脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達 作:ぽけぽっぽ共和国
ハイランダー姉妹揃いました。特にノゾミ、お前爆速で来たな……。ヒカリはガチャ終了二分前に、石無くなったからってノゾミのメモロビで取った石のヤケクソ単発で来ました。
カズサ
「横着しないでくださいカズサ。暗算でそこを解くのは難しいので、先にCの立式から――」
「栗村さんは……ああ、これは公式があるんですよ。ちょっと特殊な形ですが、分母から行きましょう。まずここの差を――」
「伊原木さんは基礎部分で抜けている部分がありますね。応用問題の組み立て自体は完璧ですので、その部分の基礎練習だけです。34番の問題から――」
「柚鳥さん。寝てないでさっさと起きてください。貴女が一番成績悪かったんですからね。……あの、……………………おい柚鳥。起きないとお前だけ休憩時間無しにするぞ」
「それはご勘弁……」と溶けていたスライム状態となっていた柚鳥さんが漸く起き上がる。勉強会のことを切り出してきたのは彼女と聞いているが、なんで当の本人が一番やる気がないんだ。いや、彼女のこういったよく分からない行動については今更と言えば今更なのだが。
さて。何がどうなっているのか説明をさせてもらうと、お察しの人もいるかもしれないが、現在はカズサの家に集まって勉強会を開いている真っ最中。
先日ちょうど試験が終わったところだが、なんとまあ栗村さん以外全員綺麗に赤点ギリッギリ。特に理系科目が中々に酷い有様だった。このままでは次の試験で本当に補修に引っかかりかねない――そこで、「カズサ達の知り合い」「理系科目が得意そうなミレニアムの生徒」ということで白羽の矢が立ったのが僕だったと言うわけだ。
しかしまあ奇妙な縁もあったものだ。甘いものが苦手である僕が、よもや彼女たち「放課後スイーツ部」なるあまりにも女子力を感じるネーミングの部活メンバー達と交友を持つことになっているだなんて、いつかの僕に聞かせたら鼻で笑われてしまいそうな話。
確かきっかけは、柚鳥さんが洞窟で遭難したのを迎えに行ったことだっただろうか。……天然メープルの氷柱を求めてわざわざ洞窟に行くとは見上げた話だが、美食研究会でもあるまいし、なんでそんな危険を冒してまで洞窟に潜ったのか……。柚鳥さんが不可思議な人間なのは今に始まった話ではないが、謎の行動力が伴っているのが他人を悩ませる。それも彼女の魅力といえば魅力なのだろうけれど。
「は〜……勉強しんどい。ねえ、あんたから見てトリニティの理系ってどんな感じなの」
「難易度的な事を言っているのなら、流石にミレニアムのテストに比べたら……という感じでしょうか。いえ、国語系や歴史学に関してはトリニティの方が圧倒的に難易度が高いですが、ミレニアムはやはり理系の学科が他と比較しても桁違いでして」
机に上半身を預ける伊原木さんに「見てみますか」といつもの鞄から出したのは昨日終わった数学のテスト用紙。興味本位なのかカズサと伊原木さんだけではなく栗村さん、柚鳥さんまでテスト用紙に集まってきて――全員、一瞬で内容を見て顔を顰めた。
「……………………なにこれ……。何言ってるのか一つもわかんないんだけど」
「最初の一行から既に怪しいかも。なにこの関数の式。呪文?」
因みに平均点は五十点前後。解ける解けない以前に物理的に計算が間に合わないだろうという問題まであるのに、これで三桁を叩き出している人間がいるのがミレニアムの恐ろしいところだ。しかもそれが一人ではないのだから、世の中、上には上がいると思い知らされる。
そうして全員で机を囲んでいること一時間。とうとう柚鳥さんの頭がオーバーヒートを起こしたのか「ぼん」と音を立てて爆発した。その隣では難しい顔になっていた伊原木さんも頷いている。
「へるぷ。ちょっと休ませて……糖分補給を……」
「あたしもちょっと集中続かなくなってきた……」
「…………そうですね、良い時間ですし皆さんも少し休んで良いでしょう。ちゃんと真面目にしていましたから、疲れても仕方がないかと」
