r月g日
明日は待ちに待った改造の日だ。今まで沢山苦労してきたけど、これで明日から生まれ変われる、誰かの役に立てる。私も立派な人になれるんだ。嬉しい、嬉しさで胸が高まってる。書いているこの腕にもその気持ちが表れているのか、手が震えている。この興奮はきっと何事にも代え難いものだろう。
とりあえずこの素晴らしい気持ちを抱きながら今日は寝よう。もしかしたら眠れないかも、いや多分眠れないな。生まれ変わったら完全に新しい人になるみたいしだし、今日でこの日記とはお別れだ。
今までありがとう、それじゃあ行ってきます。
r月f日
どうして、なんで。なんで私は新しい人になれなかったの?生まれ変わったら完全に別人になるはずじゃないの?どうしてみんな私に刃を、銃を突きつけているの?なんで私を迫害するの?私が、私が失敗したから?そんなはずはない、私は成功したはずなのに。
やっと役に立てると思ったのに。どうしよう、これからどうすればいいんだろう。死ねば、この肉体と共に私が死ねば、新しく生まれ変われるのかな。今からでも飛び降りたり何度も何度も自分の胸を貫けば、新しくなれるんじゃないのかな。
いや、それは無理だ。無理なことは自分でもわかってる、私は失敗したんだ、完璧な人にもなれず、中途半端な人になってしまったんだ。それを認めたくないだけで、あるはずもない希望の姿に縋っているだけなんだ。ああ、いやだ。こんな自分が嫌になる。苦しい、悲しい。これから先どうなってしまうんだろう。
行方もなく彷徨っていても、いずれは朽ち果てるだけだ。誰にも知られず、この恐ろしい恐怖と喪失感と絶望感を抱えながら。ただただ虚しいままで一生を終えることになってしまうんだ。私は、どうすればよかったんだろう。最初からいなければ、こんなこと起こることもなかったのかな。
r月a日
今まで英雄の行進のように思えていた音が、今や私の首を落とさんとする死神の足音のようにも聞こえる。鎌を持った仲間であったもの、大砲を構えた仲間であったもの、そしてそれらを指揮する仲間であったもの。その全てが今や私を裏切り者として扱って、抹殺せんとしている。
それに同じくらい恐ろしいものも見てしまった。前々から聞いていた噂だったけど、それが本当だったなんて。大きな音を轟かせながら列車が通過していく時、私は見てしまった。私と同じように失敗したもの達が、どこかとも分からない場所に運ばれていく瞬間を。
そこに運ばれたもの達は、もう救いようがないって。永劫の苦しさを感じながら、ただ自身の生命が緩やかに終わるのを待つだけだって。そんなのは嫌だ、私は、私はまだ死にたくない。
r月?h日?
もう何日経ったんだろう。一切の補給もせず、ただただ迫り来る死の恐怖から逃げ続けて逃げ続けて、もう限界だ。いつ死んでしまうのだろう。もはやここがどこなのか、あそこから、死神の列からどこまで逃げ切れたのかさえ全く分からない。
視界がもう途切れ始めている。これを書く手は、あの時と違って明日への、希望への興奮などではない。死への恐怖、絶望感に染まった震えだ。何も希望なんかない。本当にこれが最後の日記だ。やだなぁ、もっと生きていたかった。役に立ちたかった。最後のチャンスなんてもうない、救いはない。
さようなら。
h月s日
私は生きれた。でもこの虚しさはなんだろう。なんで生きれたのに、望み通りになったのに、こんなに胸は満たされないんだろう。
h月z日
答えを見つけた。私は私を肯定して欲しかったんだ。
h月s日
ここが私の居場所なんだ。あんなに絶望に満たされて、二度ともう日の目を見ることのなかったであろう私を引き上げてくれた。こんな失敗作でも。あの人だけが私を肯定してくれる、がらんどうで空っぽ私に意味を与えてくれる。
なんで私はもっと早く目覚めなかったんだろう。こんなに素晴らしい生きがいが、手に取れる場所にあったのに。あの人に尽くすことこそ、私の幸せ。私の全てをあの人に、いや、こんな私なんかだけじゃ絶対に足りない、あの人の価値を私なんかで断定しようとするな。世界の全てをあの人に捧げても足りない、そんな感じもするくらいなのに。
あの人のそばにいると温かい。もう恐怖心で寒さと震えを感じなくてもいい。いつ打たれて、私という存在が消えてしまわないかという心配をしなくてもいい。あの人に抱きしめてもらえた。心があんな空虚な絶望と喪失感ではなく、温かな優しさと希望で、亀裂が入り崩れかけていた私を満たしてくれた。虚しさなんて感じない。
あの人に見てもらえる、あの人が私の方を見てくれる。それだけで歓喜の感情で手が震えてくる。こんなに嬉しくて素晴らしいことなんて、枷に縛られていたままの私では未来永劫、絶対に気づくことはなかっただろう。あの人は失敗作でもいいと言ってくれた。そうだ、その通りなんだ。失敗作じゃなければ、ここに来てあの人に会えることはなかった。
明日が楽しみでしょうがない。早くあの人の顔が見たいな。
x月l日
