お願いします千織さんっ!こっち見てニコッてしてください!!   作:猫好きの餅

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千織さんと昔組んでた男だぁ!?

 

 

 

 フォンテーヌ低地下街。その外れにある工房で男たちが向かい合って何かを話していた。

 

「ーーで、コイツがあの白影で間違いないんだな?」

「ああ。最近、技術的に血で人を判別できるようになってな。過去に採った奴の血と同じものだった。……くくっ、ベロニカから本物がいると言われ時にはなんだと思ったが、とんだ当たりを引いたな。色々仕込んでやった恩返しとしては十分すぎる」

「…へぇ、まさかあの伝説の殺し屋が今は服屋の店員か?……アンタの所も俺の所も奴には酷い目に合わされたし、色々面白いことがで出来そうだ。……で、ちょうどその服屋の店主もお前と因縁があると来た。これが運命ってやつかな、なぁユーサー?」

 

 試験管に入れた血液を見ながら話す、元裏組織の幹部だった2人の男に話を振られ、ユーサーと呼ばれた青年は腕を組んで鼻を鳴らす。

 

「ふん、俺は別にその殺し屋は興味無い。……千織さえ、次のファッションウィークで失敗してくれればそれでいい」

「そう、それなんだけどさユーサー。いいこと思いついたんだよ。お互いにウィンウィンなイベントをさ」

「…何?」

 

 この提案にそっぽを向いていたユーサーが顔を戻す。彼にとって千織屋は最大の敵だ。これまでに数々の逮捕スレスレの妨害をしてきたがあまり効果がない。

 

「本当に千織屋を潰せるのか?」

「まぁあの店主の性格だ、潰せるかどうかはわからないが、かなり痛いダメージを食らわすことはできる。……あの千織とか言う店主、プライドが高いだろう?」

「ああ、他人の意見なんて全く聞き入れやしない。そんな奴だ」

「だろ?だがこの作戦が上手くいったら、千織屋の評価が落ちてスポンサーを根こそぎ奪え、なおかつその店員も始末できる。人材と材料と風評、3つ同時に失えばさすがに無理だろ?」

「……詳しく教えろ」

「ああ、まずはあの店員を引き抜けないかーーー」

 

 クレイに恨みを持つ組織の幹部と千織に因縁がある男、その2組の意見がここに合致した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ今日から切り出しをやってもらおうかしら」

「わかりました。……あ、いま喜んでって言うと思いました?」

「ぶん投げるわよ?」

「アイッスミマセン」

 

 俺が病院から退院した翌々日。

 

 稲妻の人達もお帰りになって、いつもの日常が戻ってきた。

 

 今日から店に復帰した俺は、この前言われたように遂に「裏」の仕事を教えて貰えるようになったのだ。 

 

「じゃあ、ちょっと裏に行くからエローフェ。客の相手は頼んだわよ」

「はい、ごゆっくりじゃなかった。行ってらっしゃいませ」

 

 今エローフェさんなんて言った?

 

 俺が振り返ると、なんか親指を立ててきた。え、まさか応援してくれてるの?どっちを?

 

「何してるの?早く来なさい」

「喜んで」

「喜ぶな」

 

 

 

 

 その後は1日中裁縫を教わった。って言ってももう自宅でかなり練習してたから手縫いはお手の物。初めてやった見せた時の千織さんのちょっと驚いた顔は必見だった。その後に千織さん流でやりやすい縫い方を教えてもらったりしながら作業を進める。

 

 裁断に関してはもうマスターしているので、あとはミシンを教わるくらいかな。

 

「──なんか、覚えが良すぎて気持ち悪いわね」

「ちょっとくらい普通に褒めてくれてもいいんですよ!?」

 

 何事もなく閉店時間になり。片付けを終えた俺に何故か面白くなさそうな顔の千織さんが言う。さては厳しく言って絞る気だったな?

 

「特に刃物の使い方が慣れてるわね。貴方ほんとに前は何してたのよ」

「いろいろですよ?執事だったり、料理人だったり、掃除屋だったり?沢山の仕事をやってきてるんで身につけるのが早くなったのかも」

「ふーん、そんなにコロコロ変わるってことは、ココも早々に出ていくってこと?」

「いえ、俺はもうここに骨を埋める気ですよ?」

「…はぁ、厄介なのに捕まったわね」

「どっちかと言うと千織さんが捕まえたんですけど」

「…戦力になるのか重石になるのか、はっきりしないわ。……で、エローフェは何を頷いているの?」

「あ、いえ。仲良いなぁと思いまして」

「幻覚よ」

「気の所為より酷い返し」

 

 なんか最近エローフェさんよくコーヒーを飲んでるのをよく見る。寝不足なのかな?

