お願いします千織さんっ!こっち見てニコッてしてください!! 作:猫好きの餅
千織は決心後、すぐに行動に移った。
ファッションウィーク賞を取り、デマの解消とクレイを呼び戻す。その全てをこなすと決めた千織はまずは服の作成へと取り掛かった。
ファッションウィークで見せ場を作ってからデマに反撃をする気らしい。そしてクレイの事に関してはアルレッキーノから「3日後、ユーサーの工房に来るといい」と聞かされている。元から不正の証拠を撮りに行くつもりだったので頷くと、彼女は千織屋から歩き去っていった。
服の作成で壁となるアクセサリーや布不足問題は、クレイの作ったものをいくつか拝借させてもらった。どれも即採用できるレベルの出来だったし、少しでも千織屋の祭典に、店を守り抜いてくれたクレイの要素を出したかったのだ。
そして布は千織屋にあった服を分解して再利用し、リネやリネット、棘薔薇の会の手助けもあって2日で服自体は完成となった。
そして、今千織と旅人はサーンドル河にあるユーサーの工房の前に居る。
「……ここがユーサーの工房?」
「地下にあるってところが胡散臭いぞ」
「ここの方が隠しやすいものがあるって事かしらね。…行きましょう」
千織と旅人、パイモンが中に進むと、小綺麗な部屋でロボットが迎えてくれる。ユーサーの工房は常に一般開放されているのだ。それにしては人気がない室内を説明を受けながら進んでいく。
「……クレイは来ているのかしら」
「召使が言うには、オイラたちと同じ目的で来ているらしいぞ。このまま進めばどっかで会えるんじゃないか?」
「……」
黙りこくる千織を心配そうに見る旅人とパイモンだが、その目には固い決意が宿っているように見えた。
「…クレイは何がなんでもウチに連れて帰るわ。だから、まずはここの問題を何とかしないと。…行きましょう」
「そうだね」「おう!」
その後も道なりに進み、試着室を調べに入ったところで異変は起きた。なんと試着室が動き出したのだ。千織達は転ばないように壁に捕まると、それぞれ獲物を抜いて事態に備えた。
「…ここがあんちくしょうの工房か?」
人気のない工房内を歩く。仕事だけどもう仮面はしてないし、カラコンも外してる。もう隠す必要もないしね。
俺はざっと一般開放されているエリアを調べるが、特に怪しいところはなかった。やっぱり奥に隠されているか?そう考えながら奥の試着室を見て。俺は止まった。
「……試着室が、ない?」
試着室の一角が、ぽっかりと穴が空いていた。そこまで見たところで、1つの可能性が浮上する。
「…まさか、千織さんたちが?」
そう考えた時、口角が自然と少し上がってしまった。やっぱり、ファッションウィークも店の評判も諦めないよな。それならファッションウィーク当日の今日に不正を集めに行くのも頷ける。
「…出来れば、会いたくないなぁ」
俺はもう店を去った身。その状態であんな暖かい場所に触れればこれからの任務に支障が出るかもしれない。
でも、彼女の身の安全の方が断然優先度は上なので、俺は急いで試着室があった場所の下を覗いた。暗くてよく見えないが、壁の側面にレールがあるところを見ると即落下、というわけでは無さそうだ。ユーサーとしても工房で死者を出す訳にはいかないからな。
彼女たちが何人で来ているのかはわからないが、恐らく工房の深部に誘導されたな。ということは、あちらに俺たちの動きがバレているということ。
「…まぁ、行くしかないよな」
どの道この先にユーサーの不正の証拠があるみたいだし、もし何かあったら千織さん達の救出も視野に入れて俺は風を纏うと迷いなく奈落に飛び降りた。
風元素で着地した先は、案の定工房の深部のようだった。というか服を作っているとは思えないほどに不衛生で、下に溜まった水から腐敗臭が臭ってくる。
「…アイツ、よくこれで千織屋の素材に文句つけてきたよな。目ん玉ついてんのか」
俺は持ってきた写真機で写真を取りながら進む。途中壊されたガードロボの残骸が見える当たり、千織さん達が先に通ったのだろう。ちょこちょこ降ってくるプレス機的なものを避けながら進むと、恐らく倉庫だろうか。閉じた扉が見えた。辺りを見るが空けられそうなものは無かった。
…なんか、扉の造りといい堅牢さといい重要なものを隠すためにありそうだし、中に入りたかったんだけど。とりあえず引き返すか、と踵を返そうとした俺の耳に風切り音が届いた。咄嗟に身体をずらす。
ヒュッ!
