ちなみ序盤のやり取りはトータルイクリプスのオマージュ?です。
「想定外の状況だと……………? 何を気楽なッ!!」
そう大声を出すと、部屋の主は右手に持っていた電話を床に叩きつける。
「何十年も血税を注いできた国土防衛整備計画が天の差配で水の泡だぞ!! 官僚どもめ…………もっと言い方というものがあるだろうに…………!」
先程まで電話をしていた相手に対する怨嗟の念を唱えるが、もはや事態が如何ともし難い状況にあるのは明白だった。
すると、床に叩きつけた電話がもう一度鳴り出した。官僚や関係各省からの沖縄に関する報告やそれらへの指示は先程の電話で殆ど完了している。ということはしつこく付き纏ってくるメディア関係だろうと考えて電話をとる。
着信欄を見てみると、
「私だ。何かあったか?」
『瀧元官房長官、佐之議員が官房長官にお会いしたいとお見えに、アポイントメントは………あッ、ちょっ!!『すまない、君の秘書には少し電話を代わってもらったよ。こうした方が早いだろう? ……………急で何だが話がしたい』
「佐之君か………………まぁいい、入ってくれ」
そう言いって電話を切ると瀧元は項垂れるようにして頭を抱えた。
佐之淳、瀧元にとっては同じ年に初当選した同期の議員であり、思想を違えているもののプライベートではかなり親しくしている人物だ。
いつもであれば歓迎する気も起きただろうが、沖縄防衛戦の現状や恐らく彼が持ち込んで来るであろう厄介事のことを考えれば今は如何せんそんな気も起きない。
数分もしない内に部屋の扉が叩かれる。
「…………失礼するよ、長官」
その声と共に扉が開かれる。
「手短に頼む………分かっているとは思うが、今内閣官房はマスコミ対策でてんてこ舞いだ。案内すらなかったろう?」
「だからこそ来たんだよ。今の君は彼らを怒鳴り付けかねないからな」
どうやら、この同期は私のことを心配して来てくれたらしい。そんな些細なことが荒んだ心の私にはありがたかった。
「それが出来ればどれほど楽か、全く面倒なものだな……マスコミ対応というのも」
「丸一日寝てないそうじゃないか、これから先が長いんだ。今のうちに仮眠でもしておいたらどうだ?」
「それが許される立場でも状況でもない」
「ふん、まぁいい。せめて自分でラインを見極めて休んでおくことだ」
「………………ともかく座ってくれ。立ったままも何だろう」
そう言って椅子に腰掛けて大きく肩の力を抜くと、彼にも椅子に座るよう促す。
「早速本題だが……………沖縄の情報について分からないか?沖縄や九州出身の議員連中からの突き上げが思いの外激しくてね、軍令部にも掛け合ってみたが、嬉しいことに我が国の参謀将校は揃いも揃って口が堅くてな、一介の議員の俺には詳しい情報が回って来ないんだ」
やはりと言うかなんというか、佐之の口から出た言葉は瀧元の予想通りのものだった。
現在進行形で戦場と化している沖縄、その戦況の如何で国民がパニックを起こさない様にするためとはいえ、報道規制や情報規制を行なっている弊害がこうも如実に現れると、彼らに対し申し訳なさを感じてしまう。
だからこそ瀧元は、その罪悪感を減らすために敢えて彼には沖縄の現状について語ることにした。
普通なら絶対に言わないが、彼のような人物であればこうして法外に近しい手段で手に入れた情報についての取り扱いを間違えることは無かろう。そんな信頼があった。
「………………………酷いものだ。台風14号が全てだよ……!」
私の独白とも言える言葉を聞くと頭を抱えた。聡い彼であればこれだけである程度の概要は理解できてしまったのかもしれない。
「確か、観測史上最大級の規模だったな。気象庁の予報と違って沖縄を直撃したのは予想外だったが……」
彼の言う通り、影も形もない所から突如として現れて規模や最大風速などで観測史上最大の記録を叩き出した台風14号。
おそらく彼は沖縄で何が起きたのかについて間違いなく見当がついていることだろう。
