脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

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ブックマーク2000超えた!!UAも100000を超えておりますし、有難い限りです。お祝いというわけではありませんが、それに伴って活動報告の方でリクエストのほうを募集しております。良ければ読了後、リクエストがあればそちらで是非お聞かせくださいませ。

そしてなんで読者の方にナワトル語知ってるやつおるんや、ビビり散らかしました。凄すぎるだろ。

では。アビドス過去編、「終わり」の物語です。どうぞ。


Stories of the Past・Abydos.Ⅹ

 

 借りている教室の、扉が開く音がする。そちらに視線を向けると、小鳥遊さんと先生を除く全員が武器も物資も万全に準備した状態で立っていた。窓に視線を向ければ、日が昇っていた。どうやら丸一日、時間も忘れて放心してしまっていたらしい。恐らく小鳥遊さんの救出に今から行くつもりだ。彼女達は僕を呼びにきたのであろう。一人、言葉もなしに行くような人達ではないから。

 砂狼さんが近寄ってきた途端――彼女が、僕と顔を合わせた途端に息を呑む音がした。

 

 

「…………砂、狼…………さん…………」

 

 

 酷い顔だろう。今まで、こんな顔は見せたことがないほどの表情。鏡くらい学校にはあるのだから、自分で分からないはずがない。昨日見た時は、この世界が終わるのではないかと、それほどまでに悲観しきった表情だった。無理をして戦って、彼女達と言葉を交わしてから半日も経っていないのにな。

 

 

「…………もう、皆、準備出来てる。全員でホシノ先輩を迎えに行こう……先生も、一緒にいるから」

 

 

 小鳥遊さんを救うなら全員で行くんだと。先生に連れて行くのをダメだと言われても、僕だって対策委員会の一員だ。助けに行く権利くらいある……昨日までなら、そう言えたはずなのに。もう、その言葉は使えない。

 近くに置いたままの鞄とスコップを震える手で雑に掴み、上着を着ると日除け用のフードを深く被る。これで、今の顔は見られなくて済む。少なくとも砂狼さん以外に僕の顔は見えていないはずだ。

 

 

「…………………………ごめんなさい。……僕は…………皆と一緒には……行けません……」

 

「……っ、ま、……待って…………!」

 

 

 ふらりと彼女達の横を通り抜けようとした途端、砂狼さんが僕の手首を掴む。

 砂狼さんの口をついて出てきたのは、殆ど考え無しの言葉。「それっぽい」理由をつけただけで、兎に角、僕を連れて行こうとしている。それが優しさや信用からだと僕には理解できているし、十二時間前であれば喜んで着いて行っただろう。先生に何を言われたとして、僕も対策委員会なのだから戦う権利があるはずだとさえ食い下がったと思う。

 でも、もう遅いんだ。

 

 

「た、……確かに砂漠での戦闘に参加するのは難しいと、思う。でも、……戦闘用ドローンが数機居るだけで全然違う。補給物資も一人分持ち込める計算。……ホシノ先輩を助ける可能性を、少しでも上げておきたい。足手纏いなんかじゃない、だから――――」

 

「………………だから、……何ですか……?」

 

 

 対象的に僕の喉の奥から響いてきたのは、異様なほどに冷たい声と視線。優しさなんて欠片も無い。余裕も無い。氷のような、という表現すらまだ温いほどの温度の声。発した自分ですら身体の芯が凍りそうな声音だ。

 

 戦闘用ドローン数機の戦闘力なんかたかがしれている。補給物資も、昨日の件があったのだから先生ももう対応してくれるだろう。一人分の物理的な持ち運びの補給品なんて誤差の範囲。昨日と同じ、僕を守るだけ戦力が落ちるだけでプラスの要素よりもマイナスの要素の方が大きい。それでも彼女が僕を連れ出そうとしているのは、「アビドス対策委員会」が僕を含めて六人だと思ってくれているからだ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()だけ。無意識に、歯が軋む音がした。

 

 

「別に僕がいなくたって……皆さんなら大丈夫ですよ。先生も、いらっしゃるんでしょう?ええ、大丈夫。……何もかも上手くいくと思いますから」

 

「…………っ、……ほ、……ホシノ先輩が……心配じゃないの……!?」

 

()()

 

 

