脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

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今日がクリスマスです(白目)

本編はデータ飛んだので描き直してます。禿げそうだったのでモチベを保つために季節物の話を急遽書き上げました()


Stories of the Expansion
Stories of the Expansion・Christmas


クリスマス

今日は一年に一度しかない生誕祭。

街はイルミネーションで煌びやかに照らされており、道行く人々も楽しげにその街を歩いている。……残念なことに、その生誕祭のめでたさというのは誰にでも与えられるものではないのだが。

 

 

「………………ね、…………眠い…………」

 

 

 かく言う僕も、サンタクロースの祝い事にあやかれなかった人間の一人だ。誰かが休むと言うことは誰かにその休み分の仕事が回ってくると言う話で、実のところ48時間休眠無しで、現在もアビドスに出向いて絶賛連続稼働中だ。今の僕の肉体には、夜景に広がるイルミネーションなど疲労を起こした眼球への更なるダメージソースにしか感じられない。唯一の幸いといえば、今日の業務はこれで終わりなのでようやく少し寝れるくらいだろうか。

 

 ……まあ、年明けにはその分休みがもらえる予定だから構わないのだけれども。ただ、誘ってくれた花岡さんや聖園さんにはちょっと悪いことをしてしまったな。正月は鬼方さんと愛清さんから誘われてしまっているし、そこを過ぎてからになってしまうが埋め合わせはなるべく早めにしようと思う。

 

 冷え込む中、今にも落ちてきそうな瞼を強引に開け、マフラーを撒き直してコートに手を突っ込み駅に向かう。その駅の入り口の真正面にいるのはサンタコスチュームをした宣伝役の女の子。……こんな寒い中、あの人も大変だな。そう思って隣を通り過ぎようとして。

 

 

「あ、すみません!こちら××店でクリスマスセール中…………、………………で、………………」

 

 

 声をかけてきたそのサンタ・ガールは頭上の猫耳が特徴的。やや長い黒髪を冷たい風に靡かせて、広告の挟まったティッシュをその片手に持ったまま凍りついたかのように固まってしまっているではないか。

 

 

「………………黒見さん、お久しぶりですね」

 

「………………へああぁあぁ!?せ、せんっ、先輩、ッ!?!!?」

 

 

 なんて素っ頓狂な声を……声をかけられたこっちの方がびっくりしてしまったくらいだ。当然、こんな声を上げると周りの目が集まってくるものの、黒見さんはそれに気付いていない。まあ、別に何か疾しい事をしたわけでもなし、僕も特別気にはならないが。

 振り返った黒見さんの顔は真っ赤だ。果たして知り合いに安っぽいサンタのコスプレをしているのを見られたのが恥ずかしいのか、それとも風邪でも引いているのか。まあ多分、前者だが。

 

 

「…………せ、先輩……!?な、なんで此処(アビドス)に……!?」

 

「なんでと言われましても、仕事だったからですが。……そういう黒見さんも、バイトの最中のようですけれども」

 

 

こんな寒い季節に肩出し臍出し太腿出しのコスプレじみたサンタ服を着ている理由なんて、彼女に変な趣味でもないのであれば理由はバイトしかないだろう。……一瞬、その服の方に目を向けると「えっち」とジト目をされてしまったが。理不尽では?

 

 

「なんでそんな格好のバイトをわざわざ……」

 

「だってこんな服着せられるなんて知らなかったから……!お給料もティッシュ配りにしてはいい感じだったし……断れなくて。そのぶん、めちゃくちゃ寒いけど……」

 

「そりゃ、そんな肌を出しまくっていたら寒いに決まってますよ」

 

 

 僕が呆れた声を出すと同時、お約束のように可愛らしいくしゃみを溢す黒見さん。地面に置かれている籠の中身は、山盛りのティッシュが乗せられている。それに挟んだ小さな紙切れ一枚の宣伝に如何程の効果があるのかは分からないものの、とりあえずはそれを配り終わるまでがバイトということなのだろう。しかし随分と酷い量だ。

 

 

「手伝いましょうか?」

 

「え?でも……悪いよ。先輩だって、さっきまでお仕事してたなら疲れてるだろうし……」

 

