脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

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ちょっといつもより少ないですが、前回の続きということもありますし変に引き伸ばすのも違う気がしたので素直にいきます。ご勘弁を。
なんとか間に合わせました……、前回も沢山のブックマークと評価、感想をありがとうございます。誤字報告も助かっております。


6th.予測不能な彼女と僕.Ⅱ-⑵

 アビドスへの土産物は当初の予定通りにクッキーという事になった。勿論、勧めてもらったものは販売されていないので購入したのは別物だ。 

 色々店は回ってみたものの、やはり砂漠を通る都合で溶け易いチョコレートやキャンディ、生菓子などは選べない。なら少し洒落たものでマカロンなどはどうかと話してみたものの、どうやらマカロンには「貴女は特別な人」という贈り物とするには少しばかり重い意味合いがあるらしい。

 他にもマドレーヌやら何やら色々と探してみた結果、結局クッキー類が無難だろうという事で落ち着いた。意味も「友達でいよう」というものらしく、仲直りの贈り物という事を加味しても丁度いいだろう。まさかこんな形で一之瀬先輩に助けられるとは思わなかった。

 

 

「よーしクッキーも買ったし、ミッション完了だね!じゃあ早速ゲームしに行こうよ〜!」

 

「…………まあ、助けられたのは事実ですし…………。僕もゲームは嫌いじゃないので、構いませんが」

 

 

 そうしてゲームセンターに入った僕らだったが、酷い目にあった。いや、僕だけが酷い目に合わされたというべきか。

 エアホッケーでボコボコにされ、射撃ゲームでボコボコにされ、バスケットゲームでボコボコにされ、ダンスゲームでボコボコにされ、挙げ句の果てにはモグラ叩きや釣りゲームでまでボコボコにされてしまった。特に射撃ゲームはダブルスコアを決められた。少し泣きそうだ。

 

 多少ゲームが得意だという程度で、ヘイロー持ちに身体能力で勝とうなど無謀で無理な話だった。しかしこのまま負けっぱなしも癪だからと、大人気ないとは思ったもののインセクトキングなるカードゲームでの勝負を仕掛けてみた。が、それすらも大敗した。「何となく」でこっちのジャンケンの手を読んでくるのはあまりにも反則が過ぎるだろう。

 徹頭徹尾、完全にどちらが上か分からされてしまった。ハイランダーの双子相手でも此処までやる奴はそう居まい。

 

 

「クソっ、勝てるわけあるか…………!」

 

「あはははっ、ホッケーなんかは後輩クン狙いが見え見えだもん!私じゃなくたって分かっちゃうよ〜。射撃はミレニアムに来た時よりはマシになってたけど、まだまだ頑張らなきゃ!」

 

「C&C基準で考えないでください……。だいたい、武器種が違ったんだから仕方ないでしょう」

 

 

 射撃ゲームに使われていた武器種はアサルトライフルだった。勿論、実弾が出るわけもないが、プラスチック製の玩具ではなくばっちり本物をゲーム用にカスタムさせたもの。ハンドガンですら扱うのに苦労している僕には、アサルトライフルは重さのせいで照準がブレてしまうのだ。

 対して一之瀬先輩は得意武器種そのまま――いや、もうこの辺は関係ないな。単純に射撃技術が僕と違いすぎる。仮にハンドガンだったとしても負けていた自信がある。だから、武器種云々の話は半分以上言い訳だ。

 

 一頻りゲームセンターで遊んで満足してくれたのだろうか、両手を組み、大きく伸びをした一之瀬先輩は御満悦な様子だった。

 

 

「いっぱい遊んだらお腹空いちゃった。後輩クン、何か食べよっ」

 

「時間も時間ですからね。……一応聞きますが一之瀬先輩だけ食べてくると言うのは」

 

「だ〜めっ。ただでさえ後輩クンは食べないんだから、こんな時くらいちゃんと食べなさい!めっ、だよ!」

 

 

 子供みたいな嗜め方は勘弁して欲しい。結局、有無を言わさずフードコートまで引き摺られるようにして連行された。鞄に入れたカロリーバーの仕事はどうやら無くなってしまったらしい。

 昼食自体は無難にミックバーガーで手早く済ませる事にしたものの、一之瀬先輩は僕が頼んだ量の三倍近い量を非常に美味しそうに頬張っていた。比率に関しては僕が少食だというのもあるが、それにしたってあの細い体の何処にそんな量が入るんだ……。益々彼女のスタイルは狡いと思う、アレにも何かしら「神秘」が関わっているのではないかとさえ疑い出すほどには本当に狡い。

