脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達 作:ぽけぽっぽ共和国
それぞれの物語はトリニティ、アビドス、ミレニアムで起こっているものとご想像ください。『起こっている』と表現すべきか微妙ですが。
「友人が私だけ除け者にしているような気がして……。友人を疑うのが良くないことだと理解はしていますが、不安で仕方がなくて。
「成る程。さぞお悩みになられていたのですね。心中、お察しします。さて、お悩みの方についてですが、まず初めにご友人全員の行動とそのアリバイから――」
「は、はい!ではまずそう感じた最初の日付を――、……あれ?ここってシスターフッドの教会ですよね?探偵事務所とかでは無いんですよね?」
「違いますが」
「
「確かそれ封入率1%ですよね。百パック買ったとしても出てくる確率は約63.4%です。五百パック買えば99%ですので、必要ならバイト先を探すお手伝いも致しますよ」
「ぐえ。これが、……シスターフッドの、やり方……!これが、宗教……!?」
「推し活という宗教に自ら沈んでいるだけでは?」
「
「見せていただけますか。…………ああ、成る程。順番が逆ですね、式の立て方そのものは合っていますが計算する順番がAとBの式で逆転しているんですよ。なので、こんなふうに先にBの式から解いてやると……」
「………………あ、同じ数値に収束する……!ありがとうございます、神父様!これで課題も終わらせられそうです……!…………ところで、此処って何かの塾だったり……」
「教会です。だいたい、神父様って呼んでくださってますよね」
本当にそうだろうか。
正直、そろそろ自分でも怪しく感じ始めている。というかこれは本当に懺悔室の役目なのか?途中からなんだかお悩み相談室みたいになってしまっていた気がする。いや、ある意味それで懺悔室の意味としては正解なのかもしれないが、なんか、……こう、…………違う…………。
慣れない神父服を纏ってみるまではまだ良かったが、懺悔室に入ってからが問題だった。やはりトリニティはお嬢様校というだけあって、普段から溜めているストレスや不安もさぞ多いのだろう。ひっきりなしというほどでもないが、しかし思っているよりもずっと大勢の人が来てくれる。
此処に来る人間が少ないほどストレスなく平和に学校生活を送れているということなのだから少ないに越したことはないが、しかし同時に頼る先があるというのは素晴らしいことだと思う。歌住さんからこの仕事を任された時は悩んだが、今は彼女の采配を素直に嬉しく感じる。
さて、日も沈んできた。
まだ悩み事がある人には申し訳ないが、あくまでここはシスターフッド――ティーパーティーや救護騎士団とはまた別、過干渉こそ無いものの基本的にはトリニティ学園の規則に準ずる教会だ。午後X時を迎える頃には閉じるのが慣例となっている。鍵を手に取り、懺悔室から出て行こうとしたところ、足音がかつんと一つ。
誰だろうか。いや、懺悔室自体は誰でも訪れることが可能で――それこそ先程例に出したティーパーティーのホスト達でさえ可能だが――時間が時間だ。せっかくきて貰ったところ申し訳ないが、あまり長引きそうなら後日に回してもらおう。そう思って声をかけようとした途端、やけに聴き慣れた声が仕切り板の向こうから聞こえてきた。
「神父様。お悩みがありまして、どうか聞いていただけますか?」
「……………………、聞くだけ、聞きましょう」
「
どうしよう、罪悪感で死にそうだ。
きっと今の僕は苦虫を噛み潰しているより酷い顔に違いない。一秒、間を置いて覚悟を決めてから彼女の、……伊落さんの前に、顔を出す。懺悔の仕切り越しに言うのではなく、こういうことは顔を見て誠意を示すべきだと思ったから。
「……………………明日から、控えるようにします。その、ですから」
どうか許してもらえませんか。
そう言葉を続けようとして、目に入ってきたのは想像とは全く違う伊落さんの表情。口元を上品に手で押さえて、くすくすと愛らしく笑っていた。いったい何故、と首を傾げる僕に向けて、心底可笑しいと言ったようにスマホの画面を向けてくる。表示されているのは現在時刻とバッテリー残量、あとは日付くらいのものだが何を伝えたいのか。
