脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達 作:ぽけぽっぽ共和国
ゲヘナで愛清さんと、バイクについて話していたのを覚えているだろうか。やはり自分の乗り物があるのとないのとでは、他校に行く際の時間や労力にかなりの差が出てくることがある。欲しいかどうかと聞かれれば、欲しいに決まっている。
しかし当たり前ながら、僕の手持ちの
……しかし、よく会計の早瀬さんが許したな。まさか調月会長に限って横領の類は考えられないし、無理も偶には言ってみるものということだろうか。まあ本当に無理なものは無理なので、あまり無理を言うのはこれきりだ。
電車やバスも勿論便利であることに変わりはないが、毎度それでは余計な費用がかかるのではないか。電車やバスがあまり通っていない場所に行くのに困ることがあるし、単純に移動の自由度が桁違い。色々と
名目としては他校との交流や生きる目安箱となっている僕がセミナーとしてより動き易くすると言うもの。勿論、ある程度自由にバイクを使わせてもらう代わりに燃料代や修理費は此方が持つ事になっているが、まあそれは当然だろう。
そんな経緯もあって、現在土曜日の朝、件のバイクが届いたと言うわけだ。アビドスに行く前日に届いてよかったと思う。あの砂漠地帯、冗談でもなんでもなく遭難者が出るくらいには危険地帯だ。かく言う僕も死にかけたことがある。改めて思うが、アビドスを自転車で行き来している砂狼さんはイカれている。
砂狼さんのことはさておき、バイクがあれば遭難すると言う危険性もぐっと下がる。燃料と故障には注意が必要だが、あるとないとでは大違いだ。
しかし、それにしても……。
「これはまた随分と厳ついものを寄越してくれたな、調月会長……」
バイクの外装はブラックカラーで統一されており、キヴォトスらしくタイヤともども防弾性。二人乗り程度ならば苦にならないほどの大型で、かなりゴツい。おまけに余計な装飾品は一切無しときた。流石は調月会長と言ったところだろうか。出来る人間は乗り物選びのセンスも優れているらしい。
初期調整をエンジニア部に任せたという事だけが不安だが、あの人達も節操無しでは――…………あるな……。いや、しかし間に僕が挟まっているとはいえ調月会長からの依頼だぞ。おかしな機能を追加したりは――、…………しているかもしれない……。
ちなみに世話になった調月会長とお礼のモモトークを交わしていた際にバイクの名を教えて貰ったところ、「ターボアバンギャルド君」だそうだ。一体誰が名付けたのかは知らないが、正直酷いと言わざるを得ない。折角こんなに格好いい黒の二輪車なのに、黒を想起させる単語が入っていないのは駄目だろう。アバンギャルドという単語のチョイスは評価するが、ターボの単語を前につけているのも僕の感性には合わない部分だ。
アバンギャルド君・シャドウターボ。……アバンギャルド君・ダークジェット。……アバンギャルド君・ブライトフィーダー。この中ならシャドウターボが良いな。仮にルビを振るなら
折角だ。元々アビドスへの土産を買う予定はあったのだし、このままバイクを使って出掛けてみよう。今日の目的地はシラトリ区のコーギータウン。あそこなら買い物には困らないだろう。
まあ、シラトリ区は交通の便がいい場所だ。行くだけなら電車の方が早いかもしれないが、このバイクに慣れておきたい。
「へー、後輩クン、バイクなんて持ってたんだ。どこかお出掛けするの?」
「つい先日手に入れました。折角なので、遠出になりますがシラトリ区で買い物をしようかと」
「お買い物?何買うの?」
「まあ明日必要になる土産物を少々………………、…………待ってください、あの」
「?」
「なんでいるんですか、一之瀬先輩」
気配も何も感じなかった。本当にいったい、いつから此処にいたと言うのだろう。余りにも当たり前に隣にいたものだから、思わず僕もいつもの雰囲気で会話をしてしまったではないか。途中までまるっきり意識が一之瀬先輩に向かなかった。
というか本当になんでいるんだ。一之瀬先輩を呼んだ憶えはこれっぽっちもない。
