「この後どうするべきか......」
今膝の上で眠っているカノを抱えながら、痛む体を余所に思考をする。正直に言って今の現状、俺たちの課題は山積みと言ってもいいほど大量にある。探しても探しても、キリがなくなってしまうようなバカみたいな量だ。
まず一つ、最大にして最悪の問題、圧倒的な身体及び精神の状態の悪さ。カノはあの戦いでダミーをすべて失い、自分自身の最愛の妹も失ってしまったことでメンタル的に不安定になってしまっている。それも致命的なほど。もし、あと一つ、なんらかのきっかけが出来てしまえば......その時には、もうメンタルが耐えられなくなって崩壊してしまうかもしれない。
そして俺自身もかなり最悪な状態だ。ジャッジの戦闘でしくじったせいでユニットは破壊されてロスト、あの蹴りと光線のせいで片目をやられたし全身ズタズタのボロボロだ。しばらく休んだというのに痛みは取れないし、目が見えないから、心の中では漠然とした不安のようなものが増長して行っているし......時間が経てば経つほど、状態は悪化していくだろう。
二つ目、補給と武装が全くもってないこと。先ほどの戦いで、武装という武装は全て失ってしまった。アリーナからもらった鎌も、あの場に置いてきてしまって回収する間もなく逃げてきてしまったし......スモークもフラッシュもなにもない。カノも自身の銃を破壊されてしまってあの場から逃げ出してきたから、敵に出くわした場合本当に対抗手段が何もない。流石に拳で対抗するのは無理があるし。
三つ目、救助も援軍も何も望めない、いわば八方塞がりの状態であること。通信機はあの戦闘での通信を最後に完全に逝かれてしまったようで、もうノイズすら吐き出さずうんともすんとも言わなくなってしまった。というかこの状態じゃあ仮に救援地点を指定されようがそこまで行ける気もしないし、まずそもそもそれがどこかも分からない。
さらにいえば正規軍の裏切りから見るに、この辺り一帯は既に正規軍に支配されていて脱出するのは困難もいいところだ。もしもこんな状態の俺たちが見つかってしまったら、まぁ......確実にいい結果にはならないだろう。運が良くても俺が死ぬだろうな。カノは死なせないが。
まだ挙げようと思えばあげれるが、これ以上考えると完全に絶望に支配されそうなのでやめておこう。考えるべきは、課題じゃなくて今後の展望だが......いやぁ、もう......う~ん、ここでカノと一緒に過ごせたら、ベストだったんだけど......そうもいかないし、まだ生きていたいし。何か考えないと。現状を打開する策を。
そうなると真っ先に思いつくのは、この下水道を出て危険極まりない外に何か脱出のための手掛かりを探しに行くこと。ここでうじうじ朽ち果てるのを待っていてもどうしようもないし、俺にとれる選択肢はこれしかない。だが、それには先ほど述べた通り数多のリスクが伴う。下手をすれば一瞬で死んでしまうような超重大なリスクがだ。
でもやるしかない。やらなければ死あるのみだ。カノは今寝ている......大丈夫、カノが起きる前に戻ってこればいいだろう。流石に今の疲弊状態のカノを起こして、死地に連れて行くことはできない。死にはしない、きっと大丈夫だ。
そうと決まれば早速行こう。どこに行くか......アテもつかないが、通信ステーションがあればそこに行ければ、まだ......希望はある、チャンスが生まれるはず。正規軍が残したステーション、この際鉄血でもなんでもいいからそういった類のものを見つけないと。そして、連絡を取って、救援要請を......
「よいしょっと......」
梯子に足をかけて、再びマンホールの蓋を外し外へと出る。空はここへ逃げてきた時とはすっかり様相を変えて、さながら俺たちの未来を暗示するかのように暗く日を落としている。まぁ、暗ければ視界不良を起こして、万が一何かあったときに逃げやすくなるって言うメリットは出来るが......同時にそれはこちらも危機察知をしずらくなるということでもあるからな。慎重に行かないと。
......片目潰れてるってのは、あの時はアドレナリンのようなものが出てて大して何か思うことはなかったけど......時間が経つと、こうも不安になって行くものなんだな。ナルシス......のところでその経験をしていなかったら、今すぐにでも足がすくんで立てなくなってしまうだろう。はぁ、なんか素直に喜べない経験だな......
