お願いします千織さんっ!こっち見てニコッてしてください!!   作:猫好きの餅

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はい、初めましての方は初めまして。またあんたかと思った方はお久しぶりです。

綺良々、ニィロウに引き続き、今回は千織の小説となります。

前者2作品とは別の世界観となりますので、ご理解の程よろしくお願いします。


千織さんの蔑んだ目線が意外とイイ

 

 

 

 

 

 

 

ーーー振り切った刃が肉を裂き、その奥の骨を断ち切る。

 

血飛沫を上げながら崩れ落ちるそれに目もくれず飛んできた鉛玉を身体に纏っている風で受け止め、持ち主に返却をしてあげた。

 

来た道をそのまま帰っていった弾が持ち主の頭部を跡形もなく吹き飛ばすのを尻目に、俺は刃を構えターゲットに向かって飛びかかる。ターゲットの男は拳銃を構えて銃弾を撃ってくるが全て風で逸らして左手で銃を持った手を斬り飛ばす。

 

俺はくるくると飛んでいく自身の腕に目を見開いているターゲットの隙を見逃さずに右手でそいつの首を掴んで壁に叩きつけた。あまりの勢いで壁が放射状にヒビが入りターゲットの口元から血が流れた。

 

「ーー貴様が密売業者のトップか?」

「ぁっ、腕がァっ!……ゴホっ、…な、なんなんだお前はッ!?」

「ある者から依頼だ。お前の命をここで断ちに来た」

「ふっ、ふざけーーー」

 

その男の言葉は、首から上が急に無くなったことによって最後まで発せられることは無かった。

 

ターゲットの殺害が完了した俺は身体とお別れをしたそいつの頭を放り投げ、左手に持った刃の血を払って腰に納めるとぐるりと周りを見回す。

 

密売業者の本部と言われる広めの部屋は元々の壁の色が分からなくなるほどに「紅」に染まっていた。その色に染めるモノを流している2つ以上に別れた人間だった肉の塊があちこちに転がっている。中身をぶちまけているそれらを顔に着けた仮面越しに冷めた目で眺めた俺は、その身に一滴の汚れもないままその部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁぁぁあ〜………………辞めたいこの仕事」

 

任務が終わってから数時間後。俺はフォンテーヌ邸の南にある屋敷で項垂れていた。そんな俺の対面に座っている人物は、提出した書類を眺めながら紅茶のカップを傾ける。

 

「ご苦労だったね。これでロシの密売は当分の間抑えられるだろう。現場の後処理はこちらでやっておこう」

「了解しましたけどアルレッキーノさん。もうちょっとこう、軽めの依頼は無かったんですか?ヒルチャールの討伐とか、暴走したマシナリーの破壊とか」

「そんな依頼は警察隊で十分だろう?それに君ほどの戦力をそんな簡単な依頼には使わないよ」

 

そう言い、今回の依頼人ファデュイ執行官"召使"アルレッキーノさんはくすりと微笑んだ。黒のオシャレなパンツに包まれた御御足が組み直され、赤いクロスが入った特徴的な瞳でこちらを見る。

 

「つーか、そもそもこれ相手さんとこのボスだけ殺せばいいって依頼だったはずじゃないですか。それが次期ボス候補まで殺ってこいって直前で言われて、まぁ2人くらい増えるだけとか思ってたら10人て」

「密売人というものは1人では業務を回せない。だから後釜を沢山用意する必要があったのだろう。とにかくご苦労だった。次もまた頼むよ」

「俺はこの依頼で引退するんで次は無理っすね。他当たってください」

「むしろ君が他の職に着いたと言うなら壁炉の家総出を上げてお祝いの品を送ろうか」

「絶対やめてください」

 

俺は肩を落として部屋を出ると、それを見ていた壁炉の家の子供達が駆け寄ってきた。

 

「クレイさんっ、おつかれさまです」

「おつかれさま」

「…リネリネか。ああ、……つっかれたぁ"〜〜」

「…ほんとにダメな時の声してる」

 

