魔術師の名を継ぐ者   作:ローズライン

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ヴェールはめくられ、世界は神秘(魔術)を目の当たりにする。


幕間
幕間 ー peeled veil ー


私、御崎透がこの世界に生を受けてから、既に1世紀半が経過した。

 

 

 

 

この世界に来てからは発見と驚きの連続だった。

 

 

 

 

つまりは、最初はこの世界がどんな世界なのかを理解するところから始まったのだ。

 

 

 

 

最初の3〜40年のうちに集められた情報はこうだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

ー如何やら私はとあるシリーズに出てきた魔術のほぼ全てを制約なく扱うことが出来るということー

 

これについては今更気に留めていないが、どうも私は魔術に対して得手不得手がないらしい。

いや、得手不得手がないと言うよりは不得手がないと言った方が正しい。言ってしまえばオールラウンダーとでも言うべき高い水準で発動できるのだ。最初は聖人的な特性かとも思ったがそうでもなく、とにかくこの傾向が分かったときにはハッキリ言って狂喜乱舞した。原作を知っている人間からすれば、新しい分野の魔術の修練がどれほど精神を擦り減らすものか知っていたからこそ、その苦痛を回避できるという事実に喜ばない方が可笑しい話だろう。

 

 

ー原作で学園都市が見せていたゲテモノ技術を再現できる程度の知識ー

 

読んで字の如く、説明するまでも無い。

原作の学園都市が時折垣間見せる異常なまでに発展した科学技術に関しての情報が頭の中に詰め込まれているらしい。傍から見ればSFかファンタジーにしか考えられないような技術が具体的な論理を伴って口からつらつらと出てくる光景は唖然とせざるを得ないだろう。

それ故に、我ら大英帝国は現代に至るまでに科学偏重国家と化し、科学サイドの協力者としてこの”世界”において異彩を放っている。

 

 

 

 

 

 

そして次に

ーこの世界はとある魔術の禁書目録のものであるということー

 

これに気づいたのは、自らに備わった異能の研鑽に励みながらロンドンにある神学校に通っていた時のことだ。あの頃は確か、自分が使えるこの異能のことを”とあるシリーズ”の魔術だとは微塵も思っていなかった。言ってしまえば『神』が言っていた特典とかいうモノ、つまりは自分だけが使える属人的な超能力か何かだと思っていた。

だが、そんな私の子供っぽい歓喜の感情は、とある「存在」によって粉々に打ち砕かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大悪魔コロンゾン」

 

 

 

転生する前に読んでいた禁書目録の中でも、かなりのインパクトと共に記憶に刻まれていた存在。

 

禁書の世界における異常性の一端でありセフィロトの樹の深淵、隠されしセフィラであるダアトに潜む存在。

 

 

奴と初めて合間見えたあの一件以降、私はこうやって世界の裏側にどっぷりと浸かり始めた気がする。

 

 

話題を戻して………

 

 

 

コロンゾンと接触した私は、端的に言って奴が率いていた当時のイギリス清教と敵対するハメになった。原作でも語られていたように自然分解を本懐とするコロンゾンにとって、対消滅の組み合わせにないイレギュラーな存在は世界が不調をきたす前に是が非でも消そうと考えるのは至って道理だろう。

 

イギリス清教が王室派に手を回したせいかスコットランドヤード(ロンドン警視庁)が無実の罪でもって私を指名手配し、加えて何を吹き込んだか知らないが騎士派とも敵対する羽目になった。

 

今思い返してみれば、イギリスという魔術国家との総力戦にも等しい無謀な戦いだが、それ故に相手の過信を誘うのはそこまで難しい話ではなかった。

 

 

仕掛ける際は奇襲或いは急襲を徹底し、欺瞞とゲリラ戦によって追撃を翻弄し続けた。もちろん合間を縫って元凶たるクソ野郎(コロンゾン)を仕留められる術を鍛えていたわけだが。

 

半年ばかりだろうか、そんな生活を続けているとイギリス上層部の動きが露骨に鈍ってきた。目撃情報があるごとに追討部隊を派遣してみれば手痛いしっぺ返しで(死者はいないはずだが)部隊を半壊させられているのだ。至極当然の帰結だろう。前線に立たされる騎士や魔術師であればあるほどに私と戦うことを嫌厭する傾向は強まり、終いには私のことをクロウリーの亡霊と言い出す人間まで出て来てしまった。

