脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

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お久しぶりです。実を言うとガチ病で伏せっておりました。物理的に腕が動かせずメンタル的にも筆がまるで進まない状況でしたが、なんとか持ち直しました_(:3 」∠)_
ペースは緩いですがまた進めていきます。今回はリハビリ回ということで、次回から本編にまた戻ると思います。待っている方がもしいたのなら、申し訳ないと同時に深く感謝します。では、どうぞ。

P.S. 後輩くんのイラストを更新しました。よければご覧ください。


Stories of the past・Characters
Stories of the past・Koharu


コハル

 綺麗なヒト、だと思った。

 なんて言えばいいのだろうか。キヴォトスでヒューマンタイプの男性が珍しいのは言わずもがな。だけれどその物珍しさ以上に、ヒトの目を惹きつける何かを感じさせるものが彼にはあった。

 

 

「ー年生の子ですね。大丈夫ですか」

 

 

 それでもきっと、転んだままの私に手を差し伸べてくれた彼の顔が煌めいて見えたのは、逆光のせいだと信じている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先輩ッ!」

 

「ああ。こんにちは、下江さん」

 

 

 場所をトリニティスクエアの一番奥にあるベンチ。先輩は、トリニティで休む時はいつもこの場所に居るのを知っている。

 奥側であまり目立たず、噴水のおかげで涼しくて音が気持ちいい。噴水を見たいなら一番前に居ればいいのにと思ったこともあるけれど、本が好きな先輩は何かしらの本を必ず持っているから「何かあって濡らしたくない」と首を振られたのを覚えている。

 先輩は結構なランドク家(ジャンルを問わず手当たり次第に読む人って意味らしい)で、実際、会う時に読んでいる本の種類はバラバラだ。噂だけれど、中には先輩の読む本の種類で一日の運占いをしてる人がいるとかいないとか。そんな話があるくらいには先輩は本が好き。

 

 

「今日は何読んでるの?」

 

「スティーベン・スプルバーガーの『I.T.S』です。少し前にホラー映画として実写化されていたので気になりまして。その原作ですね」

 

「えっ。ホラー…………」

 

「映画も見ましたが、それなりに怖かったですよ。ピエロのメイクも気合いが入っていましたし、ホラーが苦手なら一人の視聴はお勧めしません」

 

 

 固まった私を見て先輩は目を閉じる。もしかして呆れられたりしただろうか。せ、正義実現委員会のくせにホラーが苦手なのか、とか。高校生にもなって、とか……。

 先輩に限ってまさかとは思うけれど。そんな私の不安を感じ取ってくれたのか、すぐに青の瞳を開いて視線を合わせてくれた。

 

 

「…………そういえば、最近ホラー映画は見ていませんでしたね。折角だから『I.T.S』も見返してみたいですが、一人で見るのもなんだかなあ」

 

 

 態とらしすぎる言葉。ここまで言われたら、いくら私だって先輩の言いたいことくらい分かる。

 先輩の、こういうところが、私は――。

 

 

「じゃあ……わ、私も、一緒にいい……?」

 

「ええ、勿論。正義実現委員会が一緒なら、ピエロの怪物が出てきてもなんとかなりそうです」

 

「もう、揶揄わないでよっ」

 

 

 ほんの少し強く叩いたつもりの手。それでも先輩には充分すぎるくらいの衝撃だったのか、先輩の無表情が僅かに歪んで本が軋む。慌てて謝るけれど、先輩は怒りはしなかった。

 

 こういう何気ない一瞬で、先輩にヘイローがないことを改めて理解する。私たちよりもずっとずっと弱いんだって。

 

 それと同時に、先輩と私が出会った時のことを。先輩が、私を助けてくれた時のことを思い出す。

 こんなに細くて弱い身体で、私に手を差し出してくれたあの時のことを。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 走る、走る、走る。

 息を切らして、入り組んだ中央図書館の中を走る。普通こんなことをしたら怒られそうなものだけれど、トリニティの図書館はとんでもないーー遭難する人が出るくらいの広さ。利用者もそんなに多くはないから、ちょっとやそっと暴れたりしたくらいじゃ誰も気が付かない。

 

 私の手の中にあるのは、見知らぬトリニティの生徒がーー多分、というか間違いなく上級生だーー持っていた弾丸の箱。別に、いくらトリニティがいわゆる『お嬢様学校』だからって、まさかこのキヴォトスで銃や弾の禁止されてるわけじゃない。でも、この弾は別だ。

 

 これは(少なくとも)トリニティでは違法扱いになっている種類の弾。当たり前だけどこんなのを取り扱ってるお店は普通は無い。だから、多分……あまり考えたく無いけど、あの人たちはブラックマーケットか何かで購入したんだと思う。

 

 そう。私、下江コハルは正義実現委員会の一人。トリニティの秩序と正義、平和を守るエリートの一人。だから、たとえ相手が上級生だからってルール違反は見逃せない。

 そう思って、偶々この箱を弄っているのを図書館で見つけてルール違反を指摘したら……ご覧の通り、逃げ回る羽目になった。

 

 