 今度は砂狼さんだけではなく、全員が息を呑む音がした。はは、当然か。でも大丈夫。小鳥遊さんなら大丈夫だ。僕が行く必要なんて何処にもない。僕が行っても何も出来ない。

 だから、僕が行くべきなのは砂漠の方。アビドスを救うために、僕が出来ることはそこにしか無い。もう視線は砂狼さんから外れ、何処を見ているのか自分でさえも定かでは無い。

 

 

「…………彼女なら平気ですよ。…………だから、僕は行きません」

 

「…………わかった、もういい。…………連れていこうとして……悪かった」

 

 

 だから、砂狼さんがどんな顔をしているのか、僕にはわからない。今度こそ全員の横を通り抜けようとしたところで――行手を阻むように憤りの声を上げるのは、やはり黒見さんだった。直情的に正論、理想論を翳す姿はかつての僕には好ましく映っていたはずなのに、今は煩しさしか感じられない。鬱陶しい。邪魔だ。いい加減にして欲しい。

 

 

「ま、…………待ってよ先輩!それ本気で言ってるわけ!?ちょっと薄情すぎない!?」

 

「…………何がですか」

 

「何って…………分かってるくせに聞かないでよ!だいたい、そのスコップなに!?ホシノ先輩は助けに行かないくせに、どこ行く気なのよ!砂掘る暇があるんだったら、協力してくれたっていいじゃない……!先輩だって、この前はちゃんと戦えてたんだから……!」

 

 

 黒見さんは砂狼さんと違って本気で僕が戦えると思っているが、これは付き合いの長さの問題だと思う。僕の戦闘力を理解している砂狼さんと十六夜さん、理解していない黒見さんと奥空さん。先日のあれは防衛戦、それも己のテリトリーだからこそ出来たことだ。まともに撃ち合えばヘルメット団の下っ端にも劣る僕が制圧戦に出て何の意味があると言うのか。別に今更、()()()()()()()()()()()()()()()が、そのせいで医療キットの消耗が増えてしまう。使わないと言う選択肢は、先生が許さないだろう。

 

 これを口に出して説き伏せられるほど、僕が「大人」であったなら。或いは余裕があったのなら、間違いは起こらなかったかもしれない。

 

 

()()()()()

 

 

 だから、言葉の代わりとして()()()()()。……銃口をカイザーではなく大切な後輩に突き付けて、何をやっているんだろうか、僕は。

 

 間違っていると分かっている。この選択が正しいはずがない。こんなことする必要なんて無いはずだ。もっと理路整然と、以前の僕なら彼女達を諭せた。少なくとも銃を抜く必要なんて無かった。対話を、言葉を捨てて武器に頼るほど短気だっただろうか。これでは街の不良の事を言えないな。

 

 小鳥遊さんの「切羽詰まるほど人は何でもやってしまう」という言葉が脳裏を(よぎ)る。だが、一度抜いたからにはもう止まれない。止まってはいけない。

 例え仲間に銃口を向けてでも、やらなければならないことがまだあの砂漠にはある。小鳥遊さんを皆が救ってくれると言うのならば、……僕はアビドスそのものを救いに行くんだ。

 

 だから。

 

 

「退けよ、黒見芹香(セリカ)。…………僕の邪魔を、しないでくれ……!」

 

 

 お願いだから、行かせてくれ。

 僕の絶望を消してくれるかもしれない場所。

 あの大オアシス跡地へ。

 

 沈黙。痛いほどの沈黙の帷が降りる。誰もかもが何もかもの言葉を失う状況の中、果たして何分経ったのだろう。その帳を裂いたのは、黒見さんだった。

 

 

「………………私、先輩のこと、尊敬してた。…………尊敬、してたのに。……そんなこと、する人じゃないって思ってた。カイザーじゃなくて……私に、銃を向けるんだ…………?」

 

「…………ホシノ先輩なんか心配してないって。…………ホシノ先輩のことより、……砂弄りの方が大切だって……そんなこと言う人じゃないと思ってた」

 

「仲間のこと、見捨てるような人じゃないって思ってた。…………アビドス対策委員会は、六人一緒だって思ってた……なのに。…………なのに…………!」

 

 

 黒見さんの顔が見れない。見たくない。こんなことを言わせたかったわけじゃないし、僕だってこんなことをするつもりじゃなかった。何もかも噛み合わない。この先を知りたくなんかなかった。あの「本」さえ無ければ、「本」を開く前なら、こうはならなかったはずなのに。

