脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達 作:ぽけぽっぽ共和国
そしてこれは、前話の通り彼がトリニティやゲヘナで色々してる時とほぼ同じ時系列です。要するに「一方その頃」ですね。
「あはははは!ほらほら頑張って攻撃しなきゃ!逃げてるだけじゃいつまで経っても勝てないよー!」
「「む、むり〜〜〜!!!」」
跳ねる、跳ねる、跳ねる跳ねる跳ねる。
床を蹴飛ばして、柱を蹴飛ばして、時に天井にぶら下がってアクロバットを決めてからまた跳んで。まるで予測不可能な動きを見せるロングヘアのメイド服少女――「一之瀬アスナ」にゲーム開発部「才羽モモイ」と「才羽ミドリ」の双子は完全に翻弄されて不恰好にフロアを走り回る。
なんとか隙を見て銃撃のお返しを挟むものの、しかし当たる弾丸の方が避けられる弾丸よりも少ないという有様。かたやアスナの弾の命中精度は相当なもの、今もこうしている間にモモイの眉間に直撃して「ぎゃああああ!」と悶えている始末。
とはいえ、これでも勝負になっているだけまだマシと言える。普段のモモイとミドリでは、とっくに気絶させられている頃合いだろうから。
「(ん〜、思ってたより全然悪くないかも。個々の戦闘能力はぶっちゃけお世辞にも高いとは言えないけど……それを補うくらいに連携が取れてる。先生、ううん、ご主人様のサポート込みではあるけど……流石は双子ってところなのかな?)」
正直を言えば、アスナはモモイとミドリのことを侮っていた。実際、モモイとミドリが単体で戦闘を行った場合、装甲の種類によってはドローンが相手でも四苦八苦することだろう。勿論、アスナはドローン如きでは余程の数が相手でない限り鼻歌混じりに落としてみせる。分かりやすく、ゲーム開発部らしくレベルとして表すのならその実力差はモモイ達が「30前後」、アスナが「60後半」。それほどの差が明確に存在する。
だが、これが二人そろえばどうなるか。片方の死角を片方が的確にカバーし、片方がリロードに入った瞬間にその隙を埋める位置取りと援護射撃。二人で一人のような立ち回りをするくせに、モモイとミドリで「大雑把に弾をぶち撒けるタイプ」「弾数を決めて正確に狙ってくるタイプ」と射撃のスタイルに違いがあり、対応を切り替えさせられることも厄介さを際立たせていた。
加えてこれは「鏡」なるシステムの奪還が目的の戦闘。細かい話は今は略すが、ゲーム開発部の存続が賭かった戦いだ。「引くわけにはいかない」という覚悟が姉妹の後押しとなっていた。
「で、も!そのくらいでやられるようじゃ、ミレニアムのメイドさんは務まらないんだよね〜!」
とはいえ、流石に相手が悪過ぎる。
アスナとてミレニアムでも最高戦力として数えられるC&Cに所属する最強メイドの一人。如何にモモイとミドリのチームワークが優れていようとも押し切れないどころかむしろ押されているのは単純な話。
レベルの話をしたとおり、個人としての戦闘能力のスペック差があまりにも有りすぎるから。
特に、真っ向からの銃撃戦となればC&Cエージェントの中でもアスナはかなり強い部類に属しているのだ。
まるで足にスラスターでも装着しているのかと見紛う急停止と急発進、兎のように跳ねる動きにその中での正確な射撃技術、そして極め付けに異様までの勘の良さ。
「うあああぁ!?こ、こんなの私の知ってるメイドさんじゃなああぁい!?」
「ていうか、こっちの動きが何となくだけど読まれてない!?アスナ先輩、さっきから動体視力だけじゃ説明つかない動きしてるよ……!」
それは柱が透けて見えているのかというようなモモイに対する射撃制度。後ろに眼でもつけているのかと文句をつけたくなるミドリに対する回避行動。
からくりは、先生にさえも見えない――凡そ数値としては表示されない「直感」というアスナの
「("そもそもC&Cが強いことは分かってはいたけれど……想定よりずっと厳しい……!")」
モモイとミドリは二人がかりでやっと隙を作ってリロードしているのに対して、アスナは回避行動を取りながらついでのようにマガジンを変えている。
急激に体をがくんと沈み込ませ、前進するスライディング・リロードやスライディング・シュート。言葉にすれば単純だが、目の前でこれをやられるモモイ達はアスナが消えたような錯覚に毎回陥るほど。とてもではないが先生の指示があったとして、モモイ達にどうこう出来る