「4月1日――エイプリルフール、ですよ?今時、珍しいくらい素直に引っかかってくださいましたね」
「あ」
なんて間抜けな声。
そういえばそうだった。嘘をついていいのは午前中だけなんてルールもあった気がするが、守っている人間の方が少ないのではなかろうか。久しぶりに、一本取られたような気分だ。思わず、
「でも、お仕事をほどほどに、というのは本当ですからね?」
「…………そうですね。歌住さんに頼んで、少し懺悔室の時間を減らしてもらいましょう。伊落さんとの時間も大切ですから」
お互い、笑い合いながら距離を詰めて教会の中を出ていく。
これはきっと幸せな時間のはず。そう、そのはず。
――――――そのはず、だ。
――――――――――――――
「ん。ちょっとこっち見て」
「そのトラップ2回目です。ひっかかりませんよ」
容赦のない舌打ちが飛んできた。回転椅子の後ろでは、どうせ
事あるごとに砂狼さんは「誘って」くるものの、彼女と付き合うときに「そういうこと」は、僕たちが学生の内は無しだと約束した。にもかかわらずこれだ。距離感が近いとかそんなレベルの話ではない。
約束というか風紀的な問題くらい守れと言う話だが、そもそも躊躇いなく銀行強盗を決行する彼女だ。風紀が守れるなら法律も守れている。……かく言う僕も、友人だった彼女との距離感がまだ掴めていないのだが。
「ん、私も年頃。そんなこと言われたって、興味ぐらいあって当然」
「そうかもしれませんがルールはルールです。ご自分での処理で我慢してください」
「デリカシー。辞書で調べて」
めちゃくちゃ不満そうな表情で――本当に不満そうな表情で、軽く小突かれてから後ろから抱きつかれてしまった。我ながら正直どうかと思ったが、これくらい言わないと引き下がらないことを知っている。それにしたって今回はちょっとしつこいが。
万が一があった時にお互いまだ責任取れない年齢なんだから当たり前だし、そもそも此処は学校だ。まだ登校してきていないだけで、1時間もしない内に黒見さん達がやってくる。他の生徒に見られる羽目になるというのは本当に勘弁してほしい。
……いや、自分で言うのもなんだが普通は逆だろう、これ。なんで男性側である僕が彼女を制してるんだ?それともキヴォトスでは比率的に仕方がない……仕方ないのか?徹夜の疲労もあって、もう頭がだんだん回らなくなってきた。頭を押し付けるな。そしてどさくさに紛れて胸を押し付けてくるな。もうちょっと砂狼さんは羞恥心とか自制心とかを学ぶべきだと僕は思う。
恋人らしい事なんて、学生の内は手を繋いで歩くだけでも充分だろう。定期的にデートだってしているのに、砂狼さんはそれでは足りないらしい。求められる事自体は愛されているという証明になる、嬉しくないわけではないが、節度を持て。
やめなさい、と抱きつく砂狼さんを引き剥がすと今度こそ拗ねたのか部屋を出て行こうとする。そんな顔をされたってダメなものはダメだ。先生からも、「ほどほどにね」と釘を刺されていただろうに。
……とはいえ、流石に拗ねた彼女をこのまま返すほど僕も鬼ではない。ああ、仕方がないな、本当に。
「
「…………なに?」
名前で呼ばれたのが意外だったのか、珍しいからか振り向いてくれた砂狼さん――、いいや、シロコに。
顎に手を伸ばして、強引にその顔を引き寄せた。お互いの髪と頰で隠れたその隙間で何が起こっていたのかは、シロコの頰の色で察してほしい。
「…………………………、卒業まで『待て』ですよ。これで今は、満足してください」
瞬間、世界が反転した。
いや、正確には椅子に体を戻した身体が上下にぐるんと回って地面に落とされた。果たして今の一瞬でいったい何が起こったのか、理解をする前にシロコが僕に乗ってくる。おいちょっと待てこの馬鹿狼。まさかとは思うが。
「引き金。引いたの、そっちだから。――
薄桃色に色づいた唇をなぞるのは、唇とは比較にならない赤味を帯びて濡れる舌。頰の色や窓から差し込む太陽光と汗で微かに透けた制服のコントラストが異様なほどの色気を放っていて。
「………………ん、私の彼氏。今からちょっと、……ううん。かなり、"お時間''、貰うから」
「いや、待っ――――――」
一秒後。
突撃してきた黒見さんのおかげで事なきを得たとは言っておく。…………卒業まで、果たして「約束」を破らずにいられるのだろうか。
