脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達   作:ぽけぽっぽ共和国

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今更ですが脇役君の所属はセミナーです


2nd.ゲーム好きな彼女達と僕

 

 キヴォトス三大学園と呼ばれるだけあって、ミレニアムサイエンススクールの敷地は広い。スクール自体の規模はちょっとしたショッピングモールよりも大きいし、校庭にだって相応の大きさや設備が整えられている。

 尤も、校風のせいかこれらの設備が有効に使われる事など勿体無いことに殆どない。折角テニスコートもサッカーコートも、なんならベースボールコートまで用意されているというのに、利用しているのはごく僅かな生徒だけ。

 

 そのお陰で、自分はのんびりとベンチで横になりながら読書が出来ているのだが。

 自堕落は最高だ。好きな作家の新刊を、夕暮れ時の程よい日差しの中で寝転んで読む。ベンチに寝転がるのは少々行儀もマナーも悪いとは理解しているが、どうせ清掃だけされて誰も使わない場所だ。ちょっとくらいは構わないだろう。今日は爆発もなければセミナーから緊急の連絡もないというキヴォトスでは尋常ではないくらい珍しい日なのだから。

 嗚呼、本当に。

 

 

「平「ねえねえ暇なら新作のゲーム、テストプレイお願いしてもいい!?」和だって言おうとしたのに、たったの23行目でぶっ込んでくるのやめてもらえますかモモイさん」

 

 

 勢いがあまりにも強すぎる。テンションにジェットエンジンでも搭載しているのだろうか。一之瀬先輩でもここまでテンションが激しくは……、……ある時もあるな。

 億劫だがベンチから身体を起こすと、「ふんす」と顔に書いてある小柄な女生徒――才羽モモイさんの姿があった。名前呼びしている理由は彼女に双子の妹がいるからで、苗字呼びの「才羽さん」ではどっちを呼んでいるのか分からなくなるから。

 

 しかしゲームのテストプレイと来たか。最初、モモイさんと知り合った時もテストプレイがきっかけだったのを思い出す。僕もゲームは好きな部類で、なにかとモモイさんとは気が合ったのだ。

 ちなみに一番のお気に入りは「ワイバーンクエストⅣ」。あれはストーリーの内容もゲーム自体のボリュームも素晴らしい。事実、発売からX年経っている今でも神ゲーとして度々名が上がるほどの名作だ。

 

 そして彼女、才羽モモイはゲーム開発部。ゲームをプレイするのも大好物ながら、部活の名が示す通りゲームを「作る」方の人間。数々の()作を作り出して来た人物でもあるのだ。ということで。

 

 

「お断りします。今度はどんな迷作(クソゲー)を作り出したんですか?」

 

「ヒドくない!?やる前から何でクソゲーって決めつけるのさ!」

 

「貴女がテストプレイに持ってきた作品が、クソゲーじゃなかった事がないからです」

 

「うぅっ……言い返せないのが悔しいよぅ……!」

 

「言い返してくれ」

 

 

 ちなみに前回やらされたのはデジタル・カードゲームだった。なんでも「時代はデジカ!上手く売れれば他のゲームより長期的に収益が入るし、悪くないよね!」と息巻いていたものの、実態はとんでもないバランスのゲームだった。確定先行ワンキルが凡ゆるジョブで当たり前に行われる環境のカードゲームなど誰がやりたいというのだろうか。申し訳ないが集金できる気が一ミリも湧いてこなかった。じゃんけんの方がまだ金を稼げる気がしたほどだ。

 

 

「まあ、カードゲームのバランス調整が難しいというのは他のゲームを見ても分かりますけどね」

 

「そ、そうだよね!?それにクソゲーばっかりって言ってもマシなのもあるはずだよ!」

 

 

 マシだろうがマシじゃなかろうが、クソゲーの中で比較している時点でそれはクソゲーである事に変わりはないという事実に気がついているのだろうか。

 しかしこうなってはモモイさんの諦めは悪いとよく知っている。読んでいた本を閉じると、渋々立ち上がる。

 

 

「はあ……、いっそトランプや麻雀を元にしたゲームを作ってはどうなんです。それならどうやったってクソゲーになりようがないでしょう」

 

「甘い……甘いよ……。世の中にはね、それをクソゲーにして世に放ってしまったという事実が幾つもあるんだよぅ……!」

 

「はぁ……?そんなわけないでしょう……」

 

 

