脇役な僕と先生と予測不能な彼女と姫君達 作:ぽけぽっぽ共和国
感想もちゃんと読ませてもらっています。頑張る……あと、ちょっと読みにくかった気がしたので台詞と地の文の行間を少し多めに開きました。何か問題があったり前の方がいいなと思ったら直します。
アスナをもっと出したい(白目)
高く積み上げられた書類の山を掘る。コレで意外と整理されているらしく、仕分け自体はそう苦ではないものの兎に角量が多すぎる。アビドス、ミレニアム、ゲヘナ、トリニティ、ハイランダー、ヴァルキューレ、百鬼夜行etc……凡ゆる学園の書類が此処に届くのだからこの量になるのも当然と言えば当然か。僕に出来ることは少しでも手早く先生に書類を回していくことだけ。
此処はシャーレ、その執務室。
隣では先生が必死な形相でパソコンとタブレットを叩いていた。これ多分二徹目だな。
「先生。此方の書類、既に決算済みのものが混ざってますよ。此方は生徒会未認証のもの、七神さんに返してください。此方はシャーレの運営維持費とそれに関わる外部流通が記載された書類です。此方はゲヘナの――」
「"うん!とっても助かるけど、もうちょっと加減してくれると嬉しいなぁ!?"」
何を言っているのだろう。先生ならこのくらい幾らでも捌けると思うのだが。まあ僕は時折シャーレに来るくらいだが、彼は毎日このクソみたいな山積みの業務をこなしているのだから疲れてしまう時もあるか。
先生も眼を回して書類にサインする手が止まっているし、一度休憩でも挟むべきか。珈琲でも淹れてやろう。
備え付けてあるコーヒーメーカーを起動させながら、後ろで伸びをする先生に声をかける。何度も伝えていることだが、こればかりは何度でも口にしなければならないことだ。
「先生。アビドスの件とミレニアムへの移籍……転校の時はありがとうございました。……本当は僕がやるべきだった面倒な手続き、全部貴方に任せてしまったので」
「"いいんだよ。アビドスの方に関しては先生として当然の事だった。君の本当にやりたいことがミレニアムにあるのなら、その背を押してあげるのが私の役目だからね"」
「相変わらずですね」
そう、相変わらず。この先生はいつもそうだ。僕に限らず、彼に感謝する生徒の数は数えきれないほど。人によっては底知れない程の恩義があるというのに、それをまるで大したことではないかのように振る舞う。
実際、彼本人は本当に「大したことじゃない」だとか、「先生だから当たり前」と思っているのだろう。とてもじゃないが、僕には出来ない。誰かを助けたら相応の見返りは欲しがると思うし、人助けをしたことを自慢に思ってしまうだろう。嗚呼、本当に
僕は大人になった時、彼のようになれるだろうか。
はは、無理だな。
やけにファンシーなマグカップ(多分生徒からの貰い物だろう)に先に珈琲を注いで、先生の前に置く。僕はもっと濃い珈琲が好きなので、追加で粉を使わせてもらって紙コップに後から注いだ。紙コップの中身を見て先生はいい顔をしなかったが、これが好きなのだから仕方がない。飲む頻度は控えているのだから勘弁してもらいたい。
「"体に悪いよ"」
「先生が徹夜をやめるなら僕もコレの愛飲をやめます」
「"…………………………"」
ははは、言い返せまい。二徹どころか三徹くらい当たり前にこなす先生の、どの口が健康に良くないと言えるのだろう。珈琲の表面に、僕の顔が映らなくなるくらいの濃い珈琲。口に含むと咽せそうなほどの苦味が溢れてくる、身体には悪いかもしれないが味は悪くない。
まあ、僕が好きな珈琲の味なんかどうでもいい。それよりも。
「遅いですね。もう一人、手伝いに来ると聞いていたんですが」
「"ちょっと遠いところから来てくれるからね。でも、丁度シャーレに着いたって。良かったら迎えに行ってあげ――"」
勢い強く扉が開く。がん、と音がなるほどに激しい開け方だ。いや開け方も問題だがノックぐらいしろ。いったいどこの乱暴者を先生は呼びつけたのか。紙コップを置いて振り返ろうとした、瞬間。
僕の首はがっちりと細い腕にヘッドロックを極められて、頭蓋は何か柔らかいものに当たっている。よもや突入二秒でプロレス技を仕掛けに来られるとは思わなかった。勘弁してほしい。
「ん、確保した。今日という今日は逃がさない」
「砂狼さん。恥じらいって言葉をご存知ですか」
「こういう時は、当ててんのよ。そう言えとホシノ先輩から教わった」
嘘だろ。
