脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達 作:ぽけぽっぽ共和国
さて、此方のアビドス過去編ですが「残り二話」の予定です。
カウントダウンをお楽しみください。
久々に感じるアビドスの対策委員会議が漸く始まった。しかしいざ始まってみれば、出るわ出るわ問題の山。
特に地籍図。聞き慣れない単語だが、これはざっくり言うと土地の管理書類を示すもの。要するにアビドスの土地が誰のものか――僕らは当然のようにアビドス高等学校に所有権があるものだと思い込んでいた。が、実際には所有者は「カイザーコンストラクション」となっており、僕たちの管理下からとうの昔に外れていたのだ。
言わずもがな、カイザーコンストラクションはカイザー企業系列の会社だ。資料管理は自分も携わっていた――というか奥空さんがアビドスに来る前は僕がやっていたのに、何故気づけなかったのか。間抜けにも程がある。
「(しかし、天雨さんと空崎さんの発言間に微妙な違和感があったのはそれか……)」
僕はその場にいなかったので、あくまで奥空さんの伝えてくれた情報が正確ならばの話だが、天雨アコは既に柴関周辺の土地がアビドスの自治区では無いと知っていたのだろう。やけに堂々と乗り込んできたというのも、それが違反にならないと分かっていたから。尤も、それは結果として空崎さんの不興を買う羽目になったようだが。
問題はここからだ。空崎さんの文言は『事前通達なしでの無断兵力運用、そして
これは天雨さんが行政官という事務を主にする役職で、対する空崎さんはその戦闘力故に前線での多忙を極めていると聞く。天雨さんもこの事実に辿り着いたのはごく最近なのではなかろうか、それならば伝達が上手く行かずに空崎さんが知らなくても仕方ないとは思う。
が、ここで更に
トリニティの委員会「ティーパーティー」の一員である桐藤さんと聖園さん。この二人には良くしてもらっているが、アビドスの自治区が狭まっていると言う話を一度も聞いた事がない。戦闘力を買われて入ったと言う聖園さんはともかくとして、広く情報網を張らせている桐藤さんまでもが知らない情報ということだ。知っていながらわざと口にしなかった、そんな意地悪をする人達ではない。
ミレニアムも同様に、委員会の役割を果たす「セミナー」の会長である調月さんからもそんな話は聞かされた事がない。
「(……土地が僕たちの管理下を離れていた、それを知っているのは天雨さん以外では件の区域に住んでいる人くらい。つまり、……カイザー側も他の学園や自治区に対して、"ここは我々の土地だ"と主張する気がないということ。あの土地は書類上カイザーが手にしているというだけで、カイザーからしたらあってもなくてもどうでも良い土地なんだろうな)」
はっきり言わせてもらえば、アビドスの土地の殆どは砂嵐の被害を受けていてとても
案の定とも言うべきか、会議の最中、土地を手放したのは生徒会が資金繰りに困った果てのことだという推測を小鳥遊さんが立てていた。
膨れ上がってしまった借金、その利息の返済のため二束三文で土地を売り払い、そしてそれを繰り返してしまう――負のループだ。土地が無いから新しい資金繰りが出来ずに借金が返せず、そしてその借金のために土地を更に手放していく。ループを断ち切るための手段が、アビドスには残されていなかったのだろう。
しかし、なんとも。
「なにそれ……なんか、おかしくない?最初からどうしようもないっていうか……」
そう、黒見さんの言う通り「どうしようもない」のだ。恐らくだが、カイザーはこれを見越していたのでは無いだろうか。例え融資をしたところで砂漠化をアビドスは止められないと分かっていた。
相手は仮にも大企業。最初から貸し付けた金の返済が相手に出来るか出来ないかの判断くらいは付くはずだ。つまり、
「…………これ、もしかして」
「……シロコ先輩?」
「カイザーコーポレーションは、最初から……アビドスの土地が目当てだったのかもしれない」
同意見だ。先生と僕、両方に視線をやる砂狼さんに対して小さく頷いてみせる。
先の土地はどうでもいいと言う言葉とは矛盾するようだが、正確にはアビドスの管理するごく一部の土地が欲しいといったところか。それが「今現在アビドスに残されている土地」なのだろう。