 

生きている人間に亡霊呼ばわりは酷くないか?とは当時の私の感想だが、まぁ彼らからしてみればあながち間違いではないのかもしれない。

 

 

 

 

騎士派と王室派だけでなく身内の清教派からも戦うことを拒否されたローラ=スチュワート、改めコロンゾンはこれまた当然ではあるが自ら打って出ることになった。周囲には「少し外出してくるわ(意訳)」と言っていた辺り、すぐに勝負をつけて帰宅するつもりだったのだろう。

 

結果については、今私がこうして五体満足に生きている時点で語るべくもない

 

 

 

 

私が匿名でもたらしたローラ=スチュワートの無力化、加えてその”正体”について耳にした時の女王が、ようやく重い腰を挙げ事態を収束させるために指名手配中だった私の諸々の罪状(といってもイギリス清教のでっち上げだが)を恩赦として取り消した上でバッキンガム宮殿に招聘し、一つの提案をしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

その提案というのも

 

「貴様の言う通り最大主教に”深い事情”があるのは承知したが、それはそれだ。貴様がイギリスに与えた損害については、個別に補填してもらわなければならない………なに、簡単な話だ。その”損害の分だけ”タダ働きをすれば貴様がイギリスに与えた損害については見逃してやろう。断るなら…………分かるな? 私の椅子の横に立てかけられているこの剣(カーテナ)が貴様に向けて振るわれることになるぞ?」

 

 

 

 

 

 

襲撃に次ぐ襲撃、加えてコロンゾンとの戦闘で思いの外疲弊していた私には、女王から発せられたその脅迫を蹴るという選択肢はなかった。

 

私がここに来るまで多数の襲撃やコロンゾンとの戦闘に用いて来た”ある技術”が、カーテナが繰り出す全次元切断術式とかいうふざけた一撃に対してどれほど有効なのか、相性が未知数ゆえに戦うことが躊躇われたのが大きな理由だ。

別に戦うこと自体が選択肢から消えなかったわけではないが、もし仮に戦ったとしてカーテナに切り伏せされてハイお終いでは私が半年間も抵抗して来た意味がなくなってしまう。

 

 

 

 

結論から言えば、女王からの提案に乗ってしまった。

 

 

 

 

 

………………こうしてイギリス清教のトップとなり、その時のイギリスの事情についてのある程度理解が及ぶ今だからこそ思うのだが、もう少し時間をかけて提案内容に書かれた文言の解釈や精査すべきだったかもしれない。

向こうからしてみれば神出鬼没にして正体不明の魔術師が交渉のテーブルに着いて擬似的に拘束できている上に、私が多用していた”ある技術”の異常性についての解析が全く進んでいなかった状態で、イギリスの方から交渉のテーブルを壊す心配はなかったと言える。

 

 

 

 

 

 

流石は三枚舌の国(大英帝国)と言うべきだろうか、彼らが追い詰められ開かれている交渉のテーブルだと言うのに「損害の分だけ」という文言を、「失われた装備や人員が再補充されるまで」ではなく「損害に見合う働きをしたと認められるまで」という彼らの主観に依存する文言として解釈し、契約書を執行したのだ。

 

 

 

 

 

 

王室派・騎士派・清教派の三勢力からしてみれば、必要悪の教会に所属する魔術師や騎士派の精鋭を何人も退けるほどの実力を持つ私をそうそう易々と逃がすつもりは毛頭なかったということだろう。だからと言って逆境すら利用して逆襲を仕掛けてくるとは思いもしなかったが。

魔術師や騎士云々以前にこの国の政治屋のことを侮っていたようだ。

 

だが発行した以上、契約書は契約書だ。残念ながらクーリングオフの考えは今ほど発達していなかったらしい。

 

 

それが前世から染み付いた社会人としての癖なのか、あるいは道徳心故だったのかは分からないが、以来私はイギリス清教に追われずに済む生活を手に入れた代わりに、イギリス清教最大主教として今度は仕事に追われる身となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度話題を戻して

 

 

コロンゾンと接触した時からこの世界がとあるシリーズのものでは?と言う疑問は常々私の頭を過っていたのだが、そこに新たな火種が投下されることになった。

 

