お願いします千織さんっ!こっち見てニコッてしてください!! 作:猫好きの餅
おっまたせしましたァ!!!!(土下座)
「…そういえば、初めてフォンテーヌから出たかもな」
「へぇ、意外ね」
「ずっとフォンテーヌの中の任務だったからなぁ」
ロマリタイムハーバー。内海ごと迫り上がるようにして存在するフォンテーヌと外海を繋ぐ場所だ。落差200mを超える巨大な滝が見える七天神像から下を眺めた俺と千織は感嘆の息を吐いた。
少し待つとリフトが来たのでそれに乗って下に降り、停泊していた船に乗り込む。そのまま沈玉の谷の方から璃月港に行くルートだ。
遠くなっていくロマリタイムハーバーを眺めていると、隣の座席に座った千織がどこか楽しげに見てくる。
「…どしたの」
「…なんか新鮮って思って。こういう旅行的なのも初めてなの?」
「そうだな。基本的に常に何かしらの任務についてたから」
だから、こういう純粋に観光するのは本当に新鮮。船に乗ったことはあっても大抵尾行だったし、景色を気にする余裕もなかった。
「だから、結構楽しみなんだよ。この旅行」
心からそう言うと、千織はぷいっとそっぽを向いてしまった。あれ、なんかまずいこと言ったな。
すると、そっぽ向いたままの千織が俺の手を握って来た。そのまま他の乗客から見えないように自身も俺の間に隠す。
ちらりと彼女の方を見ると、同じことをしてたらしく目が合った。千織は、くすりと笑うと俺の肩にもたれ掛かる。同時ににぎにぎと指を絡めた手を確かめるように指を動かした。
……うん、景色とかもう吹っ飛んだわ。千織が1番可愛いです。
突然千織から提案を受けたのは、稲妻への帰省だった。千織が稲妻から出て3年半の間一度も里帰りをしてないらしい。エローフェさんに聞くと、半年に1回くらいインスピレーションを得に外国へ旅に行くことはあったらしいが、稲妻には行ってないそうだ。
何故今帰省をするのかと、理由に心当たりしかない俺は二つ返事で頷いた。
そしてその日に荷物をまとめて一時休店の札をつけ、そのままここまで来たというわけ。
船での旅路は1時間と少しで遺瓏埠と呼ばれる港町に着いた。もうここは璃月の国領内で、建物も人も文化ももろに違う。
「……おぉ〜…ここが璃月かぁ」
「…まだここは端っこ。首都の璃月港はここの5倍くらい広いわよ?」
「…まじか。……なんか、ちょっと船に乗っただけなのに……もうこんなに文化が違うのか」
街の人が着ている服がすごく気になる。あれどういう構造なんだろうか。服に目に行くあたり俺も立派な服屋さんになったってことか。
そんなことを考えていると、急に頬を引っ張られる。
「いててて!?」
「……なに女の人のこと見てるのよ」
「えっ、違っ…ただ璃月の服を初めて見たからちょっと眺めてたんだって」
「……本当?」
「可愛い」
「…っ、やめてよその顔」
あー堪らん。今の「…本当?」のちょっと唇とんがらせて裾引っ張ってくる千織が可愛すぎて思わず真顔になった。
勘違いが恥ずかしかったのか「…ほら行くわよ」とちょっと早足で歩く千織を追いかけながら、全然造りの違う街を眺める。
フォンテーヌ邸ってでかい石壁に囲まれてるおかげでこういう自然を見ることはあんまりなかった。なんか癒されるなぁ。…まぁ多分半分以上は前の店主さまの発する可愛いオーラによるものだろうけども。
ここからは徒歩で璃月の北部にある宿を目指す。一般の人は護送屋に頼んで守ってもろうが、俺たちには必要がない。一応、旅行と言うことで頼むかと千織に聞いてみたところ「……いや。2人きりがいい」と言われたので俺は口を閉じた。なんなんだよもう可愛いかよマジでよォ!
