脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

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なんだかサイトが大変なことになってたみたいですが、復旧できて何よりです。

更新が少しゆっくり目になったということで、今回から感想返しなんかも積極的にやっていこうかなと。というわけで感想頂けるとめっちゃ嬉しいです。ちゃんと読んでます全部……!

そして今回は三人称視点になっていますのでご注意を。視点くるくる変えるのって良くないんじゃねえかなって思っているんですけどね_(:3 」∠)_


Stories of the Past・Abydos.Ⅱ

 

 時間は流れ、季節は移ろい征く。それはゲヘナであってもトリニティであっても、ミレニアムでも変わらない。勿論、ここアビドスにも春はいつか訪れる。

 そして、出会いもまた同様に。

 

 桜が舞う時期、アビドスに新たに二人の仲間が増える事となる。黒髪をツインテールに括っている、シロコと同じく獣耳を生やした少女――黒見セリカ。赤縁の眼鏡がよく似合う知的な雰囲気を醸す少女――奥空アヤネ。

 何故アビドスに入学したのかは不明ながら、兎に角、このアビドスの新入生だ。中学の服を脱ぎ捨てて新品のアビドス高等学校の制服に身を包む二人は初々しく、案内役を買って出たシロコも暖かい目をしている。

 

 一部屋を除いた空き教室から医務室、体育館、対策委員会の教室、屋上、プール。砂だらけの世界の中だけれども、此処で確かに彼女達が通学して「アビドス生徒」として生きている証が幾つも残されている場所。

 そしてそんな中――最後に案内された場所を見て、セリカとアヤネは目を丸くすることになる。

 

 

「…………し、シロコ先輩……なんですか、これ」

 

「何って…………()

 

 

 そう、そこにあったのは、「畑」だ。比喩表現でもなんでもない、アビドス高等学校の裏側――普段は使われない来客用出入り口を出た先に明らかに砂ではない土の畑が在った。見せかけだけのものではないことを証明するように、数種の未熟な野菜の実が蔓と共にぶら下がっている。

 

 無論、それはとても大きな畑とは言えない規模。他校の初等部が授業で使う程度しかないものだが、砂漠にぽつんと畑があるという時点でとんでもない光景なのは間違いないだろう。セリカとアヤネは軽く目を擦ってもう一度それを見やるが、夢でもなんでもなく事実としてそこには土の畑が在る。

 

 

「………そ、それは見れば分かるけど!そうじゃなくって……なんで砂漠に畑があるんですか!?」

 

「信じられません……」

 

「気持ちは分かる。それに、この畑は少し前までは無かったものだから」

 

 

 二人の反応に頷くシロコ。どうやってこんなものを作ったのか、そう問い詰めようとしたところで、扉が開く音がした。

 其処に居たのは、細い体躯をした男子生徒。頭の上にヘイローは無く、体質なのか肌はこの砂漠に焼けることなく白を保っている。肩からは小さな鞄が下げられて揺れており、その手にあるのは使い込まれたスコップが一つ。扉を閉めたところで漸く向こうもシロコ達が視界に入ったのだろう、「帰ってきてたんだ」「ついさっき」とシロコと会話を交わしながら、セリカ達に会釈をしてみせた。

 

 

「砂狼さん、其方の二人はお客様ですか?」

 

「新入生。君がトリニティに出掛けてる間、連れてきた」

 

 

 新入生。その言葉を聞いた途端、彼は一瞬空を見上げ、次いで手のひらで顔を覆って眉間を揉みほぐし、数秒してからシロコの肩に手を置いて首を振る。

 

 

「……………………今からでもヴァルキューレに出頭しませんか。他校の生徒の誘拐は立派な犯罪ですよ」

 

「ん、万が一の時は埋めれば問題ない。キヴォトスでは見つからなければ犯罪ではない」

 

「犯罪だよ」

 

 

 意気揚々とサムズアップをするシロコの頭を叩く彼。勿論本気ではないのだろう、それは手の甲で子供を嗜めるようにこつんと叩くもの。叩かれた側のシロコも薄く目を閉じる程度の反応だ。

「埋める」発言を聞いて顔を青ざめさせているセリカとアヤネに気がついたのか軽く肩を竦めながらもう一度、こつんとシロコの頭に指の関節を降ろし叩いた。

 

 

「怯えなくても大丈夫です、今のは砂狼さんのジョークですので。……ジョークですよね?」

 

「…………………………ん」

 

「おい返事を溜めるな砂狼」

 

 