――――――――――――――――
こうならないように逃げ回っていたのに。予定をズラしたり交通手段やルートを変えたり、或いはモモトークで散々誤魔化して会わないようにしていたのに。
年貢の納め時というやつだろうか。いや、別に何か悪いことをしたから避けていたわけではなく、単純に会うと気まずくなりそうだったから避けていたんだが。ヘッドロックを外させて、溜息を吐く。何食わぬ顔で珈琲を飲んでいる先生に、つい半目を向けざるを得なかった。
「先生」
「"転校してから一回も顔見せたりしてないって聞いたから。ちょっとそれは良くないと思ってね"」
「…………それなら、アビドスに偶には顔ぐらい出せって言っていただければ……」
「ダメ。偶には、だと貴方は来ない。一年に一回とか、それでも偶にはって扱いにする」
良くご存知だ。ぐうの音も出ない。流石は元同学園の徒ともいうべきだろうか、両手を小さく上に掲げて文字通り「お手上げ」の姿勢を取ってみせる。
どうやら先生と砂狼さんに嵌められたらしい。先生が手伝いに来る生徒のスケジュールを把握していないわけがなし、狙って僕への手伝いを捩じ込まれたということだろう。しかしまあ、会ってしまった手前どうこう言っても仕方がない。こうなったらさっさと仕事を終わらせてさっさと帰るだけだ。
「毎日来いとか、そんなことは言わないけれど。せめてモモトークくらいは返してほしい」
「僕も忙しいんです。だいたい、返事はちゃんと返しているでしょう」
「『寝てました』『また今度』『機会があれば』『そのうち』……私と、ホシノ先輩、ノノミ、アヤネに返したメッセージ。"ちゃんと"返しているとは言わない」
「………………………………」
「セリカにはそもそもメッセージを返してない。無理があると思う」
先生に、嗜めるように名前を呼ばれた。しかしいったいどうしろと言うんだ。今更アビドスの彼女達と何かをするような仲ではないし、アビドスを見捨ててミレニアムへとっとと逃げ出した僕が、どの面下げて会いに行けと言うのだろう。情けないと思うだろうが、自分から好き好んで怒られに、或いは詰られに行きたいわけがない。考えるのが嫌になって、現実から眼を背けるように書類に再び手を伸ばした。
「…………その話は後でしましょう。先生の手伝いが先です」
「逃げた」
「逃げますよ。ということで先生、もう休憩はいいでしょう。シャーレの認証手続きの追加を――」
すわ何事か、突然椅子から先生が立ち上がってタブレットを脇に抱える。何か先生が出なければいけない緊急事態でも起こったのだろうか、それなら仕方がないと思っていたが、先生の口から出てきたのは大根役者もひっくり返るような棒読みの台詞だった。わざとやっているなら逆に凄い、先生は役者としても食べて行けるだろう。そう思うくらいには酷い演技だった。
「"ああーっと、いけない、いけないっ。そういえば今日は、リンちゃんから呼ばれてたんだったー。……えっと、………じゃあ、一時間ほどで帰ってくるから。二人にもう少しだけ書類のほうお願いするね!"」
「ん、いってらっしゃい、先生」
こいつら。
先生は七神さん――リンちゃんと先生が呼んでいた人物――に会いに行くなら、この書類を持って行け。嘘を隠す気があるのか無いのかどっちなんだ。
結局止める間もなく先生はさっさとシャーレの事務室から出ていってしまう。砂狼さんと二人きりになってしまったが、僕としては胃が痛い。何を言われるかわかったものじゃない。そう思って割と身構えていたのだが、意外と砂狼さんから出てきた言葉は穏やかなもの。先生が座っていた回転椅子に腰を下ろして、砂狼さんが此方に視線を寄越してくる。
「…………別に、アビドスに戻ってこいとは言わない。でも、月に一回でもいいから顔くらいは見せに来て欲しい。貴方だってアビドスの仲間」
「違います。僕は、仲間じゃなかった」
「そんなことはない。貴方が一番、アビドスの問題に真剣に向き合ってくれていた。それに、その、…………みんな、心配してる」
そんなことあるんだよ。
だいたい、自校の問題に真剣に向き合うのなんて当たり前だろう。そんなことを言い出したら、砂狼さんも、小鳥遊さんも、十六夜さんも、奥空さんも、黒見さんも、全員が真剣に向き合っていた。僕一人が特別なわけじゃない。
寧ろ、真剣に向き合っていたのに一年の間、なにもできなかっただけ最悪だ。心配してると言っても、それはあの人達が良い人だから気にしているだけのこと。出ていったのが僕じゃなくたって心配くらいしてくれるとも。
