お願いします千織さんっ!こっち見てニコッてしてください!!   作:猫好きの餅

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 こちら、昨日の夜に投稿したお話の改稿番になります。

 誠に勝手ですが、後半の千織との会話シーンを元と比べてマイルドに書き換えました。理由は「キャラクターがブレてしまった」からです。

 今回の千織さんは後々読み返しても自分で違和感を感じてしまう程に「千織さんではない」という感じが出てしまいました。実際伝説任務を見返しているともっと冷静に物事を考えるキャラクターでした。それなのに主人公をいきなり悪と決めつけ問い詰めてきたものですから、今回はかなり展開が強引になってしまいました。

 こういう投稿後、反応を見てからの改稿は良くない、ということは重々承知ですが、自分で違和感を抱いたまま続きをかけるかと自分に問うた時に「無理だ」という思いが先に出て来てしまったので、今回改稿へと踏み切りました。

 これからはもう少し、投稿前に内容を吟味してキャラがぶれてないか、展開が急ではなかったかよく確認するようにします。大変申し訳ありませんでした。


 こんな勝手なことをする作者ですが、今後ともお付き合い頂ければ幸いです。


千織屋を守った先で(改稿版)

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその夜。

 

 

 

 フォンテーヌ邸の地下街の民ですら寝静まった深夜。物音1つしない街中を音を立てずに黒装束の集団が歩く。

 

 彼らが受けた依頼の内容は千織屋をファッションウィークに出場出来なくすること。そのためなら何をしてもいいし、事件になってもいいと。そして、必ず千織屋を守る敵が出てくると、破格の報酬を前払いしてきた依頼主は言った。

 

 色々と不可解なところは多かったが、財政難の彼らにとって寝耳に水な話だった。敵が出てくると言ってきたが恐らく数は1人だとも聞いていたので依頼をこなした後の事をにやにや考える者までいる始末だ。

 

 

 

 ーーー唐突に、最後尾の者が倒れた。

 

「ッ!な、なんだ!?」

 

 思わず足を止める襲撃者の脚に、緩やかな風が触れた。ここは地下街。風などそうそう起きない。

 

「っ、ぐぁっ!」

 

 次の瞬間、足元を流れてた風が脚に巻きついた。たたらを踏んで膝を着く男たちの耳に、1人分の足音が聞こえてくる。

 

 ーーコツ、コツ、コツ。

 

 まるで足音から何か出ているのかと思ってしまうほどに、1歩ごとに威圧感が空間を支配する。本能的に恐怖を感じて逃げようとする者もいたが風の輪っかが足を空間に縫い付けていて動けない。

 

 そして、足音が大きくなり前の曲がり角から足音の主が顔を出した。

 

「……あ、お、おお前は……!」

「な、なんで、……こんな大物が俺らなんかにぃっ!」

 

 暗闇の地下街の中に、まるで宙を浮いているように揺れる白い仮面。そして両手の位置に浮かんだように見える白い片刃の双剣。仮面から覗く瞳は漆黒に真紅のクロスが入っている。

 

「……貴様らが、千織屋の襲撃者か?」

 

 裏の仕事をしていて知らぬ者は居ない伝説の暗殺者「白影」の無機質な言葉に、男たちは喉を掴まれたような感覚を感じた。リーダー核の男が仮面を睨みつけながら答える。

 

「……だったらなんだ。俺たちは依頼されただけで千織屋に恨みなんかありゃしない。ここで皆殺しになんかしたら、処理が大変なんじゃないか?」

「……なに、殺しはしないさ。ちょっと眠ってもらうだけだ」

「…っ、野郎共ッ!構えろ!」

 

 もとよりこちらは戦う気で来ている。リーダーの男の言葉にタイムラグなしで応えた戦闘員2人がリーダーを跳び越え、仮面に手にした剣を振り下ろした……が。

 

「な、っなんだよこれっ!」

「どうなってんだ!?」

 

 その時、2人の剣が何も無いところで止まった。よく見ると刀身に風が巻きついている。動かなくなった剣に力を加えるがビクともしない。だがこちらも素人では無い。直ぐに腰のナイフを抜き、2人の脇から1人ずつ出て来て剣を手に斬りかかって行く。