「僕の事はお気になさらず。……後輩に風邪を引かせるのもなんですからね」

 

「……もし、もう風邪引いてたら……先輩が看病とか、してくれるわけ?」

 

「そこまでは、流石に責任持てません」

 

 

 愛らしく上目で見つめてくる黒見さんを一蹴する。頰を膨らませているが、もし本当に風邪を引いていたら餅は餅屋、僕の出番ではなくて病院か他校の救護学部の出番だ。

 

 ……そう言えば、暫く会っていないが蒼森さんは元気だろうか。いや、元気だろうな。例えインフルエンザであろうともあの人からバイタリティを奪えるような気がしない。あくまでこれはイメージで、実際にはそんな事もないのだろうが、そのくらいには活発な人だから。

 

 悪いがこのマフラーは調月会長からの貰い物なので貸してはあげられない。だから、その代わりに黒見さんには僕のコートを貸してあげた。コートなしのマフラーだけの格好は少々格好がつかないが仕方がない。コートのサイズが合わないというのは……まあ、我慢して欲しい。

 何か言いたげな黒見さんを黙殺して、勝手に黒見さんの籠の中から幾つかティッシュを分けてもらうとそのまま配り始める。僕が男子生徒であることに加えて他校であるミレニアムの生徒が珍しいのか気にかけてくれる人もやや多くなり、配るペースは確かに上がった。……が、まあ、ティッシュ配りに効率を求めたところで何処まで有効だったのか。

 

 結局、籠の中身を空っぽにする頃には更に空は色を暗く落としており、イルミネーションの輝きがますます目に悪い。この分では、もはや終電も無い頃合いか。

 

 

「はあ……やっと終わった……」

 

「お疲れ様でした、黒見さん。……バイトの割に中々の労働量でしたね。これ値段高いのって単純に重労働だからでは?」

 

「そうかも……ていうか、お疲れはこっちの台詞だよ……。先輩は関係ないのに、手伝ってくれてありがと。その分のバイト代はちゃんと分けるから」

 

「いえ、別に僕はそのつもりだったわけでは」

 

「それは駄目」

 

 

 こういう時に黒見さんは強情なのも変わっていない。なんだか、ちょっと安心感がある話だ。とはいえ、本当にお金には特に困っていないからどうしたものか。

 別に高給取りというわけでもないが、ちょっとした珈琲や本以外に大した物欲もそもそもない。偶にゲームを一本か二本買って楽しむ程度はするものの、やり込む癖のせいで次のゲームを買う期間までも長いわけだし。どうせ黒見さんはまだ真面目にバイトでアビドスの借金を返そうとしているのだろうし、やはり受け取れない。

 

 

「黒見さん」

 

「な、なに?言っとくけど、バイト代のことは――」

 

「先輩は、後輩に格好付けたいものですよ」

 

 

 言葉に詰まったような素振りを見せる黒見さん。何かを言おうとして口を開いて、閉じて、かと思えば唸ってから頭を抱えてしゃがみ込んで。何を言おうと思ったのだろうか、散々悩み果てたのだろう末の言葉は僕の勝ちを示す言葉。いや、こんな事に勝ち負けがあるのかは知らないが、遠慮ではなく善意で断るのには黒見さんは慣れていまい。散々百面相をした後に、漸く黒見さんは折れてくれた。

 

 

「………………先輩の、そういうとこ。……ほんと狡いと思う」

 

「はは、貴女の先輩ですから。狡く無いと度々他人に騙される後輩を止められませんよ」

 

「それどういう意味!?もうっ……!」

 

 

 頰を膨らませて地団駄を踏まれてしまったが、小鳥遊さん達もこれには頷いてくれるだろう。なにせどう見たって怪しいパワーストーンだとか壺だとか、マルチ商法に引っかかる黒見さんのことだ。こっちとしてはいつか本当にヤバい何かに手を出さないか不安でしかない。……まあ、これで黒見さんはしっかりしている所もあるし流石にそれは無いと思いたい。……思わせて欲しい。

 しかし時計を見るともうX時を回っている。結果論かもしれないが、手伝わなかったらもっと遅くまで黒見さんは働く羽目になっていただろう。手伝うと言うのは我ながら悪くない選択だった。その代わりに立ったまま寝そうになっているが、これはコラテラルダメージだ。受け入れよう。

