脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

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あらすじに『彼』のイメージを描きました。あくまでイメージですので悪しからず。
そしてR-18版についてはアンケートが綺麗に9:1でしたね。頻度がどうなるかはさておき、設置する方向で検討致します。


17th.ゲヘナ最強な彼女達と僕

 

「空崎さん、こちらの決算全て終わりました。残りは空崎さんの印鑑と、万魔殿の方でミスがあった書類ですのでデスクに残してあります。天雨さんはPCの三番フォルダを確認しておいてください、業務上の数値ミスを幾つか特定してありますので後ほど直しておいていただければ。銀鏡さんには此方を。風紀委員全員の弾薬補充に関する書類です、必要経費のみの数値として一括で計算してありますので確認するのは最後のページだけで結構です。火宮さんも、医療アンプルや活性剤などの決済をまとめてありますので同じページを銀鏡さんと一緒に確認しておいてください。続いて此方が過去一週間分のゲヘナでの違反行為の報告書――」

 

「…………………………うん、ありがとう。……マコトが貴方を引き抜きたがる理由が良く分かるわ……」

 

 

 何故、羽沼さんの名前が急に出てくるのか。

 

 兎に角、ゲヘナはその治安の悪さ故だろうか書類の量がひたすらに多い。が、多いのは量だけだ。その内容の殆どはゲヘナ地区内で起こった被害に関する補填の決算だったり風紀委員として使用した弾薬の経費だったり、あとは単純に事後処理の報告書がかなりの割合を占めている。それゆえ、書類のマルチタスクが出来る人間なら脳内で計算機を叩く()()で処理していけるのだ。

 

 勿論現実に計算機も叩いているが、八桁以内の計算であれば暗算でもミスはかなり少ない自負がある。

 ……とはいえ、流石にこれ以上複雑な計算が出来る機能は僕の暗算機能に備わっていない。なのでその辺の書類は関数計算機を使える天雨さんに丸投げした。というか横から掻っ攫われた。もしかしたら自分の仕事が無くなるとでも思ったのだろうか、だとしたら安心して欲しい。

 

 あくまで僕はゲヘナ外の人間だ、印鑑だの機密だのの関係で処理出来る仕事には速度や能力とは別の意味で限界がある。なので申し訳ないが、空崎さんと天雨さんの仕事は最後まで無くなることはないだろう。

 

 

「いや、充分すぎると思うんだけど。なにその計算速度」

 

「ミレニアム生なら別に普通です」

 

 

 というか、天雨さんの叩いている関数計算機無しで計算が成立する人さえミレニアムには居る。早瀬さんのあの暗算能力はどう逆立ちしても真似できる気がしない。なんで計算機使うより早く計算ができるんだ、絶対に何かおかしい。

 

 ……考え出したらミレニアムにも超人は相当多い。調月会長をはじめ、名前を出した早瀬さん、凡ゆるファイアウォールを突破してくる黒崎さん、完全記憶能力を誇る生塩さん……。C&Cも含めると本当に超人だらけだと思ったが、このキヴォトスで超人ではない生徒を探す方が大変かもしれない。少なくともヘイローのない僕からしたら全員が超人そのものだ。

 そんな余計なことを考えながら手を動かし続けていたら大方の書類は片付いてきた。天雨さんの方はまだ先がありそうなので、僕が触って問題ない書類を何枚か持っていこうとしたら凄い顔で睨まれた。なんで。

 

 

「…………アコちゃん、悔しいんだと思うよ」

 

 

 耳打ちしてきたのは銀鏡さん。

 悔しいとはどう言う話なのか、いまいち要領を得ずに首を傾げてしまうが、銀鏡さんの続けられた言葉に納得はともかく理解は出来た。

 

 

「対抗心持ってる相手に何とも思われてなかったらそりゃ悔しいよ。それで負けてるんなら尚更」

 

「はあ。前から言ってることですが、書類仕事って別に勝ち負けではないのでは……」

 

「いや、ド正論なんだけどそうじゃないっていうか……」

 

 

「違うんだよなあ」という顔をされてしまった。銀鏡さんだけではなく、横からやり取りを見ていた火宮さんや他の風紀委員会の人たちもうんうんと僕が違うとばかりに頷いている。嘘だろ、これ僕が悪いのか?