話し掛けて来たのは壁炉の家の子供の双子の兄妹。兄がリネ、妹がリネットという。顔だけじゃなくて名前も似てるので未だにちょっと呼ぶ時迷うからもうセットで呼んでしまっている。

 

「今回は密売業者を再起困難にまで叩きのめしたんですよね?確かあそこは銃火器が豊富でファデュイでもなかなか手が出せないってお父様が仰っていたはずなのに、すごいですっ」

「…ん、どうやって銃相手に戦ったの?」

「え?どうやったって、こう…風でぶわさぁーって」

「ちょっと何言ってるかわかんない」

 

え?飛んでくるんだから石も弾もおんなじじゃん?だから風でぶぁわさぁーってやったんだけど、なんでそんなに首を傾げてるんだろう。

 

「ま、まぁいいか。それよりさっき辞めたいって言ってましたけど、どうしてです?」

「……いやさ、これが深刻な理由で…」

 

俺が真剣な顔で言うと2人とも真面目な顔つきになる。俺はその2人に「実はな?」と耳打ちした。

 

「………殺し屋、飽きたんだよ」

「「ぜんぜん深刻じゃないっ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、飽きた……って表現しても間違いじゃないんだけどなぁ」

 

壁炉の家を出てフォンテーヌ邸の中をてくてく歩く。おもむろに自分の手を匂いを嗅ぐと、しっかり洗って無臭のはずなのに血の匂いが感じる気がして口の形がへの字になった。

 

俺の名前はクレイ・ウィンドル。職業は個人経営の殺し屋。パレ・メルモニアだったりファデュイから依頼を受けて自分たちでは処理のしきれない、動けば政治的問題になるような相手を天国に…いや、悪人だから違うか、地獄にお送りするのが仕事だ。どこにも所属してないから少々割高だけど、それでも腕を見込まれてそこそこ依頼が来る。

 

なんでこんな仕事をしているのかって言うと、俺にもよくわかんない。出身は不明の俺が拾われた時、既に風の神の目を持っていたことから名付けられたってことは知ってるんだけど、育ての親が10歳のころに強盗に殺された。襲われた俺は無我夢中でその強盗を殺しちゃってからさっきの怖いお姉さん……アルレッキーノさんに声を掛けられて殺し屋の道へ。てっきりあの人が運営してる壁炉の家に叩き込まれるかと思ったけどそもそもまだあの人が執行官になりたてで壁炉の家も形だけなみたいな時代だったから収監……もとい保護は免れた。

 

まあ俺のことは良いのよ。んで、なんで殺し屋辞めたいってなってるかって言うと。

 

 

 

俺は若干速足で駅広場から階段を登り、ピンク色のお店の前で止まる。身だしなみを整え、いい顔を作ってから中に入ると、店内の椅子に座っていた稲妻風の服に身を包んだ女神がこちらを見た。

 

 

「…いらっしゃい。……あぁ、貴方この前の。服できてるわよ?」

 

 

ふつくしい…………。

 

 

あ、なんで辞めたいのかって?それは、俺がこの方に一目惚れしちゃったからだよ。

 

 

だから俺は。

 

 

「ハイありがとうございます。良かったら俺と結婚してください」

 

「………は?」

 

 

殺し屋やめて服屋になろうと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故俺がこの女神……千織さんに一目惚れしたかと言うと、それは数日前に遡る。

 

一目惚れっていってもそんな物語みたいな感動的な邂逅をした訳じゃなくて、ちょこっとヘマしてボロボロになった任務帰りの出来事。

 

「…はぁ〜…。ったく、部屋ごと爆破とか映影みたいなことしやがって……」

 

今回のターゲット爆発物や火薬などを密輸してる組織を潰すことだったのだが、ボスが往生際の悪いやつで自分が死んだら身体に括りつけてる爆弾が全部起爆するようになってやがった。

 

別に勝手に自爆してくれるのはいいんだが、「ターゲット以外は手にかけない」ってモットーの元、周りに爆発を被害を負わせる訳には行かなかった。ターゲットそのボスだけだったし。

 