「…………あれのおかげで、緊急展開していた海軍の第3水上戦闘群の全艦が九州まで引き返すハメになった! その上に九州沖縄間で停滞だ!! 海軍は、敵と戦うばかりか沖縄にすら到達出来ていない」
「沖縄全域をカバーする
口に出せば出すほど沸々とした怒りが込み上げてきたが、目線の合った彼から視線でもって諭されると、次の言葉を捻り出す。
「……頼みの陸戦兵力も水害と土砂のせいでインフラが破壊され思うように展開できず、島内の兵站もズタズタだよ、軍以外からも重機を集めて撤去を試みたらしいが………」
「その島内の混乱に乗じて大亜連合軍が読谷村海岸部に強襲揚陸したそうだ。なんとか間に合った第8機動旅団がヘリボーンで橋頭堡の確保を阻止したそうだが、彼らは既に碌に戦える状態じゃない。むしろ敵艦隊から艦砲やミサイルが降り注ぐ中でよく戦ったんだ、責めようがない」
「だが、その数時間後には名護と糸満に二次三次上陸だ。奴らが潜水輸送艦を使ってきたせいで上陸される寸前まで予兆すらなかった……………糸満市の方は那覇の部隊で抑え込めているが、名護市の方はもうダメだ。北部一帯の海岸防衛線は崩壊、宜野座に臨時防衛司令部を設置して許田と宜野座間の高速道路を起点に陸軍3個大隊と国土防衛義勇軍が展開している」
軍令部からの報告では対潜水艦を想定して海底に敷設されていた
聞くところによると大亜連合軍が対日戦のみを想定して整備してきた部隊という話だった。だが使用している潜水輸送艦が静粛性に大きな問題を抱えていたらしく国防軍の警戒網ならば確実に探知可能としてあまり危険にされていなかった。
考えれば考えるほどに、最悪のタイミングで沖縄のインフラと防衛体制をグチャグチャにしていったあの台風が憎たらしくなってくる。
一通り沖縄についての戦況を聞き届けた彼の顔は苦々しいものだった。
「なるほど、正直に国民に言える状態じゃないな…………………下手に知られたら恐慌状態になりかねない。報道規制はこの為か…………」
日本の政治家として、それ以前に一人の人として、この事態がどれほど”可笑しい”ことなのか呟いた。
「台風のせいで陸海空の3軍全てが機能不全、その上で沖縄本島を南北から挟撃される?…………………なぁ、こんなことがあり得るか!? こんなこと国民になんて説明すればいい!?」
「大亜連合軍が台風が仲良く手を組んで沖縄を攻め落とそうとしているようなものだぞ!? 俺自身が受け入れられないことを、どうやって国民に納得させられる!?」
私の心からの叫びを聞いた彼はそのまま言葉を続ける。
「………沖縄有事の際に反抗の拠点となるはずだった九州が、台風の停滞のせいでまともに意味をなしていないとなると、沖縄にいる残存戦力だけで対応しなければならないのか…………」
本来ならば九州は沖縄を含む南方有事の際に空中機動作戦の実施を主眼にして編成された機動旅団や南部方面軍を構成する完全充足の3個師団、佐世保を母港とする空母2隻を含んだ2個水上戦闘群などの戦力を擁した反抗拠点として機能する手筈になっていた。
だがしかし、防衛省すら想定し得なかった台風14号という観測史上最大級の天然の要害が九州沖縄間で鎮座していては、どれだけ多くの戦力を有していたとしても手も足も出ない。
「……………このままの状態が続けば沖縄で絶望的な防衛戦を続けている残存部隊も敵艦隊からのフレミングランチャーの砲撃で直に壊滅するだろう。地下シェルターは無事だろうが、それでも観光客を含めた全ての民間人と陸軍を収容して抵抗できるほど多くはない。まずもって住民の中にはインフラが破壊されたせいで自力でシェルターに向かえないような者もいる」
私の放った沖縄に展開する地上部隊の絶望的な顛末を聞くと、険しい表情をそのままに口を開いた。
「軍令部の連中が必死になって隠そうとしたのも納得だな…………………この状況は」
「…………………おかげで軍令部は、”最後の手段”を取ろうとしている」
「最後の手段というと戦略級魔法師か…………? しかしどうするつもりだ、五輪家の彼女を軍に呼ぶにしても時間が必要だ。それにこのタイミングで戦略級魔法師という武力を誇示するとなると周辺国にこちらの不利を喧伝するようなものだぞ」
