脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

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はっきり言います、難産でした。アビドス過去編を行うのと同時に推敲をかけると思います。
書く内容は決めていたんですが、書き出したら少し違う、こんな事言わねえだろ、まだ過去を明かしてない以上読者が読んでも意味わかんなさすぎるだろって部分が多すぎた。粗方はなんとかしましたが、地の文含めて納得し切れてない……_(:3」z)_


7th.砂だらけの世界で生きる私達と彼

 

アビドス地区は退廃したと言われてはいるものの、実際はとてもそうは思えない程に広い。当然だ、だってどれだけ退廃していても自治している土地の面積が減らされたわけではないのだから。

 万が一、砂漠地帯で遭難でもすれば冗談でも誇張でもなく命に関わる。事実、過去には行方不明者さえ出ているほどだし、なんなら先生は砂漠どころか住宅街のど真ん中で倒れていた。本人曰く数日彷徨ったらしく「"水……"」と倒れたまま手を伸ばしてくる先生の姿は正直ゾンビにさえ見えていた。本人はかなり笑い事ではなかったのだろうけれど。

 

 勿論、過去には鉄道やバスなどの公共交通機関が通っていたそうだが、アビドスそのものが砂に埋もれてからはどんどんその数を減らしてしまっている。今やスクールバスの一台も出ていないほどの衰退ぶりだ。

 そのためアビドス高等学校に辿り着こうと思ったら、基本的な移動手段は()()()()()()()()()()()()()徒歩に限られるのだが、前述の通りアビドスは広大だ。ヘイローのない人間が徒歩で来るのはかなり厳しいと言わざるを得ない。 だから、迎えに行こうと思っていたのに。

 

 

「……………バイク、持ってたんだ」

 

「手に入れたのはつい先日ですよ。僕の私物ではなく、あくまでミレニアムの経費で落としてもらったものです」

 

 

 "私"の準備と心配は無駄になったらしい。

 小さな鞄を揺らしてバイクを降りるその姿は、三ヶ月前とシルエットが何も変わらなかった。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

「十六夜さん、あの、服をそろそろ離して頂けませんか。……砂狼さんは何故窓を閉めているんですか、砂嵐の情報は出ていませんよ。小鳥遊さんも無言でドアを閉めないでください、なんて顔してるんですか。奥空さんは黙ってないで早く皆を止め……、……奥空さん?」

 

 ん、自業自得。自分がやらかしたことを省みれば、私達の対応はとても当然なものだと思う。

 なにせ彼はミレニアムに転校する前、セリカ以外の誰にも何も言わずに一人で砂漠に行って死に掛けていたのだから。

 

 発見してくれた先生のお陰でなんとか一命は取り留めていたものの、脱水症状に低体温症、擦傷多数にその他諸々。治療してくれたのはトリニティの生徒だったらしいのだが、先生から「死んでいて何も不思議ではない状態だった」と聞いた時は血の気が引いたのを覚えている。彼が砂漠に出て行ったのが夜間だったとは言え、目を離した時にそんな事態になっていたのだから閉め切られて当然だ。思えば、アビドスに彼が来た経緯も砂漠で倒れていたのをホシノ先輩が見つけたからだった。俗に言われるファイヤーマン・レスキューの格好で先輩が教室に入ってきたのを見た時は、ノノミと顔を見合わせて何事かと思った。

 

 私が教室最後の窓の鍵を閉じれば、密室が完成する。硝子を叩き割ってでもしない限り、ヘイローのない彼が外に出ることは出来ないだろう。過保護すぎるというか、過剰すぎる私達の対応に呆れたように声が溢された。

 

 

「何やってるんですか、皆して……」

 

「こうでもしないと、逃げちゃうかもしれませんからね〜。私達五人から逃げ切れるのかは別として、ですけれど☆」

 

「逃げませんよ、今更。砂狼さんと約束してしまいましたし、僕も話したいことがありますから」

 

 

 あからさまに肩を竦めて首を振っているものの、彼は滅多なことで表情が変わらないのでどこまで本気か分かったものではない。これに関してはアビドスに来た頃からずっとそうなので、今更といえば今更なんだけれども。

 

 それにしてもなんだか……その、上手く言えないけれども、彼を見るホシノ先輩の眼がかなり怖い。ホシノ先輩が私達の中でも一際過保護な性格をしているからそう思うのかもしれないが、眼が一切笑っていないのだ。万が一にも逃げ出そうものなら何をしてでも連れ戻すと言うような、猛禽類じみた鋭さを感じる。……いや、流石に考えすぎ、かな。