だから風を使って爆風をどうにか閉じ込めたんだけど、周りに気を遣いすぎて自分の方向がちょっとら疎かになってしまった。幸い大きな怪我は無いけど服がボロボロだ。戦う系の映影でさえここまで服ボロボロにはならないだろう。

 

俺が愚痴りながら早朝の人気の無い道を歩いていると、後ろから誰かに呼び止められた。

 

「ねぇ、ちょっといいかしら?」

「…はい?」

 

時間は午前四時。まさか人に出くわすとは思わなかった俺は聞こえた女性の声に一瞬警戒をする。任務の時にする仮面は外しているので素顔だが、むしろそれが幸いしてただの服ボロボロの人に見られていた。

 

俺がそんなことを考えて、対応しても別にいいだろうと振り返ると訝しげな顔をしてこちらを見る女性がいた。

 

黒髪のサイドテールを揺らしたその人はフォンテーヌに住む人なら知らない人は居ないほどの有名人。名前を千織と言って1年前突如フォンテーヌに現れた稲妻人で、今やフォンテーヌの服飾業界のトップを走っている人だ。「千織屋」という店で売られる今までの型に囚われないデザインの服はどの層にも人気がある。

 

そんな彼女は、俺の服を見下ろす。

 

「……お節介だったら悪いのだけれど、その服はどうかしたの?ボロボロじゃない」

「あ、ああえっと…ちょっと事故にあいまして…」

「…そう、って、貴方怪我もしてるじゃないっ?……ちょっと来なさい」

「えっ」

 

彼女はそう言うと俺の腕を掴んで歩き出した。突然の自体に俺は困惑する。

 

「い、いや別に大丈夫ですってこのくらい!」

「服屋の店主としてそんなボロボロの服着た人を放っておけるわけないでしょ?それに貴方、絶対こういうのに無頓着でしょ?そういう顔してるもの」

「どういう顔っ!?」

「いいから来なさい。私の店すぐそこだから」

「えっ、ええええ!?」

 

 

 

 

「そこに座りなさい」

「だから大丈夫ですって、これくらい自分で「す・わ・り・な・さ・い」…はい」

 

なんか断ったら背負い投げされそうな顔して言われたので大人しく椅子に座る。棚から救急箱を持ってきた千織さんはガーゼに消毒液をつけて俺の顔の傷に塗り始めた。

 

「…いっ」

「我慢して。バイ菌入っちゃうわよ」

「…ほんとに、なんでそこまでしてくれるんですか?」

「こんなの人として当然よ。それに私、決めたことはやり通す主義なの。貴方を見つけてから気になったのにそのまま通り過ぎるなんて真似は主義に反するわ」

「………」

 

俺は、治療を受けながら人知れず彼女に魅入っていた。

 

「貴方は、千織屋の店主さん…ですよね」

「ええそうよ。そこそこ有名にはなった方だと思うけれど、顔は覚えて貰えてないみたいね」

「この棚の服、全部貴方が作ったんですか?」

「私の店なんだから、私以外が作ってどうするのよ」

 

そりゃそうかと返しながら、店内を目線だけで見回す。綺麗に整え、わかりやすいように整理された服たちは、自分の主となるものを今か今かと待ち侘びているようにさえ見えた。

 

元々俺はこの世に何かを作り出せるような人を心の中で尊敬していたんだ。何せ自分は命を奪うことしか出来ない奴だからね。壊すことしか能のない奴と何かを創り出せる人、どっちが偉いかなんて考えるまでもないだろ?

 

「はい、とりあえず絆創膏貼る前に、シャワー貸すから浴びてきちゃいなさい。服は適当に見繕っておくから」

「えっ、……は、はい。ありがとうございます」

「あら、急に物分りが良くなったわね」

 

口答えしてもまた凄まれるだけなので、大人しくシャワーを借りる。なんで服屋にシャワー室があるのかと聞いたら自分もここで夜どうし服を作る時があるからだそうだ。

 

暖かいお湯を全身に浴びながら、俺は謎に高鳴る胸を押さえてため息を吐いた。鏡越しに自分の顔を見る。

 