 というか、果たして僕に勝ったところでなんだというのだろう。別に僕はゲヘナに常駐しているわけでもなし、競う相手を間違えてはいないだろうか。

 

 首を傾げ続ける僕を他所に、そろそろ風紀委員も撤収の時間が近づいてきた。全員の気が緩み始める中、不意に「あ」と委員会の誰かから声が漏れた。思わず全員の視線がその子に集中して、罰が悪そうに話を切り出した。

 

 

「あの、こんなギリギリですみません。一枚、報告書が足りなくて……」

 

 

 資料、書類関係の仕事をした人間なら分かるかもしれないが、それが一枚足りないというのは結構な大事なのだ。たかが一枚と思われるかもしれないが、その一枚足りないという事実が案外重たかったりする。

 やっと帰れると思った矢先にこの話が出ては紛失した書類を探す、或いは紛失の理由を見つけなければならない。開放感の放たれかけていた部屋が一気に重い雰囲気に包まれる。

 

 

「くっ……仕方ありませんね。委員長、すぐに私が資料室に探しに――」

 

「天雨さん、待ってください」

 

 

 が、こういう時こそ僕の数少ない見せ場だろう。

 先程の僕のように首を傾げる天雨さんを置いて、自身の側頭部を軽く叩きながら僕の記憶の中を探っていく。

 感覚としてはインターネットの検索エンジンに近いだろうか、少なくとも僕が何かを思い出すときはそんな要領だ。ゲヘナに来てからいつ何処で誰が何をしていたのかどんな会話をしていたのか何処へ行ったのか、可能な限り記憶の蓋を引き剥がして情報を引っ張り出す――。

 

 

「……………………この部屋です。右から三つ目の棚、上から二段目、左側から八個目のファイルの二十八ページ」

 

「え?」

 

「資料室ではなくこの部屋、確かそこにその件の報告書があったはずです。僕の記憶違いでなければ、ですが」

 

 

 空崎さんの目配せを受けて先程の委員会の子がバタバタと慌しく棚に向かって走っていく。低い脚立を使って棚から引っ張り出したファイルを開くと、「あ、ありました!」と大声が部屋に響く。良かった、僕の間違いではなかったらしい。これで間違っていたら恥ずかしいったらありゃあしなかった。

 内心、胸を撫で下ろしていると火宮さん達からなかなか酷い視線――具体的な単語にするならドン引きというやつだろうか。納得のいかない視線を送られていることに気がついた。

 

 

「どんな記憶力してるんですか……」

 

「そうは言われても、せいぜいこれくらいしか取り柄がないもので」

 

「えぇ…………?」

 

 

 なんなら記憶力だって、こんなものあったところで生塩さんには敵わない。僕も記憶力には()()自信がある方ではあるが、ちょっとあの人は桁が違う。なんでミレニアム生徒の十桁にもなるIDを全員ぶん憶えているんだ、怖すぎる。

 生塩さんほど突出しているなら兎も角、この程度なら記録用のデバイスでも一つ別で用意しておけば済む話なのだ。あったところで正直「すごいね」以上の感想が出てこない。そんな引かれるような視線を送られる謂れはないと思う。

 

 

「うん、謙虚なのはいいこと。でも、過小評価が過ぎるのも良くないわ」

 

「ご心配無く。これでも過小評価しているつもりは有りませんから」

 

「……素直に褒められておきなさい、まったく」

 

 

 空崎さんに持っていたクリップボードでぺしんと頭を軽く叩かれた。空崎さんの身長では僕の頭には届かないので背伸びしていたのが少し愛らしい、なんて思ってしまったのは内緒にしておいて欲しい。

 ……だから天雨さんも、その漲る視線を僕に内緒にしておいてはくれまいか。多分、手柄を取られたことが気に食わないのかもしれないが、しかしだからといって手柄だけ渡しても彼女は納得しないだろう。そもそも仕事で手を抜くと他の人にも迷惑がかかってしまうし、その気もないけれど、なんというか相変わらず気難しい人だ……。僕はどうしたらよかったのか、誰か教えて欲しい。

 

 

「……ぐ、ううう……っ。……い、良いでしょう、今日のところは負けを認めますとも……!さあ、好きなように命令すればいいじゃありませんか!」

 

「このやり取り何回目なんでしょうね。では、いつも通り何も無しで」

 

「………………このヘタレ!」

 

「このやり取りも何回目なんでしょうね」

 

 

 最初こそ理不尽なヘタレ扱いに「嘘だろ」と思ったがもう慣れた。多分、天雨さんはそういうテンションの人なのだろう。もうそろそろ深夜を回る頃合いだというのに元気なのは良いことだ。些か元気すぎる気もするけれど。

 

