脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

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続くかどうかは知らん_(:3 」∠)_
名前に覚えがある方もいらっしゃるかもしれませんが、携帯変えて前垢使えなくなったので初投稿です。いいですね。

本作の時系列は「アビドス編1.2章終了後」となっております。


「幕間の物語・Ⅰ」
1st.予測不能な彼女と僕


 

 この世を一冊の本に例えるのであれば、殆どの人間は脇役だろう。しかしそれは当たり前のことで、恥じることでもなければ落ち込むようなことでもない。

 物語のスポットライトが当たるのは神様に気に入られた極々一部の人間だけ。主人公ともなれば、更にその中から一握り。

 

 誰もが一度は考えたことがあるはずだ。「自分は勇者の剣を手にできる英雄なのだ」とか「実は秘められた才能があり、世界に何れ名を轟かせる人間なのだ」とか「学校に来たテロリストや銀行強盗を一人で華麗に撃退できる人間なのだ」とか。僕もそんな妄想を、子供心にしたことがある。あの時は若かった。

 

 成長するにつれて、妄想は掠れて現実は明瞭になってしまう。自分は選ばれた人間ではないし、秘められた才能もないし、強盗には普通に制圧される。高尚な人間でもなんでもない、「普通」に生きているだけの脇役だと誰しもが理解をし始める。

 何でこんなことを言っているのか?簡単な話だ。

 

 

「全員、手を後ろで組んで動くんじゃねえ!ありったけのクレジットもってこいやァ!」

 

 

 今、まさに人質になっている真っ最中だからだ。顳顬(こめかみ)に冷たい鉄の孔、銃口を突きつけられて馬鹿みたいに突っ立っている状況。多分死んだ目をしてるのは誰が見ても分かると思う。

 当たり前だが抵抗は一秒もしていない。真っ先に()()()()を手放して両手を上げた。プライドなど命の価値の前では塵芥にも等しいのだ。まあ強盗も別に好き好んで罪を増やしたいわけでもないだろう、無抵抗の人質の脳みそをぶち撒けるようなことはないと思いたい。

 

 なに?意外と余裕そう?確かにそう見えるかもしれない。なにせ、事実として余裕があるからだ。頭に銃を突きつけられることなど此処では日常茶飯事、そんなことでいちいち気にしてたら生活できないというのもあるが、もう一つ理由はある。

 諸君は先程の話を覚えているだろうか。そう、アレだ。テロリストとか強盗を撃退できる妄想の話。成る程、馬鹿げた妄想に聞こえるかもしれない、が。

 

 テロリストや強盗くらい撃退できるというその妄想だけは、この世界(キヴォトス)に於いて現実にするとんでもない奴らがいるわけで。

 

 そしてそんな特別な(とんでもない)奴らにお願いしたい。僕を含めて、人質は全員「普通」なので「普通」に助けて欲しいのだと。

 シャッターの降りた扉を吹き飛ばし、鳴り響いた凄まじい爆音。立ち込める黒い煙の中から、長い髪を揺らして仁王立つ「メイド」の姿が其処にある。

 

 

「C &C、コールサイン01現着〜!さあ、"お掃除"の時間だよ強盗さんッ!」

 

 

 五分後。銀行強盗は制圧され、全員が御縄についた。

 悪いことはするものではない。さもなければメイドにボコボコにされるのだから。嗚呼、くわばら、くわばら。

 

 ――――――――――――――――

 

 しかしまあ随分と酷い目にあった。他の地区に比べて比較的治安の良いミレニアムだからと油断をしていた僕も良くなかったかもしれない。

 

 そう、「比較的」治安が良いというだけの話。ここキヴォトスの治安は何処もかしこも最悪なことを忘れてはならないのだ。コンビニでは手榴弾が売っているし、ヤバい時は戦車まで突撃してくるのがこのキヴォトスという場所だ。なんなら学校の中でも銃弾が飛んでくるし、爆発は日常茶飯事だ。いや、流石に爆発はミレニアムだけか?ミレニアムだけだと思いたい。

 

 さて、前述してある通りに僕は先程まで銀行強盗に出会して見事に人質と化していた。因みに強盗が入ってきたのを理解すると、誰よりも真っ先に銃の武装を解除して両手を上げた。あまりの白旗の早さに、強盗の方が一瞬口を開けていたのは中々な絵面だった。「次」からも遠慮なく武器を手放すことにしよう。

 何度もいうがキヴォトスでは銀行強盗(あんなもの)珍しくもなんともない。確実に「次」はあるのだ。多分一週間もしたら巻き込まれているだろう。

 

 しかし何故、安全に穏便にコトを済ませようとしたはずの僕の制服が襤褸雑巾になっているのだろう?世界というのは本当に不思議に満ち溢れている。

 

 

「そう思いませんか、一之瀬先輩」

 

「あははは!ごめんごめん!後輩クンが居るなんて思ってなかったから、いつもの感じでやっちゃったんだよね〜」

 

 

