魔術師の名を継ぐ者   作:ローズライン

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正直言って七草会長に対する口調って何が正解なのか分からない。
あと、地の文も偽名であるアリスの方で統一するつもりですが、アレイスターの方が良かった教えてください


入学編の前日譚 ー prepare for scenario ー

第三次世界大戦前、霞ヶ関に行政の心臓部として中央合同庁舎が置かれていたことは言うまでもないが、それによって”かの大戦”の最中の多数の問題が発生した。具体例としてあげるなら、皇居外縁部で同時多発的に発生したバイオテロとそれに伴う行政機能の一時的喪失があるだろう。

 

それまでの霞ヶ関は、大戦の影響で悪化した社会保障体制を改善するように訴える群衆がデモ隊を結成して連日練り歩いており、それがあるテロ組織の目に留まったのだろう。

 

 

 

十字教恭順派

 

 

 

第三次世界大戦の発生を神による最終審判の前兆であると捉えて、万人の審判を完了するために神意(プロヴィデンス)にそぐわない死や肉体の喪失を過度に厭い、例え理性や人間らしさを失ってでも審判が完了するまで肉体が残り続けることを是として勃興した十字教の超過激集団だ。

 

彼らが白昼道々と実行したバイオテロはデモ隊や警官、加えて霞ヶ関を含む皇居外縁で働いていた民間人など数万人単位の死傷者を発生させ、使用された生物兵器が空気感染性で既存の(軍用を除く)科学防護服を浸透する性質を持っていたため、魔法師以外に活動できる人員が限られてしまい一時的に東京23区全域にバイオハザードが発令されたほどだった。

 

 

 

 

 

 

こうした事例を踏まえて、第三次世界大戦後の初代茅葺政権が掲げた列島再建事業においては中央省庁の所在地はリスク分散の観点から仙台から北九州に至る太平洋沿いの都市に分散されていった訳だが、それはこの国の教育やスポーツ振興を総括する文部科学省とて例外ではない。

 

 

 

 

 

名古屋市 文部科学省庁第1庁舎

 

新学期を目前に入学式の準備に追われていた第一高校生徒会長の七草真由美は、同じく第一高校の校長である百山先生を伴って文部科学省のある人物の下に訪れていた。

 

 

訪れた、という表現は適切ではない。正確にはその人物に呼び出されたという方が正しいだろう。

 

正直な話、真由美としてはよりにもよって入学式を控えた時期に呼び出されたことに対して、少なからず納得がいかなかったのだが、呼び出した人物が言うには重大事項かつ機密情報であるので必ず来るように。そこまで言われてしまうと断るわけにもいかず、入学式の準備を残りの生徒会メンバーに任せて第一高校のある八王子からこうして名古屋までやってきていた。

 

 

キャビネットを降りると目的の人物が正面玄関で出迎えのために立っているのが見えた。

 

 

「お忙しい中お呼び立てしてしまい申し訳ない」

 

 

「いえ、局長さんもわざわざ出迎えていただいてありがとうございます」

 

 

慇懃な態度で頭を下げている男と形式的な受け応えをしていると、同じくキャビネットから降りてきた百山先生が彼に声をかける。

 

 

 

「辻局長からの話とは一体何でしょうか?」

 

辻康太、それが男の名だ。彼は30代の若さで文部科学省の魔法教育局の局長までのしあがった辣腕家として有名であり、慣例的に二十八家の人間が担ってきた同局の局長を一般家庭出身の魔法師として初めて任命されたということから魔法師の社交界でも名前を耳にすることが多い。

 

彼が頭を上げたところで百山先生がそう尋ねた。ロビーで聞くような質問とは言い難いが、仮に小声だとしてもここで話せないような話ならそれだけ彼が言っていたように機密性の高いものだと言うのも納得がいく。

 

 

 

眼鏡に隠れた彼の目から表情の変化を窺い知ることはできないが、代わりに

 

「まずは局長室までご案内させていただきます。詳しい話はそこで」

 

 

 

そういってくるりと振り返った彼は、周囲の視線を気にするかのような急ぎ足で建物の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「こちらです、どうぞお入りください」