一瞬前に俺の心臓があった位置を投げナイフが通り過ぎ、扉に深々と突き刺さった。見るとナイフがバチバチと帯電している。俺が腰から二刀を抜き放つのと紫電の光がさらに飛来するのは同時だった。
俺の顔目掛けて飛んできたナイフを刃で弾き、あえて飛んできた方向に進む。靴裏に圧縮した風元素を発生させて一直線に翔んだ。途中飛んでくる10本を超えるナイフを全て正面からたたき落とし、襲撃者が忍んでいた大きなパイプを切り落とす。
風を纏い斬れ味を増した刃はバターを切るように鋼鉄のパイプを通り抜け、裏にいた人物の頬を掠めた。俺がそいつにさらに踏み込もうとすると、今度は後ろから破裂音が聞こえる。俺の前にいる影が身体をずらすのを見て飛んでくるものに当てが着いたので同じく身体をずらして躱した。
「…ちっ、これを避けるのかよ」
後ろの影から聞こえるイラついたような声。俺を前後から挟むようにして出てきた2つの影は、同時にフードを取った。
「…誰かと思えば、前に潰したところの坊ちゃん共か」
「へへっ、お前の素顔はそんなだとはな。仮面がねぇと怖くもねぇ。……親父の仇、討たせてもらうぜ」
「お前のおかげで裏じゃ1番だった俺の地位は真っ逆さまだ。散っていった仲間の為にも、ここで消えて貰う」
「字面だけ聴くとまるで主人公だな。…ユーサーに入れ知恵をしたのもお前らか。写真の加工とか、いつの間に出来るようになったんだよ」
「…はは、その通りさ。あれだけ懐柔されていた所を追い出されたんだ、多少ダメージははいったろ?」
「ああ、お陰様でな」
軽口を叩く間にも雷を纏ったナイフと、向けられた銃が俺を警戒している。
「…そういや、お前らずっとここに張り込んでたんだろ?さっきここを超美人の店主が通らなかったか?」
「あ?それを答えてなんになる?」
「……ククッ、まぁそん中じゃないか?死んではないと思うぜ。…俺たちの標的はお前1人。アイツの元カノへのリベンジなんてどうでもいい」
「はっ、かわいそうなことで。……今の口ぶりだと、まるで俺を殺せるみたいな言い草じゃん?…あと千織さんに元カレがいる訳ねぇだろぶっ殺すぞ」
俺の挑発に、銃を持っている短気そうな方がギリリと奥歯を噛み締める音が聞こえる。その直後、ナイフ使いの腕が動いた。どうやら雷の神の目を持っているらしいソイツのナイフが銃弾に近い速度で飛んでくる。銃弾より重いそれを風で防ぐことは不可能なのでその場から飛び上がって避ける。そこに、俺を狙った銃が火を吹いた。
「チッ」
普段ならこんなことになる前に窒息させるのだがここは地下。そして今戦っている場所は倉庫の前の狭い通路だ。空気の量に限りがあるし、つまり空気を操ると言ってもいい俺のいちばん苦手な場所。
俺は音速を超えて飛んでくる銃弾の射線を読んで空中で身を捻って躱すと、空気を圧縮して足場を作る。それを蹴って、今度は銃使いの方に飛びかかった。基本的に銃は1発撃ったら再装填が必要になるので、そこをつこうという算段だ。ちょうど位置がナイフ使いと銃使いの線上になるように調整したからナイフも投げられないハズ。
とか思ってたんだけど、俺が裏から離れている間に技術的な進歩があったらしい。
「…っ!?」
「ハハッ!かかったな!」
なんと、銃から2発目の弾が出たのだ。本当に直前に気がついた俺は双剣で急所を守りながら回転をする。
「っ」
「や、やったぜ!」
完全には避けられず、よりによって肩の神の目に弾が着弾してしまった。俺の肩から落ちて床に転がる神の目をナイフ使いがすかさず拾い上げる。体勢を崩しながらも着地して銃使いの方をよく見ると、銃のボディに円柱のようなものが埋め込まれてあった。それが60度ほど回転したのを確認した俺はすぐさま転がる。直後その場所を3発目の銃弾が穿った。
「…いつから銃連射出来るようになったんだよ」
「…最近だよ最近。…これで終わったなぁ?お前の強さの大半はこの神の目だ。これさえ封じれば…」
「…ここのロケーションといい、俺意識しすぎじゃねぇの?」
「そりゃ仇だからな。…死ねぇっ!」
「うおぉぁ!」
音速で飛んでくる2つの鉄の塊。それを刃で逸らしながら飛びかかってくるナイフ使いの相手をする。
