脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達 作:ぽけぽっぽ共和国
P.S/無料十連期間が終わりましたね。無料十連は大勝利した代償に、6%ガチャで大爆死をしてしまった共和国です。
「簡潔にお伝えしましょう。貴方には、先生とは別に補修授業部の監督をしていただきたいのです」
行儀良く、音の一つも立てることなく紅茶のカップをソーサーに戻す桐藤さん。先程まで僕のカップの中身を見てドン引きしていたとは思えない凛とした顔付きだ。多分、僕の
「…………何故、僕なのでしょうか?監督役というだけなら、トリニティに適任は幾らでも居ると思いますが」
「どこか一つの組織を優遇している、と思われたくないのですよ。トリニティが一枚岩でないことはよくご存知でしょう?」
詭弁だ。どこか一つの組織への優遇を疑われたくないというのなら、各組織から代表で一人ずつ選べば良いだけの話。人数が多くなりすぎるというのなら、それこそ日替わりで監督役を変えれば良い。面倒は増えるかもしれないが、公平性どうこうを謳うのならこれで充分。
しかし桐藤さんは、わざわざ部外者である僕を監督役に据えたがっている。考えられる理由とするのなら、一つ。
「成る程。僕のことを疑ってらっしゃるんですね、桐藤さん」
「
「さあ、どうでしょう」
肯定も否定もせず、肩を竦める。
誰に聞いたところで情報の出所は出てこない。なにせ「本」にトリニティの裏切り者云々の話は全て揃っているのだから、僕は誰に聞く必要もない。いない人間の話が誰に出来ようか。
『トリニティの中に、裏切り者が存在する』。
この情報を掴んだ桐藤さんは、補習授業部という『ゴミ箱』ごと『
「…………僕を疑っているのなら、ミレニアムとの取引を打ち切ればいいのでは、というのは安直な意見なんでしょうね」
「それが簡単に出来ないのが、政治というものです。それくらい、貴方ならわかるでしょうに」
「生憎と、ミレニアムにはトリニティほどの派閥争いは無いもので。勉強になります」
「ふふふ」
「ははは」
胃が痛い、のはお互い様かもしれない。
夢の中、偶にひょっこり出てくる百合園さんと舌戦をするのとどっちがマシなのだろう。どっちもマシではないと言われてしまえば、それはその通りとしか言えないが。
「しかし随分と正直ですね。疑われたことで僕が臍を曲げて、それこそトリニティに不利益を与えるとは思わなかったんですか?」
「貴方がそんな、拗ねた子供みたいな真似をする人間なのかどうか。今までの交流を通して分からないほど鈍くはありませんよ」
「……桐藤さんに信頼されているのか疑われているのか、分からなくなってきましたね」
「信頼はしていません。ですが、信用はしている、ということですよ」
それはつまり、桐藤さん個人の感情としては僕を信じていないがあくまで一生徒として僕を見た時には信じてくれている、ということなのだろうか。いや、なんにせよ「信用」はしてくれているという言葉がもらえただけ有難い話だ。信頼も信用もどちらも無いと言われてしまったら流石に凹んだかもしれないが、片方だけでもあるなら充分。
加えて言うなら、これで僕は桐藤さんにも沢山の恩義がある。なんだかんだと言ってはみたが、彼女からの頼み事は断れない。
「…………分かりました。トリニティにも先生にも色々と世話になった恩もありますからね。ミレニアムの業務に支障が出ない範囲で、という条件なら引き受けましょう」
「取引、成立ですね。…………貴方が『裏切り者』ではない事を、願っています」
――――――――――――――――
「…………というわけで。先生が来れない期間は、僕が皆さんの勉強を見ることになりました。短い期間だとは思いますが、よろしくお願い致します」
まあ、先生役というよりは監視役や出席確認役としての意味の方が強いのだが。そもそも僕なんかが教鞭を取るよりも、Blu-rayを使った方が圧倒的に効率が良い。その辺の、ちょっと成績がいい程度の学生の方が教える方が効率がいいというのならBlu-rayなんか世に広まってはいないのだ。
なので僕の役割は余計なことをせず、粛々と此処でおかしなことが起こらないか、或いは起こされないか見張る程度のもの。なんとも楽な話だ。
…………尤も、このメンバーを見る限り「おかしなこと」が起こりそうで怖いというのはその通りなのだが。
しかし、やたらと視線を感じるが、多分気のせいじゃないなこれ。
「あの…………!せ、先輩が勉強を見てくれるんですか!?」
「貴方は……」
がたん、と音を立てて立ち上がったのは桃髪と黒羽が特徴的な小柄な少女。普通なら名簿を捲り、名前を確認するところだが、彼女に限ってはそれは不要だった。
