脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達 作:ぽけぽっぽ共和国
いつも通り、後々細かい部分は直していきますのでお許しください……。
そしてキャラ資料として「先生、ちょっと時間もらうね」がある事に気がついた我。全話を書く前に気付きたかった。
「お久しぶりです、牛牧さん」
「お久しぶりです!えっと…………パンケーキの人!」
「そういう覚えられ方なんですね。いえ、別に構わないんですが」
食堂に入ると、厨房の方から手を振る牛牧さんに軽く手を振り返す。色々な呼ばれ方はしているが、パンケーキの人と呼ばれたのは初めてだ。甘いものが苦手な僕がパンケーキの人とは、牛牧さんと知り合った経緯を知らない人間からしたらどういうことかと思われるだろうな。
今日の仕事はこの給食部での仕事。
と言っても別に変わった事をするわけではなく、トリニティでしているように修理品の回収だったり判別だったり、後は足りないものを受注するといういつもの仕事だ。
特に此処はゲヘナ、修理品が一度で回収し切れないなんていつものこと。だから、修理品を運んでくれる業者に渡すために使う用紙も多めに持ってきたのだが……なんだか、修理品の数が少ない気がする。
「あ、実はですね……倉庫を整理していたら、結構色んなものが出てきちゃいまして。まだ使えそうな冷蔵庫だったり大型のレンジだったり……出来るだけ運んでこようとはしたんですけど、部長も配達の時間になっちゃって。私一人じゃ持ってくるのが難しかったり回収用の箱に入らなかったり……大きなものとかは倉庫に置きっぱなしなんです」
成る程、少ないどころか寧ろ多い日だったというわけか。しかし倉庫の整理をしたのなら、次からは少し楽になる……、……なるかなあ。ゲヘナだし。
まあしかし、元より量については覚悟の上だ。少々増えようがやる事は変わらないし、可能なら出来る限り徹底的にやってしまいたい。
「もし良かったら、倉庫をそのまま見せてもらっても構いませんか?僕の力で運ぶ手伝いをするのは無理だと思いますが、直せそうなものと直せないものの判断は出来るとは思いますので」
「!勿論大丈夫ですっ、では此方に……!」
そうして牛牧さんに案内された先にあったのは、中々に巨大な倉庫だった。しかし、なんというか古めかしくて、扉に取り付けられているスイッチも酷く古い。重々しく鎮座する鉄扉のせいもあるのだろうが、何となく威圧感のある建物だ。
「これはまた、随分立派な倉庫ですね……」
「ふふ、ちょっと古い建物ですけどね。建て付けのせいで留め金を掛けておかないと勝手に閉まっちゃうし、扉自体がすっごく重いし……」
それはもう業者を呼んで直した方が良いのではないか。
牛牧さんは「ちょっと古い」と言っていたが、ちょっとではないだろう。建物のあちこちには錆が目立ってみえるし、扉のスイッチは良く見ると僕が思っていたものよりもさらに一つ旧式。今あのタイプの物を取り扱っている店は化石を探すより難しいと思う。少なくともミレニアム内では見た覚えがないくらいに古い。
というか鉄扉とはいえスイッチで開けているというのなら、それは人力で開けられないということか?どれだけ重いんだ、この扉。
一抹の不安を抱えながら倉庫に入れば中々に壮観。
しかしこれはどこから手をつけたものか……取り敢えず明らかに捨てて良いものから順番に処理していこう。そう思ったところで、背後から異音。
べぎりという鈍い破砕音と、同時にがごんという重い衝撃音。振り返ると、外の明かりが差し込んでいた隙間はなく、扉は完全に閉じていた。
「……………………は?」
「…………ああぁあぁっ!?…………そ、倉庫の扉……勝手に閉まっちゃいました!?なんでぇ!?」
唖然とする僕と叫ぶ牛牧さん。何が起こったのかと思えば、扉の側には留め金が半ばから折れて転がっている。……断面を見ればかなりボロボロになっているし、経年劣化と単純な金属疲労で折れたのだろう。支えがなくなったあの扉が閉じてしまった、というわけか。
すぐに開かないかどうか扉を引いてはみたものの、牛牧さんの言う通り扉自体がかなり重いし、ガイド部分がかなり擦れて劣化している。重さのせいもあるだろうが、扉が勝手に閉まる一番の原因はこれか……建物自体に傾斜が然程あるわけでもなし、散々放置していた結果なのだろうな。