やはり裏の組織で2番手を張っていただけあって、どちらもかなりの手練だ。一騎打ちなら負けは無いだろうが2人がかりとなると結構キツイ。
しかも2人のコンビネーションは脱帽レベルで、高速でナイフを振ってくる奴の後ろから的確に射撃が飛んでくる。さっきから対面のナイフ使いを盾にしようとしてるけど、コイツはコイツで背中に目があるんじゃないか?俺の攻撃に対する回避動作と同時に今身体があったところに後方から凶弾が飛んできた。
正直逃げて立て直したいけど、俺が逃げたことによって中にいる千織さんたちの方にコイツらが行ったら目も当てられない。千織さんだってかなり強い方だとは思うけど、コイツらは本物。殺しに対しての価値観が根本的に違う。
「…ちっ、なかなかやるなお前ら」
「…これでも死んでくれねぇって、バケモンだなやっぱり」
「神の目をもぎ取って2人がかりでやっと互角か」
「結構褒めてくれるな?あと、互角じゃなくて普通に不利だ。キツイ」
一応、切り札はある。ただこれの使用を姉さんから止められてるんだよな。だからとりあえずこのまま打破できないかやってみてるけどなかなかに厳しい。
俺を挟んで立つ2人に向かって双剣を構えていると、銃使いの方が壁に銃口を向けた。
バンッ!
俺が止めるまもなく発射された鉛玉は、壁に埋め込まれていた装置を破壊する。その直後、工房内にアラートが流れ始めた。
『設備の破壊を検知。不法侵入を受けました。これより駆逐モードを起動します』
そんなアナウンスが流れると同時に、壁が開き、その中から大量のロボットが沸いてでる。ロボットたちに2人はブレスレットのようなものを見せると、そいつらに向けていたロボットの銃が一斉にこちらを向いた。
「…おい、マジかよ」
「あいつから怒られるから、これだけは使いたくなかったんだがな」
「微塵も思ってねぇだろそんなこと」
ロボットの数だがざっと20。通路も狭いしぶっちゃけ生身で対処するのは不可能に近い。
奥の手を使おうとしたところで、そのロボットの足音が扉の向こうから聞こえてきた。そして数がこちらよりも遥かに多い。
「……クソが。そりゃ倉庫の方が警備厳重だよな」
「いけっ!こいつを殺せっ!」
男の合図でロボットが一斉射撃を始めた。炸裂音が爆竹かのように鳴り響き、弾幕というのも生ぬるい、弾の壁が俺に迫ってくる。
……やべ、死ぬ。
俺は右手を顔を覆うように当て、目に
奥の手。
「ーーー我に、命の契約を。」
──────────────────
『設備の破壊を検知。不法侵入を受けました。これより駆逐モードを起動します』
「な、なんなんだよ!オイラ達何も壊してないぞ!」
「とりあえずここから出よう!」
「うん、あ、あそこから出れるみたい」
突然鳴り響いたアラートに驚いた3人は、沸いてでるロボットを倒しながら出口を探していた。自分たちが来た道は扉で閉ざされてしまい、引き返すことは出来ない。すぐに前進を決断した千織たちはクレイの戦闘音を聞く事が無かった。工場の稼働音で銃声が掻き消されていたということもあって、突然鳴り響いたアラートに歯噛みした3人は上にある出口を目指す。
「…結局、クレイとは会わなかったな」
「…そうね」
「それか、もしかしたらアラートを鳴らしちゃったのがクレイなのかもしれないよ?」
「召使さんの口ぶりだとアイツ、かなり凄腕みたいだし、そんなヘマはしないんじゃないかしら」
クレイという人物は、要領の塊と言っても過言では無い。一度教えた言葉1回はで習得するし、質問も的確。教えていて気持ちが良かったのを覚えている。クレイがいたらもっと早く用意が終わったかもねとそんなことを考えた千織は短く瞑目して目を開いた。
「会えなかったら会えなかったで、ファッションウィークが終わったあとに居場所を聞き出して引き摺ってでも連れて帰るわ」
「こ、断られたらどうするんだよ?」
パイモンにそう問われ、千織の口が止まる。その線を考えていなかったあたり彼女の信頼の量を示しているのだが、断られる場面を想像して顎に手を当てる。……それでも、考えついた言葉一つだった。
「まぁ、ひとまずお礼と謝罪は絶対する。それで断ってきたら、勝負を挑むわ」
「勝負!?クレイと戦うのか?」