 歴史がある、長く続いているということは誰がやっても一定の面白さと戦略性があるからだ。リバーシしかり将棋然り麻雀しかり、ボードゲームにはその傾向が強い。特に人生ゲームなんかは余程阿呆なマスを作っていたとしても「罰ゲーム」要素として需要はあるはずだ。

 だから、基本的にはクソゲーになんてなりようがない。モモイさんも嘘吐きになって来たな、ははは。

 

 

「絶対信じてない顔だ……!いいよ、今日はクソゲーの歴史というものを教え込んでやる!」

 

「趣旨変わってますよ」

 

 

 勘弁してほしい。テストプレイはどこに行った。

 

 ――――――――――――――――

 

「ふざけんな!?なんだこのクソゲー!!」

 

 

 コントローラーを投げかけた。我慢した僕は偉い。とても偉い。

 

 予想はしていたが案の定クソゲーだ。しかも今回は「笑えない」タイプのクソゲー。

 ゲームに造詣がある方になら分かってもらえるかもしれないが、クソゲーには2パターンあると思っている。

 

 一つは「笑える」クソゲー。凡ゆる要素がぶっ飛んでいて最早笑うしかない、ネットミームにもされるほどのネタ要素が詰め込まれたゲーム。これはクソゲーである事に変わりないものの、まだマシだ。なにせ笑ってゲームできるのだから、娯楽という点で見ればある意味では正解とも言える。言いたいかどうかは別にして。

 

 二つ目。「笑えない」クソゲーだ。これに関してはシンプルに内容が面白くなかったり、或いは製作者の思想が入り過ぎていて興味もない宗教を聞かされているような気分になる代物。あとは難易度がぶっ飛んでいたり、原作があるなら原作を無視したり……例を挙げればキリがないものの、真に「クソ」と呼ばれるものだろう。

 

 今回、モモイさんが持ってきたRPGは後者だった。

 

 

「どんな難易度してるんですか!?チュートリアルのボス、衝撃波に掠っただけでもワンパンですよ!?武器強化も解放前だし、レベリングも出来ない場所だし、全ての攻撃がワンパンだから回復アイテムも意味がない……!」

 

「さ、最近はマッドソウルシリーズみたいな死にゲーだって流行ってるから……」

 

「限度がありますよこの野郎、いえモモ野郎!」

 

「モモ野郎!?」

 

 

「がーん」という効果音を貼り付けてギャグチックな表情を浮かべるモモ野郎。我ながらどんな罵倒だと思ったがこいつにはモモ野郎で充分だ、マッドソウルみたいな名作とこの迷作を間違っても一緒にしないでいただきたい。

 確かにマッドソウルシリーズも難易度は高いが、ここまで出鱈目ではない。そもそも「難易度の高いアクションゲーム」というのは凡ゆるシステムが絶妙なバランスの上に成り立っているもので、とりあえず難易度上げりゃあ良いってもんではないのだ。

 

 眉間を抑える僕に隣で溜息をつくのはモモイさんと瓜二つの容姿をした女生徒――先も話に出した双子の妹、ミドリさんだ。双子と言うだけあってか、同じ服を着ていたらヘイロー以外で見分ける手段がないだろうと言うくらいに二人の容姿は酷似していた。雰囲気はまるっきり違うのだけれども。

 

 

「お姉ちゃんが毎度すみません……やり過ぎないようにって一応釘は刺したんですけども……」

 

 

 呆れているのか怒っているのかそれとも両方か。明らかにジト目でモモ野郎に視線を送るミドリさん。随分な数のゲーム内スチルやクリーチャーデザインを描かされたのだろうか、なんだか普段よりその視線は鋭いような気がする。毎度()()に付き合わされる彼女も大変だが、付き合い切るだけやはり姉妹なのだろうか。僕なら企画段階で「はいクソー」と投げ出している。

 ちなみにモモイさんはシナリオライター。……毎度とんでもない内容のくせに、決してシナリオの出来自体は悪くないのだから本当に勿体無い。ミレニアムの校庭の広さとどっこいの勿体無さだ。

  

 

「いえ、ミドリさんのせいではありませんよ。どうせモモイさん、失礼、モモ野郎が新たな難易度の限界に挑戦しようとかそんな感じのことを言ったんでしょう」

 

「言い直すなー!?言ったけど、確かに言ったけどぉ!」

 

「あ、本当に言ったんですね……」

 

「はい、本当に言ったんです……」

 

 

 吠えるモモ野郎と再び溜息を吐くミドリさん。本当は此処にもう一人、ゲーム開発部の部長――花岡ユズさんがいるのだが、彼女は所謂レアキャラだ。少なくとも、僕は今までに二度しか会った事がない。