そして、此方の明確な負け筋がさらに一点。
「"二時の方向ッ!そこから離れて、ミドリ!"」
影から飛び出してきたアスナの左手は手首に揺れるブレスレットを反射で光らせながら、まるで鉤爪のように開かれてミドリを襲う。先生の警告があってか紙一重で回避できたが、一秒でも遅れていたら襟首を掴まれていたことだろう。掴まれかけた当のミドリは、心臓が痛いほどに飛び跳ねる緊張感に襲われていた。
「んー、惜しいッ。もうちょっとで組めたのになー」
そう、これが最大の負け筋――近接格闘だ。
仮にモモイ、ミドリのどちらかが格闘戦に持ち込まれた場合には本当になす術がない。現状、先生のサポート込みでの二対一でようやく「不利な戦い」で抑えられているが、それは二人がかりという数の有利による銃撃戦に持ち込めているからだ。本当の意味での殴り合い、或いは組み合いになった場合には十秒とて保つか怪しい。格闘するほどに接近していては、二人の技量では味方に当てないよう射撃するというのもかなり難しいだろう。
……勿論、後輩を相手にグーで殴るとは考えにくいが、それでも締め落とすくらいは容易にしてくるはずだ。
かたやゲーム漬けの日々を送る小柄なゲーマー、かたやミレニアムを飛び回って荒事に参加し続けているメイド。どちらに格闘の利があるかなど火を見るよりも明らかだ。此処がキヴォトスという場所であり、(現状不利なのに可笑しな話ではあるが)銃撃戦であるということに救われてもいた。
「ふふーん、後輩くんから君達とご主人様のことは聞いてたからね。最後まで油断なんかせず、しっかりきっちりお片付けするよっ」
「う……裏切り者だぁ!?仲間だと思ってたのにぃ!」
「お姉ちゃん、裏切りも何も、あの人は元々セミナーだから……
ミドリの言葉に何とも言い難い表情を浮かべる先生。確かに立場を考えればミドリの言う通り、セミナー側に立つことにはなっていただろう。しかし、だからといってゲーム開発部と真っ向から敵対する行動を取るのもちょっと考え難い。もしかしたら、此処に今居ないというのもどっちに付くこともしたくはなかったのからなのかもしれないと勝手な考えを巡らせて、その一秒後、モモイに回避の指示を飛ばす。
「ひええええ……!」
「"考え事もさせてくれないんだね、アスナ……!"」
先生の言葉に返すことはなく、「にひ」という擬音が付きそうな深い笑みを浮かべてみせるアスナ。そして更にその一秒後、轟音を鳴らして窓ガラスを突き破ってきたのはスナイパーに装填される「大口径弾」。
ミドリの真横に着弾したそれを理解すると同時、ミドリは血の気が引くと同時に意識まで飛びそうになった。
「ミドリ、大丈夫!?」
「な、なんとか……当たってはないから。でもこの大口径弾が飛んできたってことは……」
「"ああ、ウタハがやられた……!"」
耳につけた通信機から聞こえてくるのは狙撃手であるC&Cの一人、「角楯カリン」を抑えてくれていたウタハと同じくC&Cの一人、「室笠アカネ」と同行していたユウカを抑えてくれていたマキの声。通信越しに聞こえた二人の声からは、確かな悔しさが滲んでいた。
『すまない先生、これが限界だった……』
『ごめーんこっちももう無理、抑えきれない!ユウカとアカネ先輩が隔離状態から脱出!ミレニアムドローンも大量に向かってるよ〜!』
「"ウタハ、マキ……!"」
その連絡から程なくして、階段を上がってフロアに姿を表せたのはミレニアム・セミナーの会計担当――早瀬ユウカ。ユウカの怒り心頭と言った表情を見て、モモイは「げぇっ」とつい声を漏らしていたがさもあらん。横で見ている先生もちょっと怖かったくらいの形相だったから。
「……よくもやってくれたわね……!一先ず、ここまで状況を引っ掻きまわした事については褒めてあげるわ。それについては本当に驚いたけど……でも、それはそれ、これはこれ。
「うっ…………」
「猶予を与えたことといい、我ながらちょっと甘すぎたかしら。此処までくると、もう悪戯では済まされない範囲よ……無条件の一週間停学か、最悪、拘禁くらいは覚悟なさい」
「もちろん先生にもお説教です」とぎろりと先生にもユウカの眼が向けられる。先生としては目を逸らす以外に取れる行動がない。だって、どっちが正論かと言われたらそれはユウカの方なのだから。
しかし、ゲーム開発部としてもここで「はいそうですか」と素直に首を縦に振るわけにいかなかった。
