お願いします千織さんっ!こっち見てニコッてしてください!!   作:猫好きの餅

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彼の居なくなった店で

 

 

 

 

「…はぁ」

 

 先程まで店員だった男が店を出ていくのを見送った千織は、ため息を吐きながら椅子に腰掛けた。内心が口からこぼれ落ちる。

 

「……なんで、否定してくれないのよ…」

 

 

 

 

 

 

 彼への疑惑が確信となった写真が送られてきたのは今朝のことだ。

 

 このテイワットで「写真」というものは、数ある中での最大の情報源として扱われている。写真器は高価なもので流通し始めたのも最近。一般的に加工、合成なんていうものはそもそも概念として無い。

 

 偽装と言うなら撮られた人が変装をすればできないことはないが、千織が見た写真に写るクレイは服装、体格、顔や髪も本人のものだった。誰が撮ったか、何故店に送られてきたかはわからないが、事実を確認する必要があると千織は彼を待った。

 

 …しかし、クレイは来なかった。一応家に行ってみたが鍵かかかっていたし、戸を叩いて名前を呼んでも物音1つしない。不在と判断した千織はその足でフリーナとシュヴルーズのところに会いに行った。

 

 なぜ2人に会いに行ったかと言うと、クレイと元から知り合いみたいだったからだ。シュヴルーズとフリーナを呼び出して、写真を見せた。目を見開いた2人に「クレイの事で何か知っていることはないか?」と問うた千織だが、2人は口を揃えて「話せない」と言ってきた。

 

 それを聞いて、当然千織は憤慨する。理由を2人に聞いたがそれでも教えてくれなかった。

 

 フリーナとシュヴルーズがクレイの詳細を話さなかったことには理由がある。まず、千織の話を聞いて「そもそもエージェントを辞めた関連も嘘で、何かの重大な任務に着いている可能性」が出てきたのだ。

 

 …もし、そうなのだとしたら自分達がクレイのことを話す事で彼の邪魔になってしまうかもしれない。彼もが千織に伝えてないということはそういう事なのだろう。それにフリーナは直接口止めをされている為、どうしても首を横に振らざるを得なかった。

 

 千織のクレイへの謎は深まるばかりだ。なぜ自分には黙っているのか。千織を信頼していると言っておきながら自分のことは何も教えてくれないじゃないか。そう考える彼女にとって新聞で撒かれていた千織屋のデマ情報はどうでもいい事だったが、協力関係にあった業者や予約していたモデルが軒並みキャンセルをくらい、千織の思考は現実に引き戻される。

 

 直談判しに行ったが結果は無駄に終わり、千織屋の悪い噂を話している住民の声を煩わしく思いながら店に帰ったところで、ようやくクレイが来た。

 

 千織はクレイに写真を見せた。その反応を見ると困惑、が強いだろうか。撮られていた事実よりも写真に写る場面自体を不可思議に思っているような気がした。

 

 だから、千織はまずありえないと考えた推測を彼に問うた。スパイ疑惑に至った理由もこじつけに過ぎず、彼は即座に否定してくれると信じていた。それを受け取ったあとで話を進めようとしていたのだ。何でもかんでもストレートに聞く彼女らしからぬ、話し辛そうにしている彼を思っての発言だった。

 

 

 

 ーーしかし、クレイは何も答えてくれなかった。

 

 

 自分の立てた彼を疑う理由は言い掛かりと合われても差し支えがないもの。何か自分に言えない事情があるのだとしても、否定しやすいように投げた質問に「それは違う」と返すだけ。そうすれば千織の懸念は晴れ、なにか協力出来るかもしれない。そう考えていた千織の目論見は目を逸らして黙り込むクレイに砕かれた。

 

 

 

 そして、今に至る。

 

「……本当にスパイだったってこと?…でも、それならアイツからも妨害をされるはず。いちばんそれがしやすい場所にいて、何を……?」

 

 ただ、目的がわからなくてもそういう対応をされたからには千織としても追い出すしか無かった。それなら最初から「何があったのか話しなさい」と言えばよかったのか。写真をもう一度見ても、何度観ても本人にしか見えない。この特徴的な白髪と赤眼はクレイのものだ。顔立ちも一致する。

 

 千織は立ち上がり、バックヤードに入ると綺麗に整理整頓された棚を見る。だいぶ前に作った小物や、設計に使う道具が置かれている棚を指でなぞると、ホコリひとつ落ちてなかった。

 