 

 その二度というのも、一度目はモモ野郎と初めて会った時にやや強引に部室に連れて行かれて、その時に鉢合わせてしまったという事故のようなもの。

 二度目はセミナーとしての仕事で抜き打ち視察に入った時で同じく事故気味だったが、「あの子達、視察が来るって分かればその場しのぎで片付けるから」と抜き打ちにしなさいと早瀬さんに言われていたのだから許されたい。

 

 曰く「人と接するのが苦手」らしく大抵部室内のロッカーに隠れている。最初の時は他にも隠れる場所くらいあるのではと思ったが、部室の惨状ーー汚部屋と言って過言ではない惨状では仕方ないのかもしれない。というか、おそらく前回の視察からなにも片付けていない。早瀬さんの雷がまた落ちそうだ。

 

 今もたまにロッカーが揺れていたし、花岡さんも一応居るのは居るのだろうが僕がいては出て来れまい。ずっとロッカーに居させるのも可哀想だし、クソゲーにも飽きてきた時間だ。そろそろお暇させてもらうとしよう。

 

 

「あれ、もう帰っちゃうの?」

 

「もう、ってなんですか。2時間はゲームしてましたよ、充分でしょう」

 

「まだ2時間だよ!?クリーチャーハンターなら素材集めてるだけで終わっちゃうよ!」

 

「初代の話でしょう、それ。兎に角、帰りますよ。ミドリさん、と……聞いているか分かりませんが、花岡さんも。ついでにモモ野郎も、お邪魔しました」

 

 

 「なんか私の扱いだけ雑じゃない!?」と叫ぶモモイさんを尻目に置いていた荷物を纏めて――いや、荷物といっても小さな鞄ひとつだけだが、それを背負って床に散乱したゲームを踏まないようにしながら立ち上がる。

 おっと。その前に、ゲームの感想を伝えなければ。いかにとんでもないクソゲーだったとしても、一応テストプレイが目的だったのだから言うべきだろう。

 

 

「崩壊した世界を救うというのは王道ですが、主人公以外はなにもかも崩壊してるからヒロインもライバルもナビゲーターもいない……設定は面白いと思いましたが、ゲームにすると少し寂しく感じました」

 

「チュートリアルボスのデザインははっきり言ってかなり好みでした。何よりも武器。武器が鉤爪というのが珍しく、目を惹かれましたね。あの阿呆みたいな難易度じゃなけりゃ………」

 

「あとはゲームプログラム。恐らくかなり複雑なプログラムを組んでいるのでしょうが、一切処理落ちしてない上に、バグが殆どないのは素直に凄いと思います。…………主人公が宙に浮いて固まるバグが目立ち過ぎて致命的な気がしますけれど」

 

 

 こんなところだろうか。口をぽかんと開けて間抜けな顔を晒しているモモイさんとミドリさんを置き去りにして、さっさと退散させてもらう。次出会う時に作られているのがクソゲーではないことを願いたい。無理かな。無理だろうな……。スクールの敷地を出た途端、部室の方から「なんだかんだ楽しんでるじゃーん!」と声が聞こえたような気がしたが、本当にそんな気がしただけだろう。

 そう言えばこの前直そうとしていたゲーム機は結局直ったのだろうか。聞きそびれてしまったが、まあいいか。

 

 どうせまた、あの部室には遊びに行く事になるのだからその時に聞けばいい。

 

 鴉の鳴き声を背に、伸びをしてゲームのせいで凝った身体をほぐしていく。もう陽は完全に落ちてしまっているし、今から帰って自炊するのも面倒だ。

 何処かで外食でもしようと思った矢先、モモトークの通知音。差出人は、……、…………差出人の名前を見て、モモトークを直ぐに閉じた。大丈夫、トーク画面を開いたわけではないから既読にはなっていないはず。明日の朝、忙しかったとか言っておけばいいだろう。

 

 自分の神経が多少図太い自覚はあるが、いくら僕でも()()()の学園自治区に好き好んで行きたくはなかった。そもそもあの場所はミレニアムから向かうには遠いし、何より喧嘩別れした元友人が住んでいる。もし出くわすような事があれば、気まずい事この上ない。

 

 

「……ミックバーガーでも寄って帰りましょう」

 

 

 読みかけだった本のことなんか、もうすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。今は、兎に角、早く帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ん、晩御飯まだなら一緒にどう。とても美味しいラーメン屋がある』

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