 いつもの感じ。そうか、いつもの感じなら仕方がない。扉を過剰な爆薬で爆破して室内でアサルトライフルを乱射して柱を砕く勢いの狙撃を繰り返すのが「いつも」なら僕にはどうしようもない。額に青筋を浮かべている早瀬さんが目に浮かぶようだ、ご愁傷様。

 ……この場合、ご愁傷様なのは怒られる側の一之瀬先輩と心労を増やされている早瀬さんの何方なのだろうなと一瞬考えたが、どう考えても早瀬さんだな。心の中で、何かと苦労人の彼女に合掌しておこう。

 

 そも何故外出していたのか、理由はミレニアムの部活「ゲーム開発部」と「エンジニア部」からの頼まれ事。なんでもゲーム機がぶっ壊れたのだと。修理品としてそのゲーム機がエンジニア部に回ってきたらしいのだが、そうとうにレトロな品物だったのかパーツがエンジニア部にすら置いていなかった。そこで手の空いていた僕が見事、雑用係となったわけだ。銀行に出向いていたのもパーツ購入に必要なお金を下ろすため。

 

 ちなみに仕事を割り振ったのは早瀬さん。成る程、サボりがちな人間を見抜く目は確かだ。

 

 さあ問題はここからだ。僕は2時間前に無事ミッションを果たしてパーツの購入に成功したのだが、荷物は救出(?)の際、爆発に巻き込まれていた。そのパーツ"だったもの"が此方の黒焦げになった金屑である。何が言いたいかもうお分かりだね。隣を歩く一之瀬先輩に、残骸を持ち上げて揺らして見せた。

 

 

「…………一之瀬先輩。買い物と早瀬さんからのお説教、どっちが好きですか」

 

 

 きょとんとした表情の一之瀬先輩。2秒後、「ぺかー」という効果音のついた笑顔で選ばれたのは、前者であった。

 

 ――――――――――――――――――――

 

「一之瀬先輩。お願いだから勝手な道をずんずん歩いていかないでもらえませんか?僕の身体能力を考えてくださいよ」

 

「えー、でもこっちの道の方が近いよ?勘だけど!」

 

「いえ、一之瀬先輩の勘が当たるのは知っていますが、僕が行けるか行けないかの話をしてるんですよ。だから……あの、ちょっと、…… おい聞けよ一之瀬」

 

 

 なんだこの女。スマホのマップから大きく外れた道を勝手に歩き出したかと思えば塀を乗り越えて飛んで跳ねてを繰り返し、まったく見たこともないような道を通り抜けていく。キヴォトスの中でも一際科学技術の発展しているミレニアムで未だにこんな古惚けた道があった事自体が驚きだ。 しかし突拍子もない方向に歩き出すのはどうにかならないのか。いや、道を勝手に行くだけならまだしも「道」の概念を無視して直感の示す方へと行くのはどうなんだ。ヘイローが無い人間の事も考えて欲しい。

 

 無茶苦茶に見える進み方でも一応付いて行っている理由は、一之瀬先輩の勘の良さへの信用だ。どういうわけかさっぱり知らないが、この人が「何となくそう思った」事についてはだいたい当たる。これは一之瀬先輩を知る人間であれば、周知の事実だ。僕以外でも彼女の直感を信じる人間は多数存在している。

 過去にトリニティへ出張した際、なんの連絡もしてないのにモモトークで「後輩クンがトリニティ?にいる気がする。お土産のお菓子買ってきて〜」とメッセージを飛ばされた時は変な声を出してしまった。土産のロールケーキには御満悦だったようで何よりだ。

 

 話が逸れてしまったが、幾ら直感が当たると言っても無茶な事をすれば無理もついてくるものだ。特に一之瀬先輩ではなく、その周りの人間に。

 

 案の定、僕は見事に高い壁、もとい「取り壊し予定」の立て看板のあるビルに道を阻まれていた。一之瀬先輩は2階の窓から通り抜けるつもりだったらしいが、僕にそんな真似が出来るか。入り口は当然開くわけもなく、立ち往生してしまった。

 

 

「おーい後輩クン!この先にお店あったよー」

 

「そうですね確かに近道でした。完璧な最短ルートでしたよ。僕がそっちに抜けられないという点を除けばね」

 

「えっ、この高さだよ?飛べない?」

 

 

 飛べるか。一之瀬先輩が顔をひょっこりと覗かせている窓までは、地上から目算でも3メートル半はある。踏み台になるような足場も無ければ掴めるような場所も殆どない。最悪立て看板を踏み台にするとしても、貧弱な自分の跳躍力では届く気がしない。何より、もしかしなくても不法侵入なのでは。

 

 一応試しはしてみたものの、ひっくり返って地面に落ちて痛い思いをしただけだ。心配そうな顔で「大丈夫ー?」なんて言いながら一之瀬先輩は降りてきてくれたが、元凶があんただということを忘れるな。

 

 

「うーん、本当にダメなんだ。男の人って不便だねー」

 