 

 

 

 

 

 そんなこんなで復帰して2週間が過ぎた。俺も裏を本格的にやらせてくれるようになって、オーダーメイドの調整もやらせてくれる。結構嬉しい。

 

 そして、ここ数日前からファッションウィークの準備が始まった。年に一度の祭典で、一年前に千織さんがここで賞を捕り一躍有名になった。

 

 それを二冠するのが今の目標なんだとか。今も、店を閉めてアイディアを練っているところだ。布は発注済みで本番に着てくれるモデルとも契約している。

 

「さて、明日から忙しくなるからよろしくね」

「はい」「わかりました」

 

 夕方になり、それぞれ帰宅する。俺は俺で帰りに布でも見て帰るかなーと歩き始めたところで、誰かの視線に気がついた。

 

 誰だろうか。視線に乗る感情は…興味と嫉妬。……ダメだ思い当たる節が多すぎて誰だかわからん。とりあえず炙り出すかと人気のない路地に入ったところで立ち止まってみた。

 

「……なぁ、君がクレイ君か?」

「…ナンパ?」

「そんなわけないだろっ!」

 

 呼び止められた声に振り返ると、1人の男が立っていた。年は20代半ばくらい。…どっかで見たことあるような顔だ。

 

「…えっと、あんたは?」

「俺の名はユーサー。服屋をやっている者だ」

「ああ、だから見た事あったのか」

 

 確か、千織屋とは違って安く多く売るタイプのメーカーだったはず。

 

「単刀直入に言う。ウチの店に来ないか?」

「……勧誘…いや、引き抜きってことですか?」

「ああ、そう思ってくれて構わない。君が千織屋に入って3ヶ月、それでその裁縫と仕事の腕は1級品だ。…もちろん千織屋よりも多く給料は出すし待遇も良くする。……どうだ?」

「すみませんが、お断りします」

 

 即決だった。こちとら雇用条件で働いてないんだわ。その10倍いい条件でも俺は乗らないぞ。つーか千織さんに勝てる条件なんぞこの世にあるかっ。

 

 ユーサーは即答した俺に驚きを隠せてない様子だ。

 

「な、何故だ?何故君はあの店に、千織にそこまで肩入れする?」

「そちらこそ、なんでそこまで俺に固執するんですか?いくら俺が仕事をできる人認定されたところで、よし勧誘だ。とはならないでしょ?……それに、何故千織さんのことにくわしいんですかねぇ?」

 

 俺が1番気になったところはそこだ。なんか千織さんを「知ってる風」だし、俺の方が知ってんぞっ!人形いじる時の微笑みとか、美脚とか紐の黒パンとか(変態)。

 

「ん?ああ、彼女は君には話してないのか。俺は昔、千織と組んでたんだ」

「ゑ?」

「…き、聞こえなかったか?だから、俺は昔千織と一緒に「ちっくしょおおおおおおお!!!」ちょっ、どこに行く!?」

 

 なんだとぉ!?

 

 ち、千織さんに昔の男(語弊)がァ!?

 

 俺は気付けば走ってその場から離れていた。うう、なんだよ千織さんのこと千織って呼び捨てにしてっ!ずるいぞ俺だって名前で呼びてぇってのにっ!

 

 ど、どうせあれだろ。千織さんと寄りを戻そうとしてるんだな!(語弊)誰が勧誘に乗るもんか!俺は千織屋に骨を埋めるんだァ!!

 

 

 

 

 翌日。

 

 

「…どうしたのよ。隈すごいわよ?」

「いえ、なんでもないです」

 

 朝千織屋に着いたら、先に着いてた千織さんにびっくりした顔をされた。

 

 ちくしょう、あれからほとんど寝れなかった…。なんからこう、あのユーサーと一緒に作る服を語り合ってたんだろうなとか、一緒に上を目指そうとしてたんだなとか考えると……なんか苦しいんだわ。

 

「……はぁ」

「……ねぇ、ちょっと」

 

 ふっかーいため息をついていると、千織さんの声が聞こえて顔を上げると、俺のおでこに手が当てられた。……はぇ?

 

「…熱は無いようだけど…。まぁいいわ、クレイ、今日は休んでいいわよ」

「えっ、ええっ!?いやそんな大丈夫ですよ?働けます!」

 

 まさかの休んでいいよ発言に、俺の血の気が引く。俺にとってはほとんどクビ発言みたいなものだし、心臓止まるかと思った。

 

「いいから。ここ最近裏で服を作る練習しっぱなしだったし、病み上がりを考えれば体調を崩すのも無理ないわ。今日はゆっくり休んで、明日からキリキリ働きなさい?」

「…で、でも……」

「店長命令。いいわね?」

「………はい。大変申し訳ございません」

「業務用語で謝らなくてもいいから。……ほら」

 

 なにこれ、千織さんの優しさが染みる。こんなの好きになっちゃう。いやもう好きだけど。

 

 ところで、さっきから後ろでウンウン頷きながらニコニコしてるエローフェさんは、一体どうしたんだろうか。

 