 ちなみに、クレイに渡した紙は解雇届とは書いてあるが、千織はサインしていない。仮にアレをクレイが書いてパレ・メルモニアへ持っていっても受理はされないだろう。本当に口先だけの解雇だ。

 

「…らしくないこと、するんじゃなかったわね」

 

 そう呟いた矢先、扉がばんと開いた。

 

「千織っ!大丈夫か?」

「先に帰っちゃったけど、大丈夫?」

「旅人、パイモン。…えぇ、大丈夫よ。ちょっとさっき、クレイが来たわ」

「……え、クレイはなんて?」

 

 この2人も写真のことは知っている。千織が先程会ったことを伝えると2人は顎に手を当てて考え始めた。

 

「……黙り込んでたってことは、スパイって認めたのか?…でも、なんか違和感がすごいぞ」

「……うん、クレイらしくないって言うか…、そんなことする人なのかな?シュヴルーズ達は?」

「ダメだったわ。余程重要なことみたいで、どれだけ頼んでも話してくれなかった」

「ほんとに何者なんだよ…?」

「千織っ!大丈夫っ!?」

 

 すると、扉が空いて金髪ロールのお嬢様が入ってくる。急いできたようで息を切らせていた。

 

「…ナヴィア。噂を聞いたの?」

「うん。今朝新聞を読んで…。でも良かったやっぱり千織はへこたれて無い……あれ?クレイは?どっか買い出しにでも言ってるの?」

「……そういえばナヴィアってクレイと知り合いなの?」

 

 前に街で出くわした時に2人の態度が変だったことを思い出した千織が問うと、ナヴィアの目が泳いだ。千織の目が細まる。

 

「旅人、パイモン。確保」

『了解っ!』

「えっ、ひゃあああ!?」

 

 

 

 

「で、何が聞きたいのよ?」

 

 数分後、取り抑えられたナヴィアがズレた帽子を被り直しながら、頬を膨らませて言う。

 

「…事の顛末は今話した通りよ。クレイの正体、貴方は知ってるんでしょ?それを教えてくれないかしら」

「………今の感じだと、他に宛がある人には断られたんだ」

「ええ。シュヴルーズ隊長とフリーナにはあえなくね」

「…まぁ、その2人は話さないでしょうね」

「……やっぱり、知ってるのね」

 

 千織の問いかけにナヴィアは少し黙り、こちらを見守るパイモンと旅人と目を合わせる。彼女達の顔を見たナヴィアは、はぁとこめかみを抑えてため息を吐いた。

 

「……ほんとに話しちゃダメなことなんだけど……まぁいいか………わかったよ。話す」

「ホントかぁ!?」

「…なんか、問い詰めといてなんだけど話していいことなの?」

「ダメだよ。…でも友達に本気で頼まれてそれでも話さないのはちょっと違うかなって。…あ、フリーナ達のことを責めてるんじゃないよ?むしろあっちが正解の対応だから…」

 

 どうやら話す気になってくれたらしい。ナヴィアは「まずね」と最初に結論から話し始めた。

 

「クレイの前の職業なんだけど、…白影って知ってる?」

「…名前くらいは。確かエージェントよね」

「オイラ達はその人に1回会ったことあるぞ?な、旅人」

「うん、パレ・メルモニアで1回だけ。仮面の人だよね」

「…その人、クレイね」

「ええええ!?」

 

 パイモン達にとってはまさかの話にびっくりして飛び上がった。

 

「……そのエージェントがクレイってこと?じゃあ何か任務でここに入った、ということかしら」

「そこはあたしにもわかんない。エージェントやめて千織屋に入った!一目惚れした!って言ってたのは聞いたけど、それが本当に任務じゃないのかどうかは判断つかないかな。だからフリーナ達も話せなかったんだと思う」

「…なるほどね。だから映影の時あんなに動けてたんだ」

「ああ、あんたたちの映影に出てた暗殺者のことでしょ?当然よ。多分結構手加減してたんじゃない?」

 

 すると、クレイの正体を知って1つ思い出したことがあったらしい。旅人とパイモンが声を上げる。

 

「……え、でもさ。私達が会った時、目が…」

「そうだぞ!瞳の色が、あの召使と同じだったんだ!」

「……私はその人と面識ないからわからないけど、どんな瞳なの?」

「クレイの本当の目は黒に紅いクロスが入ってるんだよ。あんまり詳しくは聞いてないんだけど、親戚とかなんじゃない?だから普段は仮面から見えるその目の色を隠して過ごしてたんだと思う」

