死ねない剣客は死合いたい   作:ペペロンチーノω

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お仕事 1ー1

お仕事を開始して1時間くらいが経過した。

 

 この山、今回のターゲットである山賊達に都合が良いように手を加えられている。

 

 地中に張り巡らされた隠し通路、視界の死角を作り出して奇襲攻撃を仕掛ける為の遮蔽物、山賊以外の通過を検知して魔術を自動で放ち攻撃する迎撃機構。

 

 

 

 面倒くさいことこの上ない仕掛けが目白押しと来た。

 

 一見緑生い茂る自然豊かで綺麗な山だけど、その実は山賊に好都合な悪意と多くの犠牲者の血涙に塗れた地獄のような山だ。

 

 

 

 色々と仕込みつつ攻略しているせいでかなり時間がかかっている。

 

 

 

「ほいほいっと、これで33人目」

 

 

 

 ま、私には通用しないんだけどね。

 

 

 

 水系統の魔術で生み出した、水を着色・固形化させて生み出した偽物の岩の後ろから飛び出してきた山賊を斬り伏せる。

 

 突き出された剣を側面から刀の鞘で打ち、体制を崩した所を顎狙いで蹴り上げて反り返らせ、ガラ空きの腹部を横薙ぎに斬り払う。

 

 

 

 顎を蹴られて失神していたんだろう、声もなく死んでいった。足元に転がる斬り分かたれた上半身と下半身を見下ろしつつ、刀身に纒わり付く血と油を山賊の衣類で拭い取る。

 

 

 

「これでまだ十分の一くらいか……どんだけいるのよこの山賊団」

 

 

 

 この山賊団は手配書が発行されている人物だけでも300人くらいいる。

 

 私の故郷にいた山賊はもっと少人数で、拠点もこんな山全域に及ぶような広範囲なものでは無かった。田舎だったのもあるのだろうが、比較対象と比べてこの山賊団は大規模だ。

 

 

 

 面倒くさいったらありゃしない。慣れたとはいえ人殺しを長時間やるのは疲れる。

 

 人体ぶった斬るのだって技術が要るんだ。下手な力加減で骨に刀身当てようものなら刃こぼれ引き起こしかねないし、場所を見定めつつ斬らなきゃならない。

 

 

 

「あーもう暑い! なんでこんな空調も悪いような場所に巣食ってんだコイツら! 死にたいのか!?」

 

 

 

 そこにこの暑さだ。まだ昼にもならないというのに気が狂いそうなくらいの暑さで、こうも暑いと疲労と相俟ってイライラしてくる。

 

 

 

 雑な仕事もしたくなるというもの。刀じゃなくて、殴る蹴る主体で思いっ切り暴れ散らかしたくなる。

 

 だけどそれをやるとお金減るんだよなぁ……

 

 

 

「死ねぇぇおごっ!?」

 

 

 

 短刀を構えて突っ込んできた山賊の手首を手刀で突き刺し、首を鷲掴みにして押し倒す。

 

 

 

 なんか世間じゃ私は『剣客』なんて呼ばれているらしいけど、刃物しか扱えないって訳じゃない。

 

 そもそもだ、刀は結構重たい代物だ。それを思う通りに振り回すとなれば素の身体能力だって相応なものを求められる。

 

 

 

「はい、34人目」

 

 

 

 鷲掴みにした首を握り潰し、終いとする。

 

 

 

 この苛立ちを発散する為に顔面を殴り潰してやろうかとも思ったが、それをやると身元確認が出来なくなるからその願望を何とか抑えた。

 

 

 

 腰部に差している、首を断ち切る為のナイフを取り出す。愛刀に比べれば半分にも満たないサイズだけど、その分取り回しは良好だ。

 

 首を握り潰され、喉元をえぐり取られながらもまだ辛うじて息のある山賊の首にナイフを押し当て、斬り落とす。

 

 

 

「よっ、よくも仲間をッッ!?」

 

「はい、35人目」

 

 

 

 山賊なりに仲間意識があったんだろう、立腹して飛び出してきた次の山賊をコート内に隠していた拳銃で射殺する。

 

 

 

 私は剣客だとか言われているけど、剣術に拘っているなんてことは無い。

 