 

 

 

アレは私がようやっと英国内に存在する明け色の陽射しをはじめとする魔術結社の大半と協力関係を結び終えて、ようやっと幻想殺しの捜索に乗り出そうとしていた頃の話だったはずだ。というかあの時の衝撃を考えたら忘れる訳がない。

 

 

 

初めの報告はごく普通のものだった。当時の対米関係は今程冷え切っておらず、むしろソビエト連邦の全盛期(冷戦真っ只中)であったため、ある程度の情報交換が日常的に行われていた。この情報も先方から英国政府への依頼を横から盗み聞いたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『CIAが詳細不明の異能力者を確保した。ついては英国も調査に協力してほしい』

 

 

当時の私はこの世界をとあるシリーズのものだと思い込んでいた為、この異能力者についても原石で間違い無いだろうと予想を立て、その解析を阻止するためにイギリス清教の魔術師を用いた奪取を計画し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、事態はすぐに急転を見せた。

 

 

『米国政府は、この超能力者(サイキック)の操る異能に対して”魔法”という秘匿呼称を与えた』

 

 

『米国政府は既に“魔法“を扱える超能力者、以下“魔法師“を複数名確保しているが、英国内で魔法師の発生は確認できないか?』

 

 

この情報を聞いた清教内の慌てっぷりといえば、今思い出すだけでも面白い。最大主教()は予想外の情報に泡を吹いて倒れるし、幹部連中からこれらの異能力者は魔術師なのかを調べるため、米国に対して魔術に関する情報を開示すべきとの暴論も出た位だ。

 

………当然、正気を疑った王室派に拒否され、代わりに王室派が手配した調査団の中にイギリス清教の息のかかった者を紛れ込せることで決着した。

 

 

 

 

 

 

 

結果は…………当時の私が考えていた最悪のものだった。

 

 

 

 

『当該の異能力者は魔術師ではなく、既存の魔術理論では説明しきれない存在であり、魔術との差別化を図るためにも魔法という名称は恐らく妥当である』

 

 

 

 

この時点で私は既に当初考えていた人生計画を全て捨て去り、新しい計画を立てる必要に迫られた。

 

 

 

 

 

 

 

ーこの世界は魔法科高校の劣等生、その要素も含んでいるということー

 

 

 

 

 

ー魔術師と魔法師……その二つの存在がいるということは、この世界はその二つが融合したした世界ではないかー

 

 

 

 

 

こう推測を立てた私は、次の日から行動を開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この歪んだ世界に対処するために。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

そして、手元にある新しい報告書の内容は、またもやこの私を満足させるものだった。

 

 

 

 

『全世界での魔術の拡散について』

 

 

『今現在、確認されている限りでは魔術について我々イギリス清教、ローマ正教、ロシア成教を中心として結ばれたバチカン魔術協定の締結国以外での使用は観測されていない。また先程名前挙げなかった他の魔術結社も前述の締結国のいずれかと協力体制にあり、積極的な情報漏洩は今のところ確認できでいない。』

 

『しかし、今後の世界情勢によっては新たな魔術結社の誕生も否定できず、また彼らが友好的ではない可能性も考慮して、現在対処案を王室派、騎士派と共同で検討中である。具体案が形成されるまではこれまで通り、他の魔術結社との協働で魔術の秘匿を継続することが我々にとって最良であると考える』

 

イギリス清教第零聖堂区 必要悪の教会(ネセサリウス)

 

 

 

 

 

 

この報告書を紅茶をいれたカップ片手に読んでいる銀髪碧眼の”少女”は、笑みを浮かべて呟いた。

 

 

 

 

「こんなふざけた世界に来たと分かった時は、流石にオラクルのことを恨んだが…………ここまで上手く事が運んでくれているのだから感謝しなければな。仮に私がこの”名”の通りに失敗の呪いまで受け継いでいたら、こうも上手く魔術サイドを隠蔽できなかっただろう」

 

 

彼女はイギリス清教最大主教(アークビショップ)、”次代のアレイスター=クロウリー”とも或いはただ単に敬意と畏怖の感情を込めてアレイスター・クロウリーとも呼ばれている少女だ。

 

 