 

 

エレベーターを使って建物を3階ほど上に登ったところで局長室というプレートのついた扉の前についた彼がこちらを向き、その中に入るように促した。中に入ると生徒会室と同じくらいの大きさの、しかも上等にしつらえられた部屋が二人を迎えた。部屋に入った彼がデスクの前に置いてある来客用の椅子に腰掛け、二人にも座るように示した。

 

 

 

「わざわざ局長室まで案内していただいてどんなお話でしょう?」

 

促された通り椅子に座るや否や百山先生がロビーで尋ねたものと同様の質問をする。彼もアイスブレイクのようなものは望んでいないだろうし、それが必要なほど初めましての関係でもなかった。

 

 

 

 

先ほどと違って百山先生の問いかけに彼は誤魔化す事なくストレートに答えた。

 

「新年度から、第一高校に”ある人物”を編入させます」

 

 

 

 

 

「…………どういうことです?」

怪訝な表情のまま要領を得ない辻の説明に百山先生が疑問を投げかける。隣に座っている真由美にも全く話が見えなかった。編入といっても既に新入生の選抜は終わっているし、場合によってクラス分けも1からやり直す必要ががある。そもそも近年の学校教育においては生徒自身による学校自治を重視する潮流がある中で、大人の側からのこうした介入は滅多にない事だ。

 

 

 

「これは……政府からの通達で、私程度(局長クラス)では最早どうしようもない案件です」

百山先生の疑問に答えるように辻局長がつらつらと話し始めた。先ほどの単刀直入な言い方と異なり政府からのお達しということでおそらく頭の中で慎重に言葉を選んでいるのだろう。

 

 

 

「クラス分けについてもほとんど確定している中で無理を言っているのは承知の上ですが、何卒お願いします」

 

 

「えっと……まず理由から教えていただけますか?」

ずっと頭を下げられるわけにもいかないので、百山先生が質問を投げかけた。

 

 

 

 

あまり聞かれたくはないのか、局長室にいるというのに辻は声を細めて喋り出した。

「……………お二人は、インテグレート計画なるものについて何かご存知ですか?」

 

「いえ……特には」

特に聞いたこともない言葉だったので真由美たちは首を横に振る。

 

 

 

 

 

「…………現在、国際魔法協会は魔法師や魔工技師の”国際交流プログラム”の根回しを水面下で行なっています。プログラムを提唱し主導しているのはギルバート=ハイネマン。マクシミリアンデバイスの重役であり、USNAの現大統領であるロベルト=カッツェ氏の支持者でもある人物です」

 

「話題が逸れてしまいましたが、そのプログラムの名前が「インテグレート(統合)計画」、外国からの新技術流入によるブレイクスルー、CADや魔法式の設計思想の硬化防止、それらによる世界的な魔法技術の水準を向上させることを見込んだもので、科学サイドに比べて機密や国防の観点で多国間での技術交流の乏しい魔法サイドを大きく発展させるためということを、表立っての目的としています」

 

 

 

「表立って、ということは何か別の目的が……?」

真由美の疑問に辻は無言のまま首肯した。

 

 

「この計画が仮に実現したとして、それで最も利益を得るのはUSNAです。意外かも知れませんが……………少なくとも政府はそう考えているようです。何故だか分かりますか?」

 

 

「……………USNA独自の規格や設計を国際化させる事で影響力を増やす、ということですか?」

 

 

 

 

「それで凡そ間違いないでしょう。今この世界で最も魔法研究が進んでいるUSNAから技術供与あるいは彼らとの技術交流が行えるとなれば、中東やアフリカ、東南アジアや欧州の魔法後進国はこぞって参加するでしょう。言うなればメートル条約によって世界の度量衡がメートル法に統一されたのと同じような効果をもたらすと予想されています」

 

 

かなりあけすけな口調で語る辻の推論に百山先生が疑問を投げかける。

 

 

「つまり………USNAの影響力が拡大することが好ましくない、と?」

 