 この女、実のところトラックの強奪を始めいくつものアウトロー行為に手を染めた経験があるため信用がない。割と本気で彼は焦っていたものの、新入生の二人は先輩同士のじゃれ合いとでも思ったのか、それとも無表情に反して意外と感情豊かだとでも思ったのか、その両方で警戒を解いたのか。そこまではわからないものの、二人揃って彼に向き直り、軽く頭を下げてみせる。

 

 

「あの、今日からアビドスに入学しました、黒見セリカですっ!よ、よろしくお願いします……!」

 

「奥空アヤネです、よろしくお願いします……!」

 

「…………まあ、本当に誘拐ではなさそうですね。初めまして、お二人とも」

 

 

 名乗り返された名前は、漢字二文字にカタカナ二文字。キヴォトスの生徒では決して珍しくない部類の名前だ。しかし、そう、キヴォトスの生徒ならーー99%以上が女生徒であるこのキヴォトスで珍しくないということは、つまり。

 

 

「え、それ先輩の名前ですか?……先輩って男性、だよね?」

 

「その、なんというか…………随分と……」

 

「言わないでください。かなり女性的な名前なのは否定しませんよ。……というか、本名なのかも疑わしいところですが、他に呼び名もないので今はこれに頼っています」

 

 

 その言葉にますます首を傾げるセリカとアヤネ。聞けば、彼はXヶ月前にアビドス砂漠で倒れていたのを保護されたのだと。しかも記憶喪失のせいか本来の名前も年齢も思い出せない始末。あれから今も記憶は戻らないままに、連邦生徒会からの名簿検索にも引っかからず、結果として持ち物に記載されていた名前を借りてアビドスに仮所属しているのだと。

 経緯が経緯だったからか、軽率なことを聞いたとでも思ったのだろう。先程とは違う意味で顔を青ざめさせ、平謝りする二人に彼は苦笑した。

 

 

「ご、ごめんなさい……!私達、事情も知らずにそんな……!」

 

「大丈夫ですよ。昔は悩んだりもしましたが、今は別に。皆さんによくしてもらっていますので、これで文句を言うのは(バチ)が当たると思います」

 

 

 とはいえ女性的な名前を気にしていないかと言われればそんな事はなく。せめてこれが苗字呼びであればまだ話は変わったのかもしれないが、キヴォトスでは生徒同士は名前呼びの方が一般的なので少し目立ってしまう。

 

 

「そんなわけで、僕を呼ぶ時は出来るだけ名前呼びは控えていただければ。普通に先輩とだけ呼んでくれれば結構です」

 

「分かりました、先輩。…………あっ、そういえばこの畑のこと聞くの忘れてた!シロコ先輩、この畑どうし――っていない!?」

 

「逃げましたね、多分」

 

 

 辺りを見回せば、ほんの数分前まで其処に居たはずのシロコの姿がない。大方、サイクリングか何かに出かけたのだろう。彼が帰ってきたときにサイクリング用の自転車に新しい砂汚れがついていなかった所を見るに、出掛けている数日の間は趣味を我慢してくれていたらしい。新入生の案内についてもあらかた終わっている、逃げたのは少し納得がいかないがまあいいか、という気持ちだった。どのみち、この畑に詳しいのは自分の方なのだから説明も自分がしたほうがいいだろうと。

 

 

「この畑は数日前に作ったものですよ。外部から安い土を買ってきて、区切りを建ててから砂に混ぜました」

 

「……ま、混ぜただけでこんなになるものですか?普通、こういった場所は水捌けの問題で、ちょっと土を混ぜたぐらいでは畑としてはとても機能しないと……」

 

「ええ、ですから――廃棄品(ゴミ)を使いました」

 

 

 スコップで土を深く捲ると、其処から顔を出したのはビニール袋や破れた服。それは、誰がどう見ても廃棄品の類だった。セリカは「なんでゴミが?」も言いたげに目を回しながら「?」マークを大量に抱えているものの、アヤネの方は顎に指を当てて考え込んでいる。

 暫く経ってから思い浮かぶことがあったのか、自信なさげながらも答えを出せたらしい。

 

 

「…………これ、まさか。水を弾く……或いは水を吸う廃棄品で敷地を敷いて、水が砂に逃げていかないようにしているんですか……?」

 

「お見事。正解です、奥空さん。ビニールが水を弾くのは勿論、布だって水を吸い、そこに保ってくれる。……まあ、僕が考えついた方法ではなく、ミレニアムに出向いて得た資料だったりトリニティにある図書館の本で得た知識なので偉そうに出来ませんが」

 

 