 

 そして午後、本屋の予定は五分でお終いになってしまった。

 僕の好きな本と一之瀬先輩の趣味は合わなかったのだろう。最初の方こそ漫画の新刊を見て回っていたが一分で飽きたのか僕の方に戻ってきて、周りをウロウロし始めた。さながら構って欲しいと強請るゴールデン・レトリバーだ。彼女にはないはずの耳と尻尾を幻視してしまうほどにはその表現が似合っており、本を選んでいるだけなのに、なんだか悪いことをしている気分になって切り上げてしまった。まあ、気になる本も特になかったから構わないが。

 

 そして現在、一之瀬先輩は目の前でお気に入りの服を探して回っている。案の定外で待つという選択肢は却下されてしまった。他人の意見が欲しいからと言われて仕舞えば上手い逃げ道も思いつかない。

 楽しそうにあちこちにある服を選んでは「どっちが良い?」と聞いてきて、選んだ方を残して新しい服を取ってまた聞いてくるの繰返し。女性の服の選び方って全員こうなのだろうか、服の勝ち抜き戦でも見せられている気分になる。数分ほど悩んだ素振りを見せたのち、新たに手に持って来たのは白のワンピースと同じく白の半袖トップス。胸元にはメーカーのロゴが刻まれており、合わせるつもりだったのか腕の隙間から膝丈のダメージジーンズが溢れかけている。

 

 

「後輩クン、どっちが――」

 

「僕の趣味でいいならワンピースの方です。もう片方も似合うとは思いますが、今着ているものと方向性が似通っているので面白味はないかと」

 

「わかった、じゃあこっち試着してくる!」

 

「嵐かよ」

 

 

 一之瀬先輩が僕の返答を受けてから試着室に入るまで実に2秒。しかしこんな事で感謝するのもなんだか変な話だが、一之瀬先輩は声が通りやすく僕と一緒にいるというのが嫌でもわかる。なのでレディース向けの店の中、一人で待っている間でも変な眼を向けられずに済んでいるのは助かる点だ。以前、同じ店ではないが、愛清さんと服を買いに来た時に白い眼を向けられていたのを憶えている。あれは中々辛いものがあった。

 そして一之瀬先輩は着替えも早い。試着室から出てくるまで凡そ一分だ。カーテンが開いて現れたワンピース姿の一之瀬先輩は露出による物理的な涼しさとは別に、清涼感のある雰囲気を醸し出していた。少々ドヤ顔なのがまたあざとい。

 

 

「…………ええ、似合ってます。ただ、個人的には何か水色のアクセント……派手過ぎないリボンなどがあればもっと素敵かと。一之瀬先輩のイメージカラーが、僕の中ではそれなので」

 

「え、でも水色なら今もちゃんとあるのに?」

 

 

 何を言い出すのか、この人は。先まで着ていたのは白のオフショルダーに、黒のカーディガン、ノーマルな色合いのジーンズ生地をしたホットパンツ。今着用しているものも、床に届きそうなくらい長い白のワンピースだ。水色の文字など何処にも見えないではないか――そう、()()()()()()()()

 一瞬お互いの顔を見合った後、一之瀬先輩がにんまりとした揶揄いの表情に変わるのを見て察してしまった。細い指がワンピースのスカート部分に触れたのを見た途端、大慌てで首を振る。

 

 

「あは、後輩クンがそんなに水色が好きなら仕方ないね〜?ちゃんと水色のものも付けてるよって、教えてあげないと」

 

「待ってください。待って、……おい待て一之瀬。流石にそれは――――ッ」

 

 

 店の中で何をするつもりなのか。眼を逸らそうとした途端、ふわりと一之瀬先輩の長い「髪」が掻き上げられた。右側の髪の下、隠れていたのは()()()十字を模したイヤリング。一之瀬先輩の形の整った耳から吊り下げられている半透明なそれは蛍光灯の光を通して煌めいており、海月のようにゆらゆらと揺れていた。左耳には無かったから分からなかった、これは片方だけ付けるものなのだろう。

 頰が紅くなるのが自分でも分かる。一之瀬先輩の蠱惑的なはずの表情が、今だけはただ腹立たしい。スカートに手を伸ばした時点で、確信犯だ。

 

 