 

 これで地下通路は襲撃者達で塞いだので仮面はもう下がるしかない。また剣が防がれてもこちらには人数がまだ10人近くいる。いずれ剣が当たるはずだと引き攣っていた顔に笑みが戻るリーダーの顔が再度凍りつくのに10秒とかからなかった。

 

「…っ!?がっ!はっ、うぅ、ぅぅ!」

 

 仮面に立ち向かって言った男達が突如苦しみ始めた。それぞれ口や鼻、喉を掴んで膝を着く。よく見ると、あの風の輪が首に巻きついていた。

 

「ちっ、アイツを抑えろっ!4人を助けるぞっ!」

 

 そう指示を出し、自分も剣を抜いて駆け出すリーダーだが、直後顔にとてつもない衝撃を食らい逆方向に吹き飛ぶ。

 

「ぐっ、な、なんだ!?」

「遅せぇよ」

 

 後ろから無機質な声。咄嗟に振り返りながら剣を振るが腕で受け止められてその隙に仮面の双剣の峰が腹に食い込む。

 

 意識を失い倒れ込むリーダーに一瞬怯んだが、それでも全員が仮面に飛びかかってきた。槍、剣、大剣、弓。沢山の武器が仮面に飛んでくるが全て何も無い空間に縫い付けられて止められる。

 

「……風よ」

 

 そして、再び正体不明の窒息。それでも襲ってくる者は仮面が双剣の峰で処理をしていく。15人いた襲撃者が全滅するまで2分間の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか、最近物騒ね。今朝警察隊の寮の前に15人の宝盗団が拘束されてたらしいわよ」

「あ、それ私も聞いました。なんでも全員過去に犯罪を犯していた指名手配犯だったみたいで」

「………へぇ、すごいですね」

 

 翌日、朝まで千織屋の見張りを終えて、いつもどうり出勤した俺は痛む頭を抑えながら千織さん達と会話する。

 

 …ふぅ、さすがに三徹はちょっと影響あるな。ズキズキと身体の異常を訴えてくる身体を無視しながら縫い物を進めていく。

 

 案の定、敵は裏社会の傭兵組織だった。今回は読みが当たって出てくる前に叩けたけど次はどうなるか。少しも油断出来ないな。

 

「……あと5日か」

「…そうね。ファッションウィークまでこれから忙しくなるわよ?」

 

 漏れていた俺のつぶやきを千織さんが拾ってくれたので頷きを返しておく。

 

 

 …あと5日。あと5日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いけっ!全員でかかれっ!!」

「オラァ!死ねや仮面っ!」

 

 飛んでくる剣や矢をミリ単位で身体をずらして避ける。その動きから繋げて飛び込んで来た奴の手首に右の剣の峰を叩き込んで反対の手で「空失域」を付与してやる。

 

 これは風の膜で敵の顔の周り以外の空気を切り離す。隔離された空気の中を酸素を吸いきった敵は、勝手に窒息になって倒れ込んだ。

 

 俺の元素は風だ。風とは唯一、何も無いところでも起こりうるものである。空気が流れて動けばそれは風。つまり、極めれば周りの空気が全て武器になる。

 

 ーーつまり、空気は動いていない風と捉えることができる。わかるかクレイ?

 ーーいつも思うけどペルヴィ姉のその発想、変だと思うよ。

 ーーそうか?ただ、人類はこういう変な発想から進化してきた。ものは捉えよう、だ。

 

 俺は一人一人攻撃を流して意識を刈り取りながら昔のことを思い出した。せめて自分の姉には相談すべきだったかな?まぁワンチャン今やってる事もバレてそうだし、それであえて放置してるとこも考えられる。そういう人なのは俺が1番わかってるつもりだし。

 

「お前で最後だ」

「ぐぁっ!」

 

 最後の一人を気絶させ、全員を風ですくい上げる。そのまま警察隊の敷地内に放り込んだ。すみませんが、あとは頼みますね。

 

 ことが住むと俺は仮面を外して街に戻る。時刻は朝の4時程。あと数時間すれば普通に千織屋の仕事が始まる。

 