後で業者には、やはり連絡しておくべきか。
一瞬閉じ込められたことには焦ったが、どうせこうなったら扉ごと変える事になるだろうし、少々なら破壊しても構うまい。
「やむを得ませんね。牛牧さん、少し下がってください」
鞄から久しぶりに銃を取り出してみせる。牛牧さんは銃を携帯していないから必然的にこれを使うしかないのだが、まさかこんなところで使うことになるとは……。
何か言い淀む素振りをみせていたが、最終的に無言で下がった牛牧さんを確認すると、扉に向けて二発引き金を引く――そして、無傷。
銃のカスタムはアビドスの頃から変えていない。確かに消音に伴って威力を殺してこそいるが、その代わりに貫通力を高めているカスタムなんだぞ。全くの無傷って、どれだけ頑丈に設計してあるんだよ、戦車並みだ。流石にこれは予想外過ぎる。嘘だろ。
「なんで古い倉庫の扉が、こんなガチガチの鋼鉄製なんですか!?」
「このくらいにしとかないと、外で乱闘があった時に扉ごと吹っ飛ばされちゃうんですよ!ゲヘナなので!」
「最悪の説得力だ……!……と、とりあえず正攻法でもなんでも開かないか試してみましょう。役に立てるかは兎も角、僕も協力します……せーの、で扉を引いてみましょう」
「は、はい……では、行きます!」
「「せー、のッ!!」」
――――――――――――――――
そして、案の定というわけだ。手は貸したとはいえ僕の力など蟻が一匹増えたようなものでしかないし、牛牧さんが開けられないのならどう足掻いても鉄の扉は開くまい。破壊ももう一度試みてみたが、手持ちの武器でどうにかなる気が全くしない。あんな扉を作ったやつは誰だ……。
ちなみに外部への連絡は試す段階ですらなかった。牛牧さんは食堂に携帯を置いてきてしまっているし、僕の方はいつも通りバッテリー切れ。最近、バッテリー切れには気をつけていたのだが久しぶりに油断した……。
倉庫に入る前、食堂の時計で見た時刻は確か正午を超えていたはず。南中時刻というほどでも無いが太陽が落ちるには遠い時間だ。今日は曇りだし、昨日の雨の影響もあって外の気温が高くなくて助かった。
もしこれがギラギラとした快晴であれば、色々と脱出方法を試みている間に倉庫の中の気温はかなりのものになってしまっていたはず。冗談でもなんでもなく熱中症の危険があった、愛清さんが戻ってくるまでにどちらかが――或いはどちらも倒れてもおかしくない。なんなら愛清さんが異変に気付くまでに時間もかかるだろうし、そういう意味では今の僕たちに取っては曇りこそが「良い天気」だ。
ふと、僕の目に入ったのは倉庫の天井から吊られている照明だ。夜間の作業用につけられていたものなのだろうが照明は一つだけではなく、連鎖するようにして幾つかが連なっているタイプ。あれは電池を中に入れるタイプの電球ではあるまい。
「牛牧さん、この倉庫って扉以外に電気は通っているんですか?」
「電気ですか……?照明の配線もありますし、一応ですが通ってるとは思いますけど……」
眼を床に向けると、成る程、確かに奥の方では天井から続く形で垂れ落ちている配線がある。電気さえあるなら、何とか脱出できるかもしれない。最初に牛牧さんに出会ったときのように、ミレニアムらしく行こうじゃないか。
「牛牧さん、今から僕の指示したものを持ってきてもらえますか?まずは其方のレンジから」
首を傾げながらも、僕が指差した大型のレンジを両手で抱えて持ってきてくれた牛牧さん。……型番は、やはりM社製品のかなり古いもの。間違いなく廃棄品だ、これなら遠慮なく
鞄から解体用ツールを取り出すと――白石さんに以前、持っておけと貰ったもの――を徐に取り出せば、レンジの外装を剥がし始める。まあ側から見れば脈絡のない行動だろう、ずっと頭の上に「?」マークを浮かべていた牛牧さんが声を掛けてきた。
「あの、いったい何を……?」
「扉を開けるための
「此処で、ですか!?というか、モーターって……」
さて。これはごく当たり前の話だが、浮いていないものを引っ張るのと最初から浮いているものを引っ張るのなら何方が簡単か。答えは勿論、後者だ。