フォンテーヌではあまり見られない脱色したのかと見紛うような肩まである白い髪。そして血のように紅い眼。拾われた時にアルレッキーノさんにまるで「兎」だなと言われたのを思い出した。

 

しかし、この胸の高鳴りはなんなんだ?経験の無い感情に思ったように思考がまとまらない。身体を見下ろすと無傷で済んでいるのでそれを確認すると俺は浴室から出た。

 

 

「…えっと、シャワーありがとうございました」

「ええ。服のサイズはどうかしら」

「ピッタリです。ええと、この服の値段は……」

「お金は別に良いわよ。売り物にならないやつだし。……あ、別にだからといって変なやつじゃないから安心して」

「いえ大丈夫です。…これが売り物にならないんですか?」

 

俺が今来てる無地のシャツと黒のスボンを見下ろすけど特に変なとこは無い。

 

「シンプルすぎて在り来りだからよ。うちの店に来てくれるってことは私だけしか作れないデザインがご所望ってことでしょ?こんな服、別のところで買えばいいし」

 

当たり前のように言った彼女のセリフに少し、感銘を受けた。

 

「……すごい」

 

思わず漏れてしまったつぶやきに慌てたけど幸い聞こえてなかったみたい。千織さんは修繕しようとしてた俺の服を眺めてため息を吐くと椅子から立ち上がる。そのままコツコツと足音を立ててこっちに来るものだから少し狼狽した。思わず視線を逸らした先に売り物となっている服が目に飛び込んで来る。

 

「貴方の服は私が直してあげるわ。2日後に来なさい。……そっちの服が気になるの?」

「あ、はい。こういう…凝った服は初めてじっくり見たので………凄いですね」

「あら、服に興味無さそうな顔をして、意外なことを言うのね」

「いや、斬新というか…、型破りというか。よくこういうデザインを思いつくなぁと」

 

事実、俺の目の前にある服も、稲妻服のような生地でフォンテーヌのデザインが施されている。けどちょっと袖のところに違和感があったので許可を取って手に取ると、滑らかな手触りを残しながら下に中に硬い感触があった。

 

「ん?これ中に…革ですか?」

「よくわかったわね。コレで耐久性と手触りを両立したのよ。洗う時は袖から革材を取り出せるから意外と楽だしね」

「へぇ〜、でも普通はこんなこと考えないですよね」

「普通は、とか。私の1番嫌いな言葉ね。ただ合わせてみたら良かったんだからいいじゃない」

 

俺をまっすぐ見てそう言う千織さん。そんな曲がらない彼女に俺は思わず見とれてしまった。

 

「ごめんなさい、気に触っちゃいましたか?」

「ううん、大丈夫よ。こんなことを言われるのは慣れてる。…で、君はどうなの?この店の理念をどう思う?」

 

そう問われて、少し考える。彼女はまるで合理的が人の姿になった様だ。だから合理的、って所に自分も強く共感するところがあった。

 

まぁ、こっちは殺しの合理さだけども。急所へ当てる為の最短攻防とか、どう一撃で首を刈ってくかとかの話だけど。

 

そんな事を口が裂けても言えない俺は。とりあえず頷いた。

 

「そうですね、俺もそういう規則とか、謎の常識みたいの嫌いなんですよ。やれ普通は正面から攻めないだとか、報告は帰ってからすぐするのが規則だとか、面倒な」

「そうそう。うちも予約は先着順なのに貴族だからって割り込んで来たりして、一昨日も1人投げ飛ばしたわ」

 

どうやら千織さんとは気が合うみたいだ。時計を見るともうすぐ6時、そろそろ戻らないと。

 

「えっと、すみません俺そろそろ戻らないと」

「そう、じゃあまた2日後に。貴方みたいな人と話せたのもなにかの縁かもね」

「はい、色々と本当にありがとうございました。今度、服を買わせて貰います」

「あら、別にお礼で買わなくてもいいんだけど?」

「いえ、自分そういう回りくどいの好きじゃないんで、普通に買いに来ます」

 

入口に立った俺が振り向いてそう言うと、千織さんはくすくすと笑った。

 