「だって、口で言っても無駄ならもう身体でぶつかるしかないでしょ?…今の私の店には、アイツが必要なの。連れ戻すって言ったんだから絶対に成し遂げるわ」
「な、なぁ旅人。……これってつまり」
「パイモン、しーっ」
何やら2人がコソコソしているが、千織の意識は揺るがない。振ってくるプレス機や襲ってくるロボットを両手の刀で返り討ちにしながら工房を進んでいくのだった。
少し走ると上に続く道が見えた。どうやら機械を整備する時に使用する道らしく、詰まったホコリや汚れから何年も手入れしていないのは明白だった。それらを写真に収めながら走り、何とか最初入ったところに戻って来ることが出来た。時計を見るとファッションウィークまで一時間を切っている。
「もう時間がないわ。早く出ましょう!」
旅人達と顔を見合わせて頷き、出口から走り出ようとした矢先。その奥からロボットか6機ほど顔を出した。思わず足を止めてしまう3人の後ろにさらに3機現れる。
武器を構えた旅人と千織の耳に、若い男の声が届いた。
「へぇ、まさか下の包囲を抜け出すとはな」
「ユーサー!」
奥の階段から降りてきたユーサーは、不適な笑みを浮かべている。
「もう不正の証拠は掴んだぞ!これを新聞で流したらお前は終わりだ!」
「ふん、その証拠を握っているお前らがここから出られる根拠はあるのか?」
ユーサーが手を叩くとロボットが迫り始める。
旅人が身構える中、それでも自然体を崩さない千織は腰に手を当ててため息を吐いた。
「また警備ロボ?本当に懲りないのね。これにつぎ込むモラがあるなら、ちょっとはまともな事に使ったらどう?」
「俺にとっちゃ、これがまともなことだ!」
「千織屋を潰すことが?それとも、薄汚い服を作ることかしら」
「…ファッションが、ただの滑稽な茶番劇だと証明することだ。無知なやつが騒ぎ立ててるだけに過ぎないとな」
「…はぁ、君はファッションの時流に囚われ過ぎよ。それが嫌なら、自分でそれを変えるべきだわ」
「この後に及んで説教はやめろっ!お前らはここから出さない。ファッションウィークが終わるまではな!」
そういいこっちに詰め寄ってくる。千織は尚も変わらずに口を動かす。
「昔のあなたはそんなのじゃなかった。それが今は憧れていたファッションを恨むなんてね。ほんと、情けないわ」
「情けないのは、テイワット全土にブランドを広めるなんて白昼夢を見ているお前の方だっ!!お前の店の評判は地の底に落ちた。フォンテーヌにすら居られなくなるんじゃないのか!?」
「…ふん、それはまだわからないでしょ?…確かに君が言う通り、夢を追い求める人は馬鹿なのかもね。…でも、そんなバカにもなれないような弱虫共の方がよっぽど情けないわ」
「なんだと!」
今の千織の発言は、ユーサーの箍を外すには十分だった。懐から銃を取り出し、千織に突きつける。旅人が動こうしたが彼女に手で制された。
千織の手が背中の刀に伸びたその瞬間。……後ろから音が響いた。
ギャギャリギャリギャリ!!
何かが噛ませ合う音に、その場の全員が音の方向を振り向いた。
その音は千織達を閉じ込めた試着室があった場所から鳴り響いている様で、部屋が下がったせいでぽっかりと空いた空間にどんどん音が近づいていく。そして、まるで逆再生かのように勢いよく試着室が土煙を上げて到着した。勢いが早すぎて試着室が歪んでしまっている。
あまりの予想外の光景に全員がぴくりとも動けずにいると、閉ざされていた試着室の扉に剣閃が走った。数秒の後に扉がけたたましい音を立てながら吹き飛ぶ。
ーーーコツ、……コツ、……コツ。
そして、試着室の中から響く足音。千織と旅人には聞き覚えのある音と、そして威圧感だった。
「な、なにが起こっているんだ!」
我に帰ったユーサーは、空間を支配する暗く重い威圧感に顔を歪ませながら手にした銃を試着室に向ける。今の衝撃で照明が落ち、中の様子がわからない中で、足音だけが不気味に聞こえた。
ーーーコツ、……コツ、………コツ。
だんだんと、足音が大きくなってくる。その方向に目が離せなくなっている4人の視界に先ず最初に映ったのは「紅」。
ふたつの紅いクロスが闇の中で煌めいている。…そしてついに、乱入者は闇の中を抜けた。
「……クレイ」
ーーー更衣室から異質の登場をした千織屋の元店員は、冷めた目で場を見据えた。