要するに、このような腕力ではとても開かない鉄扉を開こうと思えば浮かせてやれば良いというわけだ。そこで、モーターにより振動を鉄扉に与えてやることで浮きあがり、簡単に開くことが出来るようになる。これは文献で見た限りの話だが、「外」の世界では防空壕なんかの扉を開けるために使われていた事もあるのだとか。建て付けの悪さに関しても、結局浮かせるのだからガイドが擦れていようがいまいが関係ない。
「というわけで、今はその振動を与えるためのモーターを組み立てています。幸い振動させるだけ、扉を開ける間だけの時間稼ぎに使うならそこまでの馬力は要りませんし、有り合わせのパーツで何とかなる……と、信じましょう」
「流石はミレニアム生……わ、私には何が何だかよく分かりませんけど、出来る限りお手伝いします……!こうなったのも私が倉庫の方に来てくれってお願いしてしまったからなので……」
「これに関しては事故ですし、お気になさらず」
実際、あんなものどうしようもない。誰の責任というわけでもなく、強いて言えばこんな馬鹿みたいな扉をつけなくてはならないゲヘナという土地と治安の責任だ。尤も、治安どうこうに関してはキヴォトスという土地柄どうしようもない部分があるのだが。
ゲヘナには風紀委員があるだけマシという意見があるかもしれないが、逆に言えば風紀委員が動いてきて尚、この治安の悪さなのだ。もし風紀委員が居なかったらどうなっていたのか想像したくも無い。
「…………失敗ですね。少し内部トルクの回転が足りないか。補強用のパーツは、…………牛牧さん、其方のラジオを持ってきてください」
「くっ、今度は強すぎたか!ならさっきのパーツを外して、銅線だけで無理矢理に回路を作ればどうだ……これなら出力を上げすぎずになんとか出来る、はず」
「……………………駄目か、流石に電球をつける程度の電力じゃこの回路は動かせないみたいですね。もう少し、直列と並列のバランスを見直してから繋ぎ直して――」
金属音を立てながら次々に廃棄品を解体しては組み上げ直し、それを試して駄目なら組み直し。設計図も正確な扉の重さも分からない以上、こんなもの手探り以外の何者でもない。ひたすらトライアンドエラーでいい具合に動いてくれるように調整を繰り返すしかないのだ。
そのトライの回数が二桁に差し掛かったところで、牛牧さんに声をかけられる。その表情からは、僅かな困惑が見てとれた。
「…………あの、どうしてここまで……?いえ、頑張ってくれるのは嬉しいんですけど、見回りの時間になれば誰か気づいてくれるかもしれませんし……」
「牛牧さんを早く此処から出してあげたいから、ですが」
「えっ」
別に僕が多少閉じ込められたところで、今日は他に何の用事がある訳でもない。僕一人なら幾らでも待っていて構わないが、牛牧さんは別だ。
ゲヘナの給食部を回しているのは愛清さんと牛牧さんのたった二人。幾ら料理が出来ないからといって、下処理だのなんだのと彼女の仕事は間違いなく山積みのはずだ。事実、愛清さんも「手が回らない作業はジュリにやってもらってる」とは言っていたのだから。
そうなると牛牧さんの作業が遅れると愛清さんの作業の遅れに繋がり、それはゲヘナの給食が回らなくなる事に繋がる――――負の連鎖だ。ただでさえ過酷なスケジュールを回している二人なのだから、その連鎖を断ち切るために更に無理をするような真似をさせたくない。
先も言った気がするが、愛清さんが帰ってきてくれたところで食堂に残してきた情報が少なすぎる。この閉じ込めに気付く確証もないし、見回りの時間まで待っていたら夕方以降になってしまう。扉を撤去することを考えれば脱出にはもっと時間がかかるだろう。
だったら自力で脱出する方が余程いい。長々と語ったが、まあ、そんな考えがあって僕は機械と睨み合いをしているわけだ。勿論、自分もさっさと出たい気持ちがあるのは否定しないが。
「失敗に関しても、アビドスの頃から腐るほど失敗経験はありますので。まだ心折れるには早すぎますよ」
あの時の徒労感に比べれば、こんなものどれ程に楽な気分か。腕や脳の疲労も砂漠で一人、砂を掘り返すことを思えば余程マシだろう。
新しく廃品を持ってきてくれた牛牧さんは、彼女も思うところがあったのか、僕の言葉を聞きながら隣で苦笑をこぼしていた。
「それは、ちょっと分かります。私もいつも、料理を失敗ばかりしちゃいますから……」