「ふふっ、なんだか気が合うみたいね」

「っ……そ、そうみたいですね。じゃ、じゃあ…また……」

 

その笑顔に鳴り出す鼓動を手で押えた俺は、逃げるようにその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーってことがあったんだけど。

 

なんか好感度が砕け散った気がする。

 

下げていた視線を恐る恐る上にあげると目に入る、編み込まれて櫛が入っている艶のある黒髪。その下から覗く真紅の瞳に雪のように白い肌。人形のように整ったご尊顔を、さらに能面のようにさせてここの服屋「千織屋」店主、千織さんは頭を下げる俺に向かってもう一度言葉を発した。

 

 

「……………は?」

「……あっ、すんません間違えました。ここで働かせてくグボァアア!?」

 

やべえ口が滑った。なんとか誤魔化して言い直そうとする前に俺の頬に彼女の脚がめり込んで入口近くまで飛ばされる。

 

「ちょっと、開口一番何を言っているの?蹴るわよ」

「もう蹴ってますが!?……って、すみませんすみませんっ!ちょっと言葉の綾で!ここで働かせてください何でもするので!!」

 

心底嫌そうな顔をした千織さんは壁に貼ってある店員募集の紙をチラリと見る。

 

「ええ、確かに募集はしてるわよ?…でも言い間違いだとしても開口一番にプロポーズをするような男はお断りなの。わかるわよね?」

「い、いや言い間違いでは無いんですけど…」

「…はぁ?」

 

素早く立ち上がりながら言う。いや、ホントはここの従業員募集の面接いこうと思っただけなんだけどなんか口が滑り散らかした。もうどうにでもなれっ!

 

「以前助けられてからあなたに一目惚れしました!ここで働かせてくださいっ!!」

「嫌よ」

「グァァッ!?」

 

即答された。

 

膝から崩れ落ちる俺を冷めた目で見下ろしながら手袋に包まれた手で俺の襟首をむんずと掴む。

 

「じゃあそういうことで。この前の服は修繕しといたからさっさとこれもって出ていきなさい。……全く、気が合うとか思った私がバカだったわ。本性はこんななんて」

「ちょっ、待っ、せ、せめて修繕費を」

「あんなのお金もらう程じゃないわよ」

「修繕費を働かせて返させてください…!!」

「お金払いにきたんじゃないのね……。はぁ、……貴方、服を作る技術はあるの?」

「えっ、いえ、ないっす」

 

どっちかと言うと服を着た人を斬る方が得意ですっ!

 

即答した俺に、千織さんはため息を吐きながらこめかみを抑える。

 

「今は人が足りないから、服飾の技術は問わないって話だったけど…邪な理由で入ってくる人なんてお断りよ。…さっさと服持って出ていきなさい。……それとも、そんなに投げ出されたいの?」

「邪じゃないですッ!!」

 

気付けば俺は叫んでいた。確かに彼女に一目惚れしたのは本当だけど、それ以上に感銘を受けたことが確かにある。

 

「貴方が作る服と、貴方のその曲がらない信念に感銘を受けました!…だから客としてではなくて、内側からこの店に携わりたいんですっ!」

「なっ、…それは接客じゃなくて裏をやりたいって事?でも貴方は素人。私だって長年修行して店を出したんだもの。貴方が1年やそこら修行したとしても売り物になるようなものは作れないわ。せめて何か一つだけでも秀でていないと……」

 

それを言われて思い出した。

 

「あ、それなら一つ…あるかもしれません」

「なによ」

「布を…斬ることなら、得意です」

「布を切る?」

 

殺しのターゲットになる奴は普段から、それ相応の対策をしている奴が多い。防刃の服や、プロテクターが中に入ったものは当たり前で、こっちが一撃で殺るにはその継ぎ目を狙ったり素材に合わせた刃の入れ方をしなければいけない。この前千織さんが作った服の特性に気がついたのも良く服を見るくせが付いてるからだ。

 

だから、どんな布も一撃目で思い通りに斬るってことは殺し屋にとって必須技能なんだ。

 

千織さんは「切る」方だと思ってるようで何度目から分からないため息を吐くと裁ち鋏を俺に渡した。

 

