死ねない剣客は死合いたい   作:ペペロンチーノω

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山荒らし

「ど〜なってんだぁこの暑さは……いくら水飲んだって足りないじゃないか……」

 

 あまりの暑さに文句が出る。

 原因がウルス(魔素)の乱れが招く異常気象という目に見えない現象ではなく、ドラゴンという明確な形ある存在として在るだけまだマシなのだろう。

 

 それにしたって暑過ぎだ。たった二匹のドラゴン、炎龍と海龍のドンパチで世界規模の異常気象を引き起こすとかこの世界のパワーバランスどうなっとんのや。

 

 竹をちょいと加工して作った水筒の中身も無くなりつつある。節約して飲まなきゃならないが…それを許してくれるほどこの暑さは優しくない。

 ちょっと歩くだけで汗ダラダラ。竹の皮とかを使って作った三度笠も出来が悪くて隙間だらけ、その隙間から日差しが入り込んで頭を熱してくる。

 

 こりゃ近いうちに作り直さないといけないな…笠としての役割をどこかに放り投げている。

 

「最高の蜜をすすらせてもらった身としちゃ有り難いけど……にしたって参るなぁ…」

 

 この暑さは何も害だけじゃなかった。私も甘い蜜をすすらせてもらったし、その密のお陰で日々の生活に必要なお金を稼ぐのも格段に楽になった。

 

 楽にはなったが、それでもやはり私は欲深かった。恩恵を齎してくれたこの暑さに対して不満が漏れてしまう。

 

「この山に住み着くとかアイツら根性あんなぁ……死んでてくれりゃあ楽なんだけども」

 

 水筒をベルトに引っ掛け、コートのポケットに手を突っ込む。お仕事3回分くらいのお給料で買ったものだ。

 ありとあらゆる攻撃に対してある程度の抵抗を有するっていう素敵な能力が込められたコートだけども、長い付き合いだから所々がほつれたり破れたりしている。

 

 ゴソゴソと中を漁る。魔物避けの煙草箱を押し退け、取り出したるはこの山に住み着いて好き勝手やっている山賊達の手配書。結構被害が出てるみたいで、一人一人に付けられている懸賞金も結構高い。

 頭目は40万ゴルド、それ以外は20万ゴルド。皆殺しに出来れば3ヶ月は遊んで暮らせる……数十人殺して3ヶ月だよ、税金重過ぎる。

 

「はあぁ〜……」

 

 人殺すのだって慣れたよ。この世界に生まれて20と数年、賞金稼ぎとして生きてきた。今まで手にかけてきた人数も分からない。

 山賊とか悪徳貴族とか奴隷商人とか、人様の不幸をエサに生きているゴミ共だから罪悪感も無い。

 

 無いけどさぁ……人殺して3ヶ月分の生活費だけってなるとどーしても虚しくなる。溜息だって出るさ。

 

『深イ溜息ジャナイカ』

 

 頭に響く、低い女性の声。深い溜息吐くなって方が現状じゃ無理な話だよ、人の命奪っといて3ヶ月分だよ?

 

 このコートを新品にするとなればもっとお金が要る。何百人殺しゃ良いのか分かったもんじゃないし、屍塚作って得たお金がポンッと消えるのは見てて辛いわ。

 

「あーたみたいなバケモン様には分からない悩みですよ。人の世は金金金でとかく生きにくいんですから」

『ソノ人ノ世デ生キル道選ンダノ、オ前様ジャナイカ』

 

 呆れたような声だ。なんでそんな選択したんだって、心底呆れているのが伝わってくる。

 

 まぁ、この人の言い分も分かるよ。死闘して認め合って、飲食も睡眠も必要ない混ざり人になる道もあったのにそれを選ばなかったのは自分自身だしさ。

 

『混ザリ人二成レバ良カッタノニ』

 

 混ざり人。

 

 それは人だった者がこうやって頭の中に語り掛けてくるような異質なる存在と契約を交わしたモノの総称。

 

 容姿だけは混ざり人と成る前の姿を残すものの、中身はまるで別の存在に成る。

 飲食を必要とせず、眠りを必要とせず、不老不死となり病とも無縁。世間一般では仙人とか言われる類の存在、それが混ざり人だ。

 

 時代が時代ならどんな人だって渇望するであろう存在になる道を、私は選ばなかった。

 選ぶ権利があったのにその大多数を手放して、僅かばかりの残滓に満足してしまっている。

 

「死なないとかつまらないでしょう?」

 

 混ざり人になったら、精々生きても80年の純人(じゅんじん)とは隔絶した存在になる。昔の人が求めた不老不死だって手に入る。

 

 でも、それじゃ余りにつまらない。

 斬って斬られて、刺して刺されて、打って打たれて、撃って撃たれて……そんな心躍る命の奪い合いの果てに、私だけ死なないってのは本当につまらない。

 

「戦い以外で死なないし老いないし病とも無縁、これでもう十分です。私が満足に生きるには、十分過ぎるくらいに貰っています」

 

 今の私は純人と混ざり人の中間、半端者だ。しっかりとした契約を交わした訳じゃないしね。

 

 死にもしない、老いもしない。普通に生きている限り、私は絶対に死なないし絶対に老いることは無い。病にもかからない。

 私生活では混ざり人に近いんだ。飲食はするし寝るのも大好きだから純人と同じことをしているけどね。

 

 でも戦っている間だけなら純人になれる。

 戦っている間は寿命を消費するし、戦いの最中に病にかかることも風邪を拗らせることもある。

 

 戦いの果てにならば、私は死ぬ事ができるんだ。

 

『…ハァ。儂、契約相手ヲ間違ッタノジャナカロウカ…』

 

 深い溜息を今度は向こう側が吐いた。心底呆れたような声だ。

 失礼な人だなぁ、本人いる所でそんなことを普通言うかなぁ?

