サオリ「転生したら先生だった」 作:バニタスパスタのダム
3分でわかる(かもしれない)前回のあらすじ
その1 サオリが先生に土下座未遂する前に死亡→転生
その2 転生したらシャーレの先生だった件
その3 チュートリアルだぜオラァ”!!!←イマココ
「早瀬!11時に火力を集中させろ、閃光弾で補助を頼む!」
声を張り上げ、指示を飛ばす。後方に立っているため、全体の状況がよく見える。
「わかりました。10秒後に突撃しますね」
「いきます……閃光弾、投擲!!!」
真昼なのに、目が眩むほどの光が周辺を包んだ。
遮蔽でそれを防いだユウカは、演算機でシールドを発生させて、ヘイトを取るように前に出る。
統率の取れていないチンピラを蹴散らすには、1分もかからなかった。
「……この周辺は、粗方片付いたようですね」
「見事だった……正確な狙撃、相当腕を磨いているのが、素人目でもわかった」
「お褒めいただき光栄です、先生」
“______羽川ハスミ:正義実現委員会の副委員長にして、優秀な狙撃兵。特に相手の急所を狙っての一撃必殺が得意であり、そのポジションから戦術指揮にも長けている”……
染み付くほど読み込んだデータベース。彼女たちを抹殺し、ユスティナを利用するための計画を、完遂するための、無機質で凶悪な記憶。トリニティとゲヘナの生徒……特に対抗してくるであろう風紀委員会、正実の部員は、末端に至るまで殆ど覚えていてしまった。
「先生ー……っ、こちらの安全確保も終わりました。先生に、お怪我はありませんか?」
“火宮チナツ:1年生でありながら、高い医療知識を用いて、戦場で支援を行う。”
「ああ、おかげで。他のメンバーは?」
“同じ風紀委員の天雨アコも後方支援に当たるが______”
「ええ、先生の指揮のおかげで、皆さん大きい怪我もないみたいです」
“彼女の場合、敵の早期撃破よりも味方の安全確保に動く傾向にある。よって戦況が長期化するときは______”
自分を気遣う彼女の笑顔とは裏腹に、自分の記憶は、どうすれば彼女を無力化……否、
どうすれば素早く命を奪うことができるか。その手段のみが、羅列されていく。
いくつか、わかったことがある。
今の私には、ヘイローがない。その代わりに、連邦生徒会捜査部の、【シャーレの先生】という称号を手に入れた。
性別こそ違えど、私が最後に縋ろうとした彼______“先生”と同じ立場だ。
生徒を先に導く立場の“先生”……これほど、私に不適切な役職は無いだろう。
期待。
希望。
信用。
やめてくれ、私はそんなことが赦されるモノでは無いというのに……
「……ええ、そう。貴方に、“貴方様”の冠は相応しくない」
「っ、まだ見逃したのがいたの!?先生、私の後ろに______」
姿も見えず、声のみ聞こえる、異質な存在。ユウカが駆け寄ってきて、即座に警戒体制を敷く。
しかし、災厄は彼女たちの指の間をすり抜ける。
咄嗟に悪寒に従い、サオリは首を横にずらした。
「……少し借りる」
チナツの手から拳銃を奪い取り、足元を薙ぐように発射する。
ヘルメット団との戦闘で倒壊した建物が、砂煙をあげ、あっという間にユウカたちの視界から外れたサオリ。
常に動きに緩急をつけながら移動し、刻々と変わる相手の位置を、射撃、射撃、リロード、撃つ、撃つ。
(手応えはあった……だが姿が見えない……そこか!?)
カチっと音が鳴り、チナツの愛銃が弾切れを知らせた。
お互いに得物をこめかみに突きつけ合う形で、硬直する。
視界が晴れれば、狐面の生徒が姿を現した。
「な、あ、あれって……!」
「ええ、指名手配中の脱獄犯……狐坂ワカモ……」
「……驚きましたわ、まさかただのハンドガン一丁で、5秒も粘られるなんて」
「お前は誰だ」
「自分が誰かもわからない方に、名乗る名など、持ち合わせておりませんのよ」
「何が目的だ」
「語彙が貧相な頭に、どれだけ美しい詩を吹き込んでも、無駄でしょう?」
「……私のことを、知っているのか」
サオリが尋ねれば、狐坂ワカモは、初めて不機嫌さを語気に混ぜた。それと対象に、サオリの表情は、恐怖と困惑に染まる。
「“前の方”……といえば、十分でしょうか」
「……私は……消えた方が、都合がいいか?」
「…………、ええ。とても」
「っ、なら______」
サオリはピストルを降ろした。
「ちょーっと待った!!!」
パンっと小気味良い音が、沈黙を破って空に響いた。
「何が何だかわからないけど、この人は先約が入ってるの!昔話なら……えーっと、後にして!」
拳銃で空砲を鳴らしたユウカに、みんなの視線が集まる。よく見れば、その手は震えていた。
天をつくように掲げた、ユウカのその手を、スズミがそっと取る。
「もちろん、ワカモさん、貴方が指名手配された以上、私たちとて見過ごすわけにはいきません!けれど、お互いここは手を引きませんか。このまま事態が長引けば、ヴァルキューレや、他の増援部隊も駆けつけるでしょう」
「貴方からすれば、私たち4人を相手取るなんて……簡単、ですよね。ですから……」
チナツが前に進み出る。
「…‥お願い、です。彼女がいないと……私、私たち……っ!せっかく委員長に任されてきたのに、当の先生本人を守れなかったなんて……!」
まっすぐ、一切の武装を手放して、チナツが頭を下げる。
ユウカと、スズミも、少し躊躇ってはいたが、横に習う。
「……いいでしょう。もとより、“今”殺すつもりは更々ありませんでしたから」
「!や、やった、やりましたよ、チナツさん、ユウカさん!」
サオリに突きつけられていた銃剣が下される。一気に安堵と歓喜の声が漏れた。サオリは、ただ茫然と立ち尽くしたままだった。
「ええ、ええ。私はみなさんご存知のように、“壊す”ことが大好きなのです。それが重要で、大切で、高貴で、掛け替えのないものである程、特に」
「ですから、さ_______いえ、先生。貴方の大切なものが、より一層増え、求め、求められるようになったその時……このワカモ、貴方から全てを奪いに参りますわ」
ワカモがいつの間にかさった後、倒れて残されたチンピラたちを見回して、サオリはつぶやく。
「……そんな日は来ないさ。今後一切、未来永劫、な」