脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

2 / 37
共和国です。本編も描いていますが季節物は逃がせないし、何より自分が描きたかったので描きました。間に合ってよかった……_(:3 」∠)_
コメントの方も感想返しが途切れていますが眼を通しています、ご安心ください。

そして今回、いつも以上にクソボケです。……Expansionはこのくらいの緩い雰囲気で進行しますのでご了承ください_(:3 」∠)_


Stories of Expansion・Valentine

バレンタイン

 此処はハイランダー鉄道学園、その整備室。

 なんでこんなところに僕が、という疑問はあるかもしれないが、列車というのは機械の塊だ。ついでに言えばその走行原理も科学とは切っても切り離せない。個人的な縁がきっかけでハイランダーとは関わりを持つことが出来て、偶にこうして列車整備の手伝いを頼まれているのだ。……まあ、この学園も一枚岩ではないし、偶に不穏な匂いもしているが、そんなことキヴォトスでは今更だ。

 

 そしてつい先程、整備の一つが終わって漸く休憩だ。次の整備列車がくるまで一時間以上あるし、のんびり本でも読んで過ごそう。今日は持ち込んだ文庫本は無いけれど、整備室には列車関連の雑誌もある。退屈はしないだろう。

 尤も、……雑誌とは関係なく、退屈というのは無いかもしれないが。

 

 がこん、と()()()()が作動する音がした。部屋の入り口に仕掛けていたトラップだ。体重がXXkgを超えない生徒が踏んだ時にのみ作動する仕掛けによって、ぶらんと天井から逆さ吊りになっているのは薄緑の髪をした双子の姉妹――橘ノゾミと橘ヒカリという女生徒達。

 先程話に出した『個人的な縁』とは、この二人のことだ。僕にしょっちゅう嫌がらせを仕掛けてくることを除けば、優秀なハイランダーの生徒である。

 

 

「……そろそろ来る頃だとは思っていましたが、綺麗に引っかかりましたね。逆さまの景色、見応えはいかがですか?」

 

「「降ろせ〜〜〜!!!」」

 

 ――――――――――――――

 

「で?……二人は何しに来たんですか」

 

「え、普通に悪戯しに来たんだけど」

 

「今すぐ帰るか、スオウさんを呼ばれるか。僕も鬼ではありません、好きな方を選ばせてあげましょう」

 

「だーーー!?待って待ってどっちもやだ!」

 

 

 なんだこいつ、我儘すぎる。

 仕方がないので逆さ吊りから下ろしてやった途端に悪戯宣言とはどういう了見か。スオウさんの名前を出されてビビるのであれば素直に最初から引いてくれればいいものを……。思わず雑なため息が溢れてしまったが、この二人相手だし、まあいいか。

 因みにスオウさんとは、この二人のお目付け役の名前である。厳密には少し違う立場の人間らしいが、まあ、似たようなものだし僕としてはそんな認識だ。

 

 

「……明日以降なら悪戯は受け付けますから、今日は勘弁してもらえると。予定が詰まってますので……」

 

「いや、悪戯の受け付けってそれはそれで意味不明なんだけど……」

 

「それより我々はお客さんだぞー。お茶の一杯でもだせー」

 

「ここハイランダーの整備室なんですが」

 

 

 どちらかと言えばお客さんに該当するのは僕の方ではなかろうか……。いや、飲み物くらい別に構わないのだが、僕に飲み物を淹れさせようとするとは正気か?

 そこまで考えてふと思い至ったのは、そういえば彼女達は知らなかったな……と。僕の珈琲が、他人からも認められるほどに絶望的な濃度と味をしていることを。

 

 部室に備え付けのポットを拝借して、三人分の珈琲をお望み通りに淹れてやる。どうせこの姉妹はブラックでは飲まないだろうと、ご丁寧にガムシロップまで添えて、だ。「カフェオレが良かったなー」なんて文句を言いながらも勿論一滴残らずそのシロップを突っ込んだ二人のうち、先にカフェインの爆弾を受けたのは――もとい、先に珈琲に口をつけたのはノゾミの方だった。

 

 

「ごほぶっ」

 

「ノゾミ!?」

 

 

 黒の液体を口に含んだ瞬間、珈琲を吹き出して椅子から立ち上がるノゾミ。数回咳き込みながら舌を出しており、その見開かれた瞳には星が回っていた。

 