「…………後輩クン、えっちなこと考えた?」

 

「…………………………………………………………」

 

 

 なんだか今日は、一之瀬先輩に負けてばかりだ。

 

 ――――――――――――――

 

「忘れ物はありませんね、一之瀬先輩」

 

「ありませーん!じゃあ帰りもよろしくね、後輩クンっ」

 

 

 すっかり陽が落ちるまで遊び倒してしまった。あの後、一之瀬先輩は余程ワンピースが気に入ったのか自費で購入していた。衣料品店を出た後は軽くガンショップを見て回ったり、僕の趣味であるヒーロー物の映画に付き合ってもらったりと時間は直ぐに過ぎてくれた。女性をヒーロー映画に付き合わせるのはどうかと思ったが、意外と楽しんでくれていたようで何よりだ。もしかしたらの話ではあるが、「勘」が良すぎる都合、サスペンスやホラーは展開が分かって一之瀬先輩には面白くないのかもしれない。

 

 ペダルを踏み込んで法定速度を超えない程度に加速する。これ以上時間をかけると一般の人の帰宅ラッシュに巻き込まれそうなのと、あとは場所によっては戦車などを動かす時間なので変に足止めを食らいかねないのだ。

 一之瀬先輩は遊び疲れたのか、背にしなだれかかってくる。寝てバイクから落ちるのだけはしてくれるなよ。背中に当たる不自然な柔らかさを意識の外に弾き飛ばしながら、釘を刺す。

 

 

「ねえ後輩クン。今日、楽しかった?私はとっても楽しかった!」

 

「…………それなりには、でしょうか。一人で行って帰るだけよりは、充実していたのかと」

 

「ふふふ、そっかそっかー。じゃあ、さ……()()は、ちゃんと頑張れそうかなぁ?」

 

「――――――――――――」

 

 

 危なかった。一瞬だけ、バイクのスロットルを握る手から力が抜けてしまった。今が赤信号、停止中で良かったと本当にそう思う。下手をしたら事故を起こしていた。

 

 僕は明日の予定を一之瀬先輩に、いや、先生と砂狼さん以外の誰も伝えていない。アビドスの面々にも、砂狼さんから伝えてもらっただけで未だモモトークさえ返せていないのだ。

 

 確かにアビドスへの土産物を選ぶのには付き合ってもらったが、「いつ」「誰に」どうするのかは伝えていないのだ。頑張れそうか、という質問の内容も抽象的ながら、僕がアビドスで明日やるべきことを考えれば無関係とはとても思えない発言。もし、一之瀬先輩が明日僕のやるべき事を分かった上で今日付き合っていてくれたというのなら――。先生の口がそんなに軽いわけがないと、分かっていてもなお聞かずにはいられなかった。

 

 

「先生から、聞いたんですか」

 

「ううん、なんにも。でもね、何となく感じるの。ああ、明日、後輩クンは頑張ろうとしてるんだなーって」

 

「…………だから、今日はいつもより強引だったんですか?」

 

「うん!つらーい任務の前には、楽しいことして元気を充電しないといけないからねっ」

 

 

 何のことはない。あの強引さは彼女なりの、気遣いだったということだ。「随分と今日は我儘だな」なんて思っていた数時間前の自分を殴り倒したくなってくるし、バイクの運転で手が塞がっていなければ今からでも自傷してしまいたい。嗚呼、相変わらず何も上手くいかない。

 ミレニアムに転校してから少しは他人の事を見れるようになったと思っていたが、何も変わってないな、お前は。いっそ乾いた笑いさえ溢れてくる。こんな有様で果たして、僕は明日アビドスで上手くやれるのか。小鳥遊さんに、十六夜さんに、砂狼さんに、奥空さんに、黒見さんに、「正しく」謝罪を伝えられるのだろうか。

 

 

「一之瀬先輩。………………、明日、もし上手くいかなかったら」

 

「ううん、ちゃんとやれるよ。()()後輩クンは、ちゃんとやれるの。アスナちゃんが保証したげるよ」

 

「……一之瀬先輩の勘なら当たりますし、安心ですね」

 

 

 信号が青に変わった瞬間、アクセルを吹かしてバイクを走らせる。一之瀬先輩が最後に呟いた言葉は、バイクの排気音と風切音で僕の耳には届かなかった。

 どうやっても、貴女にだけは敵う気がしない。

 




最後、アスナがなんと言ったのかは皆様の想像にお任せします。
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