実を言うと、この少女とは一度だけ面識がある。良くも悪くもトリニティらしくない、「要領が悪いクソ真面目」なタイプの女生徒だ。より正確に言うなら「言っていること
上級生二人に詰められて尚、自分の意見を曲げない――そこまで行くといっそ長所なので、個人的には目の前の少女、「下江コハル」には好意的だが。
「も、もしかして覚えてない……?ほら、あの時の……、その、……上級生に絡まれてたところ、助けてもらったこと、忘れてる……?」
黙りこくっていた僕が彼女のことを忘れていたと思っていたのだろうか、泣きそうな顔になって此方を見てくる下江さん。慌てて首を振って彼女の言葉を否定する。下江さんにそんな顔をされると罪悪感がすごいからやめて欲しい。
「ああ、いえ。勿論覚えていますよ。フィリウスの方との揉め事の話でしょう?」
「……!う、うん……あの時はありがとうございました……!」
「いえ、あれは虎の威を借りただけなのでお気になさらず。……まあ、こんなところで会うとは思っていませんでしたが」
「うぐ…………」
苦虫を噛み潰したような表情で下江さんに視線を逸らされてしまった。本人なりに「補習」を受けていることが何となく恥ずかしいことだという認識はあるのだろう。実際、成績不振を曝け出されているようなものだからそりゃあそうだ。
名簿を開いたまま、他に視線だけ向けると自己紹介を求められているとでも思われたのか、それとも単に目があったからか。他3人も名乗ってくれた。
「あ、阿慈谷ヒフミです」
「浦和ハナコです〜」
「……………………■■■■■」
「いや、最後の方。ガスマスクのせいで何も聞こえませんが」
聞き覚えのある名前がひとつ、初めて聞く名前がひとつ、そしてそもそも何も聞こえない名前がひとつ。
どういう理由か、室内で攻撃も受けてないのにガスマスクをしている少女が多分「白洲アズサ」なのだろうが、名簿表の顔が確認できないからさっさと外してくれ。そう言ったところでなかなか外してもらえず、「欠席扱いにしますよ」と脅したらようやく外してくれた。なんかまだ見られているし、頑なすぎる。
他人に聞こえないように、阿慈谷さんの方に近寄って耳打ちをひとつ。これは、ちょっと他人には聞かせられない内容だから近くなるのは許して欲しい。
「(………………、…………小鳥遊さん達から名前や話はお伺いしていました。僕が持つ
途端、「ぶっ」と吹き出した阿慈谷さん。
周りが首を傾げる中、顔を赤くさせたり青くさせたり百面相をしたのちに、同じく耳打ちをし返してきた。
「(そ、その話は忘れてください!?こんな形とは言え、せっかくアビドスの皆さんのお友達と会えたのに……!)」
「(失礼。つい)」
「つい、でそんな話しないでください!?まったくもうッ……」
頰を膨らませて拗ねるように地団駄を踏まれてしまった。どうやら本人にとっては「ファウスト」の名前は黒歴史らしい。…………、いや、銀行強盗が黒歴史でなければなんだと言う話ではあるのだが。
今更の話だが、阿慈谷さんと僕は初対面だ。彼女はアビドスの皆に巻き込まれて銀行強盗をした仲なのだが、その時に僕は病院でダウンしていたから。「ファウスト」という二つ名を聞いてどんな厳つい相手が出てくるのだと思っていたが、なんというか、良い意味で「ごく普通の女生徒」っぽい。彼女に一体何があったら銀行強盗に及ぶというのか。これでは誰もファウストの正体に気付けまい。
………………個人的には「ファウスト」より「ダークレクイエム・ブラッドファウスト・ザ・ヘルレイザー」のほうが格好いいと思う。改名してはどうだろうか。
それとなく伝えたら酷い目で見られた。嘘だろ。そんなに嫌だったのか。
「あらあら、随分とヒフミさんと仲がよろしいんですね?」
「…………さあ、どうでしょう」
「あはは…………」
ネーミングセンスを否定されて若干凹んでいる僕と、愛想笑いで誤魔化した阿慈谷さん。実際、お互いに名前だけ知っているだけでこれが初対面だ。仲が良い、悪いの話ができるほどの付き合いでもない。
阿慈谷さんとは友人の友人、という間柄なので今のところ何とも言えない。仲良くなれるかどうかは今後次第。
そして続け様にずい、と顔を寄せてくる浦和さん。口元には笑みを浮かべているものの、瞳の奥には何かしら怪しい光が覗いている。そう、まるで、何かを探るような――。
「ところで、読書や映画が趣味だとお聞きしましたが……、『えろーす・えろいむ』はご存知でしょうか」
「…………まあ、読んだことはありますね」
「あるの!?」
「中々面白かったですよ」
「面白かったの!?」