最初から「金は回収出来なくても構わない」とカイザー側が考えていたのなら金に変わる他のものが必要だ。もしもカイザーの本命が「今現在アビドスに残されている土地」であるのならば、そこに
アビドスの土地が金に変わらないというのは間違いないのだから、九億という
そして狙いが本当に土地の方なのであれば――――。
「(…………いや、辞めよう。これは憶測に過ぎない。下手な事を言って、皆の士気を下げるわけには行かない……)」
今でさえかなり、特に黒見さんが憤っている。彼女は激情がそのままパワーになるタイプの人だが、度を越えてしまいかねない。
詐欺みたいなやり方、とは言うがこれも「大人のやり方」なのだろう。カイザー側のやり方に思うところは勿論あれども、金を貸してその金の代わりに土地を貰う……ビジネスとしてはなんらおかしな所はない。こう言うものは納得できる、できないという話ではなく、納得するしかない、と言う方向に持っていくのが「大人」なのかもしれない。そう割り切れたらどんなに楽だったか。
「"セリカ。落ち着いて"」
「先生……?」
「"悪いのは、騙されることより騙すことだと思うよ"」
正論だ。先生が語るのはどこまで行っても、理想論であり正論。騙される側にリテラシーがなかったのが悪いと言われたって仕方がない話であっても、
あの屋上での言葉の通り、理想論を翳す先生に少し呆れて、同時に少し安心した。
「……苦しんでる人達って切羽詰まりやすくなっちゃうからねえ。切羽詰まると、人はなんでもやっちゃうものなんだよ」
小鳥遊さんのその言葉はやけに実感が篭っているが、それに関しては身に覚えがあるから何も言えない。実を言えば僕もやることなすこと全てが裏目に出て自暴自棄になってしまった時期がある――おっと、暗い話ではない。
笑い話に過ぎないが、残されていた資料で砂漠の大オアシス跡に希少鉱物の使われた花火が埋まっていると言う情報を見つけたことがある。それを掘り当ててやると意気揚々とスコップを片手に、砂漠に突撃を仕掛けようとしたところ小鳥遊さんに全力で止められたのだ。まあ冷静に考えれば、あんな広大な場所で小さな花火を複数個見つけようとするのは阿呆の所業だ。止められて当たり前だった。
そんな回想ですらないような回想はさておき、漸くアビドスを取り巻く状況が明らかになりつつある。ヘルメット団や便利屋が襲撃を仕掛けてきた理由も結局はカイザー絡み。そしてそのカイザーの狙いは、この場の全員が既にわかっていることだが「アビドス高等学校の土地」だということも。
それを裏付けるように、先生は言葉を繋げる。
「"これは、ヒナから聞いた話だけども。アビドスの捨てられた砂漠で、カイザーが何か企んでるんだって"」
「アビドスの砂漠で……?」
「そ、そんな事をどうしてゲヘナの風紀委員長が……」
そこについては僕も分からない。が、天雨さんがアビドスの事について詳しかったあたり、元々情報網が広いのかもしれない。この辺りは空崎さん本人に聞かない限り分からない事だろう。
「ああもう、そんな難しいことを考えるより、先にやることがあるでしょ!アビドスの砂漠はうちの自治区なんだから、実際に行ってみればいいじゃん!……何が何だか分かんないけど、この眼で確かめた方が早いって!」
ばん、と会議室の机を叩いて立ち上がる黒見さん。思わず表情が緩んでしまうが、これぞ黒見さんと言ったところだろうか。
単純だが、単純だからこそ明快だ。変に遠回りをせず分かりやすく「やるべき事」を伝えてくれるのも、彼女の魅力だろう。他の全員も同じ事を思っているのか不思議な温もりのある雰囲気になっていた。
「…………な、何よこの雰囲気!?私がまともなこと言ったらおかしいわけ!?」
「あ、あはは……そんなことは……。ですが、セリカちゃんの言う通りです」
「"じゃあ、準備ができたら行こっかーーアビドス砂漠へ"」
『はい!』
全員が声を合わせて大きく先生の言葉に頷いて。そして、何故か十六夜さんだけが僕と奥空さんの方に振り返って。
「アヤネちゃんとチワワ君はお留守番ですからね?」
「「…………はい……」」
アビドス砂漠には普段から壊れたドローンや警備ロボット、オートマタが徘徊している。更に遮蔽物の少ない砂漠では危険度が増すので、お留守番。勿論、ヘイローのある奥空さんでさえそうなのだから僕に同行できるわけがない。
分かってはいたことだが、こういう時に非戦闘員はあまりに辛い。一応サポート用のドローンで追跡はするものの、二人して手鼻をくじかれた気分だ。隣でがっくりと肩を落としている奥空さんは、僕より余程チワワに見えた。