「とりあえず、通信ステーションを探さないと......」
周囲には今のところ廃墟以外見当たるものはない。つい数時間前くらいまでは、正規軍がここら辺を徘徊して俺たちを殺さんとしていたのだろうが、今は建物に砲撃の痕跡が残っている程度で残骸も何も見当たらない。残骸のコアがもし生きてれば、そこから情報を抜いて場所を把握することもできたんだがな。そうそううまくはいかないか。
はぁ、皆には申し訳ないことをしたな......あんだけ心配されてたのに、大丈夫だと思って向かったらこのオチか。託されたユニットも鎌も何もかも失ってしまったし、挙句の果てにはいま彼女たちがどうなっているのか
そんなことを考えながら歩くことと数十分。終わりの見えない探索に頭を抱えながらも、どうにかしてこのクソッたれな現状を打破しようと行動を起こしていた。あのセーフハウスの方向に行くか、それとも正規軍がやってきた反対側の方向に行くか悩んだものだが、とりあえずは正規軍が来た方向に向かって前進していた。
しかし......参ったなぁ、何も見つからない。ここは戦場なのだから、何かしら一つは見つかってもいいはずなのに......一体なんで何もないんだ?どうし......っ、駆動音!?
咄嗟に建物の陰に隠れて様子を見て見る。バレたらこの状態じゃ何もできずに嬲り殺される......息を殺しつつ、何がいるかを探るんだ。お、ちょうどいいところに隙間があるな。この小さな瓦礫の隙間からなら、ギリギリではあるけど今俺の正面に何がいるか見えそうだな......どれどれ、何がいるんだ?
「......正規軍の部隊か......」
そうして隙間から見えたのは、ヒドラやイージスを主力とした正規軍の一個小隊だった。軽く見ただけでも、キュクロープスが5体、イージスが10体、ヒドラも10体と控えめに言って勝ち目のない部隊だが......何故か奴らの周りに、同じ正規軍のヒドラやキュクロープスの残骸がある。何でだ......?鉄血の残骸はないし、襲撃があったわけでもないだろうし......
......いや、そういうことか。ひょっとしてこの小隊、もう既に正規軍の指揮下を離れて廃棄された、いわば暴走している部隊じゃないか?それだったら周囲に同じ正規軍の残骸があることも納得できるし、今この場で何も動く様子を見せないのも理解できる。大方運用人員が撤退して制御不可になったのだろう。
......これは使えるな。どうやら、やっと運はこちらに向いてきたかもしれない。あの正規軍の廃棄小隊を奪ってこちらの制御下に置くことが出来れば、今ある課題の二つ程度を解決できる糸目が見えてくる。これでも少しは電子戦が出来るんだ、いくらズタボロの身体と言えど制御権を失った機械と人形なら......
そうと決まればやってみよう。まずは確実に誰にも見つからない位置......あそこの瓦礫と瓦礫の隙間でいいか。そこに移動して、安全を確保する。侵入している途中にバレて撃たれたら確実に死んでしまうから、このような戦場の中だととくにそれを意識しないと。まだカノの為にも死ねないし。
あ、結構狭いなここの瓦礫の隙間。まぁ、これくらいの方が安全か......逃げ道がないから見つかったら終わりというのは今の状態じゃどこであろうと大して変わらないだろうし、まぁいいか。よし、そしたら次だな。次は......侵入編といったところかな。
一度目を瞑って、自身の奥深くにあるメンタル空間のようなものへと入っていく。ここは、俺がただの人間からネイトという改造人間になったんだぁと思わせられる場所でもあるが......まぁ、だから何だといった感じではある。むしろこういう時に使えるから、個人的には便利でいいなとか思ってる......どうでもいいなこんなこと。
まぁ、そんな場所に入って相手の制御モジュールへの侵入経路を整えていく。人形・機械であれば、そいつらは自分からそういった発信源を切らない限り確実に信号を発信している。それを分解していくかのように追尾して、相手の電子空間へと入りこむ......うん、軍用だから抵抗が激しいかと思ったんだけど、そんなことないな。
多少時間はかかるが、ファイアウォールを解除してクラックして、システムを掌握......そしてそれが成功したら、仕上げに中枢命令と服従対象をこっちの方で書き換えて......全ての命令対象を俺にすれば、この通りあっという間にデカい戦力を入手完了ってなるはずだ......失敗していなければだが。さぁ、いざ試してみるぞ......
「よしっ......じゃあ、来い!」
俺がそう号令をかければ、先ほどまで微動だにせずただ何かを待ちわびるままだったヒドラやキュクロープスが一斉に俺の方向へ向かって進軍してきた。一応確認のため、見つかっても撃たれないよな?みたいな感じでチラチラと建物から飛び出してみたが、撃ってくる気配がなかった。これつまり......やった、成功したぞ!