僕の言葉を皮切りに、一斉に「わーっ」とお菓子をそれぞれ取りに行ってしまった。流石は放課後スイーツ部というべきか、それとも女の子だからというべきか。
ともあれ甘いものが苦手な僕には無縁の話。皆の様子に軽く肩を竦めると、いつもの鞄から本を取り出して――カズサだけ一足先に戻ってきた。かと思えば隣に座り込むと、僕の目の前に指で摘んだチョコレートが差し出された。
「あーん」
カズサが浮かべたのは悪戯な、にやりとした笑顔。頭の上にある獣耳のせいか猫、いや、正確にはチェシャ猫を想像させるような笑み。
……貴女は僕が甘いもの苦手だって知っているでしょうに。視線で拒否を示してみるものの、今日はやけにしつこく唇に当ててまで「食べろ」と要求されてしまった。カズサがそこまで言うのなら何か理由があるのだろう――あるのだと信じて、チョコレートを口に含む。これで何もなかったら文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、その考えは口内のチョコレートと同時に溶けていった。
思わずカズサの方に、先程とは異なる視線を向けると「してやったり」と言った表情だ。…………何故だろう、
「もう一個、食べる?」
「……………………いただきます」
したり顔はやや腹が立つけれど、それでもチョコレート自体が美味だったことは事実。チョコレートに罪は無いことだし、素直にいただこうと手を伸ばしたらさっと手を引かれてお預けを食らった。……、…………どうやらカズサ手ずから食べさせないと彼女の気が済まないらしい。仕方なく、指に唇が触れない様にしながら、諦めて食べさせてもらうことにした。カズサが
素直に二つ目を齧っていると、カズサの表情はますますにやついたものになっていく。
「なんですか、その顔」
「んふふ。猫みたいで可愛いなって」
「猫がお好きなようでしたら、鏡を見たらもっと可愛い猫が見えますよ」
「…………………………うるさい」
今度はぺしんとデコピンされた。はは、煽るなら煽られる覚悟くらいはしておいてほしい。だいたい『可愛い』なんて、同年代の男性に使う言葉では無いだろう。
とは言え本当に臍を曲げてチョコレートをお預けされても困る。カズサの顔が整っているということは否定しないが、これ以上は黙っていることにした。
ふと、カズサ以外からの視線を感じて其方を向くと両手に菓子の山を持ったまま、なんとも言えない表情をした伊原木さん達。いつの間に戻ってきたのだろう、……というか、なんか、視線が僕ではなくてカズサに向いているような気がする。
「…………カズサ、目ぇ離した隙にあんた…………」
「流石はキャスパリーグ……。いやしい。とてもいやしい雌猫だ……と、アイリが言っている」
「私、
可哀想だから栗村さんを巻き込まないであげて欲しい。
案の定というか、柚鳥さんは立ち上がったカズサにヘッドロックを決められてもがいていた。「ぎぶ、ギブギブ、ほんとにハマってる」とカズサの腕を叩いて顔を青くさせていたが、この程度ならいつもの彼女達の戯れあいだ。大抵ちょっかいかけるのは柚鳥さんの方なのだし、僕には分からないやり取りだっただけなので今回もそうなのだろう。本当に拙そうなら止めに入るけれど、カズサだって加減はしているはずだ。
なので一旦放置する。良く考えなくても栗村さんが言わなさそうなことを勝手に代弁していたし、ちょっとヘッドロックかけられるぐらいは妥当か。
…………ふと、思い出したのは砂狼さんのこと。これを見ると果たしてシャーレで僕が砂狼さんに出会い頭にヘッドロックを掛けられたのは妥当だったのだろうか……。そんなことを考えていたら漸く解放されたのか、柚鳥さんは目を回していた。口からは数式が溢れているような気がするが勘弁して欲しい。さっき詰め込んだ分を吐き出すな。
「あ。言い忘れたけど
「ふぎゅっ」
ぱたん、とカーペットの敷かれた床に静かに何かが倒れる音。音の方に目を向けると、柚鳥さんが白目を剥いて気絶していた。…………カズサの許可を得る前に、ヘッドロックから解放された後こそこそ机に近寄って摘み食いでもしていたのだろう。その手には、というか指には齧りかけのチョコレートが摘まれていた。
