が言わんとしたことを知覚した冬月は重力に任せ振り下ろすつもりだった刃物の軌道を逸らし、少女のすぐ真隣に振り下ろす。数メートルはある長刀が地面にぶつかったことで少しの振動を響かせ、砂埃を舞い上がらせた。

 

 

 

冬月の吊り上がっていた口角も元に戻っており冷静さを取り戻したように見える。

右手に持っていたはずの長刀もいつのまにか姿を消しており、普通の人が見れば手品か何かと感知がしてしまうほどスムーズさは彼女がどれほど能力を使った戦闘に慣れているかを表している。

 

 

 

 

「あークソッ、本当にヤになることばっかりだね。この仕事って…」

 

短くそう呟いた後に、内ポケットから電話を取り出し先生にかける。さっきと同じように数コールもしない内に相手が電話をとった音がした。

 

 

「もしもし? さっき電話で話した魔法師、こっちで捕まえたよ。」

 

『………本当に捕まえたんですか? 貴女の能力だとてっきり殺してしまったのかと』

 

電話口で不審がる相手をよそに冬月は目の前で虫の息になっている少女の首に手を添える。すると次の瞬間には首元のぱっくり開いた傷跡が跡形もなく治っていた。まるで幻でも見ているかのような光景だ。

それだけでなく、服や周囲にこびりついた血痕も綺麗さっぱり消されている。少なくとも少女の遺伝子情報が手に入れられるものは何も残っていないだろう。

 

 

「ボクら科学側が魔法側の人間を倒しちゃったのは不味いけど、殺してシチュー屋のオッサンに引き渡すより五体満足で返したやった方が遥かにマシでしょ?」

 

 

『………それもそうですね。先方には学園都市に住んでいる魔法師に倒された、ということにして伝えておきますから回収部隊が来るまで待機していてください』

 

 

 

電話がプツリと切れたのを確認すると少女の方を見やる。外から見てわかる範囲の怪我は治療した失った血液を戻したわけではない。この失血量からすると後遺症が残ってもおかしくはないだろう。

 

冬月よりも年下だろう少女が、こんな若くして障害を抱えて生きていくことを考えたら治さず殺してやるのもある意味での優しさと言えるかもしれない。少なくとも冬月はそう考えざるを得なかった。

 

 

だが、もし仮に科学サイドが魔法師を殺したとなった場合、魔法サイドは真っ先にその遺伝子情報が流出しているか否かを危惧し、魔法協会経由で何かしらの言いがかりをつけてくるだろう。

だったら工作員なんて送ってくるなと言いたい所だが、だからと言って科学サイドの動きを一切感知できないことを魔法サイド、特に十師族が容認できるはずもなく、妥協案として最低限遺伝情報が流出してもいいレベルの魔法師を定期的に送ってきていた。

 

もちろん、学園都市側もだからといって無邪気にそれらに手を加えることなく、”無傷”で返してやることで魔法サイドを煽りつつ直接的な対立を避けてきた経緯がある。

 

 

 

「結局内も外も、人の命は虫ケラ並みか。イカれてる」

 

 

冬月には、この少女の人生が科学サイドと魔法サイドの軋轢の前で消耗されることに多少の怒りを覚えることしかできなかった。

 

 




少女と地の文で言っていますが、調整体魔法師なので冬月より年齢は上です

発動が早いことが特徴の一つとされる現代魔法ですが、学園都市製の超能力が相手だと、一歩どころかそれ以上に劣ります
(ただ学園都市製超能力は魔法ほど汎用性がありません)
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