 使えるものは何だって使う。素の身体能力も武器になるし、食いちぎられた部位は義手義足に置き換えて武器を色々仕込んでいる。

 

 

 

 まぁ、魔術は使えないんだけどねぇ……そっちの才能はからっきしだ。

 

 魔術は子供でも極めれば魔物を倒せる代物、強力な武器だ。それを使えないからこそ、そこを埋め合わせるのが刀剣やら銃やらの武器にオロチ様とフカ様との契約だ。

 

 

 

「オロチ様、お願いします」

 

『了解シタ、儂二任セヨ』

 

 

 

 斬り落とした首はかなりのサイズ感と重量があり、持ち歩くのには大きいし重い。

 

 どこかに集めて置くのも手だろうけど、それをやって同業者に盗まれたりするとタダ働きで胸糞が悪い。

 

 

 

 以前は首を入れて持ち歩くカバンを使っていたけど、オロチ様と契約してからは回収と保管を手伝ってくれている。

 

 普段は姿を消しているけど、こうしてお仕事となると姿を現してくれるのだ。

 

 声掛けに呼応して純白の鱗と緋色の瞳を持つ、美しい巨大な蛇が駆け寄ってきてくれた。

 

 草木をミシミシ薙ぎ払いながら……大きく開けた口に山賊達の生首を入れた状態で……絵面怖ぇ〜

 

『ザット50人ッテ所ダナ。儂ノ方ガ働キ者ダナ♪』

 

 

 オロチ様はオロチ様で独自に動き回り、山賊を殺して首を集めて来てくれる。

 

 私なんか軽く一口で食べてしまえるような巨体で器用に首だけを食いちぎるのだ。手配書の内容も把握しているし、神様ということもあってまぁ強いこと強いこと。

 

 

 

 仕事仲間としては助かるけど、負けず嫌いな性格をしているせいかしょっちゅう競争を持ち掛けてくる。

 

 私はそこまで仕事に真剣って訳でも無いし、競っているといつ認識も無いんだけどなぁ……

 

 

 

「いやいや、競い合いじゃないですから。首の確保、ありがとうございます」

 

 

 

 持っていた生首を投げ渡す。バクンッと勢い良く口を閉ざして生首を受け取り、飲み込んで保管してくれる。

 

 

 

『ねぇねぇオロチぃ〜……ボクにミせつけてるよねそれ? マンゾクにウゴけないボクにミせつけてるよね? カむよ?』

 

 

 

 フカ様は水辺でないと自由に動き回ることは出来ない。

 

 出来るのは精々、私の身の回りに手のひらサイズで出現して話し相手になること、私の背後を見てその情報を脳に送り届けてくれることくらいだ。

 

 

 

『アア、見セツケテイルトモ。儂、前回ノ仕事デハ出番無シジャッタカラナ!』

 

 

 

 フカ様と比べてオロチ様は動き回れるフィールドは多いけど、フカ様と私の契約が邪魔をして水辺や水中では現在のフカ様と立場が逆転する。

 

 

 

 前回は水辺での仕事、とある街の水質悪化を引き起こしている原因の調査と改名だった。

 

 そのせいでオロチ様は出番無し。フカ様の仕事っぷりを見せ付けられていたからか、今回は自分の働きぶりを見せ付けてやろうという魂胆が見え見えだ。

 

 

 

「これで殺した数は85人。大体3分の1かぁ」

 

 

 

 オロチ様の活躍で山賊団は3分の1が死んだことになる。痛手も痛手だ、頭目にとっても無視出来ない被害だ。

 

 

 

 関係性はどうであれ同じ山賊として生きてきた奴が殺され回っているんだ、頭目が出張ってきても何らおかしくない。

 

 なんならそれを私は望んですらいる。

 

 

 

「頭目の気配は?」

 

『感ジヌナ。身隠シノ香デモ焚イテイルノジャロウ』

 

『ボクにもワかんないなぁ……匂いがしないんだよなぁ……』

 

 

 

 山賊団の頭目『女盗』カーデン。

 

 赤髪長身の美女だとかボンキュッボンだとか色々必要性を疑う情報が上がってたけど、まぁそこは置いとこう。

 

 

 

