v月❝日
前回から少し日が経ってしまったが、再びこの日記に書き連ねていくぞい。まったく、最近はグリフィンとパラデウスと諜報機関の往復で全くと言っていいほど時間がない。指揮官との打ち合わせもあるし、それに時間を食われているとアデリンとアリーナが目をどす黒くさせてこっちに迫ってくるし、かといってそれにかまけてばかりだとアリアも参戦してくるしで本当に暇がない。プラスして兵器開発までしなくてはならないし。
どれか一つの仕事、そうだな、諜報機関の仕事が少なくなれば俺がこんな過労死しそうな現状からは逃れられるんだが、あいにくと最近は本家大本のパラデウスの動きがどうにもきな臭い。軍備増強を推し進めているのは無論として、なんだかこう、データベースにアクセスしたとき、何故だか分からないんだが俺と、あの人の名前が書いてあった。まさかだとは思うがな?まさか、俺をあの地獄へ連れ戻して、処刑しようなんて考えられているとかないよな?
今でもあの時のことを思い出す。改造によって失われたが、それまでは俺の身体に呪いのようにこびりついていたあの人の痕。麻酔もなしに鋭い爪で無理やりに入れ替えられた目、抉られた腹部に詰め込まれた印という名の追跡装置。少しでも逆らえば罰と称して何度何度も気が狂ってしまいそうなことをされたりさせられたりした。逃げるときに、壮絶な痛みに耐えながらあの印を引き抜いたことは、もう思い出したくもないことだ。
髑髏型のペンダント。あの人が俺に埋め込み、俺を永遠の時間かのように縛り付けたアレ。もう今はここにはないが、もう一度あの恐ろしい象徴を見る時が来てしまったら?もしも俺があの人に捕まって、また囚われるようなことがあれば?前もこんなことを考えた気はするが、それでもまた考えてしまう。何をされてしまうんだろうか?
あの人は、ナルシス様、いや、もう様を付けるのはやめよう。恐ろしいけど、これもある種の決別だ。ナルシスは、常に嗜虐的で、それでも所々垣間見える無邪気さ......おそらく無理な改造によってメンタルに支障が生じていたんだろうが、その不安定さは恐ろしさとなって俺に反発してきていた。
いつ、どんなタイミングで、どのような発言がナルシス様の機嫌を損ねるか分からなかった。今思えば一種のヒステリックというか発作のようなものなのだろうが、遠ざろうとすれば束縛し、近づこうとすれば拒絶されるか、激しく傷つけられるか。それが何度何度もあった。嫌になって逃げだそうとして、余計悪化したっけ。笑えないな。
いっつも俺はナルシス様の傍に縛り付けられていた。毎朝毎晩、いつでもどこでも、だ。『お前は私のモノだ』と言わんばかりに、紐と首枷のようなものまでナルシス様につけられて、あの人が俺の居場所を把握していない時はなかった。最終的には、追跡装置付きの印を腹に埋め込まれたし、視界を共有できるように......なんて言い分で、目だって苦痛の中入れ替えられた。
ついに耐えかねて、俺がアヴェルヌスから逃げ出した時。俺は手引きもあってタリン行の廃棄列車に乗って逃げ出した。数々のネイト達が巡回している中、隙間を潜り抜けて、ナルシス様にされた躾で全身から出血しながらもどうにか逃げ出せたんだよな。意識も朦朧としているし、下手なタイミングで外に出てしまえばいくら耐性があるとはいえ崩壊液の餌食だったし。
でも、あの逃げ出した時の、今でも感じるあの感覚。糸を引かれて引っ張り戻されそうになった感覚は忘れられない。絶え間ないヘドロのようなドロドロしていて重々しい執着をその身に受けたかのような、そんな感覚。ありえない想像ではあるけども、あと一歩遅かったら足にホバーブレードを刺されて引き戻されていたんじゃないか?そう思わせるものだった。本当に協力者には感謝してもしきれない。
あれ、というかナルシス様を思い出していたら自分でも知らず知らずのうちにかなり長めに書いていてしまったな。ペンもインクが出なくなってきているし、そろそろ寝るか。
V月≠日
酷い夢を見た。最悪だ。
逃げないと。やっと掴んだチャンスだ、早く、気取られる前に逃げないと。また......また痛みを感じたくない。あの人の隣にいたくない。度重なる躾のせいで全身がボロボロだ。あとちょっと、あとちょっとなんだ。でも......体力が限界だ。あそこで休もう......何とか休めそうだし......
「はぁ......はぁ......」
休めそうな障害物の陰に隠れて、呼吸を荒げながらも落ち着こうとする。そうだ、印。印を抜かないと、もうすぐで逃げ出したことがナルシス様に露呈してしまうだろうから、ナルシス様が追ってくる前に......これを......捨てないと。でないとまた捕まってしまう、連れ戻されてしまう......それだけはいやだ、いやだ、自由になりたい......