「あぁ、それは軍令部も承知している。だからこそ戦略級魔法以外で事を決するつもりだ」
「何をするつもりだ…?」
「………………軍令部は九州に展開している第二水上戦闘群と沖縄から退避してきた第三水上戦闘群に台風の中を強行突破させて、沖縄に到達させることを提案してきている。要は天一号作戦の焼き直しを海軍にやらせようとしているんだ」
私ですら忌避感を覚えた捨て身の特攻作戦の概要を聞いた彼が声を荒らげる。
「バカな! 航空優勢も取れていない中で艦隊を出撃させるなど無謀すぎる! 第二第三水上戦闘群は九州沖縄防衛の要だ! ここでその二つを失えば、それこそ大亜連合に隙を見せることになる!」
「だから、あくまで最終手段だ。海軍総司令部の反発もある……………とはいえ沖縄の全周に展開する敵艦隊の防空網に阻まれてほとんどの航空支援や長距離攻撃が無力化されている現状況では、この手法でもなければ沖縄を援護することさえままならん」
「…………………全体の状況はマスコミお抱えの軍事評論家の推測よりも酷いということか。」
だが、悲嘆に暮れるわけには行かない。官房長官としてできることをする必要がある。
そう決心すると、彼の方に目を向ける。
まず処理すべきは、彼が持ち込んでくるであろう面倒事についてだろう。
「それで? 君が来たのは、まさかこれを確認するためだけじゃあるまい……………………君が関わっているとなると、おおかた”彼ら”から提案があるんだろう?」
「…………あぁそうだ。いまさっき行政指導委員会を介して学園都市の方から提案があった」
まったく思った通りだ、行政指導委員会の長である彼がわざわざ出向いてくるということは、学園都市関係と相場が決まっている。
「……それで? どんな内容だ。」
「沖縄での戦闘に関して学園都市の協力或いは援助は必要か…………とな。まぁ協力といっても、おおかた政府に恩を売っておきたいんだろう」
「学園都市の軍事介入か……………政府と軍の面目が丸潰れだな」
「違う、連中が提案してきたのは医療と災害復旧支援だ…………………………ただ、危険が伴う地域では学園都市の保安隊を随伴させるという条件付きだが」
「それを普通は軍事介入と言うんだ………………まぁ国防軍としても政府としてもプライド云々言っていられる状況じゃないのも事実だ。猫の手も借りたいのが本音なのは間違いない」
「安心しろ、連中にも弱みがある。どうやら今の沖縄に学園都市にとって重要人物が滞在しているらしい」
「沖縄にだと……………! 一体誰だ!?」
驚きのあまり声を荒らげてしまったが、流石に驚かざるを得ない。あの学園都市に代わりの効かないアキレス腱となり得る人物がいるなんて想定外もいいところだ。
「連中、そこまでは口にしなかったが、どうも統括理事長肝入りの計画に関わっているらしい」
統括理事長肝入り、この一言だけでも十分すぎる情報だ。まさかそんな人物が存在するなど考えもしなかった。
「………………………なるほど、彼らとしては是が非でも守り抜かなければならないという訳か」
「それでだ、瀧元官房長官。学園都市によるこの実質的な軍事介入について君に総理を説得してもらいたい………………今の里見政権は今回の一件の収め方次第で、総辞職はもとより政権交代すら視野に入る危険な状態だ。当然、総理は学園都市の軍事介入にも慎重にならざるを得ない」
里見政権は今まで大亜連合に対して
「もちろん君に対する対価もある」
「対価だと……?」
「表立って言えないが、既に総裁選を見越した候補者選定を始めている派閥が与党内にいるらしい。そうである以上、そう遠くない内に里見政権は今回の責任を負わされ退陣させられるのはほぼ確実だ。恐らく造反も起きるだろう…………君に対する対価はその後に成立する政権で、もう一度官房長官のポストに座る権利だ」