 この人、勝手に勝負を仕掛けてきて勝手にペナルティ決めてそれで勝手に自爆しているのでちょっと僕の手に負えない。

 一応最初は「珈琲を淹れてほしい」と頼んだが、そんなこと別に負けのペナルティにしなくても淹れてくれるというので、僕から彼女への要求は本当に無くなってしまったのだ。口にこそ出さないが、実際に頼んだら割と洒落にならない事でもやりそうで怖いというのも正直あるけれど。 勿論、天雨さんは別に嫌いな人でもなんでもないが、苦手かどうかと聞かれたらノーコメントとなってしまう。

 普段は理知的で冷静な人なのに、どうして勝負事に拘るのか……。

 

 不意に、ぱん、とその手で音を鳴らしたのは空崎さん。その音は区切りの合図のつもりなのだろう。各々が騒ついていた空間が瞬間的に静かになり、視線も空崎さんに集中する。こういう人の目を引く雰囲気を作りだす能力は流石としか言いようがない。

 

 

「兎に角、今日の仕事はさっきので本当に終わりよ。皆、遅くまでありがとう……お疲れ様。気をつけて帰って」

 

 

 空崎さんの言葉を皮切りにして、委員会の雰囲気が完全に緩んで気分の悪くない騒めきが戻ってくる。各々が鞄を手に下校の時間だ。……深夜ギリギリの時間に下校というのも大概意味のわからない話だが。風紀委員会のブラック労働っぷりはシャーレに迫るかもしれない。

 空崎さんも軽く首を回してから鞄をその手に取ると、何か思い出したかのように僕の方に視線を向けてきた。

 

 

「そういえば、すっかり聞きそびれてたけど、どうしてゲヘナに?勿論、手伝ってくれたのは感謝してるけれど」

 

「すみません、諸事情でして。その事情も、納得いただけるように上手く説明出来る気がしません」

 

「…………言えないのね、いいわ。貴方のことだし理由があるんでしょうから、聞かないであげる。夜はどこか泊まる当てはあるの?」

 

「もし出来るならこのまま風紀委員の仮眠室なんかを貸して貰えると。というか、それを当てにして来ました」

 

「そのくらい構わないわ。シャワー室やランドリーも好きに使って頂戴。仕事分を考えるとその程度じゃ全然足りないくらいだけど」

 

「貸してもらえるだけ有難い話ですよ」

 

「鍵だけはしっかり掛けておきなさい。色々危ないから。それじゃあ、今日のところはさようなら――」

 

「それなんですが、空崎さん。……お疲れのところでしょうが、今夜、もう少しだけお時間をいただけませんか」

 

「えっ」

 

 

 再び騒つく事務所内。……まあ、この中で間違いなく一番疲れているであろう空崎さんに「もう少し付き合え」なんて言えばそれはそんな反応にもなるか。僕としても申し訳ない気持ちはあるものの、空崎さんは多忙だ。

 どうしても空いている時間というのが限られる上に、これから先は僕も行動が縛られることが多くなる。だから時間のある今、話をしておきたかった。

 

 

「………………、……も、…………モモトークじゃ、だめ、かしら」

 

「出来れば、顔を合わせて話がしたいんです。重要な話なので」

 

「はぇ」

 

 

 そう、重要な話。

 こればかりはモモトークでというわけにはいかない。なにせ、()()()()()に関する話だ。

 

 今、顔を突き合わせてまで話す重大な話といえばまず間違いなくエデン条約絡みの話。ゲヘナとトリニティどころかキヴォトスそのもので話題になっているところだ、空崎さんなら「重大な話」と聞いて理解してくれることだろう。

 エデン条約の名前を出さなかったのは政治的な問題だ。彼女もゲヘナでもトリニティでもない、ミレニアム生である僕に堂々とそんな話はしてくれまい。だから敢えて名前を出さずにこんな遠回りな言い方をした。

 

 ただゲヘナのトップは羽沼さんであることに疑いはないし、本来話を聞くのならそちらにするべきなのだが、実のところ羽沼さんの意識は大部分が空崎さんへの嫌がらせに向いているので果たして素直に聞けるかどうか。

 何より「本」で未来を知っている人間としては内容的に決して良いとは言えないことに羽沼さんが関わっているので、尚更話を聞きづらい。

 

 そしてもう一つ。万魔殿――ゲヘナの生徒会のようなもの――に行くと必ずと言っていいほど棗さんにちょっかいを掛けられる。それが嫌とは言わないが、出来るならゲヘナに於ける実質的なナンバー2である空崎さんにエデン条約の見解を聞いておきたいのだ。

 

 しかしこれはゲヘナに取って重要な話だけに、話していいものか決めかねているのだろう。空崎さんは眼をぐるぐると回してしばらく口篭っていたが意を決したように深呼吸の(のち)、ようやく言葉を発してくれた。