「しかし、それ以外にもローマ正教とロシア成教との関係改善、彼らとの連携体制の構築に、幻想殺しの所在地の調査、敵対的な魔術結社の撃滅か…………今思い出すだけでも最大主教(アークビショップ)になってからは本当に多忙だったな。まぁおかげで魔術サイドもそれなりに安定化できたわけだが」

 

 

自慢げに語るアレイスターは、そう言ってイギリス清教が本拠地として使用している聖ジョージ大聖堂の中にある自身の執務室に据え付けられた液晶テレビに視線を向けた、事務作業の間の休憩にちょうど良いBFBC(ブリタニア連邦放送協会)のニュースの時間だ。

………………デスクの上に積み上げられた書類のことは一旦忘れてしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

『2092年7月12日、午後のニュースのお時間です。まず初めにこれらの”気掛かりなニュース”についてお伝えします』

その画面では大仰なまでに、危機感を煽る口調でニュースキャスターが話している。

 

 

『大亜細亜連合による周辺諸国への軍事的威圧は最早留まるところを知りません』

 

『我々BFBCの極東支局によれば、大亜連合が保有する空母の内3隻が母港を出港して以降、主に東シナ海にて航空機の発艦を含む本格的な演習を行なっており、過去1週間以内で行われた演習だけでも合計で40隻以上の戦闘艦が動員されているようです』

 

勿論、彼らが行なっている”演習”の多くは慣習法と化した旧国連海洋法条約に基づいて実施されているため現状ではなんら問題ない。だがどれだけ論理的整合性がとれていても、感情面の問題から周辺の諸国民にとっては納得し難いのもアレイスターは理解していた。第三次世界大戦中に彼らが対馬や朝鮮半島で起こした戦争犯罪を鑑みれば、納得のいく話だろう。

 

『現在、東南アジア同盟や日本はこれらの演習に対して「注視しつつ、必要な対応を行なっていく」と述べるに留めており、具体的方策については特に情報はありません』

 

東南アジア同盟と日本は事態のエスカレートを避けるために、彼らの示威行動に抗するつもりはないようだ。

恐らくは原作で語られていたように、両国の外務省が大亜連合相手に交渉をしていることだろう。どれだけ意味のある行為なのかは原作の結果を見れば明らかだが。

 

 

『これを受けて大英帝国政府は、ブリタニア連邦議会を通じてブリタニア連邦軍の召集を打診したと発表しました。関係者によれば我が国の東洋艦隊を主軸に東南アジア同盟の防衛にあたるとのことであり事態のエスカレートが予測されます』

 

 

 

私の手元に集まっている情報の限りでは既に大亜連合の首脳部は民間企業が保有する高速輸送船を徴発しているようだ。ランドパワー国家である大亜連合は海を渡った対外遠征を前提とした海軍の整備が間に合っていないと噂されている。

実際、正面戦力に限れば極東随一と謳われる日本の国防海軍を圧倒しているのに違いはないが、それら以外の揚陸艦や輸送艦は整備が間に合っていないことは裏が取れている。

今回、大亜連合政府がこうして民間企業から高速輸送船を徴発しているのは、その不足を補うためであろう。最悪の場合、乗組員までセットかもしれない。

 

これら一連の動きが、原作にある通り沖縄への侵攻の予兆であることは疑いない、とアレイスターは結論づけていた。

 

 

 

こんなことを考えてはいるものの、ここは欧州の端に位置している大英帝国。

 

確かに同盟国への艦隊の派遣など外交的に危険な橋を渡っているが、現在の英国は米海軍と正面から対等に殴り合えるだけの戦力を保有している大海洋国家であり、大半のイギリス人はこの事態を対岸の火事どころか人ごととしてみなしてだろう。

 

 

 

 

 

 

だが、それはこの部屋の主である私には通用しない。

 

私からしてみれば、やっと原作の流れを掴める事柄が発生したのだから。

 

 

ここでまで冷静なのは、恐らくあの地獄の様な第三次世界大戦を直に体感し、戦い抜いた経験によるものだろ。

 

 

 

 

 

決して、あの魔術師(変態クソ野郎)に毒されたわけなどではない筈と祈りたい……………

 

 

ニュースキャスターは如何やら政府の対応に対しての懸念を述べているらしいがそんな事に微塵も興味はない。

私の思考のリソースは、既にそれの後始末についてその多くが割いていた。

 