 コイツ、自分の痕跡を消すのが上手い。

 

 オロチ様とフカ様は種族的には神様だけど、人である私と契約を交わした事で色々な能力が低下している。

 

 それもあって神の目からすら逃れ、姿をくらましている。

 

 

 

 こんな疲れるし暑いしで劣悪な環境で頑張って、それでいて最大の目当てが出てこないのだ。面倒くさいったらありゃしないよ。

 

 

 

「早く出てきてくんないかなぁ……」

 

 

 

 身を隠すのが得意な女であり、不利と見ればすぐに逃走を選ぶこともある女だ。それをやられるとヒッジョ〜〜〜に困るのだ。

 

 

 

 山賊の首を取るのは身分証明の道具以外に、胴体を残して頭目を煽る目的もある。

 

 首だけ取られてゴミみたいに打ち捨てられた肉体を見れば、頭目は無視出来ないだろうなぁと思ったんだけど……

 

 

 

 綺麗な状態で残しすぎたかな。もっと不必要に傷付けておけば怒りを煽っておびき出せたんだろうか。

 

 

 

「はぁ……仕方ない。仕掛けの方を確認しよう」

 

 

 

 山賊団の予想活動範囲を取り囲むように仕掛けておいたシュリーセン結界魔具は、縦に引き伸ばしたらっきょうのような形をした魔具だ。

 

 地面に突き刺しておくとシュリーセン同士の間に強烈な麻痺魔術の膜を張り接触したものに麻痺魔術を付与して痺れさせ、動けなくする。

 

 

 

 カーデンのことだ、過去の傾向から仲間を見捨てて逃げるという択を選ぶ可能性だってある。

 

 彼女を殺して残党と化した山賊をとっ捕まえ、トンズラここうとした彼女をとっ捕まえる。欲深い私にはうってつけの道具だ。

 

 

 

 シュリーセン一つ一つに私の魔力が登録されている。

 

 後、遠隔魔術を使えば直ぐに状況を確認出来るのだが……私、魔術は身体強化魔術しか使えない出来損ないなんだよねぇ……

 

 

 

 街中とか合同作戦とかで魔術ポンポン使う人達を見たり、年下の子とかが魔術で無双する姿とか見ると涙が出るよ……悔しいのやら若い芽の躍進を喜んでいるのやら。

 

 

 

「オロチ様ぁ〜。頭に乗せてってくださ〜い」

 

 

 

 確認しようと決めたはいいけど、山賊団の予想活動範囲が広いせいでシュリーセンも結構な遠方に設置してある。

 

 

 

 そこまで歩くのは大変面倒なので、私はオロチ様に甘えることにした。抱っこをねだる子供のように両腕を広げてお願いしてみる。

 

 

 

『オ前…ハァ……仕方ナイ奴ジャナ。ホイッ』

 

 

 

 目をぱちくりさせた後にガックリと項垂れたオロチ様は、その巨大な頭で器用に私を掬い上げて頭に乗せてくれた。

 

 

 

 厳格そうに見えるオロチ様だけど私にはそこそこ甘い。呆れながらも大抵のお願いは聞いてくれるからね、頼れるお姉ちゃんみたいな御方だよ。

 

 

 

 視界の高さが跳ね上がり、私の体は木々よりも遥かに高い位置にあった。下を見下ろせば鬱蒼と生い茂る草木が眼下に広がり、オロチ様の鱗を掴む手に力が籠る。

 

 

 

『イデデデッ!? ウッ、鱗ヲソンナ強ク掴ムナ! 剥ガレタラドウスルノジャ!?』

 

『ウればいいんじゃないかなぁ? キレイだしソザイとしてもイッキュウヒンだし、きっとタカネでウれるよ?』

 

『貴様二涙ハナイノカ鱶ヨ!?』

 

『ないよ〜。サメだからねぇ〜』

 

 

 

 この人たち仲良いよなぁ……仕事中だっていうのにこんなやり取りされちゃ、緊張しろって方が無理だわ。

 

 

 

 ま、そっちの方が助かるんだけどね。私も真面目ちゃんって訳じゃないんだしさ。

 

 でも……さすがに緩むなぁ…シュリーセンまで寝ていくか。

 

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