想いが通じあってからちょっとは時間が過ぎたというのに、この人からの矢印に慣れる気がしない。なんならまだ夢なんじゃないかと疑うレベルだ。
幸い途中で邪魔が入ることは無く。俺たちは順調に沈玉の谷を抜け山の間を歩いて帰離原まで歩いてきた。面倒なところは俺が千織を抱いて風で滑空したから楽とはいえ、そろそろ休憩ないと。
「ちょっと休むか?」
「ええ。少しそこに座りましょうか」
俺は建物の跡地的な段差に座った。千織は俺のすぐ隣に腰掛けようとするので、服が汚れないようにタオルを敷く。
「……その心意気に免じて、膝に座るのはやめとくわ」
「…あなた、ずっと俺にくっついてない?家と変わらんでしょ」
「…仕方ないじゃない」
沈玉の谷を抜ける時も一生俺と恋人繋ぎして身を寄せてきたんですもん。横抱きにして滑空したあとも降りたくないとイヤイヤするし、無言で首を横に振りながらしがみ着いてきた千織が、無事個人的千織の可愛い仕草ランキング上位にくい込んだ。
とは言えど。隣に座ってピッタリくっついて来る千織を尻目に俺は空をボーッと見上げる。
「……なんか、空が遠い気がする」
「フォンテーヌは他の国より海抜が高いからね。他の国だと空が高く見えるはずよ」
きょうび、空をゆっくり見るなんてしたことがなかった。そよ風の匂いも、フォンテーヌとは全く違う。
「……平和ね」
「…ああ。長閑ってこういうのを言うんだろうな。……千織、ここから宿までどのくらいなんだ?」
「…30分くらいかしら。ほら、ここから見えるでしょ」
「あ、ほんとだ。…アレ木じゃないの?」
「明かりの光が見える木なんてないでしょ?」
確かに。休憩もそこそこに、俺たちはそこから北へ歩く。橋を渡り、その宿の麓まで来た。
「お〜。なんかこう、いいな。自然を利用してる感じ」
「ふふっ、キョロキョロしすぎよ」
フォンテーヌ男子には見るもの全部物珍しいんですっ。
あっちにはない造りを見ながら千織に手を引かれて望舒旅館と言うらしい宿の中を進む。ロープで吊る形式のリフトで上に上がると、受付らしき人に話しかけた。
しかし、ここでハプニングが。
「一人部屋が2つしかない?」
「ええ。今空いてるのはそれだけね」
ゴレットさんと言うらしいオーナーの人が空き部屋が2部屋しかないと言う。
まぁ、部屋がないよりはマシ…というより、普通に空いてる泊まれるって喜ぶべきところなんだけども。
「……一人部屋を2人で泊まることは出来ないの?」
「悪いわね。それを許すとこっちも商売上がったりなのよ」
「2部屋分の料金を払うわ」
「…それで、前に問題が起きたことがあったのよ。悪いけど、1人部屋を2つ取りなさいな」
「……わかったわ」
そう、千織が俺と別部屋ということでご機嫌ななめになってしまったのだ。
オーナーの言い分はもっともなので俺は一人部屋を2つ取った。鍵を貰うとそのまま部屋に向かう。千織も黙って着いてくる。
「……ねぇ」
「……ああ、わかってるって」
黙って着いてきた千織がじっと見つめてくるのに笑顔を返す。
俺は鍵を千織に渡すと、周りに人がいないことを確認。両腕を広げる。次の瞬間、間髪入れずに千織が抱きついて来た。
「……ね、ご飯は一緒に食べましょ?」
「…ほんと、逆に俺心配になってきたよ。…千織、俺が居ないとどうなっちゃうんだ?」
「私だってわからないわよ…。こんなに、制御できない気持ちは初めてなの」
あーもう、本当に可愛いがすぎる。このままずっと抱きしめてなんなら部屋に連れ込みたいけど、混雑してる宿の部屋を取っといて使わないのは失礼が過ぎるからな。
優しくドアを開けて千織を部屋に入れる。俺の部屋は同じフロアの反対側なのでそこまで歩いて部屋に入る。