「お待ちなさい!後輩が逆らっていいと思っているんですか!?」

 

「もう一度警告します、その弾を返しなさい……!」

 

 

後ろから飛んできた弾丸が帽子を掠めて、床に落ちる。自分の喉の奥から低い音が鳴る。……私たちだって撃たれたらちゃんと痛い。相手が怒っている上級生なら尚更怖いし、こんな小さな弾箱一個なんてさっさと渡しちゃえばいいのに、って。

 後から他の正実(正義実現委員会の略称)の誰かに相談すればいいのかもしれない。なんなら、こんな箱一個見逃したって大したことはないのかもしれない。怖い思いをするくらいなら――。

 

 でも、それはダメ。

 だって私は間違ってない。

 悪いことは悪い。正しいことをしてる自分が、責められる理由なんて何一つないんだと信じたいから。

 

 だから、走る。せめて外に出られたら彼女たちも追っては来ないと思うけど、普段図書館を使わない私が複雑な道を覚えてるはずもなくて。

 そう時間も経たないうちに、袋小路に追い込まれるのは当たり前だったのかもしれない。

 

 

「漸く止まりましたね……いえ、止まらざるを得なかった、と言うべきでしょうか」

 

「袋小路に入り込むとは、運の悪い子。……私達も後輩相手に銃口を向けて喜ぶ趣味はございません。それを返すなら、許してあげてもよろしくてよ?」

 

 

 二人分の銃口が私に向けられる。

 思わず情けない声が溢れてしまったけれど、嗚呼――やっぱり私は、間違ってないもん。うまく動かない指で愛銃を抜くと、向こうはため息をついて今度こそトリガーに指を掛ける。私はやられちゃうかもしれないけど、せめてもの抵抗くらいは、と。覚悟を決めた途端、()()は響いた。

 

「後輩相手に、上級生二人がかりというのは少し大人げないのでは?」

 

 

 聞こえてきたのは、低いような高いような僅かにハスキーな――でも、確かに男性だと分かる声音。天井ギリギリまである高い本棚の影から覗いた無表情の顔立ちは、こんな時なのに思わず息を呑むほど綺麗に見えた。それは目の前の上級生もそうだったのか、私に向ける銃口が微かにブレていた。

 

 

「…………何方ですか?見たところトリニティの生徒ではないようですが」

 

「ええ、僕はミレニアムの人間です。訳あってトリニティの方と関係があり、図書館を偶に使わせてもらっておりまして。……この図書館は確かに広くて音も響き難い作りですが、近くでアサルトを乱射すれば流石に気がつきますよ」

 

「あら、読書の邪魔をしたならごめんあそばせ。次からは気をつけましょう……さあ、此処からは貴方には関係のないことです。早くどこかへ行ってくださいます?」

 

「……僕も是非そうしたいものですが、さて。貴女の言葉を借りるなら、『困っている後輩を見捨てる趣味はない』、というところでしょうか」

 

 

 嫌味だ。誰がどう聞いても間違えようがないくらいの嫌味だ。銃口を二つ向けられているのになんでこんな台詞が言えるのか。もしかして信じられないくらい強かったりするんだろうか。

 

 唖然とする私の意識を戻したのか、ぎり、と鳴った歯軋りの音。どちらがしたのか?勿論、さっき似たような台詞を言った方。

 銃の向きを私から彼(彼女?)の方に変えて、さらに声を荒げたけれどまるっきり無表情が変わらない。まるでロボットみたい。

 

 

「しつこいですよ!いい加減、他校の人間が余計な口を……」

 

「ふむ、成る程。それはつまり、他校の人間でなければいいと」

 

 

 徐にその人は黒いブレザーのポケットからスマホを引き抜いた。器用に薬指と親指だけで支えられたスマホの画面が映し出している文字は「通話中」。

 そして通話の相手、その名前は。

 

 

「ということです。桐藤さん、いかがでしょう」

 

『……成る程。確かに、あなたの言うとおり通話を繋いでいて正解でした』

 

 

 「は?」と。私も含めて、三人の口から間抜けた声が出てしまった。

 

 桐藤。この学園でその苗字を持つ生徒はたった一人しか存在しない。再び空いた口が塞がらなくなった私と、それ以上に固まっている二人。

 口を開けたままの私たちに片目を閉じながら、その人は「関係者が居ると言ったでしょう」と言い放った。……誰がその関係者が、「ティーパーティー」の一人、桐藤ナギサ様だなんて思うのか。

 

 

『そこのお二人。……今すぐ私の部屋にいらしてくださいますか?少々、『お話』が必要になると思いますので。学年と御名前と所属も是非、お聞きしなくてはいけませんね』

 

 

 電話越しから聞こえたナギサ様の声は、以前に聞いた時よりもずっと低かった。流石に彼女もティーパーティーに逆らう気はないのか、数秒黙った後に「……はい」と力のない返事。

 

 そして通話が切れた途端、あの人の方を睨んだ。腹いせのつもりなのか、せめて、というつもりなのか。そのアサルトを持ち上げて――、あの人の頭上を見て、撃てなかった。

 

 