 

 

 

「やっと世界が動き出したか。しかし、ここから沖縄侵攻までにどれほどの時間を要するか、ある意味で見物だが…………」

 

 

そんなふうに考えていると、執務室の机に備え付けられた電話が鳴った。

執務室に直接かかってくるということは、十中八九現在進行形の事(沖縄に関して)についてだろうと考え相手を確認してみると……

 

 

 

 

 

「ほう………主席行政統括官が直接掛けてくるとはな、よっぽど切羽詰まった状況らしい」

とりあえず要件を聞いてみないことには何も分からないので、仮想型パネルを操作し、マイクを着けて通話を開始する。

 

 

 

 

 

 

『統括理事長。少しお時間の方よろしいですか?』

スピーカーをオンにすると、そこから聴き慣れた男の声が聞こえてきた。

 

(たかむら)幸三(こうぞう)、学園都市の行政機関である行政統括委員会においてその責任者である主席行政統括官に任命されている人間だ。

私がこの世界で設立した学園都市は、日本政府との交渉含めた諸々の事情から原作の学園都市の体制とは大きく異なったものになっているが、行政統括委員会がその最たる例だろう。

 

アレイスターはリラックスした様子で尋ねる。

「構わない。それで…………私の方にかけてきたと言うことは、あらかた沖縄関連のことだろう?」

 

『……………沖縄について行政統括委員会及び統括理事会内部で軍事介入を行うべきとの意見が強まっています』

 

 

 

「…………軍事介入か。いつから我々は日本の味方になったのだ。なぜ彼らを助ける必要がある?」

 

アレイスターの沖縄に対するスタンスは、あくまでも不介入だった。それも単なる好悪によるものではなく原作知識ありきの損得勘定によるものだ。

 

 

 

この返答は想定済みだったのか、彼はすぐさま否定する。

そういうこと(同じ日本人のため)ではありません。あくまでも日本における”我々の”プレゼンス(影響力)強化にために、と言うのが統括理事会と我々行政統括委員会の考えです』

 

 

 

食い気味に否定されたことに驚いて、改めて問いかける。

 

「……………だから私に保安隊を動かして欲しいと?」

 

保安隊、これもまた行政統括委員会と同様に原作の学園都市と異なる点の一つだ。原作では警備員(アンチスキル)が戦闘機を乗り回していたが、流石に周辺国の紛争に対する抵抗感が軒並み低い魔法科高校の世界で職業軍人で構成されない軍事組織というのは無理があると考えたからこその判断だったが、だからこそ学園都市は十師族や新ソ連、大亜連合を前にして今に至るまで独立を維持出来ている。

 

 

『はい、保安隊への命令権は統括理事長である貴女しか持ち合わせていない。科学サイドにとっても日本の政局への影響力が全く要らない訳ではないでしょう?』

 

保安隊という言わば学園都市の軍事力を用いての介入がもたらす、日本の政界への影響力が彼のいう利益なのだろう。

 

 

とはいえ原作知識を有する彼女の脳は、その得とやらの実態を理解していた。

「(要るか要らないかで判断するならば、必要なことに変わりはないが……………だが日本の政界には奴らが根を張っているのだ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

元老院

 

 

日本を裏から支配している老人たちの集まりであり、アレイスターが戦後の日本を科学サイドに取り込むために彼らの政敵達と協力して排除を目論んだ集団。

 

学園都市という科学サイド進出の足がかりとなる法が国会で成立したこと、その後に協力者だった政治家が死んだことで損切りして今まで手を引いていたわけだが、ともかく日本の政治の奥深くに奴らが根を張っている以上は、得体の知れない奴ら(学園都市)に政界への影響力を持たせようとする筈がない。そう考えたからこそ沖縄への介入はそれ自体が無駄な行為だと判断を下した。

 

 

だがしかし、同時に彼女は損得以外にも理屈を弁えている人間だ。

「(本来なら元老院の存在など知り得る情報でもないのだし、下手に断れば違和感を持たれるだろうな。篁のことだ、下手に違和感を覚えさせれば徹底的に調べ上げるのは容易に想像できる………………なら今回は彼らの自由にさせてみるとしよう。例え学園都市に損しか齎さなかったとしても、その時は奴の責任だ)」