 

「……な、……なにこの珈琲……あり得ないんだけど!?マズいとかそんなんじゃないよぉ!飲んだ瞬間に宇宙見えたって!身体壊すからこんなの飲んじゃ駄目!」

 

 

 …………しかし、そこまで言われるほど苦いだろうか?自分の珈琲が他人にとって美味からは掛け離れていることは理解しているが、いくらなんでも大袈裟な。そもそも使っているのはインスタントの珈琲だ。苦くなることはあるかもしれないが、不味くなるなんて中々ないだろうに。

 

 ふと、『不味い珈琲』といえば天雨さんの珈琲を思い出す。あの人の淹れる珈琲も中々他人に不評らしいが、僕は非常に美味しくいただけた。ゲヘナで手伝いをしたときは、厚かましくもおかわりをもらってしまったくらいだ。

 天雨さんの珈琲が朝起きた時にあったなら、その日はそれだけで悪くない気分で過ごせることだろう。……まあ、天雨さんが朝から僕の家にいる状況などとても想像できないが。

 

 そんなことを考えているうちに、二人目の犠牲者が出てしまった。あまりといえばあまりなノゾミの反応に逆に好奇心が刺激されたのだろうか、ヒカリも口に珈琲を含むと

「ぅあ"ぇッ」「ヒカリー!?」と二人揃って先程と人物が変わっただけで全く同じ光景を繰り返していた。姉妹仲が良くて何よりだ。

 

 

「それで、結局二人は何しに来たんですか。……特に用事がないなら、珈琲飲み終わってから帰ってくださいね」

 

「もう飲まないって!?くっ、ちょっと予定が狂ったけど……でもここからは私達のターンだよ!」

 

「ねー。今日がなんの日か知ってるー?」

 

「2月14日。バレンタインデーですね、流石に知ってますよ」

 

 

 淡々と答える僕にどんな反応を期待していたのかは知らないが、一瞬不満そうに唇を尖らせる橘姉妹。が、近くに雑に置いていた僕の鞄の中身がいつも通り『本』と無骨な銃一丁、カロリーバーだけなのが見えたのか――ノゾミはその口元を小悪魔的に歪めてみせた。

 

 

「パヒャヒャッ、興味ありません〜って感じで強がっちゃって。見たところ、まだチョコレート一個も貰ってないみたいだし〜?せっかくのバレンタインにそれは可哀想だから……私達からプレゼントしてあげようかなーって」

 

「でもただではあげませーん。私たちに、このゲームで勝てたら進呈致しますー」

 

 

 そうして二人が取り出してきたのは、……なんだこれ、『ヴァリオトレイン・デラックス』か?確か電車を使ったレースゲームだったはず。幾つかのランダムアイテムを使いながら相手よりも先に三つ駅に着いたら勝ちというもので、実はなかなか有名なゲームなので名前だけは僕も知っている。

 

 なんのことはない、結局のところ遊びに付き合ってくれと言う話か。……普段なら適当にあしらっていたところだが……正直、ちょっと興味はある。勿論チョコレートではなくてこのゲームの方に、だ。

 手を出そうとは思っていたけれど、ワイバーンクエストの新作と重なったりモモイさんと一緒にやっているソーシャルゲームの更新が最近多くなっていたり……そんな理由があってまだ触れていないゲームタイトルだ。少なからずゲーマーとしては興味を惹かれてしまう。

 

 

「…………いいでしょう。チョコレートはともかくとして、ゲームならやる以上負けませんよ」

 

「パヒャヒャッ、それはどうかな〜?」

 

「この日の為にすっごくやり込んできたー。具体的には、業務をちまちまサボって作った時間で」

 

 

 仕事しろ、このクソガキども。

 

 ――――――――――――――

 

「……な、……なにこのタイムスコア……!?待っ……え、嘘でしょ!?初見なんだよね!?」

 

「ぼ、ボロ負けしたー……結構練習してきたのに……」

 

 

 膝からくず折れる姉妹の前に表示されている数字三つ。そのうちの一つは、他と比べてほぼ倍の差がついている。途中から二人のことを半周遅れでぶっちぎって僕がゴールさせてもらったからだ。こちとら普段から花岡さんとの格ゲーで、フレーム単位の世界で戦っている身。ちょっとやりこんできたぐらいで、ゲーム勝負で負けてたまるものか。