――――――――――――――――――
「……………………凄まじいですね……」
アビドス砂漠に向かう道中はヘルメット団、そしてアビドス砂漠に入ってからは破棄されたオートマタやドローンが行手を阻む事になっていたが、先生達はまるで苦にして居なかった。ヘルメット団もオートマタも二十は居たはずだというのに、先生の指揮下でひたすら前進し続けている。
思わず溢してしまった「凄まじい」という言葉は相手の数に対しての言葉では無く、先生の指揮能力についてだ。僕は先生の指揮を見るのは今回が初めてだが、ドローンのカメラ越しにさえ、その精度が異様だというのが理解できる。
「先生の指揮ですか?私も初めて、戦闘をご一緒した時は驚かされました。あそこまで精度の高い指揮が出来るのは流石大人、と言ったところなのでしょうか」
「…………そうですね」
奥空さんは「精度が高い」と称していたが、先生の指揮はそんな次元の話ではない。あの人には一体何が見えているんだ、というか何処に眼がついているんだ。僕とて仮にも後衛、指揮について全く学ばなかったというわけでもない。だが、それは齧っただけでも僕の想像を絶する難易度だった。一度だけ指揮の真似事をしてみたことがあったのだが、下手な指揮など無い方がマシだと身に染みて理解できた。
指揮対象と相手全員の動きを常に頭に入れ続けて指示を出すだけでも大変だというのに、先生は「リロードのタイミング」「ミサイルポッドを飛ばすタイミング」「ショットガンによる前衛制圧」「ミニガンによる掃射」「回復キットが必要な対象」を全て把握している。
これだけでも指揮官としては優秀という言葉では表しきれないというのに、先生は敵の増援やリロードのタイミングまでもを完璧に見切っている。まだこれらはギリギリ神業と言う表現で表せないこともないが、しかし明らかにおかしい事がいくつかある。
まず、敵の装甲に対する有効弾種を初見で理解していること。出来るか出来ないかで言えば、僕も出来る。だがそれはキヴォトスに一般流通されているドローンや装甲の種類を
さらには敵の体力までもを細かく把握している。最初は偶然かと思ったが、砂狼さんへの「二発だけ撃って」という指示を聞いて確信した。明らかに、相手がどれだけ撃ち込めば倒れるのか分かっていての指示だ。
遮蔽物越し、スモーク越しにでも敵の位置を把握できているのも不自然な点。肉眼では例えヘイロー持ちであろうと物理的に視認は不可能だ。恐らく、これらは屋上で先生が語ってくれたあのタブレットの恩恵だろう。高性能AI搭載の先生専用デバイスというのは伊達ではないらしい。流石に少し、羨ましいな。
「…………ヘルメット団が相手にならないわけだ」
そもそもアビドスの面々は個々の戦闘能力が決して低いわけではない、それどころかキヴォトス全体で見ても上位の方だ。そこにこんな理不尽極まる能力を持った指揮官が参加しては、烏合の衆である不良が太刀打ちできるものか。この差はちょっとやそっとの戦力差では埋まるまい、それこそ大型戦車二両あっても厳しいかもしれない。先生は敵に回ることがない、そう断言出来る大人で良かったと心の底から感じる。
暫くそのまま砂漠を前進していれば、目的のセクターに辿り着く先生達。その先生達に追跡させているドローンが捉えた映像は、凡そ置き捨てられた砂漠のど真ん中にあるものとしては明らかに不自然な物だった。
街や工場にさえ見紛うほどの範囲を囲う有刺鉄線の柵。キヴォトスでも最新の大型機器や重機、中には石油のボーリングに使うようなものさえ散見される。何故、こんな場所にこんな施設があるというのか。
「小鳥遊さん。念の為、お聞きしますが」
「…………うん。こんなの、昔はなかった」
そうだろうな。こんな大掛かりな施設が昔からあったのなら、小鳥遊さんが知らないはずもない。
機材を見たところ、ごく最近使用された形跡がある。つまり近くにまだ誰かいるということで、急いで隠れるなり離れるなりしてくれと指示を出そうとしたところ――画面越しに聞こえてきた銃撃音。どうやら、一歩遅かったらしい。
「ホシノ先輩!前方から、正体不明の勢力が攻撃を仕掛けてきています!」
「よく分からないけど、歓迎の挨拶なら……返してあげた方が良さそうだね?……じゃ、派手に行こっか〜!」