「でも貴女はそれを頑張り続けているでしょう?僕は、逃げてしまいましたからね」
「本」のせいで。……或いは、「本」のお陰で、僕は逃げてしまった。いいや、逃げることが出来てしまった。
何万回、何億回繰り返そうと何もかもが無意味に帰して無意味に終わると知っていれば最初からあんなに頑張ることなんて誰もしない。「0」に何を掛けたところで行き着く先は「0」。文字通り無駄な努力というやつだ。
だが、彼女に「本」はない。これから先、無限のような回数を繰り返しても全てが失敗するのだとしてもその答えは提示されることがない。頑張れる限り頑張り続けてしまうこと……それはある種、拷問にも等しい。
本当は誰も失敗したくなんかないはずだ。
「失敗は成功の元」と言うものがあるが、誰しも百回失敗して成功するより一発で成功したいに決まっている。過程にある失敗の全ては、成功が無ければ無意味。
失敗に妥協をして、このくらいで良いよね、と終わらせて欲しくない。肯定するのであれば「成功」であってほしい。
そうでなければ、答えのないままに
「だから、牛牧さん。同じく失敗を繰り返した人間としては、あの時のパンケーキのような中途半端なものではなく、どうか
おっと、これは失敗出来ないパーツだ、替えがない。
手元が万一にも狂わないように微調整をして、視線を組み上げ途中の部品にだけ集中をする。だから、今、牛牧さんがどんな表情なのかは見ることができなかった。
二人の間に続くのは無言の時間。どれほどお互いに黙っていたのか分からないが、先に言葉を溢したのは牛牧さんだった。
「…………甘いもの、嫌いじゃないんですか?」
「甘味は確かに苦手ですが、成功の味は嫌いじゃありませんので」
こんなふうに、ね。
組み上げ直したモーターのスイッチを押せば、それは喧しい駆動音を立てて動き始めた。数秒もしないうちにその音は途切れてしまうが、これでいい。今あるパーツの中で一番消費電力と馬力の釣り合いが取れている設計だと自信を持って言えるものだ。
牛牧さんの方に振り返れば、目元には紅い痕と微かな雫が見えていた。……そんなに喜んでくれるとは、頑張った甲斐があったな。
そういえば、最初に機械に触れたのは小鳥遊さんの銃を直した時だった。上手く直せたことを小鳥遊さんが僕よりも喜んでくれて、それが嬉しかったのを覚えている。
……また彼女達にも会いに行こう。きっと、銃のメンテナンス代くらいは浮かせてやれるはずだから。
さあ、問題は此処からだ。
モーター本体はこれで問題ないはずだが、しかしどう計算してもモーターを継続して動かすには電力が僅かに足りない。その電力を引っ張ってくる必要があるのだが、生憎ここにあるエネルギー源は二つだけ。そのうちの一つ、太陽は利用するためのソーラーパネルがないと来た、流石にパネルを一から作る技術を僕は持っていない。
と、いうことで。もう一つのエネルギー源、即ち僕たちの体力を使うことにした。
「此方も廃品同然でしたが、取り敢えず使えるようにはしました。
モーターに繋いだのは二台の自転車だ。
かなり綺麗な形で残っていてくれて助かった、まあ一部は他のパーツを注ぎ足したが、自転車そのものの役目を果たしてもらうわけではない。あくまでペダルを回すことさえできれば何も問題はないのだ。
「じ、人力発電ですか……ずいぶん原始的な方法になっちゃいましたね……」
「僕も同意見ですが、残念ながら他に取れる方法もありませんので……」
本音を言えばもっとスマートに行きたかったが、こればっかりはもうどうしようもない。
作戦としては二台の自転車を牛牧さんと僕で回す。モーターがある程度動くようになったところで牛牧さんだけが自転車から降りて扉を開く――その隙間に大型テレビを挟んで閉じないようにするといったもの。ぶっちゃけ人力発電のエネルギーを考えると牛牧さんが乗っていた方がいいのだが、僕の腕力では悲しいかな大型テレビを動かすことができなかった。……こう言う時は、素直にヘイロー持ちが羨ましい。
二人揃って自転車に乗ると、やや不安定なペダルを同時に回し始める。案の定、回転速度については牛牧さんととんでもない差が付いているが身体能力を見せつけられるなどいつものこと、今更だ。