「そこまで言うのなら、これを印に沿って切ってみて頂戴。1箇所もはみ出さずに切れたら採用してあげるわ」

「えっ!!本当ですかっ!?」

 

俄然やる気が湧いてきた。ウキウキで鋏を持つ俺に千織さんは腕を組んで見ている。

 

「まぁでも、その布の材質だと綺麗に切るのは大変なんだけど。私もそれ切る時は刀使うし」

「え、刀?」

 

刀は、確か稲妻の斬れ味に秀でた刀剣だったはず。手を動かしながら目をぱちくりとさせる俺を尻目にカウンターの下から二振りの刀を取り出した。鍔に種類は分からないけど花があしらわれていて、使い込んだ刃が本人の技量を透けて見せてくる。

 

「普通は鋏じゃないんですか?」

「もう忘れたの?私が嫌いな言葉。鋏よりこっちの方が使い易いんだからいいじゃない」

「しかも二刀流ですか。何から何まで型破りですね好きです結婚してください」

「無理ね」

「……ひとつでいいんで、理由を教えて貰えると」

「貴方のことを知らない、会ったの2回目なのにいきなり求婚するとかありえない、服作るので忙しい、恋愛に興味無い、生理的に無ーー「多い多い!ごめんなさい謝るんでもう言わないでっ」

 

なんか後半に行く度に酷くなってってない?俺は手を動かしながらも項垂れて涙をこらえる。

 

「貴方ねぇ、私はよく知らないけど普通はもっと時間を掛けて言うものだと思うけど?」

「しょうがないじゃないですか好きになっちゃったんだし。それにそういう回りくどいの嫌いなんですってば」

「……はぁ、私の性格に難癖つけてくる連中の気持ちがちょっとわかった気がするわ」

「褒め言葉として受け取っておきますよ。はい、切り終わりました」

 

俺は話しながら切っていた生地を千織さんに差し出す。

 

「はぁ?その材質でこんな短時間で切れる訳……って、うそ…?」

 

千織さんが受け取った生地をバッと広げると、そこには少しのズレもない綺麗に切れた生地があった。信じられないって顔をする千織さんに俺は自信満々に胸を張る。

 

「どうです?綺麗に切れたでしょ」

「そ、そうね…………あ、ここ1ミリズレてるわ」

「うそぉ!?」

 

見ると端のところがほんの少しはみ出してた。そこだけちょこっと切ればいいけど、採用の条件的にはアウトだ。

 

「お、終わった……」

 

膝から崩れ落ちる俺。その上からため息が聞こえる。

 

「まぁ、いいわ。切り出した早さに免じて勘弁してあげる」

「え?」

 

驚いて顔を上げると、俺が切った布を畳んだ千織さんはビシッと俺に指を指した。

 

「貴方の切り出しの技術と、信念に免じて採用をしてあげるわ」

「良いんですかっ!?」

「ただし、怠けてる所を見つけたり遅刻なんてしたら即刻叩き出すからね。それに勤務中に私にまた邪なことを言っても同様。…わかった?」

 

俺はぶんぶん首を縦に振る。立ち上がると腰を折って

 

「…わかりました。これからよろしくお願いします」

「ええ。キリキリ働きなさい?」

「……それに、勤務中じゃなかったら良いんですもんね?」

 

俺のニヤリとした顔を済まし顔で見た千織さんは。

 

「まぁ、その時は全力で抵抗させて貰うから。ちょうど柔術の技掛ける相手欲しかったのよねぇ」

「なるほど。千織さん好きです結婚を前提に付き合っくだほわぁぁぉぁ!!」

 

言い終わる前に俺は宙を舞って外に吹っ飛んでいた。

 

でも千織さんになら何されてもOKですっ!!!

 

 

 

 

こうして、俺は次の職をゲットするのだった。

 

よし、コレで心置きなく殺し屋辞めれるぞっ!早速アルレッキーノさんとヌヴィレットさんに伝えてこよう!!

 

 

 

 

 

つづく。






千織の黒スト、真剣に欲しい。

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