先に結論から言ってしまうと、あれからあの通信ステーションまでは無事に辿り着くことができた。無論何度か敵襲の機会はあったり、砂塵が舞い上がりすぎて視界不良になってしまうというトラブルこそあったものの、それら全てを解決して到達することができた。
周囲から襲いかかってくる鉄血の人形や兵器群を、俺たちを取り囲むかのようにイージスが守護し、ヒドラがその暴力的なほどの圧倒的な対歩兵火力を用いて吹き飛ばしていく。腐っても正規軍の兵器、やはりその力は偉大だった。あれらのおかげで、敵襲を掻い潜れたといっても過言ではないだろう。もちろん、損害は一切ナシだ。
「お邪魔します......人はもういないみたいだがな。」
扉を開けて部屋を見渡してみると、散らかった部屋のあちこちには軍用規格の通信機や弾薬、雑に引っ張り出された何かのケーブルやらなんやらが乱雑に放置されていた。なんだったらおそらく何かを映していたモニターのようなものを電源がつけっぱで放置されていた以上、相当慌てて撤退したことが分かる。やはりここは道具を片付ける間もなく放棄されたのだろう。
ここなら、少し片付けをすれば休息を取れそうだな。俺は支援要請をしてからじゃないと休めないし、とりあえずは疲労が取れていないであろうカノを休ませてあげないと。俺も用事を済ませたら休もう。ちょっと......疲れたからな。
「カノ、とりあえずこの椅子を使って。少し休んでていいから。」
「分かりました!指揮官も、用事が済んだら少し休んでくださいね?」
「もちろん。俺もちょっと疲れ気味だからな。」
転がっていた椅子を立たせてカノに渡した後、俺は通信を行おうとメチャクチャになった配線を一つずつ繋ぎ直していた。正規軍の奴ら、微妙に配線引っこ抜いたり抜かなかったりしやがって......お陰で死ぬほど直しづらいんだが。勘弁してくれ......なんでこうも中途半端に仕事をするんだよアイツら。余計なお世話だよチクショウめ......
......あっ、でもなんかいけそうな雰囲気になってきたな?ちょっとバチバチ言ってはいるが、これは問題ない時の音だろうし......多分、ここの配線が抜けてるから、これを繋ぎ直して......で、この青の配線は間違ってるから、コレをぶっこいて、最後にスイッチを押してやって起動すれば......
「......よしキタッ!コレであとは立ち上げれば行ける!」
ブーンという無骨な起動音と共に、一度は放棄されたであろう通信設備に再び火が入る。少しだけノイズを吐き出してはいるが、これくらいなら全然可聴出来る範囲のノイズだ。やった、これでどうにかなるようになるぞ......!キタッ、この瞬間をどれだけ待ち望んだか......!
よっしゃ、復旧が出来たのならばさっそく救援要請だ!......あ~、いやでも、ちょっと待てよ......
俺が救援要請に使用する回線は、当然のことながら軍の通信設備を使うんだから軍の回線なわけだが......使った時点で確実にここにいることがバレる。まぁそのリスクは承知しているからいいとして、問題は......暗号化通信として通信するか、それとも平文通信として通信するか、だよな。
もし暗号化するなら、パラデウスの方で使ってた暗号化技術を応用して、この回線にも使えば少しは探知を遅らせることが出来る。そうすれば正規軍が敵襲してくる可能性も低くなるし、アリなんだが......平文にしてより多くの味方に早く救援要請を見てもらった方がいい気がするといえばそうなんだよな。
う~ん、もし救助に来たのがパラデウスまたはグリフィンの部隊だった場合、この暗号化はすぐに読み解いてくれるはず。正規軍はこの暗号化形式を知らないだろうから、傍受するにも多少は時間が掛かるはずだ。ここは多少の手間をかけてでも、暗号化して通信を図るべきか。
「プログラムを改ざんして......なんだ、軍の回線も案外ガバガバだな。」
裏にしまわれていたキーボードを取り出して、手っ取り早くコードの改変を済ませて行く。片目が見えないから若干タイピングに違和感はあるが......まぁまぁまぁ、間違いなしで打てているんだったらOKでしょう、うん。じゃあ、最後に暗号化して、通信を広域に届くように送れば......
「これでヨシ、と。さぁ、あとはどれくらいの部隊が俺たちに気付いてくれるかにかかってるな......」
そうして作業を終えると、なんだか今までの疲れがどっと襲ってきたかのように急に肩が重くなってくる。あぁ、これがやるべきことをやり遂げたから故の安心感による疲れなのか、はたまた純粋に心労的な疲労なのかは分からないが......やばいな、急に立っていられなくなってきた......
「......あ〜、ダメだなコレ......」
視界がぐらつく。先ほどから徐々に朦朧として行く意識は、立とうとする俺の意地を崩しそのまま冷たい床の上へと俺を誘って行く。ここで気絶したら、カノにどれほどの迷惑がかかるかも分からないというのにな......電子戦に頭を使いすぎたかも。はたまた、負傷している中無理を押して動き続けたからか......ハハ、笑えねぇ......