「……たしか、今日はアクセ作るんだっけ?」

 

 俺は疲労と睡眠不足でフラつく身体にムチを打って、家に戻る。俺の顔がバレてるってことはこの家もバレてるな。後で引っ越さないと。

 

 仮眠を取りたいけど、このまま寝たらもう起きなさそうだ。俺はシャワーを浴びてコーヒーを飲み、できている隈をメイクで隠すと千織屋に向かった。

 

 

 はぁ、これで千織さんの好感度爆上がりしねぇかなっ。まぁ、バラしたら諸々そのまま殺し屋ってのもバレてクビコースだ。上がるわけないか。

 

 

「……はぁ、割に合わねぇ…って、ちげぇよ。俺がまいた種だっつーの」

 

 

 だから、千織さん達に話す訳にはいかないんだ。

 

 

 

 

 

 

 2日後。

 

 

 

「……クレイ、そこ間違ってるわよ」

「…あ、すみません…」

「何度おんなじとこでミスしてるのよ。集中しなさい」

 

 今日で前人未到の5徹目に入った俺は、正直なんで生きてんのかわからないくらいには疲労が溜まっていた。

 

 気を抜くと声が出そうなくらいには頭が痛いし、身体が重くてしょうがない。まるで肩にでっかい重りが乗ってるように手が動かず、さっきから千織さんに注意されるほどだ。

 

 食欲も皆無でむしろ戻してしまう。完全にやばいな。

 

 俺は千織さん達に悟られないように死ぬ気で普通を装いながら仕事をしていく……が。やはり限界が近い。裁縫が困難になってきた。

 

 はは、さすがにそろそろ死ぬかもな。

 

「……っ」 

 

 震える手を無理やり動かしたものだから、針が俺の手を突っついた。流れ出てきた血が布に落ちないように気をつけながら絆創膏を貼る。

 

「…はぁ。それはもういいから…貴方はこっちをやって」

「すみません」

「謝るくらいなら手を動かしなさい」

 

 それに、数日前から千織さんが少しピリピリしている。それも一昨日から連続してオーダメイドがキャンセルされているからだ。おそらくユーサーの手引きだな。そういうのもあって俺を注意する千織さんの声も少し刺がある。

 

 ……アイツ、やってくれたな。ただ妨害に関しては放置すると千織さんが少し判断した以上俺はそれに従うしかない。それに、手紙の5日間まであと1日。今日さえ耐えれば襲撃の方は治まる。

 

 あと1日だ。千織屋には指1本触れさせやしない。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

「…シッ!」

 

 袈裟懸けに走らせた剣が相手の短剣と打ち合う。剣を引きながらも風を顔に当ててたたらを踏ませると空いた腹に後ろ回し蹴りを叩き込む。

 

 飛んできた矢が俺の纏った風の鎧に弾かれる。それを気にもせずに飛びかかってきた敵の顔を掴んで床に叩きつけ、続いて斬りかかってくる2人の頭を空気の幕で包んで窒息させる。そして次の敵を風を使おうとしたら足元がフラついた。

 

「はぁ、はぁ……チッ」

 

 体力が下がっている。頭痛が酷いし普段の実力の半分も出ねぇ…。

 

「ははっ、あの白影の息が乱れてるぜ!他の組織が全滅したと聞いたが、ここまでコイツの体力を減らしたんなら大活躍だな」

 

 思わず膝を着いた俺を囲みながらニヤニヤと笑う裏組織の幹部らしき男。

 

「オラッ!」

 

 男が振り下ろした斧を転がって避けた先に矢が飛んできた。それを風の鎧で……。

 

「ぐっ!?」

 

 集中力が乱れ、風の鎧を矢が貫通した。咄嗟に身を捻って急所は避けたが、背中に刺さって動きが鈍る。そこに男の蹴りが炸裂した。

 

 声も出せずに吹き飛ばされた俺は壁に激突して血を吐き出す。気づけば仮面が衝撃で外れていた。

 