この口ぶりから察するに学園都市は次回の総裁選に干渉するつもりなのだろうが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「佐之君、君は私が自らの地位や権力のために動く人間だと思っているのかね?」
「どう受け取ってもらっても構わないよ官房長官。だが国防軍すらまとも動けないような状態で、民草が藁にも縋る思いで必死に生き残ろうとしているのにも関わらず、自分の信義などという”ちっぽけなもの”のために目の前にあるその藁を払い除けたとなれば…………どうなるか分かるだろう?」
「……………………」
「メディア連中はこの一件が起こる”まで”は沖縄周辺地域の守りを固める国防軍と政府を大々的に非難してきた。終いには政府と国防軍が衝突をエスカレートさせているなんて言説まで飛び出たそうじゃないか」
勿論、そんな極端な論調で囃し立てているメディアは業績が振るわず閲覧数を欲しがっている一部に限られるが、全体としては政府に批判的なメディアがほとんどだった。
「そうだな…………正直連中には苦労させられている。同じ日本語を話しているものかと何度も疑問に思ったよ」
「だがメディア連中は大亜連合が台風の直撃した後の………インフラも何もかもがズタボロの沖縄を奇襲攻撃したという情報がもたらされて以来、嘘かのように口を噤んでいる。報道規制があるから行儀良くしているとも解釈できるがこの国のメディアがそんな程度で口を噤むとは思えない……………まぁ十中八九あんなことを言った手前、向こうから仕掛けてきたとなると都合が悪いんだろう」
「……………………」
「メディア連中は自分たちに向けられるであろうヘイトを擦り付けられるサンドバックを見つけて、火消しに走ろうとするのは間違いない」
「…………………」
「それ以外にもニュースで訳知り顔で喋っていた専門家、軍を妨害することお構いなしの市民団体、我々のような警世家を嫌う銃後の楽観主義者共も数日経てば政府の対応を公然と非難し始めるだろう。自分たちがついこの間まで何を言っていたのかを忘れてな」
「相変わらずこの国は……………あの大戦を経て何も……何も………」
「同胞数千万の犠牲から!! 何も学ばなかったのか!!!」
その台詞を言い終えた私は実に無様だったろう。頬が紅潮し眉間に皺を寄せて握り込んだ拳を振るわせている始末だ。
熱しやすいのは悪癖だと自覚しているが、これに関してはもはやどうしようもない。政治家の家系に生まれたわけでもない私には、政界に蔓延る化け狸共の様に自らの喜怒哀楽の全てを完璧にコントロールできる訳ではないのだ。
「……………お前さんのガス抜きは終わったか?」
佐之のその台詞で、ようやっと私も落ち着くを取り戻せた。普通政治家なら口が裂けても言えない、言ってはいけないような台詞だが今の私には我慢ならなかった。
「それを今の内に発散できてよかったよ。お前さんの場合、今言った内容よりも過激なことを
「すまない……………私もまだまだ政治家として未熟だな」
「いいさ、心の底を見せない機械のような人間よりも君みたいにソレを発露してくれる人間の方が一緒にいて楽しいしな」
「……………結局私は、人柱という訳か」
学園都市の支援を受け入れても受け入れなくとも、ましてや黙殺など論外。進退窮まったこの現状に対して半ば諦めかけた様な表情で、そう呟く。
「………………そう言うことになる。受け入れようが受け入れまいが誰かが傷つくのは絶対、傷付くのが沖縄にいる国民か私達政府と国防軍の面子か、それだけの違いだ」
彼の言った言葉に私は深く項垂れるようにして呟いた。
「これから私は真綿で首を絞められ続ける訳か………私の政治生命も、とうとう先行きが見えなくなったな」
◇◇◇
内閣官房で一人の男の進退窮まる中、しかしてその挺身によって沖縄に対する学園都市の特別支援措置の実施が認められることとなった。
沖縄上空を飛ぶ学園都市のステルス爆撃機、特設支援部隊の一環として沖縄に派遣された内の一機だが、その機内に”その少女”は居た。青色を基調としたセーラー服の上から黒い外套を纏う、という異質な風貌故なのか纏っている雰囲気は少女のそれではない。