 …………なに、ホッケーやバスケットゲームで一之瀬先輩には大敗していたって?ヘイロー持ち相手にあの手のゲームはノーカウントだろう、流石に。

 それはそれとして、『ヴァリオトレイン』は中々面白かった。僕が次に買うゲームが決まってしまった、そのくらいには素直に面白いと思える作品だった。

 

 

「ま、まだ勝負はこれからだってば!えっと、……じゃあ、次はトランプで勝負!」

 

――――――――――――――――

 

「フルハウス」

「ぐえ」

 

「フォーカード」

「うえー」

 

「ロイヤルストレートフラッシュ」

「「ぬあ〜〜〜!!?」」

 

 

 全勝である。

 口から魂が半ば抜けている二人を一瞥して、手元に残ったトランプの束を適当にショットガン・シャッフルをして遊んでいたらそのうち復活した。次いで二人の口から出てきたのは、帰ってきた魂ではなくて恨み言とも取れるような文句だった。

 

 

「か……勝てるか、こんなの!?手札やばすぎだし、そもそも表情無さすぎ!なんにも分かんないってば!」

 

「ポーカーフェイスが強すぎるー……表情筋生きてるー……?」

 

「僕もそれは気になりますね。……だからって顔触らないでくれますか、ヒカリ」

 

 

 頰をつついてくるヒカリを軽く退けながら肩を竦める。

 ……というかなんでポーカーだったんだ?運の要素も多分にあるとは言え確率論を絡めたゲームで、それ以上に相手との駆け引きがあるゲーム。ヒカリは兎も角ノゾミは表情ひとつで殆ど筒抜けだったし、反対にこの二人は僕の無表情から何を読み取る気だったんだろうか。

 

 因みに手札については、最後の一回だけは僕がディーラー側だったので普通にイカサマさせてもらった。誰が言った台詞なのかは知らないが、こういうのはバレなければイカサマとは言わない、らしい。

 それに人生で一回くらいはロイヤルストレートフラッシュを揃えてみたかったから、と言う悪戯心がないとは言わない。普段散々ちょっかいを掛けられているのだ、これくらいの仕返しは許されるだろう。どうせ三回勝負のうち二回は勝っていたんだから結果に変わりはない。

 

 さあ、どうあれ、これで二戦二勝。

 いい加減諦めてほしいがこの二人がこれで引き下がる訳もなく、不意に恐ろしいことをノゾミが言い始めた。

 

 

「か、かくなる上は純粋な実力行使……!?射撃勝負とか……格闘勝負とか……!」

 

「ヘイロー持ちが僕相手にそれするの、恥ずかしく無いんですか?」

 

「ぐぎぎぎ……!それはそう……!それはそうなんだけど……!」

 

「こうなったら最終手段しか、ない……!」

 

 

 なんでもいいが、できれば次で最後にして欲しい。恐らく業務をサボってきたのであろうこの二人と違って、こちとらまだ仕事が残っているのだ。というか、ハイランダー所属の生徒二人よりミレニアムの生徒の方が仕事してるってどうなんだ?スオウさんの胃が心配になる。

 散々勿体ぶった彼女達が見せつけてきたのは、お菓子の箱。言わずと知れた有名メーカーの棒状チョコレート菓子である。まさかとは思ったが、そのまさからしい。

 

 

「「バレンタインらしく、最後はこのポッキーゲームで勝負だ!!」」

 

「…………えぇ………………?」

 

 

 説明しよう。

 ポッキーゲームとは、件の菓子を使った()()()()()()()()()()()()()、だそうだ。この辺のアナログゲームの歴史について僕は詳しいとは言えないが、これは伊落さんから教わったので憶えている。

 

 ルールとしては互いにポッキーの両端を咥えた状態がスタートライン。先にポッキーから口を離したり折ったりした方の負け……最終的にはポッキーを長く齧っていた方の勝ち、というルール。

 これお互い口を離さなかったらどうなるんだとカズサに聞いたことがあるが、その時ははぐらかされてしまった。結局、色々と細かいルールは僕も知らないままになっているが、この辺は提案した二人が理解しているんだろう。

 

 

「で。……どっちがやるんですか?それ」

 

「「…………………………………………」」

 

 