「そんな……一週間なんて、ミレニアム・プライスが終わっちゃう……!」
「可哀想だけど、でも、自業自得よ。今はアリスちゃんも反省部屋に入ってもらってるわ……貴女達が来ればきっと喜ぶでしょう」
捕まってもせいぜい謹慎程度だと思っていたが、些かやりすぎてしまったらしい。モモイやミドリはもはや唸るしかない。謹慎であれば最悪、なんとか形にして査定に出すことくらいはできると思っていたが、拘禁ともなるとそうはいかない。
このままではたとえ目的のものを奪取出来たとして、アリスとユズだけではゲームは作れない。イラストレーターのミドリ、シナリオライターのモモイ、プログラマーのユズ、デバッガーのアリス。誰が欠けたとしてもゲーム制作は叶わないのだ。
やや遅れて上がってきたのは大量のロボットを引き連れたクラシカルメイド姿のC&C――室笠アカネ。……アカネは何やら自分の身体を見てやや顔を青させている気がするが、その理由までは流石に先生には分からない。分からないということにしておく。「体重」がどうのと言っていた話は聞こえない、ということにしておくのが吉だろう。
「んんっ……改めて初めまして、でしょうか。モモイちゃん、ミドリちゃん。お手伝いをしていたマキちゃんやコトリちゃんはギリギリ許せる範囲かもしれませんが……ここまでやってしまった貴女達に、もう言い訳の余地はありませんよ」
「先生も、お説教の後はシャーレに抗議文ぐらいは送らせていただきますからね。そっちも覚悟しておいてください」
「"……甘んじて受けさせていただきます……"」
何とも情け無い声しか出てこなかったが許して欲しい。だってユウカが怖すぎる。これが果たして大人の男性の姿か?と聞かれたらちょっと自信がなくなるくらいには縮こまっていた。ユウカを『本気』で怒らせてはいけないのだと今更になって学んだ先生である。
「ふふふ、だいぶ粘ったけど……流石にこれでチェックメイト、かな?いくらご主人様がいたって、私とカリンちゃん、アカネちゃんの三人相手は出来ないでしょう?」
「一応、私もいるんだけど」
「あははは、勿論ユウカちゃんのことだって忘れたりしてないよー。ちょっと可哀想かもしれないけど、これもお仕事だからごめんね?さあ、神妙にお縄につけー!」
前門のC&C、後門のセミナー。これで終わりだ、最早打つ手がない。天地がひっくり返ってもどうにもならない戦力差にモモイとミドリは思わず俯いて。
そして。
フロアの扉は開かれ、「彼女」の声が鳴り響く。
「ターゲットを確認。魔力充電、100%……!」
――――――――光よ!!!!
それは、正しく「光の聖剣」だった。
凡ゆる障害物を砕きながら歪むことなく一直線に突き進む。それによる威力の減衰など微々たるもの、生半可な防御や装甲など誰が許すものか。
咄嗟にモモイとミドリは先生を押し倒す形で伏せ、そしてアスナも「直感」で何かを察する――回避が間に合わないということも含めて、だが。
突き抜けたのは一条の光。
モモイ達の頭上を、そしてユウカとアカネのど真ん中を撃ち抜く形で光はアスナをロボットの大半ごと飲み込み、柱をへし折りながら壁が砕ける勢いでフロアの端まで連れ去って行ってしまった。
「………………なん、ッ……!?」
全員が唖然とする中、堂々と煙の中から長い髪を靡かせて出で立つのは先程までユウカの言で「反省部屋」に居るとされていた少女――天童アリス。その体躯にはあまりにも不釣り合いなレールガンを携え、戦況をひっくり返す必殺の一撃を放ってみせた。
「モモイ、ミドリ。先生も、大丈夫ですか!――助けに来ました」
「あ、アリス……!?一体どうして……」
「…………考えていました。『ファイナルファンタジア』を始め、『ドラゴンテスト』や『ワイバーンクエスト』、『英雄神話』、そして『テイルズ・サガ・クロニクル』……どんなゲームの中でも、主人公達は仲間を見捨てることはしませんでした」
「アリス……」
「アリスちゃん……」
「――試練は、ともに突破しなくては。アリスも……勇者として、そうします……!」
一気にゲーム開発部側の士気が戻っていく、どころか当初よりも高くなっている。さしものアカネやユウカとて、ロボットの半数以上を失った状況で先生率いる三人を相手にどこまでやれるものか。いつのまにかカリンからの支援も途絶えており、状況は完全に傾いてしまった。