 

 

 

 

「……良いだろう。保安隊には私の方から手を回しておく。君は政府への根回しをしておけ、必要なら私の名前を出しても構わない」

 

『ご期待に添える様尽力させていただきます………………それともう一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?』

 

 

「…………ほう? 保安隊を動かすだけでもかなり協力してやったつもりだが、次はどんな要件だ?」

 

 

 

やや少しの躊躇いとも取れる間を置いて彼は自らの考えを述べた。

 

 

『今の沖縄は大亜連合と台風14号という二つの脅威の晒されています。戦火か台風……或いはどちらの被害も受ける可能性がある以上、それに応じた支援が必要です…………ですので個人的な案としまして医療支援と災害復興用の特設チームを沖縄に派遣したいと考えています』

 

 

「台風14号というと……………話に聞く例の台風のことか」

 

『樹形図の設計者によれば、観測史上最大規模と言えるほどの超大型台風が発生しているそうです』

 

この報告にアレイスターは眉を顰める。

「(魔法科の原作に台風の発生などなかったはずだが………何が起きている……?)」

 

一瞬の逡巡の後、アレイスターは決断を下す。

 

「………………………………………分かった、君の言う特設チームの派遣を許可する。状況は非常に流動的だ。保安隊の動員は進めさせるが出撃は君の判断でするといいだろう」

 

 

『ッ!…………感謝します』

 

 

「(医療支援も災害復興もねじ込んでできたか………苦手な腹芸などせず正直に最初からそう言えばいいものを)」

 

 

根が善人とは言え暗部とも関わることがある行政統括委員会にいて良くもああやっていられるものだ。

そう感心していると再び彼が口を開いた。

 

 

 

 

『アレイスター………もう一つ気になっていることがあるのですが、よろしいでしょうか』

彼がアレイスターと呼び方を変えた、ということはどうやらあくまでプライベートな質問、ということだろう。

 

「構わないよ、こうして君と一対一で話すのも久しぶりの事だしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは……………………沖縄には件の”右手”が滞在しています。アレの効果は異能を打ち消すことだけで物理的なもの、例えば銃火器などには基本脆弱です。詳しくは聞き及んでいませんが貴女の計画(プラン)にとっても重要な鍵なのでは?』

 

思っていたよりも核心的な質問が飛んできたことに思わず私は閉口してしまった。

変に危ない橋を渡る男ではないと考えていたが………確かに彼の善性を考慮すれば当然の質問だったな。

 

 

 

 

『図星、ですか………………まさか”この一件”も折り込み済みだと?』

 

 

彼の問いに対して、アレイスターは明確に回答することを避けた。

 

「確かに私の計画にとって、あの右手はなくてはならない存在だ。だが計画とて完璧ではない。いくらか不足する部分はこちらの方で補ってやらねばならん」

 

 

『だから右手を沖縄へ行かせたと?抽選で旅券をつかませると言う回りくどい手まで使って………………彼が……右手の持ち主が死なないという保証はないはずです』

 

 

その通り、私でも回りくどいと思った手だ。やろうと思えばほかの手段はいくらでも取れたのは間違いない。

 

だが、それでは駄目だ。あの右手が沖縄に行ったのはあくまでも偶然を装わなければならない。そうでなければあんな異常性を抱えた(全ての異能の力を打ち消す)右手があの兄妹に接近することはできない、仮に関係を持てたとしてそれが長続きするなどあり得ないことだ。

 

我々はそれほどまでに「あの家」から恨まれている。もし仮にあの右手が沖縄を訪れた経緯に少しでも学園都市の意向を感じさせれば”彼女”は兄妹があの右手と会うのを即座に制限しようとするだろう。

 

恨まれるようになったのも経緯を辿れば身から出た錆ではあるが…………

 

 

 

「人の巡りには機があり、機が紡がれるには絆が必要だ……………そして絆には人が欠かせない」

アレイスターは再び彼からの問い答えるのを避けた。

 

 

『右手の持ち主と絆を結ぶべき人間が…………沖縄には居ると?』

 

 

「有り体に言うとしたら、そう言うことになる。その絆が結ばれることが私にとって重要なのだ」

 

『そのために……彼の命が危機にさらされるとしてでもですか』

 

 

 