 

 

「………………こ、こっ、今度!…………そう、今度、二人っきりの時間は作るわ。だから、その、今日いきなり、というのは。私も、こ、心の準備というか。何をどう話して良いのか、わからなくなりそう、だから」

 

 

 それも、言われてみればその通りか。

 突然来て、突然エデン条約の話をして欲しいなんて言ったところで彼女も困るに決まっている。……エデン条約に関する物語がそろそろ動き出してしまうからだろうか、柄にも無く少し焦りすぎたかもしれない。

 アビドスの頃からこの辺の焦り癖は中々治らないな。反省しよう。

 

 

「……そうですね、空崎さんの気持ちも考えるべきでした。急に話を振って申し訳ありません」

 

「う、ううん…………その、じゃあ、モモトーク……ID、渡しておくから……」

 

 

 空崎さんとモモトークを交換する視界の端で、天雨さんがさながらメデューサに睨まれたかのように綺麗な石化を披露していた。

「どうします?」「静かになったしいいんじゃない」と火宮さんと銀鏡さんに雑な対応を決められているのも見えている。どうして石化しているのか分からないが、少しだけ同情する。

 上手く言えないが、こう、頑張って欲しい。何を頑張れというのかと聞かれたらそれも分からないのだが。

 

 全員が事務所から出払ったのを確認すると、僕が向かったのは仮眠室では無く、事務所の机だ。軽く伸びをしてから、もう一度ボールペンを握る。

 

 

「――――()()()

 

 ――――――――――――――――

 

「おはようございます、空崎さん」

 

「…………おはよう……その、これはなに……?」

 

 

 午前七時半。

 空崎さん達が揃って事務所にやって来る時間、机の上にあるのは()()()()()()()。多分「なに」とは書類のことを言っているのだろうが、どうか安心して欲しい。

 

 

「いえ、僕が出来る範囲で今日の事務仕事だけ終わらせておこうかと。いつも通りゲヘナの機密や空崎さん達の許可が必要な書類には手をつけてませんから」

 

 

 夜通し作業していたのかって?流石に途中、仮眠とシャワーの時間くらいは一時間くらいもらってあるがそれ以外は作業に手を回していたのはその通り。

 何故って?……知り合いであるゲーム開発部と先生、C&Cとセミナーが撃ち合っているのを知っておきながら、同じ時間に一人だけ安全圏で寝ているというのはちょっと罪悪感が過ぎたから……。

 別にゲヘナで仕事していたからといってミレニアムでの何が変わるわけでもないが、この辺は気分の問題だ。誰に何を言われたとて僕自身が休むことに納得はしなかっただろう。

 

 そして、そろそろ僕もそのミレニアムに戻らないといい加減に知り合いの誰かからどやされそうなので、僕に出来ることはここまでだ。

 やりっぱなしになってしまうのも少し申し訳ないが、確認した限りではミスはないはず。他人任せな話だが、もしミスがあったとしても天雨さんが気づいて修正を効かせてくれるだろう。最悪、僕のモモトークに連絡してくれたらいい。

 それを伝えると空崎さんは何を思ったのか一瞬目を伏せて、次の瞬間には大真面目な顔でこう言ってみせた。

 

 

「………………ねえ。本当に風紀委員会(ウチ)に来る気、ない?好待遇で迎えるから」

 

「委員長!?」

 

 

 これまた有難い社交辞令(はなし)だが、丁重にお断りさせてもらった。

 事務仕事というなら今し方も叫んでいた天雨さんが既にゲヘナには居ることだし、何よりゲヘナでは僕の身体が耐えられそうにはなかった。物理的に。

 

 噂では、その日は鬼怒川さんの絶叫がいつもより遠くまで響いたとか響かなかったとか。ゲヘナの最強は、最強のまま健在らしい。




因みに、彼の事務処理能力については完全に『過小評価』であることを筆者として明記します。

あくまで例として名前や数値を挙げますが、アコの事務パワーを100とするなら彼は300ぐらいあります(事務内容の差や違いもあるので一概には言えませんが)。
能力の一芸では誰にも勝てないのもまた事実ではあるのですが、それはそれとして計算力、記憶力、機械やプログラムへの造詣諸々が積み重なったらこうなるよねって。ていうか、彼は何にしたって比べる相手がおかしいのだ。我々キヴォトス外の人間から見たら、充分に先生も彼も超人です。

Next.『Battle of millennium. Gamers VS Asuna』
(※ もしかしたら軽い番外編を挟むかもしれません)
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