 小さく首を振って意識を戻すと、彼の視線が一人見つめていた。それが「誰」なのかなんて、視線の先を見なくたって分かる。

 

 

「…………黒見さんも、久しぶりですね」

 

「…………そ、……そう、ですね、先輩…………」

 

 

 偉い。一番気まずいのは貴女なのによく返事した、セリカ。後でたくさん褒めてあげようと思う。

 尤も無理やり作り出したような、笑顔なのか怒っているのか分からない中途半端な表情はかなり引き攣っているし、手を後ろで組んで指遊びをしているのが私の位置からは見えている。何より、獣耳が動きすぎ。あれでは「動揺してますよ」とカードを持って立っているのと何も変わらない。……動揺していて当たり前ではあるけれど。

 

 

「色々、お互いに言いたいことがあるとは思いますが。黒見さん」

 

「……っ、は、はいっ………あの、……私……!」

 

 

 びくりと背を跳ねさせて、それでも視線だけは逸らさない。何を言われるのかと身構えているセリカ。私たちも、彼の言葉を聞き逃さないように静かになる。

 唇が開いた途端、何を言われるのか。

 

 

「――――ごめんなさい」

 

「……な、…………………」

 

 

 綺麗に頭を下げて、放たれた言葉は謝罪以外の何物にも捉えようのない言葉。少しだけ、意外だった。彼が謝ったことが意外と言うわけではなく、ここまでストレートに言葉をぶつけるタイプではなかったから。

 ……それに、そんな人じゃないとわかってはいるけれども、恨み言の一つくらいはあっておかしくないとは思っていた。なのに、余計な言葉を全て排除して、ただ謝罪の意だけを彼はセリカにぶつけていた。セリカ自身も、口を開けて固まってしまっている。

 少しして姿勢を直した彼は、何処か遠くを見るように、セリカと視線を合わせていた。

 

 

「憶えていますか、黒見さん。最後、僕たちが言い合った時のことを」

 

「…………忘れるわけ、ないじゃないですか」

 

「僕も、覚えています。……言葉選びも、伝え方も、何もかもが最悪でしたね。ホシノ先輩が心配じゃないのかと聞かれて、心配要らないと答えて。しかも僕本人が銃を突きつけた先はカイザーではなく貴女だった。怒られて当たり前です」

 

「違っ、それは、……!先生がいるから心配ないって、意味だったのに!ホシノ先輩を大切に思ってないわけないのに……ちゃんと最後まで聞かなかった私が……!それに、先輩はヘイローがないって分かってるのに……無理矢理戦えって、私、そんな――」

 

「黒見さん」

 

 

 パニックになりかけていたセリカを、嗜めるように、彼がセリカの名前を呼ぶ。今の一瞬は、なんだかちょっと先生の嗜め方に似ていたような気がしてしまう。言葉を止めたセリカを見て、話しても大丈夫だと思ったのだろう、彼はもう一度独白を――ううん。

 後悔の詰まった、自身の気持ちを曝け出していた。それはきっと、あの時のままなら聞かせてもらえなかった言葉達。

 

 

「…………『アビドス』を救うと言うのなら……小鳥遊さんを、まず、救うべきだった。小鳥遊さんだって、アビドスを構成するかけがえの無い人だというのに。小鳥遊さんにも、助けに行かなかったことを謝りたかった」

 

「うへ、おじさんは結局無事だったからいいんだよぉ。君の言う通り、先生が何とかしてくれたからねえ」

 

「それでも、です」

 

 

 目を伏せながら彼は首を振る。

 いつのまにか、微かに涙をこぼしているセリカの隣で話を聞いていたアヤネがセリカの代わりに――いいや、全員が感じていた疑問を口にする。

 

 

「…………先輩は、その。先生がアビドスにいらっしゃってから……なんだか、とても焦っていたように思うんです。それは、私の勘違いでしょうか」

 

「…………奥空さんの言う通りかもしれませんね」

 

 

 彼は先生がアビドスを訪れたときセリカが飛び出して行った現場にいたわけではないけれども、もしかしたら似たような感情だったのかもしれない。アビドスの問題に対して、セリカと彼は特に真面目に考えていたから。

 大喧嘩の後で言うのはちょっと説得力がないかもしれないけれど、セリカが度を超えたような真面目な彼の取り組み方を尊敬さえしていたのを私たちは知っている。歯車が、ほんの少し外れてしまったからこうなっただけ。

 普通の人なら放り出したり諦めたり、大企業でさえ手を引くようなアビドス校どころかアビドスという街そのものが抱える問題までも、彼は先生が来る前から大真面目に解決しようとしていたのだから。