カズサも事態を把握したのか大袈裟にため息をつくと、自業自得とばかりに首を振ってみせる。なんだか今日は散々だな、柚鳥さん。いや自分のせいなのだけれど。
「だから言ったのに……」
「か、カズサちゃん!?これ、チョコレートに何入れたの!?」
「……たまたま手に入った『スーパーブラックカカオ』をメインに特濃珈琲パウダーとかその他もろもろぶち込んだ。当然、砂糖も不使用だから死ぬほど苦いよ。ブラックチョコレートとかそんな次元じゃないから」
「あんた、なんてもん作ってんのよ!?つーか、そっちはそっちで食べてもなんともないわけ!?」
叫ぶ伊原木さん。こんなに美味しいのに、皆には不評らしい。……まあ、放課後「スイーツ」部なのだから当たり前といえば当たり前かもしれない。
僕もいくら美味しいとはいえ、流石にこの苦味の爆弾とも言えるチョコレートをスイーツ扱いは出来ない。四つ目のチョコレートを上機嫌で齧ると、栗村さんと伊原木さんには戦々恐々とした視線を送られた。
「爆弾とかそんなレベルじゃ無い…………、口の中でありとあらゆる苦味という苦味が足の先まで爆発した……これを平気で食べているの、あまりにも恐ろしい……」
「あ、ナツ起きた。ていうか、その表現するならやっぱ爆弾で合ってるでしょ……」
ゾンビさながらの鈍間さで起き上がった柚鳥さんの顔色はいままで見たことも無いくらいに悪い。あのメープルの洞窟で遭難していたときですらこんな顔色では無かった気がする。…………そんなに不味いかなあ……これ……。
珈琲もそうだが、もしかしたら僕はあまり料理関係のことが得意では無いのかもしれない。牛牧さんの時は、そもそも牛牧さんの料理があまりにも混沌なので目立たなかったので真偽が不明すぎる。未確認生命体が生み出されるものを料理と言って良いのか疑問に思う人もいるかもしれないが、まあ、僕は料理と認めてあげたい。…………本当になんであんなことになるのだろうか……。
「そういや、あんたが料理してるとこなんて一回も見たことないもんね」
「だいたいカロリーバーとエネルギードリンクで食事が終わりますから。料理の必要がないんですよね」
「まだその食生活してるんだ……」
カズサにじろりと睨まれる。とはいえ量を食えない身体なのだから、体に良くないと暗に言われたところでどうしようもない。
そのエネルギードリンクだってあくまで栄養摂取が目的のものなので、味はほぼ水だ。エンジェル7だったか、シャーレ近くのコンビニでだけ取り扱っているが僕以外に買うやつを見たことがない。そして序でに、あそこの店員が居ない日を見たことがない。
連鎖的に先生や空崎さん、七神さんを思い出して、もしかしたらキヴォトスに労働基準法は存在しないのだろうかと思い至る。いや、流石にそんなことは……、無い…………、と思いたい…………。
「て言うか。頼んだ私が言うのもなんだけど、よく勉強会なんて引き受けてくれたね。ミレニアムも試験終わったばっかみたいで疲れてないわけ?」
「疲れていないとは言いませんが、これより忙しい時期なんか幾らでもありますから平気です。あとは、そうですね……ちょっと桐藤さんからの頼まれ事が今後控えているので。その予行演習も兼ねています」
「ナギサ様から?」
なんと言ったか、そう、確か「補習授業部」だったか。名前からして宜しくないことが察せられるその新しい部活の補助をしてくれないかと頼まれたのだ。
……僕に声がかかった理由はさておき、桐藤さんの真意を「本」で知っているだけに胃が痛む。尤も、僕にとっては裏側からコソコソ手を回し易くなるだけに有難い話でもあったのだが。
「あと、そろそろ暗くなってきたし帰らないとやばいんじゃないの。ミレニアム、ここから近くはないでしょ」
「ああ、僕は今日、ミレニアムに帰らない……というか、帰れないので。他で泊まる予定です」
今頃、一之瀬先輩達とモモイさん達が
事前にセミナーとしての仕事の休みを取って、友人と勉強会をすると言っておけば早瀬さんもわざわざ引き戻すような真似はすまい。真面目な彼女の性格を利用しているみたいで気が引けたが、仕方がない。
カズサ達に頼まれた時はやはり本職でもある先生に話を通してみようかとも思ったが、話をしたところで先生の予定が