「ごめん、カノ......ちょっと、疲れちゃった......」
『ぇ......あ、ま、待ってください!ワタシを置いて行かないでください!やめて!起きてください!』
カノが何かを言っているような気もするが、もうそれを聞き取ることすら叶わない。あぁ......こんな不甲斐無い人でごめん、カノ。次に起きる機会がくれば......カノに......謝らないと......いけ......ないな......
「......はっ......?」
ずっと落ちていた意識が再び引き上げられる。ジャッジの攻撃を受けた時から耳元でわずかに鳴り響いていた耳鳴りは収まり、重い体はまだその調子を保っているも少しはマシになっているように思える。あぁ......よかった、まだ生きてるな......って、ちょっと待て。
「カノ......?」
自分の頭部に感じる柔らかい肌の感触に違和感を感じ、ふと目を開けてみると、なんとそこには俺にその......あ~、膝枕をしていたカノがいた。カノ自身は疲れ果ててしまったのか寝ているようで、目を閉じているが......やばい、この状況は滅茶苦茶恥ずかしい。勝手に疲労で気絶した挙句、こうして介抱されてるって......申し訳なくなるというより本当に自分が恥ずかしい。
「とりあえず......起きないとな......」
暖かい抱擁を離れるのは惜しいが、流石にこのままじっとしているわけにはいかない。カノはまだ休んでいるだろうし、起こさないように、慎重に、ゆっくりと、立ち上がるんだ......大丈夫、東洋の方にいたニンジャとやらになったつもりでいて......落ち着いて、落ち着いて......
「よしよし、これなら......」
「......指揮官......起きたんですか?」
「!?」
あやべ!?カノを起こしてしまった......!しまった、え~と、え~と、何かできることは......あぁ、えっと......ええい!挨拶くらいしかできることがない!とりあえずおはようって言っておこう!起こしちゃってごめん!
「......お、おはよう......?」
焦った口調でとりあえずそう言ってみるが、カノは微動だにする様子もない。......やっぱり、対応をしくじ「よかった......」
「え?」
「あ、あぁ......よかった......起きた......起きてくれたんですね......!」
「ワタシ、アナタが倒れた時......また一人になるんじゃないかって、シノみたいにワタシを置いて行ってしまうんじゃないかって思って......下水道にいた時も、置いて行かれたんじゃないかって思って、胸が張り裂けそうだったのに、今度はワタシの手の届くところでいなくなってしまうんじゃないかと思って......本当に、本当に心配して......よかった......!」
カノはパッと目を開いたかと思うと、まるで今日の夜空のように暗い目をしながらこちらを押し倒し、そして抱きしめてくる。本当に心から恐ろしく思っていたのか、その抱きしめる手は力強く俺の背中に結ばれているものの、少し震えていることが感じられる。......あぁ、本当にごめん、カノ。謝らないと......
「ごめん、カノ。ちょっと疲れちゃったみたいで......」
「謝罪なんかいりません!ワタシ、ワタシはアナタさえいてくれればそれでいいんです......ワタシと一緒に居てくれるだけで......それだけでいいんです!」
「だから、ワタシが今一番欲しいのは、謝罪じゃありません。今この場で、一生傍にいてくれるって、また誓ってください。そうすれば、ワタシも、安心できますから......」
前のように少し明るくなった声から一転、少し涙が混じっているカノのか細い声にハッと気づかされる。............そう、だな。確かに俺は、カノと一緒に居ようとはずっと思ってたけど......それを、声に出して、八ッキリとカノに言ったことはなかった。でも、カノは......その、カノは俺を求めてくれている......なら、今この場で誠意を見せることこそが、俺がカノにできる最も大きな贖罪だ。
「一生、傍にいるよ。ずっと、何があっても......」
「......その言葉が、聞きたかったんです!」
そうカノが言ったかと思うと、数秒後にはカノの顔には笑顔が溢れ、再びこちらに飛び掛かるように抱き着いてきた。それも、さっきのあの弱々しい手つきではなく、あの明るくて幸せだったころのカノを思い出させるかのような力強い感触でだ。って、あれ、ちょっと待って......?
「ちょっと待ってちょっと待ってカノ、顔が近くない?」
「......ふふっ。少し、目を瞑っていてください。」
「えっ?いきなり何を......んむっ!?」
「えへへ......ワタシの初めて、あげちゃいました。指揮官は、初めてですか?」
「......あぁ......」
......頭が爆発しそうだ。主に、九割の幸せと一割の恥ずかしさで......俺、戦場の中でこんなに幸せになっていいのかなぁ......?へへ......ま、まぁ......いっか......
良ければ感想/高評価くれるとめっちゃ喜びます!