だが、彼女達が仲間だとは口が裂けたとしても言えるわけがない。
戦闘に参加出来なかった。
先生を交えた食事に付き合わなかった。
銀行強盗にも付き合わなかった。
黒見さんの誘拐事件で役に立てなかった。
小鳥遊さんの軟禁事件で役に立てなかった。
砂漠化問題を解決できなかった。
借金問題を、利子問題を解決できなかった。
ヘルメット団なる奴らの侵攻を阻止できなかった。
解決してくれたのは全部先生だ。僕じゃない。
僕は何もしていない。
少なくとも、そう。仲間というのなら、黒見さんや小鳥遊さんを助けに行く時ついていって然るべきだ。それをしなかった僕に仲間と呼ばれる資格があるわけがない。
「そうですか。ありがとうございます。では、今後心配はいらないと皆に伝えてください。僕はミレニアムでちゃんとやっていますので」
「……どうしても、皆に会う気はない?」
「くどい。その気はないよ、砂狼シロコ。もうこの話は終わりです」
僕
思わず敬語を外してしまったが、僕の苛立ちが伝わったのか、砂狼さんは静かに眼を伏せた。
「…………………………………………そう」
アビドス対策委員会は、全部で五人。
砂狼シロコ。小鳥遊ホシノ。十六夜ノノミ。奥空アヤネ。黒見セリカ。そこに顧問の先生が加われば、これで
漸く諦めてくれたかと肩を竦めた途端――顔の横を掌底が突き抜けた。後ろにあったシャーレの備品である鉄製の棚が激しい音と共に軽く歪む。俗に言われる壁ドンなんて生優しいものでは無い、そう思うのは僕にヘイローが無いからだろうか。女生徒の間ではこれが一般的なのか?
ぶつかる視線。男なら大概、砂狼さんの綺麗な顔立ちに心臓を跳ねさせるかもしれないが、今の僕は別の意味で心臓が跳ねていた。砂狼さんは表情一つとして変えないままに、乾いた唇が僕の耳元に寄せられて。
「――――アビドスに来ないなら、私の着替えを覗いたことをミレニアムにバラす」
脅迫だろこれ。ヴァルキューレ警察学校のやつを呼べ。
いやこれ捕まるのは僕の方か?どちらにせよとんでもないことを言いやがる。
「今、お互いにかなりシリアスな雰囲気だったと思うんですが。砂狼さん」
「ん、私はそんなものに負けない」
「何処に対抗意識燃やしてるんですか。というかアレは事故でしたよね。貴女も許してくれたはずでは」
「気にしないでとは言った。許すとは言ってない」
「詐欺では?」
誤解のないように言っておくと、砂狼さんがアビドスの空き教室に着替え中の札を掛けていなかったのが原因だ。加えて言うなら事件が起こった日、僕はアビドスに来た初日。勝手も分からないまま、小鳥遊さんに頼まれた物を置きに行った際、砂狼さんが着替えているとは知らずエンカウントしただけで。当たり前だが覗こうと思って覗いたわけがあるか。
「乙女の肌は安くない」
「過失でしたよね。お互いの」
「必要なのは実績。この言葉を教えてくれたのは貴方だった、忘れたとは言わせない」
「なんの実績ですか……」
「覗き」
犯罪者みたいに言うな、何度も言うが貴女の過失も十二分にあるだろうが。確かにその言葉を言ったのは間違いないが、なんでいちいち覚えてるんだこの人は。
どうあれ、本当に彼女に引く気は無さそうだ。まさか本当に言いふらしたりはないだろうが、此処で意地を張っていいことなど何もない。
ただ、会いに行くだけだ。顔を見せて、すぐ帰ればいいだけの話。一日潰れるだけで、平穏が買えると思えばいい。それだけの話。そうとはわかっているけれども、過去一番に重たい溜息が溢れるのは抑えきれなかった。憂鬱だ。
「…………今週は本当に無理ですが、来週の日曜なら」
「ん、言質は取った」
どうせ僕がアビドスに居て変わることなど何も無い。何も無いのだから、そこまで気負う必要もないはずだ。でも、ああ、正直行きたく無い。
黒見さんに、どんな顔をして会えばいいのだろう。
一番激しく喧嘩別れをした元友人の顔を思い出して、また胃が痛くなってきた。
物語は変わりません。セミナー会長は失踪するしエデン条約では爆破が起こるしベアおばはやられる、船は起動するし終焉を告げる死神も現れる。彼がいたとしても何を頑張ったとしても物語の結果に変更は一切ありません。多分。
ちなみに次回はセリカ回ではありません。間に二つほど挟んでアビドスレッツゴーの予定です。