やった。やったやったやったやったやったやったやったやったやった嬉しい嬉しい嬉しい!あの人が私に名前をくれた、私だけの名前をつけてくれた。『アデリン』という、私にくれた、私だけの名前。こんなに感情が湧き出ることは初めてだ。私らしくないのかもしれないけど、それでも喜びを隠せない。
こんな幸せ他にあるのだろうか。いや、絶対にない。この世に二つともない代物だ、これは。これが愛というものなのだろうか。今の私ならなんでも出来る、いや、この何事にも代え難い恩を返すのには、そんなもの程度じゃ足りない。出来ないといけない。
それに名前だけじゃなくて、今まで装備なんてなかった私にそれを手渡してくれた。大きな狙撃用のライフルに、なんでもアクセス出来るようになる指揮モジュールのようなセット。あの人には様々なものを惹きつける魅力もあるほか、技術開発の心得もあるようだ。なんと素晴らしいのだろう。
どちらも試しに使用したところ、素晴らしい効果を発揮した。これらのものさえあれば、あの人の役により立てるようになるだろう。嬉しい。
x月h日
今日は私の仲間達、つまりここにいるネイト達と会話した。あの人の愛をひとえに受けれないのはなんだか形容し難い感情が湧き出てきたが、アリーナというネイト達を筆頭に境遇を聞いているうちにここがどういう場所なのかを把握した。
どうやらここには私のように改造に失敗したり、なんらかの事情があって逃げ出してきたりしたネイト達がかなり集まっているらしい。ネイト以外にも、製作に失敗したりした機械達も集まっていると聞いた。要は失敗作の集まりのようなものなのだろう。でも、ここに辿り着けただけで幸運だと思う。
もし何も行動を起こさずにいたら、今頃私たちは失敗作として廃棄場所に送らていただろうし、それまでに耐えられなかったらあの列車の中で息絶えていただろう。いくら苦しみを味わい絶望を噛み締めても、ここに来れたことに恩を感じないと。でなければあんな素晴らしい人に出会わず道端で一生を終えていたなんて、そんな未来考えたくもない。
そして色んなことを話して、最終的に私たちで一致団結してあの人を王のようなものにしようということで団結した。みなあの人に拾われたことに恩を感じている。その恩義に報わなければという思いは、皆共通していた。
だから、とりあえずはこの理念に共感してくれる仲間を増やそう。幸いなことに、この地にはなんでもいいから救いを求める難民達や、鉄血から逃れてきた避難民も大量にいる。そして私たちには、そういったもの達におあつらえ向きのパラデウスという看板まである。少し粉をかければ、すぐにでも勢力を増やせるだろう。
あぁ、やっとあの人の役に立てる。
x月k日
勧誘活動に精を出していて、この日記に筆を入れるのがかなり久々になってしまった。あれからかなりの日が経って、勢力拡大は順調に進み始めている。肯定先を求めていた民にとって、パラデウスという象徴はいい信仰先になっている。あの人はあまりいい顔をしていないのが少し不安だけど、きっと知ればわかってくれるはずだ。
それにあの人もついに私たちと同じ改造を受けてくれることになった。前々から思っていたが、あの人の体は今の今まで生身のままだった。そう、銃弾一発で致命傷となってしまう酷く繊細で脆い体だ。絶対にあり得ないと信じたいが、もし万が一のことがあってしまったらと思うと不安でしょうがなかったけど、これで一安心だ。
施術を終えた明日には、慣れるための戦闘という建前を建ててここの拠点のみんなでサプライズパーティー?というものをすることにした。新しい門出を祝ってとのことだ。このことを知ったらどう思うだろうな、喜んでくれるかな。でもあの人のことだから、少し恥ずかしがるかな?色んな考えが浮かんでくる。
ひとまず言えるのは、明日はきっといい日になるであろうということ。あの人にとっても、新しい肉体となっての初の日、そして私にとっても記念すべき日になるであろう日。さっきも書いたけど、どんな反応をしてくれるのかな?楽しみでしょうがない。
あの人がいない。私に生きる希望を、温もりを与えてくれたあの人の姿が、どこにもどこにもどこにもいないいないいない。なんで、どうしていないの。いやです、わたしをひとりにしないでください、もうさむいのは、くるしいのはいやなんです。みすてられたくない。
名前までつけてくれて愛してくれたのは嘘だったんですか?どうして私たち、私を見捨ててどこかへと行ってしまったんですか?私が失敗作だったから、役に立てなかったから捨ててしまったんですか?やっと居場所を見つけられたのに、また無くしてしまったんですか?寒い、あの人がいないと寒くて、また心に影が差していくような感覚に襲われる。早く戻ってきてください、戻ってまた私たちに愛をください。この降りしきる雨を晴らしてください。
見つけた。やっと見つけた、私たち、私だけの人。だけど、だけど、なんで。
なんで、私以外の為に動いているんですか?どうしてそこにいるのが私じゃないんですか?
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