「えと、……じゃあお言葉に甘えさせていただきます」

「そうしてちょうだい」

 

 俺は心配してくれて嬉しいやら申し訳ないやらで背を丸めながら荷物を持ち、店を出た。

 

 ……とりあえず寝るか。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「………クレイさん、すごい隈でしたね」

「…全く、夜遅くまで何やってるんだか」

 

 クレイが出ていったあとの扉を眺めながら、千織はエローフェの言葉にそう返した。実際、今日の彼は千織から見てもかなり窶れて見えた。

 

「まぁ、いいわ。今日もどうせ店は開けずに図面作るだけだから」

「はい。材料やアクセサリーは発注してたんでしたよね」

「うん、だから届いたらすぐ作れるようにしておくのよ」

 

 千織はエローフェを連れてバックヤードに入る。図面を引く筆記用具を取りに行くと、前とは違い種別ごとに整理整頓されていた。ケースごとに入っている物が書かれた紙まで貼ってあって一目でどこに入っているかがわかりやすい。

 

「…これ、やったの誰?」

「あ、それクレイさんですよ?あの人空いた時間にバックヤードの整理整頓してるんで」

「ああ、…裏でゴソゴソしてたのはこれか」

 

 よく見ると、ペンもそれぞれインクが交換されていたり、定規も綺麗に拭いてある。仏頂面でそれらを見ていた千織にエローフェは微笑んだ。

 

「……ふふ、クレイさんが来てから、仕事は大助かりですよ。凄い気遣い屋さんで視野も広いですし、こういう細かい所まで…」

「…まぁ…普段の言動はともかく、仕事の腕は認めてるわよ。あそこまで覚えが早いと、他で服屋の経験がないか疑わしいけどね」

「千織さんのために頑張ってるんじゃないですか?」

「貴方まで言動が変にならなくていいのよ?」

 

 図面を引きながら、千織はクレイのことを考える。

 

 最初は変なやつだと思った。あんなに破れた服を着て早朝の街を歩いていたのも変だし、それで助けたらなんか惚れたとか言って求婚してきたのも変だ。千織がどれだけキツい言葉を浴びせてもケロッとしてるのも変で、それなのに仕事が抜群にできるのも変。どこもかしこも変だらけな男だ。

 

 でも、一緒に仕事やら映影の撮影やらをやっていくうちにクレイの変なところ以外の部分も見えてきた。

 

 意外と面倒見がいいところや、案外動けるところに実は風の神の目を持っていたこと。そして、自分とこれ以上ないくらい相性が良ーーー。

 

 そこまで考えて千織は首を横に振った。何を考えているのだ。相性と言っても、性格と思考が似ていると言うだけで変な意味では無い。

 

 ーーークレイがここに入ってもうすぐで3ヶ月になる。その期間で千織のクレイへの印象は変な奴から、案外真面目で頼りがいのある奴に少しずつ変化していた。

 

 だから、クレイが爆発で大ケガをした時は本気で冷や汗をかいた。

 

 千織自身武道に心得はあるが、あんな流血沙汰に出くわしたことはまだ無かった。あの時血が止まらずに血溜まりを作りながらピクリとも動かないクレイを見た時は、数秒の間頭が真っ白になってしまった。

 

 だと言うのに、3日寝てたとは思えないほど元気に起き上がってた彼を見た時は安堵と一緒に正体不明の苛立ちが前に出てきたのだが。

 

 そして今日、寝不足だと言っていた彼の様子が少しだけ気になったが、自分が「ぐっすり寝ろ」と言ったからには明日は元気になってるという謎の自信がある。明日になったらもっとこき使ってやろうと、知らず知らずのうちに自分の口角が上がっていたことに、千織は気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……あ〜、まじ申し訳ねぇ…、ただの嫉妬で寝不足なんですって言ったら千織さんにぶっ飛ばされそう」

 

 俺は5分前に通った道をトボドボと引き返していた。なんだろうねこの申し訳なさと体調の悪さで二重苦背負ってる感じ。千織屋で働くのは自分にとって楽しみでしかなかったから、早く帰れるとか休みが増えたとかの喜びさ皆無だ。

 

 そのまま歩いて家に着くと。ポストに紙切れが入っていた。差出人は無し。封筒の中を見てみると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー俺の背筋が凍った。

 

 

 

 

『今日から5日間の間に、千織屋が更地になることを予言する。

 

 

 まさかお前があそこの店員になってるなんてな。

 

 

 止めたきゃ止めてみろ。      白影?』

 

 

 

 ーーー俺の正体が、何者かにバレた。

 

 

ここから千織伝説任務編に入ります。プレイした人ってどれくらいいます?ちなみに読む前に任務やるのをおすすめします

  • プレイ済み
  • 未プレイ
  • 原神をやってない。
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