「えぇその通りです」

魔法研究や安全保障をめぐる隔たりこそあるものの、同盟国であるUSNAに対して政府がここまで警戒感を募らせているのは二人にとって意外なことだった。それなりに社会情勢に理解がある二人もUSNAが仮想敵であるというのも理解はできるが、それでも大亜連合や新ソ連の方が優先だろう思っていただけに驚きを隠せなかった。

 

 

「USNAと安保条約を結んでいる我が国にとって相応しくない悩みかと思いますが、我々には第3次世界大戦で彼らに裏切られた(在日米軍がハワイに全面撤退した)経験があります。それに安全保障で米国にがんじがらめにされた戦前の反省も踏まえて、世界が再び米国の一極状態になるのは避けなければならない。そういう理論が働いたのでしょう」

 

 

 

 

「まぁ他に国内メーカーから参加させろと責っ付かれれていると言うのもありますが、我が国としてはインテグレート計画への参加したい訳です」

 

「それと今回の編入がどういう関係に?」

 

「順を追って説明しましょう。そのプロジェクトの根回しの最中に我が国も参加する旨の意向を彼らに伝えたのですが、どうやら素気無く断られたようです」

 

「断られた!?………どうしてです?」

驚愕とも言える表情を浮かべ、百山先生が声を強めた。

無理もない。本来中立的であるべき国際魔法協会がここまで恣意的な行動をするとは政府ですら思っていなかったのだから。

 

「マクシミリアン、ひいてはUSNAにとって魔法後進国への技術提供、要は他国への影響力拡大を狙っている時に競争相手になりそうな………特に日本やドイツのような魔法先進国は邪魔な存在です。ですからそれらしい理由をつけられて追い返されたと聞いています」

 

「なるほど………そう言うことでしたか」

 

「………聞くところによると『日本は異能力者や技術者同士の交流という点において、学園都市という魔法とは異なる異能を扱う機関を国内に擁するという恵まれた環境にも関わらず、それを活用しようとする意思すら見せずにプロジェクトへの参加を打診するのは如何なものか』だそうです」

 

「となると、お話にあった編入させる生徒と言うのは学園都市の生徒でしょうか?」

大体の予測はついたが確認のために真由美が尋ねると、辻はため息をついて今までとは異なり弱々しさをにじませる声で応えた。

 

「…………そう言いたいところですが、先方(学園都市)もいきなり頼まれて「はいそうですか」と簡単には首を振ってくれないものでして、まず科学サイド側から生徒役となる者を魔法科高校に編入させ、安全面や情報面での評価を行いたいという事です。扱いとしては短期の留学生ということになります。学園都市(日本国内)から来るのに留学というのも変な話ですが」

 

 

「なるほど………概略は理解できました。そういう事情でしたら手配致しましょう」

 

「真由美さん、生徒会長の君に確認を取らず進めてしまったが、構いませんね?」

 

大人からの有無を言わさない強引な介入という生徒による自治を重視する風潮に反した政府の行動に真由美は少なからず反感を抱いていたが、だからと言ってそれを目の前の彼にぶつけたとしても解決できるわけではない以上、首を縦に振るしかなった。

 

 

生徒会長である真由美が了承したことでこの話題も終わるかと思われたが、機を見計らっていたのか辻が切り出した。

 

「そういうことでしたら、彼女のことも早いうちに紹介しておきましょうか」

 

「入ってきたまえ」

 

 

真由美達が入ってきた扉とは別の扉、おそらく隣の部屋に繋がっている扉に向かって辻がそう呼びかけた。口ぶりからすると隣に部屋にいるには科学サイドから留学してくる生徒ということだろう。

 

 

 

『失礼します』

 

そういって局長室のドアを開けて入ってきた人物に目を奪われてしまった。

銀髪碧眼といういかにも日本人離れした出立ちに加えて、可愛らしく整った顔立ちは美形が多いと言われている魔法師と比べても珍しく感じるほどに完成されているように見えた。

 

 

「(お、女の子!?)」

 

 

入室してきた少女は辻の隣に立ち、彼に英語で耳打ちした。

 

『こちらの方々が?』

 

『はい、貴女が編入する高校の生徒会長と校長先生ですので挨拶するのであれば今のうちに』

 

『分かったよ』

 

 