 作業に関わってもいなければその資料を見てもいないアヤネもセリカには断言できるほどのものはないが、それは口で言うほど簡単な作業ではないことは何となくでも理解できる。大量のゴミを敷き詰めるだけでも重労働なのは言うまでもなく、そのゴミにしたって無差別に撒いていいはずがない。分別されたものをさらに分別し直して、しかも触るのは他人の出したゴミ。まして彼はヘイローのない人間だ、何処までシロコ達が手伝ったのかは不明瞭ながら、精神的にもそうだが肉体的にも簡単な作業とは口が裂けても言えないだろう。

 ……ただ、当の本人は本気でそう思っているのか無表情のままだった。

 

 

「いえ、それは充分偉そうに出来ることでは……というか、トリニティに出かけていたのってそういう理由だったんですね」

 

「すごいのはわかるけど……でも、畑なんか作ってどうするの?まさかこの野菜を売って、借金返済の足しにしよう……とか?」

 

 

 畑を作るプロセス自体は理解できれども、その畑を作ること自体への意図が読みきれないのだろう、セリカとアヤネの疑問は晴れないまま。とはいえ、それを踏まえてもセリカの考えついたものは可愛らしいもので、彼に馬鹿にする意図はないけれど思わず苦笑が溢れてしまったのは仕方のないことかもしれない。まさかこんな形で無表情が崩れるとは誰も思わなかったことだろう。

 

 

「あー!笑った!今、先輩、ぜーったい笑ったわね!?」

 

「はは、まさか」

 

「はは、って笑ってるじゃない!?仕方ないでしょ、入学したばっかりで何にもわかんないんだからぁ!」

 

 

 地団駄を踏むセリカに、薄く笑みを浮かべながら「そりゃそうです」と頷く彼は畑に近寄ると、まだ未熟なトマトを手にとってみせる。まだ旬と呼ぶには早い季節、植えられたそれはあまりに小振りで、とても売り物になるようなものでもないだろう。 

 彼はずっと先、砂漠の向こう側を見据えながら二人に振り返ることなく語り始めた。

 

 

「僕が作っているのは野菜ではなくて、実績です」

 

「…………実績、ですか?」

 

 

 今度はセリカだけではなく、二人揃って首を傾げることとなる。実績というのは何を指す言葉なのか、やけに不明瞭だ。彼もこれだけの言葉で伝わるとは思っていなかったのだろう、手の中でトマトを弄りながら視線だけはアビドス砂漠に向けられていて、ブレることはない。

 

 

「砂に埋まった都市部を丸ごと掘り起こすというのは、はっきり言って現実的ではない。……小鳥遊さん達には言いませんが、九億という借金を返すのも同様です。しかし、砂漠の上に何かを作る……或いは、この砂漠を有効活用できる方法があるとしたら?」

 

 

 砂漠だって「土地」であることに変わりない。この土地をうまく扱う手段がないからこそ、その価値がゼロというだけの話。この土地そのものに畑でもなんでもいい、価値をつけることができたのならばそれそのものが財産になる。アビドス自治区のほとんどは放置されているだけで、所有権はどこかしらの学園や企業が持ったままだ。

 つまり、この広大な砂漠の価値を「ゼロ」から「プラス」に変えることが出来るのなら――。

 

 

「………………アビドスに、人が戻ってくる……?」

 

「そういう事です。結局、廃校寸前に追い詰められているのはアビドスから人が離れ、経済が破綻したのが大きな要因ですからね。勿論それだけではありませんが、人が戻ってくる事があれば間違いなく大きな前進になる」

 

「でも、こんな小さな畑一個作ったからって……」

 

「どんなに小さくてもいいんです。砂漠地帯をごく一部でも活用出来たという事実が、今の僕たちには必要です」

 

 

 実績や事実があれば、他人は動く。砂漠地帯を有効活用出来ると分かれば連邦生徒会からでも企業からでも、人でも物資でもなんでも送られてくる可能性がある。そうなれば、今の数人でやりくりを回しているよりも取れる方法は、対策に割けるリソースは増えるはずだ。

 何よりリソースが増えれば、より効果的な方法を選べるかもしれない。

 

 

「そうしたらもっとこの計画を進められる。……そこから更に実績が延びれば、人も資材も増やしてもらえる。そしてまたより効果的な方法を探せる……この繰り返しだ」

 

 

 たった数人で砂漠の全てを変えることはできなくても、変えるための手段は得られるはずなのだと。少なくとも、目の前の彼は本気で信じていたし、本気でこのアビドスという土地をたった数人で救う気だった。

 馬鹿げた話だと笑う者もいるだろう。だが、彼はそれでも構わないと思っていた。だって、初代ワイバーンクエストの勇者も同じだ。勇者の剣を抜く直前まで、身の程知らずの愚か者と笑われていたのだから。

 

 