 

 

「先輩は今日、どうするの?私のせいだけど、もう遅いしミレニアムに帰る余裕ないと思うけど……」

 

「付き合ったのは僕ですから。しかし、そうですね……何処か適当に安いホテルでも借りて泊まりますよ。今日はバイクではなく電車で来てしまったので」

 

 

 そう。実は愛車である「駆動式・黒影速二輪(アバンギャルド君・シャドウターボ)」は絶賛メンテナンス中なのだ。今まであのバイクに不都合を感じた事など滅多にないし、こう言う時に自由な足がないと言うのはやはり堪える。メンテナンスをしてくれている白石さん達には文句などあろうはずもないけれど、しかし出来るなら早めに帰ってきて欲しいものだ。

 

 携帯を出して近くのホテルを検索しようとしたら……バッテリー切れを示す赤いランプが灯っている。げ、と声を漏らしかけたが、先にくすくすと黒見さんの笑声。

 どうやら、「変わっていない」というのはお互い様だったらしい。……充電切れの癖はなんとか治したいものだ。

 

 

「ねえ先輩。私、安く泊まれる場所知ってるかも。この前、シロコ先輩に教えてもらって。バイトの報告はさっき携帯で済ませたし、案内しよっか?」

 

「それは、本当ですか?正直なところ助かります、あまり手持ちも今はないので……」

 

 

 こんな遅くになる予定はなかったから、財布の中身をやや軽くしてきたのが良くなかった。いざとなれば銀行か、最悪ATMで引き出せばいいと思っていたけれども、此処はアビドスだ。実は()()()()()()()()が現れてからATMの数はめっきり減ってしまったのを失念していた。銀行も流石に閉まっている時間だし、何よりそうでなくても想定外の出費を安く抑えられるのならそれに越したことはない。

 

 頼られたのが嬉しかったのかなんなのか、「着いてきて」と得意げな笑みを浮かべる黒見さんの跡を追う。――そして僅か十数分後、その選択を後悔した。

自信満々な態度で案内されたのは、桃色に煌めくネオンと「御休憩用」の文字がある態とらしい西洋の城みたいなデザインをしたホテル。

 

 僕は黙って頭を抱える羽目になった。

 何を後輩に教えてんだ、あの馬鹿狼は。

 

 

「ここ!ね、安いでしょ?しかも部屋も結構広いんだって!」

 

「…………………………ええ、そうですね……」

 

 

 どうしよう。

 本当にどうしよう。僕に黒見さんの自信満々なこの笑顔と態度を崩せと?冗談じゃないが、しかしかと言ってこのまま此処に泊まる羽目になるのも冗談じゃあない。

 

 ……いや、落ち着け。落ち着くんだ。

 大丈夫、問題はない。生誕祭の日に一人で「そういうホテル」に泊まる男子学生という素晴らしく不名誉な称号こそ頂いてしまうものの、それ以外にデメリットはない。唯一のデメリットがデカ過ぎるのが難点ではあるものの、しかし確かに安く一晩を過ごすなら確かに悪くはない選択だ。どうせ泊まるのは僕一人だ、黙っていれば黒見さんの尊厳を壊さずに済む。僕の尊厳は壊れるかもしれないが。

 

 思考の最中、完全に固まってしまった僕の手を黒見さんが引いて入り口に向かう――待て待て待て何やってんだ。

 

 

「待っ……!いやっ、ちょっと待ってください、黒見さん!まさか貴女も泊まるつもりですか!?」

 

「私も今から乗る電車、ないんだもん」

 

 

 携帯で時間を見ようとして――いや馬鹿か、さっき充電切れてたの確認しただろうが。いかん、予想以上に混乱してしまっているのが自分でも理解できる。

 まだだ。まだギリギリ問題はない。野球で言うのなら9回裏ノーランナー・2アウトといったところだが、まだ何とか踏み止まれる。かなり違和感のある選択だが、別々の部屋を選べば何も問題はないのだ。

 

 深く息を吐いて落ち着こうとする僕の思惑を打ち崩すのは、当の黒見さんだった。ホテルの入り口から出てきて、…………待て、いつの間に入った?完全に思考に落ちていたので黒見さんの行動に何も気づかなかった。全身に嫌な予感が走る。