「......ゃだ......でも怖いよ......」
お腹に埋め込まれた髑髏のペンダント、印を引き抜こうとする。でも、恐怖で手が動かない。だって、これをとるということは、自分の腹を自分で抉り出すという事。これを埋め込まれたときに、ナルシス様にやられたことはあるけど......自分でするのとは違う。より怖くて仕方がない。でも引き抜かないと、バレてしまう......
「か、覚悟を......決めないと......ふぅ......!」
大丈夫、やれる。私ならやれる。やらなければ捕まるだけ、がんばれ、私......!
「あっ......!?ふっ......!うっ......!」
壮絶な痛みが身体を走り抜けていく。でも声は出せない、我慢、我慢しろ......私!これさえ耐えて、あとは列車の所まで移動すれば......!あと少しで列車が出発する。そこまで行けば私はここから出れる、自由になれるんだ......!それまでの辛抱だから......!
そうだ、止血、止血しないと。ええと、服を千切って止血帯代わりにして、それから......あぁ、痛いけどキツく縛っておかないと......また出血を起こしたら出血大量で死んでしまうかもしれないし......
『オマエッ......!!ワタシから離れようとするとは、どういうことだ!!早く......早くこのワタシの前に出てこい!』
「......っ!?」
い、今の声......絶対にナルシス様の声だ。な、なんで......もう追跡されたの......!?この時間はまだ来ないはずなのに......なんで、いや、そんなことを考えている場合じゃない、緊急事態だ......!このままだと、止血するより前にできた血痕を追われてもおかしくない......!
ナルシス様に露呈したということは、これで施設内で今まで警戒状態でなかった機械やネイト達が全て私に対して捜索の刃を向けるということになるだろうし。必然的に、あと少しとは言え列車に行くのは大変困難になってしまう......不味い......なんで!?想定外だよ......
というか不味い、印を抜いて止血したはいいけど印を捨ててなかった......!どこか、どこかに捨てないと、ええと、ええと......投げ捨てたらバレるかもしれないし......でも隠せるような場所はないし、あ、ああ、このままじゃ不味い、とにかくどこかに......
「うっ......!」『おい。』
「......ぁっ......?うそっ......」
『オマエ......なんでワタシがくれてやったモノを捨てようとしている!!なんでワタシから離れようとしている!!』
「あっ......あぁ......!」
体が動かない。この身に刻まれた恐怖心が、私の動こうとする勇気を一本一本切り刻んで捨てていく。今から逃げればもしかしたら助かるかもしれないのに、脚は震えて動かない。気がつけば、ナルシス様が私の目の前まで来ていた。そして悟った。もう、逃げることはできないと。
「ご、ごめんなさい......!い、いたいのがいやで......申し訳ありません、申し訳ありません......!」
『オマエの謝罪なんてどうでもいい。おい、この眼はなんだ。どうしてワタシが直々につけてやった眼じゃなくなっているんだ、。なんでこんな薄汚いモノを付けているんだ!』
そういって鋭利な指で左目を押される。これは......あの時に、ナルシス様に追跡されないようにと隠れて眼をもう一度入れ替えたからだ。も、もしかして......またあの痛みを......いやっ、それは......いやだ!どれだけ私は......傷つけられないと......いけないの......?どうせ捕まるなら......少しでも抵抗して......!小さな気だけど......!
「やめて......ください!」
持てる限りの力を使って、ナルシス様を自分から離れさせようと突き飛ばそうとする。でも、ナルシス様はビクともしない。......やっぱり、私が逆らうなんて......無茶もいいところだったんだ。なんと愚かなことをしてしまったんだろう......
『......オマエ風情が......私に逆らったのか?ふざけるな......!』
「ううっ!?あっ......かはっ......!?」
『ああ、その目......ワタシがくれてやったものを捨てて、汚いものに変えたその目!ムカつく......!腹が立つ......!それにワタシから逃げ出そうなんて考えたそのココロも、全部、全部......!』
『オマエが、オマエが悪いんだ!あれだけ教えてやったのに!大事にしてやったのに!なんで逃げようとするんだ!愛してやっているだろ!』
『ワタシから......ワタシから離れようとするオマエなんか!オマエなんかいらない!全てがワタシのモノになるまでオマエを絶対に離さない!ワタシから逃げようとするオマエを殺してやる!』
『だから手始めに.......オマエの眼を全てワタシのモノにしてやる!!』
激しい力で首を絞められてボーッとする視界の中、今にも私の眼を貫かんとする恐ろしい手が近づいてくるのがおぼろげに確認できる。あ、や、やだ、まって、まってください!またいたいのはいやだ!ま......またとられたくない!やめてください!
「ハァッ!?......ちゃんと、ある。」
夢の中で目が捥げるブチッという不快な音と共に、俺の目は覚めた。......最悪な悪夢だ。なんで、あの時に失敗してしまった場合の事なんて夢で見たんだ......やっぱり不吉なものは書くもんじゃないな......背中が汗でびっちゃりだ。はぁ......夢でよかった。