「撃つならどうぞ。僕に撃ったら()()大変なことになりますが」

 

 

 ヘイローが、なかったから。

 私たちには当たり前にあるはずの神秘(ヘイロー)がない。当たり前すぎて気が付かなかったけれど、ヘイローが無い。それはつまり、銃を撃ったら大変なことになるということで。

 口を開くのはこれで三度目だ。流石にヘイローのない人間相手に銃火器は使えなかったのか、二人は俯いてトボトボと図書館を立ち去っていった。…………可哀想な気もするけど、最初に悪いことをしたのは彼女達だと意識を振り払う。

 

 

「こういう脅しは、相変わらずヘイロー無しの特権ですね。……怪我はありませんか?」

 

 

 そうだ、お礼を言わなくちゃ。

 助けてくれてありがとう。そう言おうとして顔を上げた私は、同心円を描く青い瞳と視線がぶつかってーー。

 

 最初に出てきた言葉は、「綺麗」だった。

 私は、めちゃくちゃ恥ずかしかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 こうして目を閉じると今でもあの時のことがはっきり思い出せる。先輩が男性だと分かったのも、トリニティに度々出入りしている男子生徒がいるという噂が本当だと知ったのも後のこと(ナギサ様から教えてもらった)。

 制服で気が付けと言われてしまいそうだけど、あの時はそんなところまで見てる余裕がなかったし。というかスカートがズボンかをまじまじ見るなんて、それこそ下半身を見つめることになって、それは、いくらなんでもエッチなんじゃないか――。

 

 勝手に考えて、勝手に自分に死刑!って言いそうになって。

 不意に、身体がぐんっと横に倒れた。

 

 

「お疲れなら休んだ方がいいと思いますが。ただでさえ、正義実現委員会は忙しそうですので」

 

「え」

 

 

 なんで急に視界が横になったのか。

 頭の下にある先輩の体温で気がついた。え、もしかしなくても、私、いま膝枕されてる?

 

 いったいなんで膝枕?なんで?本当になんでだろう。

 激しく動揺したけれど、もしかしたら目を閉じたまんま唸るのを見て眠いって思われたんじゃないだろうか。……別に特別眠たかった訳じゃないけど、頭が起き上がってくれない。恋人同士でもないのこんなのエッチだ。ダメ!死刑!

 

 ……って思うのに。先輩相手だと、「エッチなのはダメ」って思っても、いつも体が言うことを聞かなくなる。なんなら本当に眠くなってきた。

 

 

「寝て構いませんよ。門限に間に合うようには起こしてあげますから」

 

「……でも、先輩だって疲れてるでしょ?私だけなんて…………」

 

 

 目をこすりながら起きあがろうとして、額をとん、と人差し指で抑えられた。仕方なく――、そう、仕方なく。別に私が膝枕が惜しいなんて思ってるわけじゃなくて、仕方なく先輩の膝に頭を戻す。

 先輩は何か少しだけ考えるように首を捻ってから、読んでいた本を閉じて置いた。

 

 

「下江さん。僕は、皆さんに比べて出来ることがそう多くはない。特に、こと戦闘となればあまりにも無力です。だから、それ以外のところで誰かに何かを……助けてもらってきた分を、返していきたい。膝を貸す程度でそれができるなら、安いと思いませんか?」

 

 

 その言い方はちょっとズルい。

 言い方はあれど、「自分のために寝ていて欲しい」と言っているようなものだから。私が起き上がるための理由、その一つが消されてしまった。

 誰かに何かを返す、なんて。先輩は膝枕以外でもたくさん他のやり方で返せるはずだから、これは私のための『きべん(?)』だ。助けてもらった分なんて、私はまだ一回も先輩を助けてあげられていないのに。

 

「私も、先輩みたいに誰かを助けられるようになるのかな……」

 

「さあ。それは下江さん次第です。……人のことは言えませんが、まず射撃訓練の点数を上げるところからではないでしょうか」

 

 

 

 ……こういうとき、実は先輩は厳しい。

 無責任に「なれます」とは言ってくれないから。でも、それが偶に嬉しく感じたりもする。適当に何か言葉を付けたりはしない、それが先輩なりの応援だってことも知っている。

 

 溢れそうになったあくびを噛み殺す。先輩にあくびしてる顔はちょっと見られたくなかったから。それでも、夕暮れの光と噴水の音でだんだん瞼が落ちてくるのを止められなくなってきて。

 

 

「映画の約束、忘れないように。……おやすみなさい、下江さん」

 

 

 瞼を閉じる前、不意に吹いた風に揺れる先輩の髪がいやに目に焼き付いて離れない。

 優しい先輩の声が、ずっと耳の奥に残ってる。

 

 先輩はきっと「悪」だと思う。

 

 ………だって、意地悪って言葉には、その文字が含まれているでしょう?だから、いつか私が「捕まえて」あげなきゃいけない。

 自分でも分かるほどの照れ隠し。今の私には、これが精一杯でも、いつかは。




操作が久しぶりだしうまく書けているか不安ですが、やっぱり書いていて楽しかったです_(:3 」∠)_
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