 

 

「先生には本当に感謝しています。でも、…………なんだか、僕がそれまで頑張ってきたこと全てが、ある日突然無意味になってしまうような気がしていた。皆さんのように戦えない僕にも、大人である先生のように振る舞えない僕にも、アビドスにとって役に立てることがあるのだと、証明したかったのかもしれない」

 

 

 少しずつ、外れていた歯車が――彼と私達のズレが、明かされていく感覚。今なら分かる。私達全員が、言葉足らずで、お互いに甘えていたのだと。

 

 彼は感じていたことを意地でも外に出してくれなかったし、私達も彼の気持ちを考えずに先生に頼るだけだった。セリカが大人に対して「認めない」と感じていたのなら――セリカと同じか、それ以上にアビドスに向き合っていた彼が「認めない」「認めたくない」と思っていて何も不思議ではないのに、誰も気付いてあげられなかった。

 彼がセリカの気持ちを考えなかったというのなら、私達も同罪だ。誰か一人だけの責任じゃない、全員が少しずつ歯車を狂わせた結果だった。

 

 

「…………っ、モモトークくらいは……返してくれたってよかったじゃないですか……私、私だって、ずっと先輩に、あやま、っ、謝りたかったのに……!」

 

「…………先生に助けていただいてから、顔も見せず、何も言わないままアビドスを去ってしまいましたから。今更何を話せばいいのか分からなくて。……特に黒見さんには、酷い事をしてしまったので。だから、砂狼さんに強引な手を取られるまで可能な限り連絡を断っていましたが……でも、逃げていい時間の限界だったのでしょう。砂狼さん。小鳥遊さん。十六夜さん。奥空さん。…………そして、黒見さん」

 

 

 ご心配をお掛けしました、ごめんなさい。

 もう一度、今度は私達の方を向いて頭を下げる彼の影。不意にぽつりと呟かれた言葉は、ホシノ先輩のものだった。

 

 

「…………これは誤解しないで欲しいんだけどね。おじさん、君がミレニアムに行って良かったなって思ってるよ」

 

「………………それは。いえ、最後まで聞きましょう」

 

 

 口を開きかけたのを止めて、続きをホシノ先輩に促す彼。私もホシノ先輩の意外な発言に少し固まってしまったが、「誤解がないよう」と前置きしたのだから何かしら理由あっての言葉なのだろう。

 力を抜き、すっかり机にだらしなく上半身を倒したホシノ先輩の口元には確かに優しい笑みが浮かんでいた。

 

 

「君が転校した後、先生から聞いた話だけど。……本当にやりたいことが、見つかったんでしょ?」

 

 

 彼の首元にあるのは、アビドスではなくミレニアムのエンブレムが描かれた学生証。人差し指でそれを軽く持ち上げると、彼は小さく、本当に小さくだが頷いた。

 

 

「――――正確にはやりたいこと……というより、欲しいもの、でしょうか。誰に言われたわけでもない、……僕が、心の底から欲しくなって、作りたいと願ったもの。それのために、ミレニアムを選んだんです」

 

「そっか……うんうん、それならいいんだよぉ。……アビドスが嫌いになっちゃったのかな、って思ってたんだけど。ちゃんと、前向きな理由ならおじさんは安心してお昼寝できるからね〜。………………本当に、よかった」

 

 

 「やらなければいけないこと」ではなくて。

 彼が、「やりたいと思ったこと」がミレニアムにあるのだと。彼は彼なりにちゃんと前向きになれる何かを見つけられたのだ。それがアビドスにはなかったことが残念でないのかと聞かれれば嘘になる。けれども、かつての仲間が新しい道を歩んでいるのだと思えば祝福をしないわけにはいかないだろう。

 ミレニアムで上手くいっていないのなら、アビドスに戻ってこないか、と皆で説得するつもりだったが、その必要はないみたい。私たちの会議が一回分無駄になってしまったけれど、この無駄はきっと良い無駄だ。

 

 ノノミが「セリカちゃん」と声をかけると、セリカがとあるものをブレザーのポケットから取り出した。

 紅い痕がエンブレム部分にほんの少しだけ残ってしまっているアビドスの学生証。持ち主は、紛れもなく彼だ。これは、彼だけの学生証――アビドスの仲間である証拠。

 

 

「先輩。…………その、……これ、一応……残しては、おいたんですけれど……」

 

 おずおずと差し出した学生証に、目を落とした彼は指先で一度学生証を受け取って。……少し眺めると、そのまま静かに、セリカの方へ差し出した。

 もう、それを受け取る気はないという意思表示に他ならない。突き返されたセリカは少しだけ俯いてから、その学生証をブレザーに仕舞い直した。

 