「ハッハッハッ!ざまぁねぇや。へぇ、どんな奴が中身かと思ったらまだ若造じゃねぇか。こんな奴に怯えてたのかと思うとバカみてぇだぜ」

「……」

「しかし、不気味な目だな。その目で見られてると悪夢見そうだぜ。ほら、死ねッ!」

 

 壁に座り込んでいた俺の首に斧が降りてくる。別に無策で黙り込んでたわけじゃない。俺はぽそりと切り札を口にした。

 

 

 

 

「……『我に、命の契約を』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、………はぁ」

 

 何とか敵を一掃した俺は、家に戻ると床に倒れ込んだ。やばい、この後仕事なのに、身体がもう動かない。……身体が寝ろ、休めと猛抗議していて言うことを聞いてくれない。震えるからだを必死に動かして傷の止血をする。

 

「……い、行かないと…!」

 

 俺は歯を食いばって立ち上がる。が、身体に本当に力が入らない。

 

「……ぅ、うおおぉぁあ!!……はぁ、はぁっ……ごほっ」

 

 多分の本当に身体が死に近づいてるんだろう、咳き込むと血が出てきた。

 

 血を飲み込み、全てを振り絞って立ち上がることが出来た俺は荷物を取ろうとベッドの上の鞄に手を伸ばしたところで。

 

 

 俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 目を開けると、俺はベッドにうつ伏せになっていた。回らない頭で何をしていたのか思い出す。……えっと、敵倒して、家帰ってきて、…仕事の………仕事っ!

 

 俺は文字通り跳ね起きる。時計を見ると午後14時。

 

「……やらかしたッ!」

 

 俺はカバンを引っつかむと家の窓から身を躍らせた。2階の窓から跳び降りた俺に通行人が声を上げるけどそんなことを気にしている場合じゃない。俺は猛ダッシュで千織屋に向かって走り始めた。

 

 その最中、通行人の声が気になって耳をすます。

 

「…千織屋、行くのやめた方がいいんじゃない?だって犯罪者のつるんでる店だよ?」

「そうだよね……デザインは好きなんだけど…」

 

 見れば千織屋の噂話をしている人はみんな新聞を片手に話している。

 

「…チッ、新聞を買収してきたか」

 

 ともなれば、尚更千織さんが心配だ。旅人がいるとはいえ様子を見に行かないと。

 

 俺は寝たことによって多少良くなった身体を動かし千織屋の前に到着した。

 

 休店中と書いてある扉を開ける。てっきり中にみんないると思ってたけど、居たのは千織さんが1人だけ。

 

「………」

「すみませんっ、遅れましたっ!」

「………」

 

 彼女が一言も発さない。半日何も言わず店に来なかったのだ。怒るもの当たり前。俺は椅子に座る千織さんの正面で頭を深く下げた。

 

「…顔を上げて」

 

 千織さんが椅子から立ち上がりながらいつもの調子で言う。

 

「ねぇ、今日はなんで遅れたわけ?」

「すみません…寝坊しました」

「…そう。貴方にしては珍しいわね。……まぁそれはいいとして、今朝店に変な写真が届いたのよ」

「写真ですか?」

 

 なんだろう、まるで尋問されているような雰囲気を感じる。

 

 彼女の顔を見るといつもの調子と言った感じで、腕を組んで静かな目で俺を見ている。

 

 写真を受け取って中を見てみると、俺は目を疑った。

 

「…え」

 

 写真には俺がユーサーや黒ずくめの男達と話しているところが写っていた。まるでなにかの打ち合わせをしているような雰囲気。ユーサー以外の奴らは、殺し屋時代に指名手配で見たことがある。どいつもこいつも裏の組織の幹部以上だ。

 

「……これ、貴方よね。どういうことか説明して貰えないかしら?」

「……」

 

 俺は写真のような場面があったか必死に記憶の中を探る。……いや、こんな記憶はない。だが写真に撮られている。

 

「……いえ、こんな写真を撮られるような…ユーサーと、他に人がいた場面で話した記憶はありません」

「…そう。……正直に言うけど、私は今貴方をユーサー側のスパイだと疑ってる。千織屋のメンバーとして疑いたくは無いけど、ユーサーからあれだけ来てた妨害が貴方がここに来た途端に無くなったし、貴方がここ数日間仕事に身が入らなくなった途端に妨害が再開した。……トドメにこの写真よ。どこの誰が撮ったかはわからないけど、ちょっと偶然と考えるには難しいわね」