「んー、面白そうな予感がしたから来ちゃった!」
来ちゃった、ではないが。
一之瀬先輩の象徴とも言って過言ではない「ぺかー」という効果音のついた満面の笑み。何かミレニアムからの呼び出しで連行されるのかと思ったが、C&Cのメイド服を着ていない辺りそう言うわけではないようだ。というか制服ですらない。完全に私服だ。
今日は土曜、つまり休日なのだから着ていなくとも不思議ではないのだが、
臍出しのオフショルダーにホットパンツ。一応、黒の薄いカーディガンを着崩して羽織っているが凡ゆる意味で防御力が低すぎる。これで銃弾を受けて「痛い」で済まされるのだから、ヘイロー持ちの特権が如何にとんでもないかが分かるというものだ。
一之瀬先輩はスタイルが良いせいで、こういった露出の多いファッションも下品になっていないのが狡いと思う。僕が女性だったら発狂していてもおかしくない。
「しかし、よく僕の家の場所を憶えていましたね……。一度しか来たことがないでしょうに。それもXヶ月くらい前、僕がミレニアムに来た時の事ですよ」
「え、全然覚えてなかったよ?後輩クンが此処にいそうだなーって、なんとなーく歩いてたら着いちゃった」
「……一之瀬先輩が将来探偵になってしまったら、他の探偵は一人残らず廃業ですね」
改めてこの「勘」の良さはどうなってるんだ。恐らくこれが彼女の「神秘」に関わるものなのだろうが理屈が全く分からない。「因果」に強く干渉しているのは間違いないが、情報が少なすぎて全く分からない。結果に向かって一之瀬先輩という存在が揺れているのか、はたまた牛牧さんの時のように前提から結果を組み立ててい「ねえ今、他の女の子の事考えてたでしょー」だから怖いが。
行く前から体力を削られた。別に普段なら好きにしてくれと思うものの、生憎今日は用事があるのでこれ以上相手をしていられない。
一之瀬先輩を無視してヘルメットを被り、バイクに跨る。見た目の厳つさ相応にクラッチやスロットルも重いが、これくらいの重さがある方が変な操作をせずに済む。荷物はいつもの小さな鞄一つあればいいだろう、どうせ帰りは後部の荷物入れに買ったものを突っ込むのだから。
ペダルに足を掛けた途端――、……背に重さを感じて振り返った。そこに在ったのは、さも当然のような顔をして同じようにバイクに跨っている一之瀬先輩だ。降りろ。
「どうしたの、後輩クン。忘れ物?」
「………………、まさか着いてくる気ですか」
「だってやることないんだもん。C&Cの皆も、ご主人様も、今日は他に用事があるって言うから」
僕も用事だって言ってるだろ。
問答無用で降ろせることが出来たのならどれだけ良かったか。ヘイローの無い僕がどうやって一之瀬先輩を力尽くでバイクから退けられるというのだろう。彼女を相手に説得がどれだけ無意味なものなのかは、身を持って知っている。
数秒後、諦めて僕は予備のヘルメットを一之瀬先輩に突きつけた。せめてこれは被ってくれ、交通法違反になる。
ヘルメットを受け取った一之瀬先輩は、どうにもご機嫌で腰に手を回してきた。なるべく早めに、シラトリ区に着けるようにしよう。でなければ僕の精神が死ぬ。理由は聞かないでほしい。
可能な限り信号に捕まらないことを願いながら、漸く黒一色のバイクは前に動き始めた。
「そういえばこのバイク、なんて名前なの?」
「
「えっ、ダサくない?」
「えっ」
嘘だろ。
――――――――――――――――――
やはりミレニアム自治区からシラトリ区まで出るのは少し遠い。高速道路を使っていないとはいえ、ほぼノンストップでもそれなりの時間が掛かってしまった。やはり電車は電車で偉大な発明だとしみじみ思い知らされる。
しかし信号に一度も捕まらなかったのは運が良かった、あれ以上一之瀬先輩に密着されていたら精神的な疲労が洒落にならない。何がどうとは敢えて言わないが、男性諸君なら――少なくとも先生なら、僕の気持ちをわかってくれるはずだ。
さて。バイクを停めた駐車場も中々の大きさがあったが、ショッピングモール自体もかなり広い。案内板を見る限りでは一階にフードコートやカフェ、本屋のみならずスーパーマーケットまであるではないか。二階以上はゲームセンターなり映画館なり、或いは服だのアクセサリーだのが置いてある場所か。