「これ位は生き残って貰わなければならないさ。計画を進めていく上であの右手はさらに厳しい敵と戦うことになる」

 

 

『…………………分かりました。貴女がそこまで言うのなら』

 

 

そこまで言うと、彼はすぐに電話を切ってしまった。今すぐにでも部隊の編成に取り掛かるつもりだろう。冥土返し辺りの医者にも声がかかるのは間違いない。

 

…………彼の掲げる理念からしてみれば断るとも思えないが、応じるように連絡はしておくか。彼が一人いるだけで敵味方問わず数百の命が救われるのは疑いない。今の沖縄に必要なのは間違いなく彼の様な医者だろう。

 

 

 

少しの間執務室の天井を眺めていたアレイスターだったが、すぐに気持ちを切り替えて頼まれた仕事に取り掛かる。

 

 

 

執務室に備えられた専用のチャンネルを起動する。

 

 

 

 

「聞こえているな」

 

「沖縄に保安隊を派遣することになった。ついては私の指定する範囲で部隊を編成してくれ」

 

「返事は聞かんから、さっさと準備に取り掛かれ」

 

電話の向こうが慌ただしくなってきたのが電話越しでも分かった。こうして学園都市が外部に派兵すること自体が異例なので仕方がないことなのかも知れないが、これからは世界中いろいろなところ(アヴィニョンや新ソビエト連邦)に行ってもらうことになるので、ここで慣らしておくと言うのも悪い判断ではないだろう。

 

 

「23学区にて待機中の3個飛行隊にコンディション=レッドを発令、出撃準備に取り掛かれ。東京湾外と日本海に展開中の輸送艦をそのまま沖縄に向かわせろ。物資はインド洋のマスドライバーから射出させるからそれを積み込むように、積荷のコンテナは今いる海域に投棄しても構わん。マニュアル通りにシステムがやってくれる。あと「ふがく」と「れんざん」も沖縄に向かわせろ。保安隊随一の老齢艦に最後の大仕事をくれてやる。あぁそれと投棄したコンテナの回収のために輸送ヘリを回しておく必要があるが、問題ないな?」

 

 

「この命令は何よりも優先される。先ほど指示した部隊の指揮系統は現時刻をもって主席行政統括官の管下に移管される。この命令を徹底しろ」

 

 

 




バチカン魔術協定
ローマ正教・ロシア成教・イギリス清教の三勢力が共同で魔術の秘匿及び隠蔽に努めることを取りまとめた協定
この協定の成立で魔術の情報流出は極限まで抑えられている。
だが近年は三勢力間の対立によって機能不全気味にあり、共同ではなく各組織が単独で魔術の秘匿という形となっている

ブリタニア連邦
『連合王国ならびに神聖にして偉大なるブリタニア王冠を戴く諸邦の連邦条約』、通称『聖冠条約』を締結した政治的経済的軍事的な連邦王国
旧来の英連邦王国に変わる新たな関係で、正式な加盟国が大英帝国や東南アジア同盟、太平洋諸島群、オーストラリアを除くオセアニア諸国と幅広く、準加盟となるとインド=ペルシア連邦や南部アフリカ連合共和国、オーストラリアと多数の国家が参加している
ブリタニア連邦は常設の軍事組織を有さず、各国が独自に軍事力を保有することを認めている。がしかし連邦議会による承認を得た場合にのみ有志連合という形でブリタニア連邦軍を構成する

「れんざん」
学園都市が運用する次世代航空戦艦「ふがく」の廉価量産モデル。「ふがく」より小柄な船体に各種兵装を搭載しており、その全長から「ふがく」は航空戦艦と称されるのに対し、「れんざん」は航空巡洋艦に分類することがある。学園都市の設立初期に建造され同型艦の「しんざん」やコピー元の「ふがく」とと共に2092年当時の学園都市で最も老齢な艦艇として運用されていたが、沖縄戦後にスクラップ処分

大悪魔コロンゾン
新約とある魔術の禁書目録終盤で今で演じてきたローラ=スチュワートを捨て去り、自らが本懐とする自然分解(要は自分含めた人類文明の解体)のために活動を開始し、様々な主人公の活躍もあって最終的に敗れた

右手
家族と沖縄旅行に来たものの戦争に巻き込まれてしまった不幸な少年
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