荷物を置いてぼふっとベッドに倒れると、急に俺へ猛烈な喪失感が襲いかかってきた。
「……あー」
やばい。俺も人の事言えないかもしれない。
千織が隣にいないと落ち着かなくなっちゃった。前の任務の時は大丈夫だったのに。
「……はぁ、俺も順調に千織依存性になってる…。今日だけでどんだけを俺を悶え殺そうとしてくるわけ?」
特にいやいや千織はヤバかった。ぎゅって抱きついて来て、無言でおねだりしてくるのは本当に本当に本当に(死)。
そう考えるうちに居てもたってもいられなくて、気付けば部屋を出ていた。そのまま望舒旅館の外観へ出る。どうやらここで食事が取れるようで、璃月の景色を見渡せるテラス席に何人か旅行客が座っていた。
夕食の時間にはまだ早いが、もしかしたら…と俺は席を見回す。
………やっぱり。
テラス席の隅っこに座る山吹色を見つけ、俺は胸が高鳴った。なんでこう初恋みたいな胸の鳴り方をさせるのだろうかこの人は。
俺も部屋に入ってから出るまで5分とかからなかったのに、先にいるってことはもう殆ど休んでないでしょ。
「……ちょっとは休んだ方がいいんじゃないか?」
「……ぁ、…クレイ…」
そんな嬉しそうな顔しないで?俺が死ぬでしょうよ。
反対側に座った俺を見て、嬉しそうに微笑んだ千織は席を立った。そのまま反対側の席…つまり俺の隣に身体を滑り込ませてくる。
「ちょ、こっち向きだと景色見えないだろ」
「……クレイだけ見てるからいいわ」
そういい、テーブルに置いた俺の手に自分の手を重ねてこてんと肩に顔を乗せる。そのままリラックスした顔をするので、俺も堪らず千織の肩を抱き寄せた。
「……やっぱり、クレイなら来てくれるって思った」
「…やっぱり1人じゃ落ち着かないもんな。……千織のせいだぞ?」
「でも、先に私をこんなにしたのはクレイよ?」
ちょっと離れただけで、数年ぶりに会ったみたいな会い方ができるってなんかイイ。
俺たちはそのまま景色そっちのけで、互い見詰め合いながら話していた。
「……あの」
「……なにかしら」
「………そろそろ部屋に戻ったりなんて…」
あの後そのままそこの席で夕食を食べ、しばらくゆっくりしてたんだけど。
「………もう少し…」
もう2時間もずっとここにいるのでそろそろ戻った方がいいんじゃないかと思ったんだけど、千織が可愛すぎて頭が働かない。
「……うん、俺も同じだけどさ。…でも」
「…わかってるわよ」
流石に、彼女もわかっている。いくらなんでも俺たちくっつきすぎってことくらいは。
もうこれ以上は日常生活にも支障がでる。そのことがわかっている彼女は、ゆっくりと俺から離れた。そのまま並んで部屋の前まで戻る。
「……じゃあ、また明日ね」
「ああ。おやすみ」
「……ええ」
千織は腕に残る俺の温もりを抱くようにして、部屋に入って行った。
ぱたんと心做しか寂しい気持ちが乗ったような扉の閉まる音を聞くと、踵を返しながらふぅと息を吐く。
俺はそのまま、部屋の方ではなく階段を上り望舒旅館の屋上に出た。そこから東に向かって目を懲らす。
さっき外に座ってる時に千織越しに外の景色を眺めてたんだけど、ちょっとだけ魔物が見えたんだよね。見る限りだとここらの道は整備されてるし、大きな河を挟んで向こう側だからこっちに来るとは限らないけど。
でも、あれアビスってやつだよな?フォンテーヌではほとんど見ないけど、狡猾でヒルチャールを組織して集落を襲うこともあるんだとか。
別に、ただの旅行で来てる俺がで気にする必要は無いんだけど。
………ただ、一瞬だけ、あの距離で奴と目が合った。そこが唯一引っかかっている。
俺はチラっと自分が上がってきた方を見た。
……千織は寝ただろうし、大丈夫だよな?