不安しかないが、それでもこんな日々は幸せだ。そう、そのはず。
――――そのはず、だ。
――――――――――――
「…………くん、…………おーい!後輩、く、ん、ってば!」
「………………一之瀬、先輩?」
どうして貴女が此処に。というか顔が見えない。普段なら睫毛までしっかり見えるくらいの距離感に顔を近づけてくるくせに見えないとは何事か――そう思っていたが、成る程、この姿勢では見えるはずもない。
なにせ僕は今、彼女に膝枕をされているのだから。彼女のスタイルを考えれば顔が見えないのは当たり前だ。いや、何によって見えないのかは皆さんの想像力に任せるところではあるのだが。しかも姿勢に気づくと気恥ずかしさは消えるどころか増してきた。
どうにもいかず視線だけを動かして周りを見回すと、そこは見慣れた僕のセミナーとしての仕事部屋。床には普段きっちり揃えてあるはずの書類が乱雑に散らばっているし、机の上にあるPCの電源は入れっぱなし。やんなら珈琲のカップさえ飲みかけのまま放置されている。そして一之瀬先輩の「倒れていた」という表現から察するに――。
「ああ、寝落ちたのか……」
「もー、後輩くんったら。部屋入ってきたら床に倒れてたんだもん。びっくりしちゃったよ。床で寝ると痛いよ?」
「僕だって床で寝たくて寝てたわけではないですよ」
床で、と言う文言を入れないのであれば寝たかったのは事実だが。なにせ連続活動時間が72時間を超えて96時間に達する寸前だったのだから。
この時期は色々と面倒なことも多いのだ、事実他のセミナーの方々も忙しくしている。一度調月会長の仕事を手伝わせてもらった時は、いくら彼女専用のメイドがいるとはいえ酷い量だった。というかこの馬鹿みたいな人数のいるミレニアムの細かい書類をたった複数人で管理するのは根本的に間違っているのでは……。いや、今それはまた関係のない話だが。
それにしても寝起きだからだろうか、まだ上手く頭が回っていない。軽く頭を振ろうとして、このままでは姿勢的に不可能なことにさえ今、気づいたほど。膝枕から退こうとして身体を起こしかけると、一之瀬先輩が身体を倒して止めてくる。おいその止め方やめろ、
「あの、一之瀬先輩。起きられないんですが」
「んーん?起こさないよ?」
「は?」
起こさない、とはどういうことか。彼女の言葉の意味を問い掛けるその前に、伸びてくるのは細い人差し指。綺麗にネイルの施されたその指が僕の額をこつりと叩き、見えない表情が悪戯ににやりと笑っているのが目に浮かぶ。
「もー、後輩くんってば。――
そんな問題ではないのだが。
というか僕は何時間寝ていたのだろう、寝落ちていたというのなら当たり前だが作業は止まっていたということ。僕の仕事が遅れたら他にまで影響が出てしまう、それだけはなんとしても避けないと。起きようとして、体が起きることを拒絶して。一之瀬先輩の言葉に、どこか、なぜか、違和感が有って。
そう、違和感だ。
いつもと変わらない口調と態度の一之瀬先輩。
行動だって彼女そっくり。見えないけれど表情や顔立ちも彼女で間違いないはずで。でも、確かに感じている違和感。記憶の中の彼女と、目の前にいる彼女の違いを必死に手繰り寄せて。……ああ、成る程。
「夢ですね、これ」
一之瀬先輩は、…………付き合っていなくても、膝枕くらいはする人だ。首を傾げたのか一之瀬先輩の長い髪が視界の端でふわりと揺れて、それは理由もなく僕に蝶を想起させた。
胡蝶の夢。果たして夢を見ているのは僕か、それとも
力を抜いた僕が諦めたと思ったのか受け入れたと思ったのか分からないが、一之瀬先輩が頭を撫でてくる。子供のように扱うのは辞めてほしい。辞めてほしいのに嬉しいと感じる自分が居るのだから酷い話だ。
やがて落ちてくる瞼と意識。次に目を開くときは、夢ではないのだろう。
「おやすみなさい、後輩くん。……良い夢、見てね?」
「良い夢なら、もう見てますよ」
おやすみなさい。そして、おはよう。
視界に飛び込んできたのは――――いったい、誰の顔なのか。日差しが眩しくて、直ぐには誰かなのか分からなかった。
最後、彼と一緒にいたのが誰なのか。皆様の想像にお任せします。
尚キャラクターについてはいつもの如く順番含めてダイスでした。