なんとなしに手に取ったままだった「本」を開き、該当のページに目を向ける。
『G月D日 ミレニアムにてセミナー 並び に Cleaning & clearing と 先生率いるゲーム開発部 エンジニア部 が 交戦 を 開始。角楯カリン、一之瀬アスナ 二名の戦闘不能。花岡ユズにより 「鏡」 を ゲーム開発部 が 奪還。観測を続行』
こんなもの、どっちに付くかなんて僕に選べるものか。セミナーとしての立場がどうとかそんな話ではなく、そしてどっちが正しい正しくないではない。
本来なら当然セミナーやC&Cの側に付くべきなのだろう。しかし彼女達が「鏡」を欲している理由も僕は知っているため、決してゲーム開発部やエンジニア部の敵をしたいわけでもない。
よって選択肢は「そもそもその場から物理的に離れる」というものを選んだ。…………どうせ、僕がいてもいなくても結果は変わらないのだし、どうでもいい話だ。
無意識的に暗い雰囲気でも纏ってしまっていたのだろうか。怪訝そうな顔を浮かべるカズサに何でもないと示すように首を振る。
「ふぅん……?それならウチに泊まっていってもいいけど。まさか野宿予定だったわけじゃないんだろうけどさ」
「泊…………!?か、カズサちゃん、それは……!」
「そういえばそうですね、失念してました。まあ、今回は遠慮しておきます。先に他で泊まる予定を入れてますから」
「!!?!??」
なんだかカズサ以外の三人の顔がすごいことになっている。そんなに驚くことだろうか……?友人同士であれば別に泊まることくらいは普通ではないか。現に伊原木さん達はしょっちゅう泊まりで女子会なるものをやっていると聞くし。
…………ああ、ひょっとしたら男女だからその辺りを気にしているのだろうか。だとしたら不要な心配だ。なにせ、僕とカズサは
「わかんない……!基準がわかんないよ、ナツちゃん……!」
「みーとぅー……。…………例えばの話で名前出すけど、ミカ様に泊まっていいって言われたらどうするの」
「は?泊まるわけないでしょう」
「ますます分かんないわよ!?普段のガチガチ貞操観念どこ置いてきたわけ!?」
そんなことを言われても困る。
だって聖園さんは「知り合い」「恩人」「■■■」であって僕と友人であるわけではないのだから、泊まり込みなんてはしたない事はしない。これが仮に他の人――それこそ例えば伊原木さん達や桐藤さんだったとしてもそこは変わらないし、反対に泊めてくれと言われても(ケースバイケースではあるが)大半以上断るだろう。
友人同士なら構わないが、知っての通り僕に友人は然程多くはない。カズサを除いても、その数は両手の指で足りてしまう程度。なんならミレニアム内に友人は
「一応聞くけど、あんたに取っての友人ってなに……?」
「そのままの意味ですが……?」
友人は友人だ。単なる知人であるより関係性が深い非親族であり、かつお互い一定以上の人間関係を構築出来ている相手のこと。
それを伝えると益々頭を抱えられてしまった。そんなにおかしな話だろうか……。したり顔になっているのは勿論カズサだけ。
「さて、そろそろ再開しましょうか。僕が出るまでにもう一段は済ませてもらいますからね」
「「「「は〜い……」」」」
今更言うことでもないが、相変わらず仲が良いことだ。
僕が発つまでの時間の間、なんだかんだ全員が予定通りに課題を終わらせていた。この分だと次の試験は心配しなくても大丈夫だろう。
さて。すっかり陽が落ちて暗くなり始めたトリニティの道をバイクで進む――その先にあるのは、ゲヘナの自治区。
ゲヘナに入ると同時、僕は携帯を取り出して待ち合わせしている人物にコールした。
「――――――こんばんは、空崎さん。今夜はよろしく、お願いします」
『ええ、宜しく』
ひどく草臥れた声色が、液晶越しに響いてきた。
寝てくれ。
Q.友達とは。
A.自分の凡ゆる事を投げ捨てても構わないと与える人間関係の相手。少なくとも彼にとっては。
Q.お泊まりだったり、食べさせてもらうのは友達相手で平気なのか。
A.『友達』なので。友達は恋人ではないので問題ありません。その行為に恋愛感情なんてないでしょう?
Next.『17th.ゲヘナ最強な彼女達と僕』