 

 

「ちょうど一部屋だけ空いてたから、その部屋取ってきたよ先輩!満室じゃなくてよかった……!」

 

「――――――――――――――――――――――。」

 

 

 終わった。

 逆転ホームランは存在しなかったらしい。満面の笑みを浮かべる黒見さんが、今の僕にはパーフェクトピッチングをこなした投手にしか見えなかった。

 

 

「ま、まあ?異性と一緒の部屋なのはアレだけど……先輩はそういう変なこと、しないと思うし。一緒の部屋なら一つ分部屋代も浮くでしょ?節約できるときはしとかないと」

 

「…………黒見さん、今からでも遅くありません、考え直し――って、力強ッ……!?」

 

 

 僕と大差ないこの細腕の何処からこんな力が出てるんだ。ヘイロー持ちの身体能力の高さを改めて肉体で再認識させられてしまうが、こんなことで再認識したくなかった。

 

 ……結局勢いに負けて、そして物理的にも負けて、ついでに精神的にもなんだか知らないが負けた気がして。なし崩し的に一緒の部屋に泊まることになってしまったが、ここから僕はどうすりゃいいんだ?

 当たり前だが黒見さんにその気は無い、そもそも此処がなんなのかすら理解していないようだし。

 

 というか、ここ、砂狼さんに教えてもらったって言ってたよな?二度目になるが、あの女は何やってんだ。

 一瞬、良からぬ想像が頭をよぎったが首を振る。「そういうこと」で稼ぐぐらいなら、砂狼さんは銀行強盗を選ぶ人だし、その辺の良識は流石にある。……果たして銀行強盗を画策する彼女に良識という言葉を使うあたり、キヴォトスの恐ろしさが分かるというものだ。

 

 違う、そんなことより今の状況をどうするかの方が問題だ。普段ならこんなどうでもいい事など後回しの思考にするはずだが、寝不足のせいで上手く頭が回っていない。というか、本当に眠い。寒い外から暖かい室内に場所が変わったせいか、その眠気は益々増している。

 

 

「じ、じゃあ先輩。シャワー先に借りるけど……その、後ろ向いたりしないでよね!?」

 

「しませんよ……」

 

 

 最早引き止める気力も失せ始めた。さっきちらっと見る限りではガラス張りの浴室だったが、知らん。黒見さんの言うように振り向かなければ何の問題もないのだし、もうそこまで思考のリソースを割く余裕が無い。流石に一日外を歩き回ったまま寝るのは嫌だからと、シャワーを浴びる前に寝ないように耐えるので精一杯だ。

 やたらでかいベッドに腰をかけて、携帯を充電器に繋ぐ。もうこの際だ、下手に途中で充電をやめてまた切れるくらいなら、素直に充電し切るまでほったらかしておこう……。

 

 

 完全に脱力してベッドに倒れようとしたところで、「先輩」と黒見さんの呼ぶ声。――――その声で振り向きかけて、ギリギリで踏み留まる。

 

 危なかった。今の黒見さんの状態がわからない以上振り向くのは悪手だ、下手したら切腹しなくてはいけなくなる。座った状態で地蔵のように固まって下を向いたまま、「なんですか」とだけ返事をすると、返ってきたのはめちゃくちゃどうでもいい言葉だった。

 

 

「見てみて先輩!ここ、お風呂の照明、すっごく綺麗に光るの!」

 

「………………よかったですね。今振り向いたら黒見さんの裸も見ることになるので、見れませんが」

 

 

「えっち!」と声が飛んできたが流石に理不尽では?サンタ服を見ていた時よりも酷い理不尽だ、女の子は分からない……。

 しかし、今回は引き摺り込まれたのが僕だったから良かったものの、これが他の男性相手なら何をされていたか。どんな危ない目にあってもおかしくはない。アビドスを去った僕が今更先輩風を吹かせるのも良くないかもしれないが、流石に説教くらいはした方がいいのだろうか。

 

 ………………いや……でも、ヘイロー持ち相手にそんな阿呆な真似する奴の方が少ないか……?だって彼女達の方が物理的に強いんだし……。

 