しかしC&Cとして、セミナーとしてみすみす逃すわけにもいかない。各々が銃を手に取る中、……異音が一つ。
「………………え?」
「…………ま、まさか」
それはアスナの吹き飛ばされた方向、砕けた柱の瓦礫から僅かな音がする。その音は徐々に大きくなっていき、全員が「まさか」と息を呑んだその矢先――最低限の瓦礫を蹴飛ばし、這う這うの体ではあるものの、明確に意識を保ったままのアスナが脱出してきた。
「……………………い〜っ、たぁ〜……あいたたた……ほんとにいたーい!頭の先から足の先まですっごいビリビリする……!」
決して無傷とは言えない。メイド服は幾らか焼け焦げているし、ヘッドドレスや耳元の装置は失われている。その手にある銃にもヒビが入っており、相当なダメージがあることに間違いはない。だが、
ふらつき、蹈鞴を踏んでこそいるが、それでも明確に、一之瀬アスナは二本の脚で立っていた。
「…………うそ、でしょ……!?」
「そんな……!」
唖然とした表情を隠せないゲーム開発部。モモイ達だけではなく、先生も、それどころか傍らにいたユウカとアカネも空いた口が塞がらない。
だが、その驚愕も当たり前だ。そもそもの話、あの威力のレールガンを真っ向から喰らって動けること自体がおかしいのだから。先生としても確実に倒し切れる算段ではあったが、いったい何故――――。
『せ、先生!アレを…………!』
困惑の中、
「"あれは、アスナの付けていたアクセサリー?…………いや、…………まさか"」
ブレスレットの残骸に混ざって、一つおかしな破片がある。それは電磁ショートを起こす立方体の黒い何かの部品。明らかにブレスレットに組み込むような部品ではない。アスナもそれに気づいたのか、眉を顰めながらしゃがみ込んで床に転がっている立方体をひょいと細い指で摘む。
その正体をいち早く看破したのは、アロナだ。
『はい、あれは……
「"光、拡散装置!?"」
「えぇ!?か、拡散装置って……じゃあ、アリスのレールガンは……」
「………………はい。推定ダメージ、約三割カットです。まさかあんな防御バフが相手にかかっているだなんて……」
アロナの声は勿論モモイには聞こえていないが、思わず先生は声を上げたことで部品の正体をモモイ達も理解したのだろう。
思い返せば、レールガンが直撃する寸前にアスナはアームブロックの体勢に入っていた。その反射神経だってとんでもないが、その際にアリスの放ったレールガンがブレスレットに内蔵された装置によって拡散――大きくとは言えずとも、間違いなく威力を殺されてしまったらしい。それがなければ瓦礫から這い出てくるどころか指一本動かすのも厳しいダメージになっていたはずだ。
「あ、アスナさん、本当に大丈夫なんですか?凄い威力でしたけれど……」
「……………………んー、ううん、やっぱり大丈夫じゃないかも。一歩も動けないし、降参ッ!すごいパワーだったもんね、さっきの一撃!だいぶふらふら!」
「…………思ったよりは大丈夫そうですね……しかし、……いえ、野暮なことは言わないでおきましょう。そんな顔されたら何も言えません」
「へへ、ごめんね?」
アカネの見立てでは、アスナは大ダメージを受けていることに偽りはないし、ふらついているのも演技ではないだろう。しかし一応戦闘自体は続行できたとは思う。だが、それでも。
……砕けて焼けた黒いキューブ状の機械部品に、まるで至上の宝石を見るような眼を送るアスナを見ては、アカネもユウカも同じ女として何も言えなくなってしまった。この場には居ない誰か一人に、内心で「恨みますよ」と冗談混じりにぼやいてみせるアカネ。
「なんだかよく分かんないけど、でもアスナ先輩はまだ動けないみたい……!」
「はい、ここが正念場です……!先生!」
「"もちろん。全員、離脱準備!――逃げるよ!"」
「いいえ、逃しません。正念場というのならば、それは此方とて同じこと。ユウカさん、アスナさんを連れて出来るだけ下がっているように。……アカネ、戦闘を開始します……!」
硝煙と電光が再びフロアに広がっていく。
その結果は、――ああ。言わなくても、きっと分かるだろう。
この後の展開はもう原作通り。彼のやったことは『アスナへのダメージ軽減』のみです。強さ云々に関しては完全に主観で、あくまで『この作品の中では』という扱いですので悪しからず。
ブレスレットについては過去話を参照すれば分かるかもしれませんね。
Next.『18th.予測不可能な彼女と僕.Ⅲ』