 急に黙るな。

 そそくさと二人は部屋の隅っこに走って行ったかと思うと、丸くなってなにやらコソコソと話し始めた。作戦会議のつもりなのだろうか……ポッキーゲームの作戦会議ってなんだ?生憎、僕はヘイロー持ちではないので彼女達の会話は聞こえない。もうなんでもいいから早くしてくれないだろうか。

 

 

「(……ど、どうする?どうやって順番決める?)」

 

「(……ノゾミは()()()()の時、お姫様抱っこしてもらってた。だから、私に譲って欲しい)」

 

「(ずるい!?そんなこと言ったらヒカリは撫でてもらってたじゃん!)」

 

「(でもノゾミはーー)」

 

「(でもヒカリはーー)」

 

 

 ……良い加減長くなりそうだ。頬杖をついて、先程のヴァリオトレインの説明書を雑に眺めていたら二人は漸くジャンケンをし始めた。もう最初からそれで決めればよかったのでは?

 そしてそのジャンケンも長かった。あいこを六回繰り返す大激戦になっていたが、そんなところで無駄に熱量を出さないで欲しい。

 

 結局、その激闘を制したのはチョキを出したノゾミのほう。余程ジャンケンが白熱したのだろうか、ポッキーを既に咥えているノゾミは心なしか頰が赤い。

 なにやらノゾミはにやけ面を晒しているが、その理由も分かる。分かる、が――()()()()()()と言っておこう。

 

 

「………………ん、んん!?」

 

 

 ――ノゾミの肩を軽く掴むと、そのまま身体をやや倒してプレッツェル部分を唇に咥え込む。やや薄い黄色をした彼女の瞳が驚いたように見開かれており、顔が近いことで元から豊かなノゾミの表情はいつも以上によく見える。

 

 恐らく橘姉妹は僕が恥ずかしがって碌にゲームにならないか、或いは照れている様子を見て後から揶揄いの種にでもしてやろうと皮算用をしていたのかもしれない。

 ……が、結果はご覧の通り。残念ながら、僕は全く平気だ。いつも通り無表情は崩れていない自信さえあるほどに。

 

 なんで平気なんだって?

 そりゃあ、()()()()()()()()()()()()から、としか言いようがない。一之瀬先輩を筆頭に、カズサや伊原木さん、イズナ、飛鳥馬さん、浅黄さん、……他にも複数人か。これだけやれば、慣れもする。こちとら甘いものが苦手だと言うのに……。なんならルールもよく分かっていないのに、なんで僕ばっかり誘いたがるんだ。

 

 まあ正直はしたない遊びだとは思うが、本当に接吻(キス)をするわけでもなし。僕には分からないが、これだけやらされるということはキヴォトスの中では別に一般的な遊びではあるんだろう。

 そう思う理由の一つとして、伊落さんからも誘われたりしたことがあるからだ。あの清楚、清純で有名なシスターフッドでさえやっている遊びだし、僕が考えすぎなだけで特に下手な意味合いは何もないはず。多分。

 

 ……色々と思うところはあるものの、あまり喧しく言うのも宜しくないかと思って黙っている。自分の恋愛観や貞操観念が古臭い自覚はあるが、だからといって本当に言われたらそこそこ気にはする。

 

 事故って本当にキスしたら、その時は責任を取って切腹くらいはさせてもらう。貞操の一つを奪うと言う事故なのだから、そのくらいは仕方ないだろう。そうならないように出来るだけ気を付けてはいるけれど。

 尤も、戒野さんだけは洒落にならない。彼女だけは本気で唇を重ねようとしてきたので、あの人とだけは二度とやらないと誓った。切腹の心構えはしているだけで、当たり前だが誰が好き好んで切腹したいものなのか。

 

 そんなわけで。

 彼女達の目論見は失敗だ。それに様々な人から散々このゲームに付き合わされた影響で、こちとら必勝法を編み出している。

 

 即ち、――――喰われる前に、さっさと喰う。

 

 下手に時間をかけて齧っても、甘味が苦手な僕には拷問だ。単純に、気恥ずかしくないわけではないのでさっさと済ませたい気持ちもあるし、このゲームは齧った長さが半分を超えた時点で勝利が確定する。つまり細かなルールがどうであれ、速攻を仕掛けるのが合理的だ。

 事故りそうならわざと噛み折ってもいい。判定的には負けかもしれないが、実質勝利みたいなものだし、特に今回必要なのは精神的な勝利だからそれでも構わない。どうせ勝ったところで貰えるのはチョコレート一個だし。