 

 何もかもが、もう遅い。「青春の物語(ブルーアーカイブ)」は開かれた。未来を知る僕と、未来を知らない貴女では、歯車が噛み合うはずも無い。

 床に落ちた雫だけが、黒見さんと目を合わせられない僕が、彼女の表情を知る手段だった。

 

 

「……そんなに砂漠での研究が好きならっ、ミレニアムにでもなんでも行っちゃえばいいんだ……!知らない……私っ、もう、先輩なんか知らないから……!」

 

 

 がん、と扉を乱暴に開けて駆け出す音。奥空さんの「セリカちゃん!?」という声と遠ざかる二つの足音。無表情な砂狼さんの横を通り抜け、伸ばされかけた十六夜さんの手を振り払って、僕は進む。進み続ける。

 

 まだやれる。まだ、僕にやれることはあるはずだと、自分に嘘をつきながら進み続けることしかもう出来ない。

 

 

「──────……アビドスに、……あんたなんか、来なきゃ良かったんだ……!」

 

 

 遠ざかりながら、アビドス校舎の廊下に響く黒見さんの慟哭。振り返りはしない。この選択をしたのは僕自身だから……振り返ることすら、許されない。

 敬愛する先輩を捨て、仲間を裏切り、後輩に銃を向けたとしてもあの砂漠に行きたい。後悔することさえも、謝罪することさえも今の僕には許されない。

 

 それが許されるのは――アビドスを、救ってからだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 砂の海に鉄を、突き立てる。鉄の上に砂を乗せて、掘り返して、捨てて、また突き立てての繰り返し。もう何時間、これを繰り返しているだろうか。太陽が身体を焼いても砂が身体を傷付けてもスコップの先が砕けても、それでもただ只管に砂を掘る。

 

 もう後戻りは出来ない。僕の役目が戦場に無いというのなら、この砂漠で見つけるしか無い。役目を?違う、見つけるのは鉱石だ。それさえあればアビドスの借金を全て返すことが出来る。砂狼さんにも、十六夜さんにも、奥空さんにも、黒見さんにも、そうすれば分かってもらえるはずだ。小鳥遊さんも先生も喜んでくれるはずだ。褒めてくれるはずだ。だから、ただ、鉄を突き立てる。

 

 何百回目か、それとも何千回目かスコップを砂に突き立てた時――――欠けたスコップの先が、硬質な何かにぶつかる感覚がした。芽生えた僅かな希望が続いたのは五分だけ。掘り返していけば、それは砂に埋もれたまま捨てられていた廃車の屋根だった。

 

 あと何回これを繰り返せばいい。もう何回これを繰り返した。考えないようにしていたことを考えてしまったせいで、一気に身体から力が抜けてしまい膝を付いた。肩にかけていた鞄の紐が千切れ、上手く閉まっていなかったのか中身が砂の上にぶち撒けられる。

 中身はとうに空になった水筒と、カロリーバーの空箱。割れた旧型携帯は動かないまま、今使っている携帯は赤くバッテリーが点滅を示していた。

 そして、もう一つ。

 

 

 「……………………ぁ」

 

 

 鞄から溢れた「本」は開かれ、砂に落ちる。開かれたページは、何の偶然か僕が一番見たくなかったページだった。活字を目でなぞる作業が、苦痛になる日が来るとは思いもしなかった。これでも教育BDの文字には全て目を通すし、文学作品だって好んで読むのにな。

 

 

『D月I日 先生と砂狼シロコ、十六夜ノノミ、黒見セリカ、奥空アヤネの手によってカイザーコーポレーション理事より小鳥遊ホシノの奪還に成功。観測を続行』

 

『D月J日 カイザーコーポレーションの違法金利、連邦生徒会未認証の越権行為、他様々な悪徳商法が世間に発覚。同時にアビドス対策委員会への利子の見直しがなされる。借金は未返済。観測を続行』

 

 

 もし、記録書の通りならばアビドスは救われる。借金が返されるわけではないと記載されているが、カイザーが崩れるのなら余程の余裕が出来るはずだ。小鳥遊さんも先生達の手で無事に帰ってくる。何も問題はない。喜ばしいことだ。素晴らしいことだ。「幸せな結末(ハッピーエンド)」で終われるはずだ。()()()、それを望んでいるはずだ――――――。

 

 でも。

()()()()()()()()()()()()()()