姿を続々と現したのは、装甲は殆どが爆発に弱い種のロボット兵士達。だが、残念ながらアビドス側の戦力はミサイルポッドを装備する砂狼さんもいるし黒見さんの扱う弾も爆発弾。貫通弾を使う十六夜さんや小鳥遊さんは少しダメージを出しにくいかもしれないが、十六夜さんに関しては元々瞬間火力が随一だ。小鳥遊さんも前衛としては一級品の耐久力を誇る。役割がタンクである以上、多少ダメージが通り難かろうが然程問題ではない。
この面子なら、敵を倒すだけであればそう苦労はしないだろうが、……やたらと「しぶとい」。ロボット兵士達の連携が上手いと言った方が伝わるだろうか。誰かがやられそうになると横から援護射撃がきっちり飛んできたり、遮蔽物に身体を綺麗に隠したり、先生とは比べるべくもないが明らかな司令塔がいたりとヘルメット団や先のオートマタなどとはまるで練度が違う。それは戦っている小鳥遊さん達も薄々感じていたらしい。
「うへ〜……結局なんなの、こいつら」
「そんなに強くはないけど邪魔っていうか、面倒くさいっていうか……なんか、今まで戦ってきたやつの中でも一際厄介って感じ」
「ん、下手したら風紀委員より面倒……」
「何なのでしょう、この方達は……。それに、こんなところで一体何をしてるんでしょうか?」
首を傾げる面々。それと同時に、ドローンのカメラは砂煙の奥にあるマークを画面に入れていた。奇襲を受けたこともあって思考が止まっているのだろう、奥空さんの肩を軽く叩いてドローンが映すそれを指差して見せる。一瞬、奥空さんが肩を跳ねさせていたが報告優先だ。それに彼女も直ぐに意識を戻してマークの正体の確認に走っている。
「小鳥遊さん、施設になんらかのマークを発見しました。其方からも確認できますか」
「……うん、今見えたよ」
マークは三角形の中に、なんとも形容し難いような、蝶が逆向きに吊るされているかのような模様。黄色のラインが上下に一本ずつ、そして更に晴れた土煙の中から見えたロゴは案の定ともいうべき冠詞がついていた。此処まであからさまでは、もう舌打ちも出てこない。
そのロゴマークは――。
「……確認が取れました。このマーク、この集団は……」
「……カイザーPMC。……そうだよね?アヤネちゃん」
カイザーPMC。その名前の示す通りに、カイザーコーポレーションの系列会社だ。そしてPMCというのは、「Private Militia Company」の略。即ち、民間軍事会社の事だ。キヴォトスでは警備にその会社から人を雇ったりすることは決して珍しい話ではない。つまるところ、傭兵や軍隊のようなもの。
その腕前で生計を立てているだけあって、プロと言って過言ではない。やたらと組織化されていたあの動きも、そう考えれば納得がいく。
「退学した生徒や不良生徒を集めて、企業が施設兵として雇っているという噂がありましたが、まさか……」
だいたい十六夜さんの想像通りだろう。不良の集まりであるヘルメット団が、わざわざアビドスに襲撃を仕掛ける理由が解明された。
偵察の収穫としては十分だ。撤退を彼女達に促そうとしたところで、画面の向こうからけたたましく鳴り響く警報音。一歩、遅かった。劈くような独特の飛行音は軍事ヘリの音で、地響きの音は戦車や装甲車。ドローンの拙いレーダーで確認できるだけでも凄まじい数だ。
「っ、先生!大規模な兵力が其方に向かって接近しています、とても真っ向からの戦闘は不可能な数です!」
「"わかってる、皆、急いで離脱するよ!"」
「奥空さん、医療ドローンの操作準備を!皆さんの弾管理とモニター・レーダー管理は全て僕がやります!」
「はい……!」
先生。指示を、お願いします……!
ちなみにこれは本編には関係のない話ですが、彼が一番向いているのは「ゲヘナ風紀委員会」か「ゲーム開発部」です。
ゲーム開発部はまあ何となく想像つくかもしれませんが、風紀委員に向いているというのは、良くも悪くもあの組織はヒナの圧倒的な戦力によって支えられているものなので、戦闘力が低くてもぶっちゃけそんな変わらないんですよね。寧ろ事務作業が得意な分、ヒナには有り難がられると思います。
反対に全く向いていないのは「C&C」と「正義実現委員会」ですね。
前者は個々の性能が高過ぎて下手なサポートなど不要で居場所がなく、後者は「正義とは何か」と要らん事を考えて立ち止まったりトリモブちゃんの嫌味をストレートに受け止めてしまいそうので。真面目すぎるというのも時に悪癖になり得るのだ。