 

 こんな声の人に私、両足食いちぎられたってマジかぁ……

 

『ムリもないよ。このヒトがイカれてるの、イマにハジまったコトじゃないでしょ?』

 

 もう一つ別の、幼い女の子みたいな声が聞こえてくる。この人も酷いよ、本人いる所でイカれてるとか言う?

 

「フカ様酷くないですか? 私だって酷いこと言われれば傷付くんですよ?」

『ヒドいはボクがイいたいコトバだよ!』

 

 不服申し立てすると向こう側もぷりぷりと怒り出した。

 

 いや、まぁ……酷いことしたとは思うよ? 片目殴り潰して、背鰭斬り落として、ろくに動けなくして仕留めたからね。

 でも酷い事は私だってされたんだよ? 右腕と腰を食いちぎられたし、お互い様だと思うんだけど。

 

(フカ)ヨ、マトモニ相手ヲスルデナイ。身ガモタヌゾ』

『んえぇ〜? それはムリだよ。ボクたちの契約アイテだし、ボクからすればハツコイのヒトだよ? それともなに、オロチはスきなヒトをほっとくセイヘキでもあるの?』

 

 助け舟を出したオロチ様だったけど、その船にフカ様は乗るどころか船底を尾鰭でぶっ叩いて転覆させちゃった。

 

 とんだ誤解だ、とオロチ様が顔を真っ赤にして怒る姿が容易に想像出来る。

 それを見てフカ様がうっそだぁ、と揶揄う。楽しそうに笑っている顔が脳裏に浮かぶ。

 

 あーあー、取っ組み合いになったわ。フカ様の体にオロチ様が巻き付いて締め上げてるよ。

 

『いだだだだだだだ! シめないでぇ〜! ツブれるからぁ〜! ナイゾウトびデるぅ〜』

『イデデデデデデッ!? 貴様ノ鮫肌ハドウニカナランノカ!』

 

 そしてお互いダメージを負って苦痛の声を上げ、じったらばったらとのたうち回っている。何やってんだかこの人たちは……

 

 こんな面白トンチキ蛇とサメだけど、山神様と海神様というエラい方々なんだよな……普段の生活だと実感湧かないんだけど。

 

 というか、神様2柱を弱らせるドラゴンってどんだけ強いのよ……旧神とかではなく現役バリバリの神様を、だ。

 おお怖い怖い。逆鱗に触れないよう細々と生きて行きましょうかね。

 

「…さて、と。感心しないなぁ、盗み見とは」

 

 お二人のドッタンバッタン大騒ぎに紛れて聞こえた、草木を掻き分け移動する足音。

足音の間隔から人間のもの。魔物避けの煙草も吸っていたし、この山に生息する魔物に二息歩行の生物はいない。

 

 それに香ってくる、私に対しての明確な怒りと殺意。

 まぁ、無理もないわな。右手に持っている手土産、奴さん等には効果てきめんだろうからな。

 

「ほら! 受け取りな!」

 

 もぎ取った仲間の生首(とっておきの手土産)を、強く香り立つ怒りと殺意の方向へと投げてやった。

 その瞬間ぶわぁっと殺意が盛り上がり、手土産のお礼だとばかりに草木の間から飛び出してくる槍や弓矢、魔術で生み出した火球に氷塊。

 

 これがいきなり飛び出してくるとなれば、身構えてなきゃ対応は無理だろうね。初見殺しも良い所だ。

 

「足りないなぁ…」

 

 でも、私を殺すにはあまりに不足している。密度も薄いし魔術の練度も低い、槍や弓矢といった武器も粗悪品だらけ。

 それにこの手の初見殺し、何度も乗り越えている。

 

 右腰に差していた刀を抜いて、飛来するもの全てを斬り落とす。

 長年愛用しているし、あちこち渡り歩いて色々学んできたからある程度の勝手も掴んでいる。

 

 武器なら危険な箇所を切り落とせば良いし、魔術で構成された物体ならその中央にあるケルン(魔原核)を切断すれば良い。

 弾幕を切り落とされた動揺が駆け巡るのを感じ、ざわめきとなるのを聞き取る。攻め込むには、またとない好機だ。

 

「さぁてと……お仕事開始と行きますか」

 

 さっさと済ませてしまおう。お金を稼いで、楽しい命の奪い合いの果てに死ぬ日までの活動資金を得よう。

 

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