お願いします千織さんっ!こっち見てニコッてしてください!! 作:猫好きの餅
どうも、最近掛け持ち作品が5作を超えたバカです(バカ)。
それに加えて執筆時間が取れなくなって来ているので更新頻度は落ちてしまいますが、エタることは絶対にないのでご安心を。
千織さんに手を握られて消滅してから、また少し時間が過ぎた。
ファッションウィークで衣装に使えなくなってしまった店内の服をあらかた元に戻せたので昨日から店が再開。
ファッションショーで賞を捕り、ブランドロゴまで出来た千織屋の評判はうなぎ登りで、今日もオーダーメイドの依頼が沢山来ていた。なのでここ1週間はずっとオーダーメイドの作成にかかり切り。男性服の調整のサポートは俺がやらせてもらっているので、千織さんと共同作業ができて幸せっす。
そんなこんなで日々が過ぎていき、ようやくひと段落が着いたある日。俺は店内で品物を見る人の接客をしていたのだが。
……先程も言ったように今回で千織屋の客足はとても増えた。つまり、当然客層も広がるわけで。
「ねぇクレイさんっ、この服とか似合いますっ?」
「ええ。そのワンピースでしたら、今お履きになっているサンダルとも合いますよ」
「やったっ、買っちゃおうかな〜」
「クレイさん、私にはどれが似合うと思いますか?」
「そうですね…、こちらのワンピースなんてどうでしょうか?そこの帽子と一緒に着ると似合うと思いますし、セットで安くなりますよ」
「…そ、そうですかっ?…えへへっ」
俺は少し前から評判を聞いて訪ねてきた若い女性2人組の相手をしてるのだけど、なんか距離が近い気がする。店の前で入るの迷っていたのを見たから案内したのは俺だけど…、今では名前も覚えられて積極的に絡んで来るようになった。
「そういえば、クレイさんの着てる服も千織屋のなんですか?」
「はい、何せ店員ですので」
「そりゃそうですよねっ、めっちゃ似合ってます。カッコイイですよ?」
「はは、ありがとうございます」
いやだから近くない?ずいっと顔を寄せて言ってくる女性客ににこやかに対応しながら自然に距離をとる。
最近、ちょっとこういうことが多くなった。前までは客層が富裕層や晴れ着を頼む人が多かったので、こういう若いナウでヤングな女の子が来ることはほぼ無かったのだ。そして、何故かその若い子達には俺は良く映るらしい。個人的にはこの白い髪やクロスが入った目にはいい思い出がないんだけどさ。
「……店内でナンパは遠慮してくれないかしら」
そのまま距離近めの女の子の話し相手をしつつ切り上げ時を見計らっていたら、店の奥から店主様の声が聞こえた。見ると腕を組んで無表情の千織さんと目が合う。
「…な、ナンパなんてそんな…」
「ここは服屋よ。そんなに気に入ったのならコイツの勤務時間外に外でしてちょうだい。…ほら、セットで買うなら安くしてあげるから」
「は、はい…ありがとうございます」
そうして千織さんは2人組をそのまま帰してしまった。俺が勧めた服をしっかり購入した2人組は俺の顔をチラチラ見ながら小さく手を振って帰って行った。手、振り返してあげれば良かったかな。
「……ねぇ」
「なんですか?」
「………人気者ね?」
「…いやまさか。遊ばれてるだけですよ」
「…ふーん」
チラりと見上げて来る千織さんにそう返すと、腰に手を当てて半目を向けてくる。何か言いたそうにしてるのか、俺の服をじっと見ていた。
「……似合ってるわよ?」
「へ?」
ぽかんと口を開ける俺の胸を小突いた千織さんは、すたすたと裏に戻って行ってしまった。
「…………カハッ」
やば、可愛すぎて息止まってた。
ところでエローフェさん、さっきから何ニヤニヤしてんスか?