 

 最初の1ページ1行目から、最後の1ページの最終行に至るまで僕の名前は何処にもなかった。たった四文字だけでいい。その四文字が、この本のどこか一箇所にでもあってくれれば良かった。

 

 なのに、それなのに何処にもない。物語の登場人物にさえなれやしない。これが僕の「青春の物語(ブルーアーカイブ)」だなんて、認めたくない。物語の中に名前がないなんて、そんなの――路傍の石と同じ、ただの脇役じゃないか。

 

 

「…………まだ、…………まだ、……僕はやれる……」

 

 

 でも、もし。この「本」が間違っているとするのなら。

 いいや。間違いであると証明する方法は、この本と異なる結末を手繰り寄せること。小鳥遊さんを先生達が救ってくれるというのなら、僕が変えるべき未来はアビドスの未来そのものだ。小鳥遊さんが過去に語ってくれた、大オアシス跡地に残されている希少鉱石。それさえ見つけることができれば、もう九億という借金を背負わなくていい。

 

 銀行強盗なんかしなくていい。無茶なバイトの掛け持ちだってしなくていい。資料室で砂に塗れなくたっていい。本当の「幸せな結末(ハッピーエンド)」があるとしたら、そんな未来のはずなんだ。

 

 物語の主役になりたい、なんて贅沢なことは言わない。桃太郎役は一人だけ。ゲルダの役も一人だけ。ピーター・パンの役も一人だけ。スポットライトが一番当てられる煌びやかな役目、その一人に僕が選ばれるような人間かどうかと聞かれれば勿論違うと言えるくらいには自分という物を弁えている。けれど。

 

 

「………………はは、…………ティンカー・ベルと……フック船長は結構、……好きでしたね……」

 

 

 七人の小人にさえ名前があるというのに、僕にはそれすらない。ワイバーンクエストで言うのなら、ただの村人Dがちょうどお似合いか。手にあるのは聖剣なんかじゃなくて錆びて壊れかけのスコップだ。魔法みたいな神秘もない。この身体はエルフやドワーフみたいな力もない脆弱なもの。それでも「幸せな結末(ハッピーエンド)」は手に入れられるって証明したい。

 でも。

 

 

「………………なんで、…………僕だけ、なんだ」

 

 

 本当の名前かどうかもわからないあの四文字の羅列を呼んで欲しくて堪らない。寂しい。苦しい。肩の痛みも、喉の渇きも、捲れた指の皮も、何もかもどうでもいいほどに心臓が苦しい。誰でもいい。誰かこの砂漠に今いるのなら、どうか僕の名前を呼んで欲しい。幽霊でも構わない。夢でも構わない。なんなら悪魔がいるというのなら、それでも構わない。

 

 水も食べ物も何もいらない。欲しいのはもっと他のものだ。

 

 役目が欲しい。金が欲しい。力が欲しい。神秘が欲しい。運命を変えるための力が欲しい。因果を捻じ曲げるだけの力が欲しい。特別な力が欲しい。そう、先生のような力が欲しい。あの「シッテムの箱(タブレット)」が欲しい。

 

 

()()()()()

 

 

 先生。……貴方のような大人になれたのなら、僕にも運命は、変えられるのだろうか。

 

 掘り返す砂の音も陽の熱も、僕の問いには答えてくれるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『続いてのニュースです。アビドス砂漠の大オアシス跡地で、アビドス高等学校の生徒が倒れているのが発見されました。発見者はシャーレの先生であり、発見時に生徒は意識不明の重体。トリニティの医療ヘリが出動する事態となりました。現在はサンクトゥムタワーにて集中治療が――――』




to be continued 『Stories of the Past・Millennium』

いやあ彼は倒れてますけど先生達がホシノを救っていますし、カイザーからの圧力も消えて『ハッピーエンド』ですね!彼女達はこの後、先生から彼が今まで何を頑張っていたのか語られますがアビドスは落ち着いた後ですし問題ないですね。よかったよかった( ^ω^ )
ちなみにですが、セリカの漢字表記は意図したものですので間違い表記ではありません。

この後は再びリクエスト分を含む幕間の物語と機械仕掛けの花のパヴァーヌ、エデン条約編へと進んでいきます。その前にすでに投稿されている話の見直しと設定などの推敲期間を挟みます。少し間が空いてしまうと思いますがご了承くださいませ。
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