十数分も回せばやっとモーターが再びけたたましく音を立てて動き始め、合わせてモーターに繋げている鉄扉も振動を開始した。これなら、開けられるはず。
だがまだだ、今すぐに降りてはモーターも止まってしまう。さらに二人して回すこと数分――これでもう、問題はないだろう。
「………………っ、よし……!牛牧さん、今です!」
「っ、は、いッ!」
息を切らしながら素早く自転車から飛び降りた牛牧さん。モーターの持続時間を少しでも長く保たせるために、僕はまだ足を止められない。
予想通り、牛牧さんは当初と違い体重を使いながらではあるもののしっかりと扉を開いていた。準備していたテレビを挟めば、作戦完了。僕も足を止め、その隙間から外へと滑り出た。
お互いに髪から滴るほど汗に濡れているが、不思議と悪い気はしない。普段からこんな運動をしたいとは微塵も思わないが、それでも悪くない気分なのはやはり作戦が「成功」したからだろう。背中合わせに牛牧さんと地面に座りながら、深く息を吐く。
「はぁ…………疲れました、汗だくです…………」
「僕もです。久しぶりにこんなに運動しましたね……」
流石に体温が高過ぎる。普段は外さないネクタイも上着も全て脱ぐ。シャツ一枚になってもまだ暑いのでボタンを二つほど外したが、それでもまだ暑い。冷静になると、何で僕は修理品の確認をしに来たはずなのに汗をかいているんだ……。
牛牧さんの方を見ると彼女も暑いのは同じなのだろう、エプロンも外して僕と同じように胸元を開けているが、僕がボタンを外すのと彼女が外すのでは訳が違う。具体的に何がどうとは言えないが、思わず眼を逸らす羽目になる。
とりあえず一度、食堂のほうに帰ろう……。喉も乾いたし、修理品の確認はお互い落ち着いてからでいいだろう。そう思って立ちあがろうとしたところで、どさり、とビニール袋の重い音がした。何の音だと思って顔を上げると、そこにいたのはちょうど配達の帰りに被ったのか、愛清さんだった。
地面に落ちたビニール袋は四つ。彼女もヘイロー持ちだが、しかし良くこんな数を持てるな。倉庫の前を通ったのは偶然だったのだろうが……なんでそんな、この世の終わりのような表情なんだ。
「………………ふ、二人とも…………そこで……倉庫の中で、なに、してたの……?そんな格好で……息、切らして……あ、汗だくで…………」
愛清さんに言われて一秒ほどは、彼女が何の話をしているのか理解できなかった。
が、年頃の男女が倉庫の前、胸をお互いはだけて息を切らしている――愛清さんの勘違いに気がついて、熱で赤くなっていただろう自分の表情が一気に青く変わっていくのが分かってしまう。慌てて首を振るものの、よもや追撃が起こってしまった。
「違ッ、愛清さん、多分ですが貴女が思ってるのは誤解で」
「あ、部長!実はちょっと色々あって……運動をしてたので、倉庫の中で汗かいちゃいました!でもこんな動くの久しぶりで、少し気持ちよかったです……彼もいっぱい頑張ってくれて……」
なんでそんな絶妙な言葉遣いを選ぶんだ、牛牧さん。
普通に倉庫に閉じ込められていた、開けるために頑張っていたら汗をかいた、そう言えばいいだろう!?
汗と紅潮した頰のせいでやけに扇状的に見えてしまうから尚更タチが悪い。愛清さんの眼のハイライトはどんどん消えていっているし、ビニール袋に手を伸ばしたかと思えば取り出されたのは新品の包丁――――耳元で、カズサの「刺されるよ」と言う言葉がリフレインする。
「は、………………ははは……そ、そーなんだ……へえ…………君と……ジュリって、そういう…………言ってくれてたらよかったのに……ねぇ…………?」
「――――――――全部、誤解です!?」
嗚呼、まったく何でいつも、こうなるんだ?
僕の絶叫が、曇り空に響き渡った。
というわけで幕間は一旦終わりです。
ジュリがどんな顔をしていたのかは、いつも通り皆様の想像にお任せします。
さて……再び矛盾点がないか確認しながら、次回からはパヴァーヌ&エデン条約編ですね。ようやく物語が進んでいく……本編始まるまでに20話以上ってマジ?
で、ちょっと此処からは私事ですが。流石に体調も真面目にやばいしゴタゴタも激しいので更新にはお時間いただきます。もしかしたら少し長めに期間が空くかもしれませんが、別に書くのをやめるわけではありませんので……!ではまた〜_(:3 」∠)_