短いやり取りの後に真由美に向かって彼女は手を差し出した。

 

彼女が辻としていたネイティブらしさを感じさせる英会話を聞き取れるくらいの語学力はあるつもりだが、一言一句聞き逃すまいと身を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

「お初にお目にかかる。2095年度付で魔法大学附属第一高校に編入することになった、アリス= T (テア)=クローリィだ。アリスと呼んでくれても構わんよ?」

 

 

不自然さのない、顔を隠せば日本人と言っても騙せるほどに流暢な日本語に真由美をはじめに百山先生だけでなく、先ほどまで英語でやりとりをしていた辻までも完全に思考が硬直していた。

 

「よ、よろしくお願いします?」

 

慌てて真由美がアリスの手を取ったところで悪戯が成功したかのようなに彼女は口角を上げていた。

 

「これが私の身分を証明するものとしてストライニコフ議長から預かったものだ。七草会長の方で確認してくれれば詳しく分かると思うよ」

 

そう言って彼女が羽織っていた上着の内ポケットから封筒を差し出され受け取った真由美だが、その意識はまた別のところに向けられていた。

 

 

「……えっと、私の名前」

 

 

自己紹介をしていないのに自分の苗字を言われてことについてきょとんとしていると、アリスが特に遠慮した様子もなく釈明した。

 

「お二人のことは事前に調べさせてもらった。最低限の礼節としては必要だろう?」

 

 

アリスの口から放たれた言葉は自然なように思えて含みがあるようには聞こえないものだった。事実百山先生も辻局長も特段何か引っ掛かりを感じさせる顔をしておらず、留学先のことについてきちんと調べる真面目な人物くらいにしか認識していないだろう。それでも真由美は実際に首に刃物か何かを突きつけられたかのような気にあてられた。

 

 

「これからよろしくお願いしますよ、七草先輩?」

 

 

科学サイドからの留学生、その正体は全く底の見えない少女。案外彼女は留学生だとかそんな言葉だけで表せるものではないのかもしれない。真由美はそういう謎に確信めいたものを感じざるを得なかった。

 

 

 

 

 




用語解説(今後多分出てこない)
十字教恭順派
第3次世界大戦中に生まれた十字教内の過激派組織
世間一般ではテロリスト集団と認知されているが、その実バリバリの魔術結社
単純な魔術だけでなく、科学との融合にも積極的だったらしく多数の生物兵器や銃火器を有しており、世界の大都市でウイルス兵器をばら撒いていたため各国政府の恨みを買い、国際的な共同戦線が作られ殲滅戦が行われた
この殲滅戦の最中に魔術に関する情報の一部が魔法サイドに流出してしまい、以降イギリスやローマ、ロシアなどの魔術サイドが捏造工作に奔走することになった

文部科学省魔法教育局
一般教育局や教育政策局と同様に文科省管下の部局
非魔法師と魔法師では教育課程に違いがあるため、それに対応するために新設された
局長は代々魔法師の有力な家系である二十八家の関係者がなってきたが、任命された本人にとっても十師族の基本方針である表の権力を放棄するという方針に真っ向から反する為、あまり歓迎されてはこなかった。
しかし魔法師への理解に乏しい人間に局長をやらせて次世代の教育に不利益を被らせるわけにはいかないとの考えの元で、この職に関してのみ前述の方針を適応しないと師族会議で決まったことで嫌々ながら局長に就任するという歪な慣例が続いていた

辻康太
魔法教育局局長
今まで二十八家の関係者が局長を務めてきた魔法教育局で初めて一般の生まれで局長まで上り詰めた人物
第一高校のOBであり、在学時は二科生
局長クラスで30代と非常に若いため元総理である現文部科学大臣のコネで抜擢されたと噂されていたが局長任命以降、不足している知見を広めようと必死で働き詰めたおかげで同年代と比較して多くの経験を積んでいる。

ウェイスランド=ストライニコフ
H.S.Cの経営から業務の執行に関わる上位者で構成された合議制の議決機関「最高経営幹部会」の議長を務めている老人の男性
原作では反学園都市サイエンスガーディアンの長の一角を務めていた。
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