 

「ありがとうございます、黒見さん。でも、それは不要です。……砂狼さんには言いましたよね。僕たちは、仲間じゃない」

 

「…………うん。シャーレで、そう聞いた」

 

「仲間ではないので、それは受け取れません。今の僕は、……ミレニアムの生徒です」

 

 

 変なところで強情で、頑ななのも相変わらず。彼なりの、アビドスを離れた事に対するけじめのようなものなのかもしれない。私達の中、誰よりも責任感の強い彼だからこそ妥協は出来ないのだろう。

 本人が受け取ってくれないならどうしようもない。ただ、アビドスを嫌っていないと分かっただけで充分だと、そう納得しかけたけれど。

 

 

「…………ですから。仲間ではなく、友達というのはどうでしょう」

 

 

 それは、彼がアビドスにいた頃からずっと持っている小さな彼の鞄。その中から差し出されたのは、封の開かれていないクッキー缶だ。本当に何の変哲もない、何処にでも売っているといえば売っているようなものだけれども、これが彼なりの言葉なのだと。

 クッキーが示す意味は「ずっと友達でいられるように」。彼が蓋を開くと、私達は顔を見合わせて。そうして一枚ずつしっかり乾いたクッキーに手を伸ばして――

 

 

「――――うん。私たちは、ずっと友達」

 

 

 やっと私達は、「仲直り」が出来た。

 噛み砕いたクッキーは、なんだか少し、優しい味がしたのはきっと気のせいじゃない。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

「そういえば……結局、先輩のやりたいこと、というか欲しいものってなんだったの?」

 

「あ、それは私も少し気になりますね〜。ミレニアムで作れるもの……電子系のものなのでしょうか?」

 

 

 首を傾げるセリカとノノミ。私も気にはなっていた。あれだけアビドスに固執していた彼が考えを思い切り変えて、全くアビドスと関わりのないミレニアムに行きたがるほどに欲しいもの。全くもって思いつかない。

 疑問符を頭に浮かべる私達に、返されたのは人差し指。男性にしては細過ぎるその人差し指が、唇へ静かに当てられた。……これは。

 

 

「秘密です」

 

「…………えぇ!?言ってくれないんですか!?なんかいい感じの雰囲気だったのに……」

 

「僕は雰囲気(そんなもの)に負けませんので。……そうでしょう、砂狼さん」

 

「はぁ!?なにそれ、なんでシロコ先輩の名前が出てくるのよ!」

 

 

 残念がるアヤネと、憤るセリカ。

 ……やられた。完全に意地悪目的の意趣返しだった。シャーレの時、ちょっと虐めすぎてしまったかもしれない。

 私の名前が出たことで、皆の視線が私に集まる。特にセリカは何があったのかと言わんばかりの目つきだが、意地悪をした私としては目を逸らす以外に取れる行動がない。

 

 アヤネは宥めてくれているが、今のセリカは止まってくれない。ふしゃー、と威嚇をしてくるセリカに耐えきれず視線で彼に助けてくれと送ってみる。

 後輩に詰め寄られる無様な私の姿を見て溜飲を下げている真っ最中なのだろう、聞こえないふりをしてノノミが淹れた例のとんでもない珈琲を飲んでいた。このやろう。

 私はなんとかセリカを引き剥がして、ホシノ先輩の背に隠れる。ん、戦略的撤退。

 

「うへ〜、セリカちゃん、その辺にしてあげてねぇ。シロコちゃんもアヤネちゃんも困ってるからさ〜」

 

「ぅ……で、でもホシノ先輩!こう、気になるでしょ!?先輩、なんかシロコ先輩とだけ妙に仲良いし……」

 

「砂狼さんとは皆より先に、一度シャーレで会っていますから。それに、別に皆さんにだけ言わないのではなく、先生にもミレニアムの人にも言ってませんよ。……でもまあ、……そうですね、例えば……これは本当に例えばの話、ですけれど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし、キヴォトスが滅ぶような事があれば、分かるかも知れませんね」

 




変にシロコ視点にしたのが良くなかったかな〜とか思いつつ、「脇役」君がちゃんと覚悟決めて謝りに行ってるのを見て欲しかったので別視点にしました。色々むずすぎる。

そして次回からとうとうアビドス過去編ですが、次回の投稿には少しお時間いただきます。理由やその他ちょっとした設定を活動報告に載せておきますので、よければそちらも見ていってください。

遅れましたがブックマーク、評価、感想を前回もありがとうございました。頑張ります
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