「クレイ、買い出しいくわよ」
「あ、はい。…エローフェさん、ちょっと行ってきますね」
「はい、ごゆっくり」
「ごゆっくり?」
「あ、間違えました。お楽しみくださいね」
「尚違う気がするんですが!?」
不思議なことを言うエローフェさんに見送られて2人で外に出る。なんかこの前唐突に一緒に買い出し行ってから千織さんも着いてくるようになった。なんでかはわからないけど俺からしたらご褒美でしかないし、むしろ楽しみな時間のひとつだ。
「いやー、やっとひと段落つきましたね」
「そうね。やっとゆっくり出来そうだわ……特に貴方は女の子と仲良く話す余裕もあるみたいだし?」
「え、いやあれはただの接客ですよ?」
「そうかしら。なんだか鼻の下伸びてたように見えたけど?」
「いやいや、俺が鼻の下伸ばすのは千織さんだけです」
「伸ばすな」
いやぁこのやり取り楽しいな。言いつけ通り横に並んで歩いているので少し顔を向けると千織さんと目が合った。
「何よ」
「…いや美人だなと」
「…ばか」
内心をそのまま口から発射したら、鼻を鳴らした千織さんが先へ歩いて行ってしまった。それを謝りながら追いかける。
もしかして、ヤキモチかな?と考えたあたり、俺の頭は茹だってるなこりゃ。
「そういえば、私ってクレイの一個下よね」
「そういやそうですね。…それがどうかしましたか?」
「そして、千織屋に上下関係はないわよね」
「…ほんとにどうしたんですか?」
帰り道。なんか唐突に切り出してきた話題に首を傾げる。千織さんらしくない脈絡ない話に違和感がすごい。
大抵こういう話出しの時、同じ気質の性なのか何となく言いたいことがうっすらわかるんだけど今回はさっぱりだった。というか、そのもごついた顔初めて見た。可愛すぎだろ。
「……私は、いつまで『千織さん』…なのかしら」
「……えと、つまり…千織様ってことですね?」
「違うわよ」
違かった。ますますわからずに瞬きが高速化する俺に千織さんは歩きながら不満気な顔で俺を見上げた。なんだなんだ。今日はレア千織さんがたくさん見れるな好きです。
「…年下なんだし、呼び捨てでいいわよ?」
「えっ、さすがにそれは」
「何か問題あるの?」
まさかまさか、呼び捨て許可が降りてしまった。いやまぁ、いっぺん想像したことはあるけど、恐れ多いというか、千織さんはさん付けが似合うと思うんですよね(伝われ)。
じっと見てくる千織さんに、俺は何も言い返せなかった。実際今挙げられた話だと俺が呼び捨てで呼んでも問題ないわけだけど、やっぱちょっと抵抗ある。つかエローフェさんも敬語じゃんか。
「……さ、さすがに仕事中は店主と店員ですし、外せないですよ」
「…じゃあ、2人の時ならいいでしょ?」
「そ、それはそうですけど…」
いや、ほんとさ。あの騒動が会ってから千織さんがめちゃくちゃ可愛くなったんだけど。誰か助けてくれない?俺今日だけで何回死にかけるの?
当初の彼女からは想像できない発言に俺は呆気にとられる。……ただ、まあ否定も出来ないので。
「じゃあ、………千織?……どうですか?」
「…敬語も取りなさい」
「…ハイッ、んんっ…ほ、ほんとにいいのか?」
「いいって言ったでしょ?同じ店を支える仲間なんだし」
「あ、仲間。…なるほどなるほど。…えと、じゃあ、千織。これからもよろしく…って、喋りにくい…」
慣れなさ過ぎて片言になってしまった。言いようのない恥ずかしさに悶えていると、彼女の方からくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「…ふふっ、ええ。これからもよろしくね」
「…なんか千織さん、やっぱり恥ず「ん?」いや、なんでもないよ?」
まぁでも「一緒に店を支える仲間」か。こりゃあもしかしてヒラ店員からランクアップしたんじゃね?やったっ、仕事頑張った甲斐があった!