下江さんは驚いているが、正直なんで驚かれているのかわからない。「えろいむ」は神の存在証明を問う、かなり哲学的な作品だ。内容も難解ながら、解釈に頭を使うことが多くて僕は数日かけて楽しみながら読ませてもらった。ただ、難解なだけあってページの厚みは確かにある。活字慣れしていない人にはちょっとおすすめはできない作品だったし、もしかしたら下江さんは読もうとして挫折してしまったのだろうか――なんて、的外れな考えは浦和さんによって直ぐに叩き折られた。
「まあ……。中々の読書家とお見受けしました。では、『サックス・アンド・ザ・シティ』は?」
「…………今度は映画の話ですね?見たことはあります」
「あるの!?」
「まあまあまあ……♡では、『マンチカン・アナリスト』は――」
「浦和さん」
「はい♡」
「………………違ったら大変申し訳ないんですが。あの、もしかしなくてもわざとですか?」
「はい♡」
はい、じゃないが。なんだこの女。
まさかセクハラをされる側になるとは思っても見なかった。昨今はコンプライアンスも厳しい世の中だというのに、貴女のせいでこの話が全年齢版から弾かれるようになったらどうしてくれるというのだろう。思わず顔が引き攣っているのが自分でも分かる。とんだトラップだ。
序でに作品の名誉のために言っておくが、どの作品も決して卑猥な内容は含まれていない。何故こんな釈明をしなくてはいけないのか?それは僕の口からはとても言えないので、だいたい察して欲しい。クソが。
ぷるぷる震えていた下江さんは、その可愛らしい顔を真っ赤に染めて激昂の声を上げた。さもあらん。ただ、その矛先が僕にまで向いたのはとばっちりもいいところだが。
「エッチなのは駄目!!!死刑!!!先輩もそんな本読んじゃ駄目!!!」
「…………、本や映画の内容自体は至って健全なものですよ、下江さん。浦和さんがそう聞こえるように誘導してるだけです」
「ハナコ!!!!」
ガミガミと浦和さんを叱り付ける下江さん。どっちが年上かわかったものではない光景だ。
因みにこれは黙っておくが、大っぴらにするものではないというだけで性欲そのものは悪いものではないと思っている。それがなかったら世の中に人間というか植物以外の生命は多分繁栄していないのだし、そもそも僕にも少なからず欲そのものは存在はしている代物だ。表に出さないように気を遣っているだけで。
…………まあ、節操が無いのも問題なのは間違いないし、TPOさえ弁えていたらなんでもいい。浦和さんはTPOを弁えていないので駄目だが。
「…………で。貴女の名前は。一応出席確認も兼ねているので、もう一度聞こえるように言ってもらえますか。ガスマスクは無しで」
さっきから死ぬほどこっちに視線を送ってきているのは、ほんのりと薄紫がかった白髪の女生徒。睨みつけているというには少々棘がなく、かと言って無表情というには逆に棘がある。
強いて表すのであれば、「ᓀ‸ᓂ」という表情だろうか。…………顔文字で申し訳ないが、多分これが一番伝わると思う。
「アズサ。…………白洲アズサだ」
それだけを言うと、再びガスマスクを被ってしまった白洲さん。そのくせ視線はこっちから外してこないので、一体何がしたいのかまるでわからない。阿慈谷さんに聞いてみても、彼女も理解できないのか首を傾げられてしまった。そりゃあそうか。
どうにもガスマスクを外してもらえそうにない。何か嫌われるようなことをした覚えがないし、そもそも初対面だ。……警戒の理由は分からないが、まあそのうち打ち解けていければいいだろう――――おいやめろ言った側からブービートラップを仕掛けようとするな。引っ掛かったら僕や先生が普通に死ぬし、そもそも教室にそんなもん仕掛けないでくれ。
右側では未だセクハラを行っている浦和さんと、それを叱りつける下江さん。左側ではコシューとガスマスクの音を立てながらこちらをガン見してくる白洲さん。そして真ん中では阿慈谷さんが愛想笑いだけをして僕と同じように困り果てている。
こんな調子で補習は大丈夫なのだろうか――なんて、勉強を始める前から邪推してしまうが、大丈夫なのだろう。いくら彼女達が凸凹に見えたとしても、不安な要素がいくらあろうとも、なんの問題も無い。
だって、「本」が問題無いと告げているのだから。
僕の役目は、ただ突っ立っているだけでいいのだから。
本当に、――――なんて、楽な仕事。
ᓀ‸ᓂ「ゔぁにたす」
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そして今週で少し時間が落ち着くため、この話をした後でなんですがR版も展開していく予定です。其方も是非お楽しみにお待ちくださいませ。これも全部浦和ハナコってやつの仕業なんだ……。