「……」

 

 …こりゃ向こうに一杯食わされたか。写真をどう撮ったかわからないが、ユーサー関連の妨害に俺まで巻き込みやがった。

 

 ここで否定するには、俺のことを全て話さなければならない。俺が、殺し屋……人殺しだってことも。そのせいでユーサー以外の余計な奴まで引き込んだことも。全部彼女にバラさなきゃならない。

 

「……だんまりかしら?前から君の素性が不確かなのが気になってたのよ。でもシュヴルーズやフリーナは何か知ってるみたいだったからさっき行ってきたのよ?それでも2人は君のことを教えてくれなかった」

 

 千織さんはコツコツとこちら歩いてきて、俺の目をじっと見上げる。

 

「貴方、何者?」

「……っ、それは…」

 

 言ってしまいたい。俺が「白影」だって。ここ数日寝ないでずっと千織屋を守って戦ってたって。俺は千織屋を裏切ってなんかない。むしろ本当に好きな場所だから俺は仮面を再び被ったんだって。

 

 ……しかし、俺の口は縫い付けられたように動かなかった。心の奥底から、仮面を被った俺が言い聞かせてくる。

 

 そうだ。何を悲しんでいる?当たり前だろ。素性を隠して千織屋に入ったんだから、ユーサーは関係ないにしろ、スパイと何か違うんだ?

 

 これはツケだ。裏の人間の癖に、人殺しのくせに、一丁前に人として生きようとした罰だ。俺が、自分で千織屋を壊しかけ、それを自分で防いだだけのマッチポンプ。何が「千織屋を守っていた」と言うのだろうか。

 

「……俺…は…」

「………」

 

 もう2分は黙り込んでいただろう。俺は知らず知らずの内に彼女に「気づいて欲しい」という視線を送っていたことに気がついて目を逸らす。何やってんだよ。全部俺が引き起こしたことじゃないか。何助けを求めようとしてるんだ。

 

 音ひとつしなくなった空間に、千織さんのため息がひとつ響いた。

 

「……そう。その沈黙は認めたと受け取るわよ」

「っ…」

「………そう」

 

 千織さんが俺から離れる。机の上に置いてあった紙を取ると、戻ってきて俺の胸に突きつけてきた。

 

「……クビよ。……理由は、わかるわよね?」

「……はい」

 

 これでいい。これでいいんだ。これで千織屋に被害は行かなくなる。俺に恨みがあるからって俺の周りに危害が降りかからなくなる。

 

 顔を見られないように後ろを向いた俺の背中に、いつもの彼女の声が静かに響いた。

 

「……出ていって」 

「…はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これでいいんだ」

 

 千織屋を後にした俺はとぼとぼと街を歩く。渡された解雇書にサインをして出ていく時に辛うじて出た「お世話になりました」は、「こっちこそ、いい教訓になったわ」という皮肉で返されて、俺と千織さんの最後の会話は終わった。

 

 これで良かったんだ。元を辿れば、俺が気まぐれを起こして後先考えずに行動したのが全部悪い。彼女の事だ、そもそも俺がいなくてもユーサーを跳ね除けファッションウィークを成功させたかもしれない。千織さんには旅人やナヴィア、シュヴルーズのような頼れる友人もいることだし、最初から俺があの輪の中に入るべきじゃなかったんだ。

 

 切り替えよう。この3ヶ月はとても楽しかった。俺の人生の中でももう超えるものがないと断言できるほどには。だからこの思い出を胸に大切にしまって、もう一度フォンテーヌを千織屋を影から守ろう。

 

 ーーあそこに、俺は居ない方がいい。

 

「……壁炉の家にでも行くか」

 

 なんか、こう決意は決めたのになんか胸に穴が空いたような気がする。何も考えていないとため息が出てしまいそうだ。

 

 これが失恋ってやつかな。

 

 そんなことを考えながら、俺は壁炉の家に向かって歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 でもとりあえず、あのユーサー達はぶっ潰す。

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