そう自分に言い聞かせ、俺は風を纏うと望舒旅館から飛び降りた。
……結論から言うと、俺の心配は杞憂だった。
「……お前の眼、珍しい形だな。それでその風を制御しているのか?」
「ええ。そうみたいです。貴方の方こそ、その黒い風はどうしてるんですか?」
「仙力で作った特殊なもの、とは言っておく」
向こう岸までひとっ飛びしてアビスを発見した俺なんだけど、戦いに入る前にお面を着けた青年が助太刀に入ってくれた。
見た目は美青年に見えるその人。でも纏う元素の質が別物で、恐らく璃月を守る仙人の1人だと気がついた。
そうして苦労せず魔物たちを全滅させた後にお礼を申し出たんだけど。お互い風元素の、しかもここまでの手練と会うことは滅多に無いもので、ちょっと話し込んでしまっていた。
最初はちょこっと警戒もしていたけど、恐らく全力で不意打ちをしたとしても俺はこの人には勝てないだろう。こういう時は抵抗を諦めて仲を深めるに限る。
「………ふん、まあいい。妖魔は消えた。お前は望舒旅館に戻れ」
「…わかりました。さっきは助けて頂いてありがとうございました」
「お前には必要なかったようだがな」
そう言って彼は消えていった。名前くらい聞けばよかったかな。
なんか不思議な体験をしたなぁ。ただ戦ってた時間と話してた時間が結構長かったのでもう日が登りそうだ。俺もさっさと部屋に戻んないとな。
俺は風を使って屋上に戻ると、そろりそろりと足音を消して階段を降りて部屋へ向かう。
ゆっくり扉を開けて身を滑り込ませ、ドアノブの音も立てないようにゆっくりと扉を閉めた。はぁ、これやったのエージェント振りだわ。何してんだ旅行先で。
そう心の中で苦笑をしながら俺は振り向き。
─────部屋の中で仁王立ちしてる千織と目が合った。
「……………」
「…………」
俺は無言でドアに彫られた部屋番号を見る。……うん、俺の部屋。そしてもう一度正面を見ると、腕を組んだ無表情の千織と再度目が合う。
「………」
………っと、ここから入れる保険ってありますかね?
そんなことを考えて現実逃避をしながら、俺の体も逃避行を初め、勝手に部屋の外へと出ようとする。が、それをガシッと千織に掴まれて止められた。
「………あ、あの」
「…………ねぇ」
「はいっ」
「どこ、行ってたの?」
「………あ、朝の散歩を…」
「まだ日は出てないけど?」
「…え、えと、それよりなんで俺の部屋に千織がいるん「質問に答えて」
あかん、多分全部バレてる。いつになく無表情の千織が怖すぎて、俺は素直に何をしていたのかを話した。それを黙って聞いていた千織は、俺が話し終わるとはぁ、と息を吐く。
「………前にも言ったでしょ?…私の知らないところで無茶しないでって」
「うん、ごめんなさい…」
「心配、したんだからね」
千織はするりと俺に手を回して抱き締めてくる。ぐりぐりと顔を俺の胸に押し付け、身体は密着させていた。
話を聞くと、部屋に入ったあとに俺に言い忘れてたことがあって扉を開けたら、階段を登っていく俺が見えたんだと。
千織はそのまま飛び降りて行った俺の帰りをロビーで待ってたらしいんだけど、その間に飛び込みでお客さんが来て、満室で悩んでるところに千織さんが申し出て俺と相部屋にするように頼んだらしい。幸い千織さんの部屋は荷物置いただけでほとんど使ってないのでそのまま俺の部屋まで移動するだけで話は済んだそうだ。
「………待ってる間、寂しかったわ」
「それは、…ほんとにごめん」
こんな時間まで起きて待っててくれたのが素直に申し訳ない。
千織を抱きしめながらぽんぽんとベッドを叩くと、無事中へ引きずり込まれた。1人用なので当然狭い。千織は俺を離さないと言わんばかりにくっついてきて、身体の右面がぬくやわこい。
「……クレイ…」
「…千織…」
千織の温もりの微睡みに包まれながら、抱きしめた彼女の髪を待ってくれてたことの感謝を込めて指で梳いたり頭を撫でたりしてると、とろんとした顔のまま顔を寄せてきて。
旅行先でもやっぱり千織が1番暖かい。