有難いことに、僕の目的の店は一階だ。変に昇り降りしなくて済むから楽でよかった。
「では一之瀬先輩、後はお好きに。僕は必要なものを揃えたら、一階のカフェか本屋で待っていますので」
「えーっ、そんなのつまんない!せっかく一緒に来たんだから、一緒にお買い物したりご飯食べたりしようよー!」
「無理矢理着いてきた、の間違いでしょう……。だいたい、僕を連れ回してどうする気ですか。荷物持ちになるとでも?」
悪いが僕では荷物持ちの役にも立ちやしない。力瘤も出来ない僕の腕に何を期待しているというのだろうか。
これでとっととどこかへ行ってくれる人なら僕も楽だったが、生憎この人にそんな妥協という文字は無い。逃がさないとばかりに服の裾は掴まれている。序でに言えば、変な部分で常識的だったりするからタチが悪い。
「え、なんで?自分で買ったものを後輩クンに持たせたりしないよ」
袖を掴んだままの一之瀬先輩は、「心外だ」とでも訴えたいのか頬を栗鼠のように膨らませていた。美人な顔立ちが台無しだと言おうとしたものの、これはこれで可愛いのだから最悪だ。
いつもならこの辺りで諦めてくれてもおかしくないのだが、今日はやけに食い下がってくるのは何故だろう。
「ていうか後輩クン。お菓子、ちゃんとしたやつ買えるの?甘いもの苦手なんだから、何がいいかとか分かんないんじゃない?」
「……ご心配なく。友人の一人が、菓子類に対して知見がありまして。クッキー缶なら、誰が渡す相手であっても余程失敗はしないでしょう」
とある知り合いと交わしていたモモトークの内容を見せるべくスマホの画面を一之瀬先輩に向けてみせる。殆どメモ代わりとなってしまったモモトークの履歴には、このショッピングモール内にある店の名前とそこで売られているクッキー缶の名前の両方が記載されている事だろう。
このクッキー缶が不味いと言うこともないはず。なにせ「放課後スイーツ部」所属の人間からの情報なのだから。 キャンディやチョコレートのような溶けるものではなく、クッキーというのも砂漠地帯であるアビドスへの土産物としては丁度いい。
しかし一之瀬先輩の反応がやけに鈍い。どうしたものか、眼を細めて画面を覗く一之瀬先輩を相手に今度はこっちが首を傾げそうになっていたところ、彼女の口から飛び出したのはとんでもない言葉。
「……それ、限定のやつじゃない?有名なお店だから知ってるけど、確か昨日までだよ。売ってたの」
「は?」
その言葉を聞いた瞬間、慌てて一之瀬先輩に向けていたスマホをひっくり返して検索すると、確かに彼女の言う通り。XXXの限定クッキー缶、販売期間は昨日までとなっている。おのれ絶対に許さんぞキャスパリーグ。いや、流石に八つ当たりか。期間をよく確認していなかった僕が悪いし、それが予め限定品と知っていたなら尚更だ。
しかしこうなると何を選んで良いのか、自信がまるっきり持てなくなる。珈琲の件で分かるように、自分の舌は馬鹿の部類だし、菓子に対する知識も疎すぎる。頭を抱えかけた僕の肩をちょいちょいと突いてくるのは当然一之瀬先輩で。彼女に顔を向けると、ドヤ顔で自分の方に指を向けていた。
「………………一之瀬、先輩」
「はーい!なにかな、私の後輩クン!」
「…………………………、…………菓子選び、……手伝って、いただけますか……」
お任せあれ、と。胸を叩いた一之瀬先輩は、意気揚々とスキップでも始めそうな表情だった。
何故だか分からないが、「負けた」気分になってしまった。時間確認はしっかりとする。今後の教訓に新たな一ページが追加されたことを喜ぼう。ははは。
ごめんなさい、思ったよりアスナ回が長くなってしまいました。
なのでもう一度アスナとの日常を挟んで、それからアビドス編へ入ります。そして明日更新できるかわかりません、更新されたら「お、やるやん」と思っててください
今後の予定としてはセリカ編→アビドス編過去話→日常回何回か→「二人目」の姫君編となっておりますが、変わったらすいません_(:3 」∠)_