この乗っ取りの成功は、今後に大きく影響する一手だ......一個小隊規模と言えど、ヒドラを鹵獲できたのが本当に大きすぎる。こいつらの強さは、あの鉄血撃滅作戦の時に間近で見てきたから理解している。敵に回すと厄介だが、味方になると相当頼りになるだろう。......でも、シノを殺した敵の兵器が、皮肉にも俺たちを助けることになるのは、ちょっと複雑だな......
でも四の五の言ってられる状況じゃない。とりあえず、一度この部隊を引き連れてカノの所に戻ろう。流石にこれ以上あっちを空けるのは不味いし、遠くに行くにしてもあの状態のカノを長い間一人にするのはよろしくない。幸いにもこの戦力を手に入れたし、救援を呼ぶのは合流してからでも遅くはないはず。
「あっ、武器を拾うのを忘れないようにしないとな。」
そうだ、小隊の指揮権を確保したはいいが俺自身の武器を確保しておくのを忘れないようにしないと。銃がいいなと思って、先ほどのあの残骸を漁ってみてるけど、目星をつけたキュクロープスのアサルトライフルはなんかどれも潰れたり折れたりで壊れてるな。しょうがない、とりあえずはイージスの打撃兵装たる電撃バトンとシールドを確保しておくか......結構重いな、これ。
でもまぁ、一応これで多少の自衛程度は出来るようになったな。バトンの電撃を流し込めば人形なら機能停止に追い込めるかもしれないし、そもそもの重量がかなりあるから最悪これで頭をカチ割ればいいだろう。よし、それじゃあ準備もできたし帰るか......カノ、まだ寝てるといいんだけど......
「どうにか無事に帰ってくることが出来たな......」
そしてまた歩みを進めること数十分程度......前と違って、それなりに安心できる兵力が手に入ったおかげで行きよりも早くここに帰ってくることが出来た。辺り一面はあの時とは違い銃声が響くこともなく、ただただヒドラなどの人形が行進する音だけが辺りにはしている。
さて、カノは特に移動した気配はないから、蓋を開けて下にいればいるはずだけど......とりあえず降りないと始まらないな。じゃあ、一応周りに誰もいないことを確認してから......この蓋結構重いな、こんな重かったけ?まぁいいや、よっこいしょっとな......
滑落しないように、ゆっくり慎重に梯子を下りていく。下水道の空気は、外の空気よりも澱んでいてそれかつ冷えこんでいて、若干の肌寒さを感じるレベルだった。どこからか流れてきている謎の風が、傷口に当たってはその肌を撫でている。さて、カノは......あれ?
「カノ......?」
つい一時間くらいまでカノがいた場所を見て見ても、カノがそこにいない。それにシノもいないし......一体、どこに行ったんだ?まさか、カノに何かあったのか?
「カノ~!どこにいるんだ?」
『......指揮、官?』
「!そうだ、俺だ!カノ、今どこにいるんだ!?」
声のした方向に身体を動かすと、そこには目を瞑ったシノを抱きしめながら隅にうずくまっているカノがいた。カノの様子は何かに恐れているかのような、怯えているかのような様子で、どこか目も虚ろなような気がする。しまった、やっぱり一人でなく二人で、伝えてから行くべきだったか......
「カノ、大丈夫」「......んで......」
「え?」
「なんで......ずっと一緒に居るって言ったじゃないですか......どうして、ワタシを置いて行ったんですか......」
「ワタシ......起きた時アナタがいなくて、どれだけ怖かったか......また、またシノみたいに、ワタシが気付かないうちに、いなくなってしまったんじゃないかって思って......アナタが帰ってくるまで、ずっと怖くて......」
「それで、それで......」
そういってカノは縋り付くかのような弱い力でこちらに来たかと思うと、震えるような手つきでこちらに抱き着いてきた。こちらも同時に抱きしめ返すと、カノの身体は長時間冷たいコンクリートの上にいたからだろうか、かなり冷え込んでしまっていて冷たかった。
「......ごめん、カノ。」
「......謝罪はいりません。アナタが傍にいてくれるなら、それでいいですから......」
そう言ってカノは腕に力を込めたかと思うと、再びよく巻き締めるかのように抱きしめてきた。あぁ、そうだ......俺はカノと、一蓮托生であるという自覚が足りなかった。この先、何があっても何が起ころうとも、俺はカノと一緒に居よう。それに早く気づけなくて、ごめん、カノ。でもこれからは一緒だ。ずっと......そう、ずっと。
よければ高評価感想くれるとめっちゃ歓びます......