 

 微かな塩気のあるプレッツェル部分を噛み砕き、苺味のする胸焼けしそうな甘ったるいチョコレート掛けの部分に差し掛かる。口に残るようなチョコレートの甘さを可能な限り無視しながら進んで、ノゾミの顔がその睫毛まで見えそうな距離に近づいてくる。

 ……もう半分以上齧り切っているのに、ノゾミは時間稼ぎのつもりか往生際悪く顔を引こうとした。ので、――()()()()()()()()、それを許さない。

 

 

「〜〜〜〜〜〜!?!!?!??」

 

 

 そして、次の瞬間。

 ノゾミが僅かな乾いた音を立てて、ポッキーを噛み折った。完勝である。実質的な勝利でもいいとは言ったものの、やはり正規の手段で勝つのは気持ちがいい。……大人気ない?それはその通り。ちょっとやり過ぎた自覚はあるが、どうせ相手から仕掛けてきた勝負だ。

 さて。完全に放心して目の焦点が合わなくなっているノゾミは置いておくとして、もう一匹の悪戯小娘にはどうしてくれようか。

 今度は僕の方から2本目のポッキーを唇に咥えると、ヒカリが肩を跳ねさせた。

 

 

「……次はヒカリの番ですね、どうぞ此方へ」

 

「はぇあッ!?」

 

 

 中々に素っ頓狂な声を上げて後退るヒカリ。無理もない、あれほど完璧な必勝法を見せつけられた後では戦意も喪失しようというものだ。

 どうしても近寄ってこないヒカリの様子を確認すると、僕の方から近寄って見せる。一歩、二歩、三歩――近寄る度に口を金魚のように力無く開閉させ、目の前に寄るとついには何かを決意するように眼を閉じたヒカリ。そのまま此方に唇を寄越そうとして――その唇に、リボンに包まれた『箱』をとんと押し当てた。

 

 

「…………へ、?」

 

「どうぞ、開けてみてください」

 

 

 それは、わざと鞄には入れずに先程まで隠していた箱。どこに隠していたのかって?ミレニアムの企業秘密だとも。

 箱と僕の顔を数回見比べては眼を瞬かせて、呆然としていたヒカリ。漸く緩慢な動作で渡した箱を開くと、その中身――電車を模した二つのチョコレートを見て、驚いたような表情を浮かべてくれた。サプライズは普段しないのだけれども、こんな表情をしてくれるのなら中々悪くない気分だ。

 

 

「…………ち、チョコレート……?」

 

「バレンタインデーは、その昔は男性から女性に贈り物をする日だったそうですよ」

 

 

 勿論、詭弁だ。過去どういう催しだったにせよ、現在は女性から贈り物をする日だというのは変わっていないのだから。じゃあなんでわざわざこんなことを、って?

 

 …………、チョコレートをもらっても僕は食べられないから……。だから、僕から渡すことでバレンタインを男性から女性にチョコレートを贈る日に。ホワイトデーを女性から男性に同程度の贈り物をする日に――と言う形で、バレンタインとホワイトデーを逆にしているのだ。ホワイトデーなら塩味のクッキーや、なんなら文房具でも渡したところで違和感はないし、僕もそれなら有り難く受け取れると言うものだ。

 言うまでもない事だが、橘姉妹だけを優遇するつもりはない。何かしら関わってくれた人間には渡しているし、変な誤解もされるまい。

 

 

「……三連敗(これ)に懲りたら、悪戯やちょっかいも程々に。それでは、僕はまだ仕事があるので……失礼しますね」 

 

 

 お返しは期待していますよ。

 それだけを言い残して、背を翻し次の仕事場所に向かう。去り際に整備室の聞こえてきたのは、二人の悶えるような唸り声だけだった。

 

 因みに二人のサボりはスオウさんに連絡した。

 それはそれ、これはこれである。薬としてしっかり絞られて欲しい。




1.アビドス 2.アリウス 3.ゲヘナ 4.トリニティ
5.ハイランダー 6.百鬼夜行 7.ミレニアム 
dice1d7 → 5

本編の続きは来週中に上がる予定です。
そしてシュポガキのジャンケン、アプリを使いましたが本当に六回あいこでしたという裏話。ポッキーゲームについては、……吹き込んだやつが悪いということで……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。