無機質なまでに黒で統一された機体を時折揺らす小さな振動は、地上での爆発が伝播してきたものだろう。
『降下5分前、降下準備始め』
貨物室内に取り付けられたスピーカーに従って少女は席を離れた。だが降下準備といっても少女はパラシュートに手をかける訳でもなく、だたっ広い貨物室内の真ん中に佇んでいるだけに違和感を覚えざるを得ない。
「統括理事長」
そう言って少女に話しかけてきたのは還暦を迎えるであろう年頃の男だ。台詞が台詞なら既に事案にも見える組み合わせだが、男は深緑を基調とした学園都市の保安隊の軍服を着ていた。軍服の方にある肩章から察するに、男も相当上位の将官だという予想がつく。
「何だ」
統括理事長
学園都市の最高権力者を指す単語であり、一見すると少女にしか見えない彼女に投げかけるには些か不相応にも思えたが、少女は何ら疑問を呈さずに男に聞き返した。
「地上での交戦状況はおおよそ作戦通りです。敵魔法師の対応に手こずっているようですが、それ以外には大きな遅れは見られません」
「そうか、それで何か用か?」
男からの報告に対しても少女はあくまで、冷静に且つそれが当然であるかのように聞いていた。ここからも少女と男の関係にもある程度の予想がつくのではないだろうか。
「貴女のことです。説得などとうに不可能でしょうし元より諦めておりますが、せめてお怪我のないようにと思いまして」
「それくらい分かってるさ。…………島内に展開している保安隊とASRTの指揮は貴官が行え、いいな?」
「ご安心を。我々の実力を……とは言っても残る懸念材料は魔法師くらいのものですが、全力で臨ませて頂きます」
自信ありげに宣言して行くと、男は踵を返して貨物室内を去っていった。
『ハッチオープン、降下要員以外は貨物室内から退避せよ。繰り返す貨物室内から退避せよ』
アナウンスが流れた後に、ハッチがゆっくりと開いてゆく。少なくとも少女が得意する魔術では到達することができない高空、機内に流れ込む激しく肌を突き刺すような寒さの風が今いる場所の険しさを物語っている。
そんなことを歯牙にもかけず、少女は大空に向けて大きな口を開けているハッチの方にゆっくりと歩いて行く。
高高度降下用の装備もパラシュートすらも着けないまま少女は端の方に立った。というよりも既に足先がはみ出ており体重のかけ方次第では今にも落ちそうと言った雰囲気だ。
そんな状況で少女は前に体重をかけ始めた。
そんなことをすればどうなるか、誰にだってわかるだろう。
呑み込まれるようにしてダークブルーの世界に飛び込んだ少女は、落下の速度を真っ黒な外套を使って和らげていた。普通ならばありえない芸当だが、外套自体が何らかの霊装なのだろう。
「全ての男女は星である」
これは恐らく、魔法と超能力が一般的な超常となって以来初めて、理屈が根本的に違う超常が表の世界に漏れ出た初めての例だろう。
「後期魔道書より削除されし一文、秘奥を口伝にて開陳し、その振動を世界に伝える。マスターセリオンにまたがる叡智の聖母ベイバロンを見よ、かの御手にある金の血の供犠で満たせ。イシスにカーリー、女性神格の輝きとはすなわち赤。愚かなる旧態が封じた扉を打ち壊し、我、今こそ始源より星に根付いていた筈の天父と地母と理を解放せん」
遥か下方に見えるのは、上陸支援中の大亜細亜連合の機動艦隊だ。学園都市の援軍によって島内での劣勢を悟った大亜連合が送ってきた増援部隊だろう。揚陸艇の支援のために巡洋艦と駆逐艦を前面に展開させ、国防軍の海岸防御陣地対してフレミングランチャーによる砲撃を加えている。どうやらおあつらえ向きに大型の空母までいるようだ。
対する国防軍だが………その旗色は悪い。学園都市の増援があったとは言え数が限られる上に南北の最前線に充てられている。戦場全体で見れば日本・学園都市連合軍が優勢なものの、この上陸部隊が全くの無傷で上陸すれば横腹にナイフを突き立てられることになり、そのまま瓦解する危険性を秘めている。