ココ最近の千織さんの変化が腑に落ちた俺は千織さんとの会話を楽しみながら千織屋に戻るのだった。
そしてそのまま仕事を終わりを迎え。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
店の戸締りをして外に出る。帰っていくエローフェさんに手を振ると俺も家に帰ろうかと踵を返したところで。
「…ねぇ」
「…なんですか?」
「敬語」
「…なんだよ?」
裾を摘まれたことによって多大なダメージを追いながら、引き止めてくる千織さんを見る。千織さんはいつものスンっとした顔で尋ねてくる。
「明日は休みだけど、この後裁縫の練習でもするの?」
「そのつもりだけど、それがどうかしたのか?」
「……私もこの後はヒマなの。だから、貴方が良ければ教えるわよ?」
「え、マジ?」
そりゃ願ってもない事だけど、流れで頷きそうになってハッとなる。
「…あー、でもやっぱ今度店で教えて貰おうかな」
「なんで?」
「いやだって、男の部屋ですよ?流石にそれは」
「何か問題ある?…ほら、案内しなさい」
「え、えぇ…?」
なんでそんなに強行突破してくるの?俺は千織さんに背中を押されなががら歩く。
「ほ、ほんとにどうしたんですか?「敬語」細かいなぁもう!…って、言うか年頃の娘が男の部屋に1人で入るなんてっ、良くないですよ」
「別にいいでしょ?刀は持ってきてるんだし」
「そういう問題?……はぁ、わかったよ。刀から手を離さないで警戒しててな」
「部屋主のセリフとは思えないけど…、はぁ、しょうがないわね」
「なぜ俺の方が宥められてる…?」
ーー胸が熱い。
ココ最近の千織は、もうおかしくなりそうだった。
彼が千織屋に戻ってきてからというもの、千織はずっと、本当にずっとクレイのことを考えてしまう。仕事中も隙あらば見ているし、家に帰ったあともぼーっとしているとついつい「今頃何しているのだろう」と考えてしまっていた。
前までの千織だったら、その状態の自分の事を良しとはしなかっただろう。だが、今は何故か、そんな自分も悪くないと思った。クレイとエローフェと営む自分の店はとても充実していて、名が売れたことによって忙しくなった日々を送っていた。……のだが。
元々有名だった千織屋の名前は、ファッションウィークのショーを二冠したことでさらに有名になった。店に来るお客も増えありがたく思っていたところに、千織の気に触る出来事が起こったのだ。
そう、来店客に増えた若い女性客に、クレイが人気になったことだ。
クレイの見た目は千織から見ても美形に入る。あの召使の弟らしく、肩に掛かる白い髪を仕事中は1つに結っていて、中性的な顔立ちに白い肌。そしてあの特徴的な瞳は、千織も初めて見た時はまるで吸い込まれそうになった。
その容姿から繰り出される営業スマイルは潜入を主とするエージェントらしく洗練されていて、若い女子には効果てきめんなのであった。
ただ、前までの千織ならクレイが女性客から人気になっても特に何も思わなかったはずだ。しかし今となっては状況も、千織の彼への感情も違う。
若い女の子達に囲まれて話しかけられている彼を見て湧き出た感情。これの名前を知らないほど子供では無く、元々自己分析に長けた千織はこのモヤッとした感覚にそう時間をかけずに結論を出した。
嫉妬だ。
今日来た、明らかにクレイに気がある2人組の女性客を見ているうちに、千織はあることに気がついたのだ。
「…私、クレイのことほとんど知らないのね…」
素性や血縁関係は最近知れたところではあるが、言ってしまえばそれだけ。彼の好きな食べ物や趣味、普段家で何をしているのか、何を思っているのか千織は何も知らなかった。
今日の彼女の奇行は主にそれが原因である。
千織は彼に呼び捨てで呼ばれた時に、未知の感覚に襲われた。種類で言えば嬉しいなのだが、それだけではない。胸に染みたというか、安心したというか。千織は、彼に砕けた口調で話される事がとても嬉しく思った。
そして、今に至る。
「裁縫を教える」というのは本音で、本当に時間をとって教えようと思っていた。だが、千織は昼間の距離が近い女性客達を知らず知らずのうちに意識したのか、口から自然と出てきてしまった。
真っ当なことを言って断ろうとするクレイを言いくるめ、引っ越したという彼の部屋に向かって並んで歩く。横目でちらっと見ると、少しげんなりしたような様子なのが見えて、千織は自分の口角が少し上がったことに気が付いた。
ああ、本当に私、変になっちゃったかも。
千織は肩を落として歩くクレイを眺めながら、少し笑った。
続く。
千織さん内心デレ率
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30%
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50%
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70%
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90%
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120%