「なるほどね。……そんな大物がなんでここに入ったのか…今考えると、私に対する発言も嘘の可能性があるってことになるし」

「いや、それはないと思うよ」

 

 即座に否定したナヴィアに全員が視線を向ける。彼女呆れたような顔で。

 

「あんなにはしゃいでるクレイ、見たこと無かったもん。…千織に惚れたのはホントなんじゃない?」

「ふん、どうかしら。……ちなみにアイツってファデュイなの?」

「んーん。たしか違うと思う。色んなところから依頼受けてたし」

 

 千織がそういえばパレ・メルモニアにいたのもそっち関連のことだったのねと考えていたところで、再び千織屋の扉が開いた。外から桃色の髪の少女が慌てたように駆け込んでくる。

 

「ち、千織さんは無事っ!?」

「シャルロットじゃないか!どうしたんだ?」

 

 尋ねてきたのはスチームバード新聞の記者シャルロットだ。はぁはぁと膝に手を着いて息を整えながら手に持った新聞を見せてくる。

 

「け、今朝の新聞読んだらいてもたってもいられなくて…。…これ、全部デマ情報じゃないっ!こういう記事をスチームバード新聞は書かないからって、他の二流新聞社を買収して千織屋を攻撃しようしてるなんて…!」

「とりあえず落ち着きなさい。私は大丈夫だから。……そうだ。いいところに来てくれたわね」

「い、いいところ?」

 

 千織はシャルロットの背中を摩ってやりながら、件の写真を千織に見せた。そしてココ最近あった出来事をクレイの詳細を除いて彼女にも話す。

 

「え、えっと、つまりこの写真が、クレイさんが怪しまれる一番の証拠ってことね。……っていっても、変装でもしてない限り、撮られた一枚の写真を……あ、ああぁああ!!」

「わっ、びっくりしたぁ!」

 

 なにやら突然叫び出したシャルロットにびっくりする一同。どうしたのかと聞かれる声もスルーして、シャルロットは写真にライトを当てる。

 

「……やっぱり!」

「どうしたの?」

「この写真がどうかしたの?」

 

 写真をに強くライトを当てる彼女にみんなが顔を寄せる。シャルロットは写真に写るクレイの周りに指をさした。

 

「ここ!クレイさんの周りだけ、ちょっと空間が歪んでる!本当によく見ないとわからないけど」

「…あ、これ、もしかして」

「何よ旅人。何か分かったの?」

 

 他の世界を渡り歩いてきた旅人も合点がいったらしい。

 

「多分だけど、これ合成か加工されてない?」

「加工?そんなことできるの?」

 

 千織とナヴィアにとっては寝耳に水の話だ。写真とは、強く光を当ててそれを焼き付けた物だ。そんなことができるなんて思いもしなかった。

 

「うん、合成ってこと自体が印象悪いから新聞じゃまず使われないけど、元の写真を切り取って貼り付けて、それをもう一度撮影すればできるとは思う。ここまでわかりにくいのは私も初めて見たから断言はできないけど。こんなの誰でも騙されるわ」

「……そう、だったのね…」

 

 ここでようやく、千織の肩から力が抜けた。クレイのことを考える上で1番の障害だったものが無くなったのだ。

 

「…千織、よかったね」

「……うん、とりあえず、クレイの疑惑はこれでほとんど解けたわね。……あとは、なぜそれを言わなかったのか…」

「そこなんだよね…」

 

 これでクレイの無実はほぼ確定となった。あとはなぜ彼が黙っていたのか、そしてなぜ質問に答えなかったのか。もうこれは本人に聞いてみる他ないと顔を見合わせて頷いたところで、また千織屋の戸が叩かれた。

 

「今度は誰?全く、今日はお客さんが多いわね」

 

 駆けつけてくれたのだとしたら、心当たりの残りはシュヴルーズやフリーナ辺りだろうか。そんなことを考えながら戸を開けた千織は、………そこに立っていた人がクレイだと一瞬本気で見間違えた。

 

「…えっ、クレ……イ?」

「…あながち間違いでもないが、人違いだ。………少し、良いだろうか?」

 

 彼と同じ色の髪を一つにまとめ、灰色と白の露出の少ない格好。先程聞いた黒に真紅のクロスが入った瞳で千織を見据えながら。

 

 

 

 ーーー尋ね人、アルレッキーノは微笑んだ。

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