それを分かっているからこそ、大亜連合艦隊からの砲撃が降り注ぐ中で陣地内に立て篭もる国防軍は文字通り決死の覚悟で戦うつもりでいた。
内陸の方では、今さっきまで少女が乗っていたのと同じような見た目の爆撃機数機が沖縄の空を低空で飛び交っていた。
HsB-08
学園都市の最新鋭ステルス爆撃機が上空から地表に空爆をくわえている。恐らく地上では、それまで人海戦術と波状攻撃によって優勢を確保していた大亜連合の地上部隊が逃げ惑っていることだろう。
今まで機動艦隊からの支援砲撃や航空支援を受けて沖縄を侵攻していた大亜連合軍部隊にとって、航空機の運航が制限されるほどの巨大台風やフレンミングランチャーによる全力の対空迎撃を全て掻い潜ってくる爆撃機など予想外のはずだ。野戦防空用の対空砲程度ではまともに対応できないだろう。
そんなことを気にも留めず、彼女は弓を引き絞る様に空母のでっぷりとした船体に狙いを絞り、詠唱を続ける。
「この世の善と悪に絶対はなく、全ては相対、不要なものなど何もない。創造の諸力は破壊のそれを上回る。故に力と力をぶつける迎撃でふせげるものにあらず。緋色の衝撃よ、自然にある生命の営みすら忘れた男性原理を今ここに撃ち抜けッッ!!」
落下が始まった。
勿論、自由落下ではなく眼下に広がる大亜連合の艦隊中央部に鎮座する大型空母の長大な飛行甲板に目掛けて赤い光が加速してゆく。
その後は最早、大亜連合側にはマトモな選択肢は無かっただろう。
それは、どれだけフレミングランチャーを直撃させようとも
ありったけの直衛機の迎撃を受けようとも
全艦からのCIWSの銃弾を喰らおうとも
その軌道を一切逸らさず艦隊の後方に展開する空母を狙っているのだ。恐らく兵士の考える事は一人一人違っていただろう。
ーくそぉ、あれは一体何だ!!ー
ーなぁ、おい、嘘だろこんなの………運が悪いってレベルじゃねぇだろ!!ー
ー何で……何で、あの赤い光はこっちに………ー
ー彗星………なのか?……ー
しかし、彼らの怨嗟の念は聞き入れられずに、赤い光は空母へ吸い込まれて行き…………
次の瞬間には、空母の巨大な船体を衝突の衝撃によって中央からV字型にへし折っていた。
◇◇◇
航空甲板を易々とぶち抜き、格納庫区画にまで到達している事に気が付いた彼女は辺り一面を見て言葉を溢す。
「ふぅ………………久しぶりに体を動かすというのも悪くない」
周囲を見渡すと退避が間に合わなかったのか、整備員やパイロットの身体が見るも無惨な姿で散らばっていた。勿論、辺り一面は血と火の海だ。
どうやら、先程の一撃は航空甲板に大穴をぶち開けるだけに留まらず、艦船の中核たる
「……………ふん」
そんな放送を聴きながらも、少女は自らが生み出した惨状に見向きもせず、その場を去っていった。
◇◇◇
甲板まで火災が広がる中、悠々とした足取りで飛行甲板に飛び出た少女は、周囲に響き渡る鳴り響いているアラートをことごとく聞き流しながら青色ブレザーのポケットからスマホを取りだす。
ここに来るまでに途中で遭遇した船員には少しの間眠ってもらう他に選択肢はなかったが、もう間も無く船と運命を共にすることだろう。
まぁ向こうから銃を向けてきたのだから仕方あるまい。
しばらくスマホを弄りながら大穴の空いた飛行甲板を散策していたがようやくお目当てのモノを見つけ出したのか、その項目をタップすると上空へ視線を向けて告げる。
「さて、この私からの餞別だ、あまり学園都市のゲテモノ技術をナメるなよ」
このスマホに詰め込まれた”コード”が何を意味するのか、それを知りうる人間はこの場にはいなかった。
すると、少女を投下した後に遥か上空に留まっていた豆粒程の黒い機体から、赤褐のカーテンの様な物が降り注いできた。
彼らの考える科学では到底あり得ない最悪の一撃が、旗艦を失い撤迷走する大亜連合の艦隊へと降り注でいく。
遥か上空から溶けて降り注ぐ砂鉄のカーテンには砲弾や銃弾など全く意味をなさず、降り注いできた砂鉄によって複数隻纏めて無慈悲に引き裂かれていった。