「まあ、たいそうなことを言いましたが、今のところ僕の取り組みは悉く失敗してますからね。……今回のこれが上手くいってくれればいいんですが」

 

 

 小さく肩を竦めると、掘り返した土をまた埋め直し始める。一瞬、セリカとアヤネは顔を見合わせると何を思ったのか、何を感じたのか声を張り、その場に鞄を下ろすと彼に詰め寄った。二人のそれはあまりにも突然の行動だったので、今度は先とは真逆に彼の方が困惑する番だったが、彼女達の言葉を聞いて困惑は消えてゆくことになる。

 

 

「…………先輩っ!あの、……手伝いますっ!スコップ、何処に置いてありますか!?」

 

「…………わ、私もやります……!いえ、やらせてもらえませんか……!」

 

 

 二人の申し出がよほど予想外だったのか、殆ど揺れなかった彼の瞳が驚いたように開かれる。まるで、こんな馬鹿な話にまともに付き合う人間などそれこそ自分か、シロコ、ノノミ、ホシノくらいのものだと思っていたのかもしれない。

 彼はスコップを手にしたまま眼を閉じると、数秒して人差し指をアビドス校舎の二階端にある教室に向けてみせた。

 

 

「…………では、黒見さん。2階の奥にある部屋が物置になっていますので、そこからスコップを持ってきてもらえますか?少し広めに、今日は掘りますよ」

 

「はいっ……!」

 

 

 軽く砂を蹴飛ばしながら、靴を脱ぎ捨てて校舎に戻っていくセリカの後ろ姿。黒いツインテールが微かに靡き、黒の軌跡を描きながら消えてゆく。

 残されたアヤネの方は自分はどうすればいいのか、立ち尽くしていたがその手にぽんとクリアファイルが置かれることとなる。小さな鞄にどうやって詰め込んでいたものか、中に挟まれているのはやや大きめのルーズリーフの束だった。勿論、それにはびっしりと端から端までボールペンで文字が書き込まれているではないか。軽くめくっただけでも、その一枚一枚にどれだけの労力がかけられているのかが分かる代物だ。

 

 

「奥空さんにはこちらを頼もうと思いまして」

 

「先輩、これは…………」

 

「写本……というにはちょっと雑ですが、トリニティの図書館にあった記録をまとめたものです。トリニティ区外に本は持ち出せませんが、自分でノートにまとめて持ち帰る分には違反に当たりませんからね。勿論、ちゃんと聖園さん……ああ、トリニティの生徒会の人に、許可はもらっていますから」

 

 

 セリカにしたのと同じように、今度は一階の右端にある教室を指差した。そこには砂が積もっていて中の様子がよく見えないものの、何かしらの棚や段ボールが残されているのが外からは見えるだろうか。

 

 

「一階に資料室があります。農業についてのミレニアムの公開データをコピーした資料や、これと同じようなノート……あとは過去のアビドス生徒会が残した収支なんかの情報とかが散乱していまして。人手が足らず今まで整理できなかったのですが」

 

「――――わかりました、お任せください!」

 

 

 そちらをお願いできますか、と言い切る前にアヤネもやる気満々と言った風に後者に戻ってゆく。

 スコップ探しに手間取っているのか、まだセリカも戻ってこない。一人残された彼はスコップを砂に突き立てて校舎を見上げながらぽつりと呟いた。

 

 

「…………小鳥遊さんではありませんが、二人とも若いですね」

 

 

 これから、彼女達は知って征く。

 屋上に転がりながら流れるくじら雲の存在も、砂だらけの世界で分け合うジュースの味も、一人きりではない限り笑うことが出来るということも。

 

 この畑は砂嵐で壊れてしまうけれど、その程度で諦めたりは誰もしていない。凡ゆる手を尽くし続ければ、いつか本気でアビドスを救えるのだと信じて頑張って。でも、ただ辛いだけじゃない。

 なんでもない日々を過ごすというだけの事が楽しくて、笑い合って、時に喧嘩して誤解して仲直りをして、苦難を乗り越えて――――そんな日々が続くと思っていた。

 

 そして、ある日。

 机の上、置きっぱなしになっていた彼の新しいスマホのSNS画面に流れていたキヴォトスニュースの一文で、大きく運命は()()()()()()()()()()()

 

『連邦生徒会により設立された部活、シャーレの顧問となる"先生"がついに来訪!?気になる部活の正体とは!』

 

 誰もいない部屋の中、充電切れを警告するために赤く点滅するスマホのバッテリーだけが寂しく輝いていた。




この間に色々脇役君達も頑張っていましたが、その日々の詳細はまたいつかの幕間で語ろうと思います。シロコへの覗き(事故)の件もね
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