「もう良いです……。一之瀬先輩、パーツの代金渡すので買ってきてもらえますか?帰り道は言うこと聞いてくださいね」

 

「ねえねえ、後輩クンって何キロあったっけ?」

 

「おいあんた抱えて跳ぶつもりだろ絶対に嫌だ」

 

 

 この女が言うことを聞く訳もなく、一之瀬先輩がノータイムで僕を抱き抱えて跳躍する。有無を言わさず姫抱きにされた僕の男のプライドと廃墟の窓は、同時に大きな音を立てて砕け散った。何度もいうが僕にヘイローはないので普通に割れた硝子が怖かった。

 誰かこの大型犬にリードでもつけてくれまいかと思ったが、リードを振り切って走り去る姿が思い浮かんだのでどうしようもないかもしれない。

 

 ――――――――――――

 

「後輩クン、軽すぎだよー。ちゃんとご飯食べてるの?」 

 

「食べてますよ。何処かの誰かのせいで摂取カロリーより消費カロリーの方がデカくなりがちなだけで」

 

「?よく分かんないけど、誰のせいなの?」

 

「鏡を見たら分かるんじゃないでしょうか」

 

 

 皮肉を言えば素直にコンパクトミラーを取り出して「?」マークを浮かべながら首を傾げられてしまった。いちいちあざとくて可愛いのが逆に腹が立つ。この女、無駄に顔がいいからちょっとした仕草が絵になるのだ。

 

 結局、これだけ苦労したのに目当てのパーツは店になかった。最初に僕が買った時はまだ在庫があったのだが、その後に来たお客さんが残りを買っていってしまったらしい。ウタハさん――先に話していたエンジニア部の部長――にモモトークを送ると「仕方ないさ」とお許しの言葉をいただいた。

 

 ウタハさんには何かと世話になっているし、出来たら何とかしたかったが売り切れていてはどうしようもない。ゲーム開発部にも残念な結果になってしまったが、悪いのはパーツを黒焦げにしたC&Cであって僕ではないので文句は受け付けない。

 店を出てウタハさんと幾つかモモトークを交わしていると、いつのまにかスマホを覗き込んでいた一之瀬先輩と目が合った。何やってんだこの人。

 

 

「ヒトのモモトーク覗き見るの、行儀悪いですよ」

 

「……後輩クン、なんか私とウタハちゃんへの態度違くない?」

 

「日頃の行いです」

 

「後輩クン、おっぱい小さいのが好きなの?」

 

「ぶっ」

 

 

 色んな意味でなんて事を言うんだ。もう此処は先程のような未開発の道ではなく、普通に往来なんだぞ。何人かこっちに視線を寄越してきたし、そもそもウタハさんに失礼だ。

 あと後輩に堂々とセクハラをしないでくれ。おいやめろ確認するように自分の乳を持ち上げるな馬鹿。でっか。違うそうじゃないだろ僕。

 

 嗚呼、頭が痛い。少しは普通にしてもらえないだろうかと思ったが、この人にとってはこれが普通なのだろうな……。一之瀬先輩を含め、個性しかないC&Cのメンバーを纏めている早瀬さんには尊敬しかない。

 なに、美甘さんじゃないのかって?あの人は纏める側ではなく、纏められる側だ。名前を出さなかった時点で察して欲しい。

 

 ウタハさんへの連絡が終わり、モモトークを閉じてスマホをしまう。待ちくたびれたのだろうか、隣の一之瀬先輩はぼーっと遠くを見つめている。陽が落ちかけている時間だ、夕焼けが一之瀬先輩の頬を照らしてその美貌に拍車をかけていた。……黙っていれば本当に美人だな。黙っていれば、だが。

 

 

「一之瀬先輩。待っててくれてありがとうございます。もういいので、早く帰りましょう」

 

「……………………うん」

 

「…………?なんですか」

 

 

 この人のことだ。何が口から飛び出してきても今更驚かな――驚きはするか。驚きはするが、狼狽えはしない。しかしなんだろう、いつにも増して様子が変だ。

 目の焦点がふらふらと左右に行ったり来たり。遠くを見つめたり僕に目を向けてきたり。その場で足踏みをして、背負った銃の銃床をかつかつと人差し指で叩いてみたり。

一体何がしたいんだこの人は。

 

 

「一之瀬先輩?」

 

「………………ねえ、後輩クン。あのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歩くのって、どうやるんだっけ?」

 

「………………………………………………は?」

 

 

 散々落ち着きのない子供じみた行動をしていた一之瀬先輩の口から飛び出して来た言葉は、「狼狽えない」と思っていた僕を狼狽えさせるのには充分すぎるものだった。

 嫌な汗が噴き出るのを抑えられない。汗が出ているはずなのに、顔は真っ青なのだろうと言う自覚があって。様々な病の名前が脳を駆け抜けて。

 

 この後めちゃくちゃ病院行った。ケロッとした顔で診察室から出て来た挙句、受付で貰った飴を奪われた。心配して損した気分だ。

 

 何事もなくて、よかった。

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