彼女は表情を一寸たりとも動かさず、駆逐艦や巡洋艦が抵抗虚しくも無慈悲に屠られていくという光景を見届けていた。
融解した砂鉄の刃は非常に高温かつ軽量で戦闘艦の装甲材を容易く、それこそ熱したナイフでバターを切るかの様に次々に輪切にされていく様子は、それこそ彼らの科学からは到底あり得ない事だろう。
数百億もの価値を持つ鉄の方舟が文字通り潜水艦へと改めさせられていく光景をさも当然かのように受け流し、端末を見やる。
そこには、現在の沖縄における部隊の展開状況が網羅されていた。
「作戦全体で大きな問題はなし………………………”右手”も予定通りか」
最大の懸念材料の無事が確認できた少女はそう呟くと、目的地を見つけたかのようにいきなり甲板を駆け出し海に向かって飛び降りた。
次の瞬間、さっきまで少女が立っていた場所から火花が噴き出す。
それだけでは無い。巨大な船体の至る所から火花が生じ、金属が引き裂かれるような音が響いており先が長く無いことが目に見えて分かる。
「あの右手が切り落とされたと聞いた時は焦ったが、どうやら上手く行ったようだな」
そんな呟きを後にして少女は海の上を駆けて、未だ爆発音の絶えない沖縄から離れていく。
通称、沖縄本島上陸阻止作戦。
国防軍の公開した情報によるとこの一連の戦闘では、うるま市海岸部への上陸を企図した大亜細亜連合の上陸部隊及び護衛の1個機動艦隊と、学園都市が試験的に投入した"対艦兵器"が戦闘を繰り広げ、最終的に大亜細亜連合側の上陸部隊と機動艦隊が壊滅的被害を負い、生存者無しという悲劇的な結果に終わった。
◇◇◇
虎の子の一個機動艦隊の消失と言う損害を出しながらも沖縄本島で戦闘を続けた大亜連合だったが、最後には司波達也と学園都市の近接航空支援を得た陸軍によって壊滅させられ、近代戦史に名を残すほどの凄惨な殲滅戦が行われたことを付け加えておこう。
大亜連合が沖縄を攻撃する前に突如現れた台風が沖縄を直撃する、果たして偶然で済ませられるでしょうか
用語解説
行政指導委員会
日本の内閣に置かれた各省庁の合同組織
日本国内であって日本でないという外交なのか内政なのか所管が分かりずらい学園都市との交渉をより簡素に正確にするために文科省や経産省、財務省などの学園都市と関わりを持つ省が合同で学園都市と協議するために内閣府内に設置された。
イギリスにも同様の組織があるものの、日本ほど規模は大きくない
保安隊
学園都市が誇る軍事組織
学園都市が有する科学技術に流出を阻止するという目的の下で設立された。
設立にあたっては日英両政府の了解を仰いだせいで日本では政府と国防軍の対立など多数の障害に見舞われたものの、今では世界的にもその必要性から軍隊として認められている
ASRT
正式名称 警備員
警備員内に設けられた対テロ及び対重犯罪、加えて高位能力者の暴走への対処に重きを置いた特殊部隊
一般の警備員よりも非常に上等な装備が支給されており、戦い方次第では学園都市の暗部とも正面切って争うことができる
類似する特殊部隊としてアンチスキル=アグレッサーが存在するが彼らはあくまでも学園都市の暗部を再現した特殊部隊であるのに対しASRTは暗部と敵対する上で必要になる武装や技能を備えた対暗部の完成形と言える存在
(実際は学園都市への侵入者の迎撃に充てられているため暗部と争うことは少ない)
HsB-08
学園都市の最新鋭ステルス戦略爆撃機
原作に出てきた爆撃機を順当にアップグレードしていった性能をしており、真新しいシステムなどは搭載していない。
フレミングランチャー
非科学サイド国家に広く普及している兵器
精度は良好とは言い難いが、高い速射性と1発あたりの加害範囲の広さ、艦隊規模で連動して使うことで精度の悪さをカバーし、高い対空対地打撃力を生み出す
原作のスペックそのままだとAGS155mm砲どころか現行のmk45mod4にすら射程で負けてる点を鑑み、原作だともっぱら対地攻撃だけに使われてましたが色々と設定を改変しました