 それはそれとしてちょっと貞操観念が宜しくないのは確かなのだから釘は刺しておいた方がいいのは確かだ。確かだが、異性である僕から言うのもどうなんだろう?事を話して小鳥遊さんや十六夜さんに任せた方がいいだろうか。いやしかしそれだと今回の話も他の人にバレるわけで。

 

 酷いくらい回転率の落ちた頭の中で価値観の算盤を弾いた結果――うん、やっぱりちょっとしたお説教は必要だという結論に至った。

 

 

「黒見さん、シャワーが終わったら正座です」

 

「なんで!?」

 

 

 ガラス張りのシャワールームの向こうから、悲鳴が聞こえてきたがもう決めた事だ。黒見さんは、もうちょっと自分が可愛い女子だという自覚を持って欲しい。

 

 ――――――――――――――

 

 その後。

 シャワールームから出てきた僕は、ベッドの上で黒見さんを正座させてお説教に入った。喧しいとは思うが、これも彼女の為だ。我慢して聞いて欲しい。

 ……服?着替えなんか持ってきていないんだから制服をもう一度着直したが。黒見さんはバスローブを使おうとしていたのを慌てて止めて、今は彼女も制服だ。サンタ・ガールはもう居ない、いいね?

 

 此処がどう言う施設なのか。……正直僕も説明するのは嫌すぎるが、仕方がない。今回の彼女のやらかしについて話をすると、顔を真っ赤にして黒見さんはベッドに顔を埋めた。さもあらん反応だ。

 

 

「…………せ、先輩……気づいてたんなら、なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」

 

「言う前に引き摺り込まれたので」

 

 

「う"」と濁点混じりの鳴き声を出して言葉に詰まる黒見さん。黒見さんに限らずの話だが、アビドスの皆はもっと人の話を聞いた方がいいんじゃ無いだろうか。……それができるなら度々、奥空さんの雷は落ちていないんだろうけれど。黒見さんは恨めしげに砂狼さんの名前を呼んでいるが、黒い夜空でサムズアップをしている彼女のデフォルメチックな表情が目に浮かぶようだ。

 

 

「というか……わ、私……あの店員に、先輩を強引に連れ込んできたの見られてるよね……!?ぜ、絶対……はしたない子だって思われてる……!」

 

「………………………………店の人間も、そこまで覚えていないと……思いますよ」

 

 

 我ながら苦しいフォローだ。というか、そこに対する羞恥心はあるのか。やっぱり女の子はよく分からない。

 世間体というのなら此処に入った時点でお互い終わっているようなものだ。誘うのなら男性側からがいいと言う価値観であれば多少なりとも理解はするけれども。

 

 まあ黒見さんも抜けている……良く言えばどこか世間知らずな一面があるだけで、決して阿呆ではない。一度理解してもらえたらもう同じことはやらかすまい。

 いい加減に長々としてしまった説教を切り上げると、途端に二人揃って、大欠伸をしてしまう。それが何だかおかしくて、(僕の表情筋が仕事をしてくれているのかはさておき)思わず彼女と顔を合わせて笑ってしまった。

 

 

「………………寝よっか」

 

「………………寝ましょうか……」

 

 

 深夜を回っていたこともあってか、この後、僕達はめちゃくちゃ寝た。

 普段の僕ならソファか床で寝る遠慮ぐらいはしていたが、もう今日は無理だ。ベッドに倒れてから二秒もかからずに、夢の世界へと旅立ってしまった。

 

 おやすみなさい。

 

 ――――――――――――

 

 そして翌日。

 喧しく鳴る携帯の着信音で目を覚ましたのは、僕からだ。48時間を超えて動いていた身体には数時間の睡眠では物足りなかったのか、まだ頭がかなりぼうっとするが、それでも眠れた事実は大きい。体力も少なからず回復しており、そのまま喚く携帯に手を伸ばした。

 

 そう。

 誰の携帯が鳴っているのか。誰からの着信なのか。

 それすらもろくに確認しないまま、緑色に輝く受話器のマークを押した――押してしまった。

 

 

「………………はい、もしもし。僕です」

 

『…………えっ』

 

 

 この声は、……小鳥遊さんだ。忘れるはずもない、黒見さんと学校を同じくするアビドスの大切な友人、兼恩人の声。こんな朝っぱらから何事だろうか。どちらかと言えばのんびり屋な小鳥遊さんが早朝から連絡してくるなんて余程の出来事が――。

 

 

『…………な、なんで君がセリカちゃんの、携帯に出てるの?』

 

「は?」

 

 

 回り始めていた思考が一気に止まる。小鳥遊さんの言葉がすぐには理解できなくて、手に持っている携帯を見返した。手の中に収まっているのは僕の普段使いしている黒の無機質な携帯ではない――ストラップで可愛らしく飾られた黒見さんの携帯だった。……そういえば説教の前に、僕の携帯の横で充電をし始めていたのを思い出した。

 

 寝ぼけていたので反射的に手を伸ばしてしまったのがよくなかったが、しかし兎に角、()()()()()。珈琲など呷らなくても目が覚めるというものだ。

 

 

『いや……えっ、待って……まさか、…………く、クリスマスに二人でって、え、もしかしなくても()()()()()()……?』

 

「ちょっ、待っ。小鳥遊さん、違っ」

 

 

 この誤解は小鳥遊さんを責められない。立場が立場なら、僕だって誤解しておかしくない。しかしどうやって説明したものか、言葉に迷っていると背後からもぞもぞと動く気配に間延びした黒見さんの声。

 

 

「…………せんぱぁ〜い…………うるさいぃ……」

 

「黒見さんっ!起きたんですか、それなら小鳥遊さんに昨日の説明を――」

 

「もうちょっと寝させてよ…………、昨日、先輩が(お説教で)あんまり寝させてくれなかったから……まだ眠いよ…………」

 

『――――――――――――ふぅん』

 

 

 顎が外れそうになった。なんて最悪のタイミングで、最悪の言葉選びのせいで、最悪の誤解を。

 小鳥遊さんのこんな低い声、僕は初めて聞いたが。誤解を解こうと続けて口を開こうとするものの、今度は充電器に差しっぱなしになっていた僕の携帯からさらなる着信。……誰からの着信か、伊落さんだ。そして通知はそれだけにとどまらない。

 

 聖園さんと天雨さんからは怒涛の超長文モモトーク。もはや読む気すら起こらない長さのトークがざっと二桁ギリギリの量で続いている。怖過ぎる。

 カズサと戒野さんからは全く同じモモトーク――一語一句違わずに『なにこれ』とクロノススクールが出している新聞記事のリンクを添えてトークが送られており、花岡さんからは文字化けした読めないトークがぽつんと一つだけ。

 一之瀬先輩は無言でバニーの自撮りを。橘姉妹は……なんだこれスクール水着の自撮りか?それを送ってきたところで何を言いたいのか理解できないし、先生まで『節度は守るように』と誤解している始末だ。

 

 カズサと戒野さんのトークで何となく事態は察した。察したが、クロノスの出歯亀カメラ女子どもはいったい何処からどうやってホテルに入るところを撮ったんだ!?ここアビドスだぞ……!

 

 一番不気味なのが愛清さんからのモモトークと調月会長からの通話履歴。前者は『ねえ』とだけ打たれていて、その後に複数回の削除履歴。それだけが残されていて、特に送信しなおした様子もない。後者はスクロール一回分が埋まるほどの留守電履歴。どっちにしたって、下手に何か言われるよりも余程恐ろしい。

 その後も次々と飛んでくるモモトークに頭を抱えてしまう。どこから収拾をつけたらいいのか、もう何もかもわからない。

 

 

「…………誰か……!僕を、助けろ……!」

 

 

 ジングル・ベル、ジングル・ベル。

 果たして生誕祭も終わったのに外から聞こえてきたサンタクロースが奏でるお祝いの音楽は、今の僕には葬送曲(レクイエム)にさえ聞こえていた。




1.アビドス 2.アリウス 3.ゲヘナ 4.トリニティ
5.ハイランダー 6.百鬼夜行 7.ミレニアム 
dice1d7 → 1

1.ホシノ 2.ノノミ 3.シロコ 4.アヤネ 5.セリカ
dice1d5 → 5
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